112無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:13:18No.16490795そうだねx10
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75812 B
この世は残酷だ。愛するものとは住む世界が違ってしまう、なんて事はザラにある。
片方は水底に、片方は竹林に。それぞれ愛するものがいた。
その距離は近くて遠いようで、それでいて少し歩めばどちらかに乗り出せる。
過ごす時間は貴重で、とっても大切だ。二人が同じ世界にいられる時間はほんの少ししかない。
この僅かな時間が永遠になってしまえばいいのに。願いが産まれるのは当たり前の事だった。
視線をふと逸らせば、愛し合う二人が傍にいるのが当たり前の世界。それに憧れ、焦がれた。
もし、もしああなれれば。自分達に無い物をあればいいなと思うのもまた、当たり前だった。
願うしかない、願うしかないのが現実だ。そう簡単に叶えば、叶えばこの話は綺麗になるのに。

113無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:13:57No.16490800そうだねx10
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744865 B
「で、それがそうなったのがそれって訳」
正邪博士がテーブルに乱暴に叩き付けたのは新種のラプトル二種だ。
写真にはカゲロウ種の特徴を持ったラプトルとわかさぎ種の特徴を持ったラプトルがいる。
「…そのカバーストーリーは博士が作ったんですか?」
「ロマンチックだろ?ジュラシックの進化なんてこのくらいで十分だ」
気分次第でジュラシックは進化する。最早常識になってしまった非常識だ。
恐らくカゲロサウルスとシーラワカサギンスが進化元だろう。
ラプトル化はトプス化に並ぶメジャーな進化方法で、元の生活環境が違う二種が同じ環境で生活出来る進化法だ。
「…それで、この二種について調査を始めるという事で…」
「今泉くーん。そんな固く考えなくっていい。ラプトル化したって事はどうせあっという間に増える」
トプスと違い、ラプトルはあっという間にその生息数を増やす。
元々相性のいい二種が同時にラプトル化したのならそれこそ地に満ちるだろう。

114無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:14:29No.16490803そうだねx10
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1069662 B
放って置いた方がその進化を追いかけやすくなる。なにせサンプルが増えるのだ。
新たに発見されたのはたった二匹。下手に介入して生息数を減らしてしまうような事があってはならない。
自然に任せる方針をとる正邪博士ならではの手法だ。サグメ博士に取られてしまう可能性もあるけれど…。
「…心配なら、個人的に調査すればいいんじゃないか?」
私が写真を持ったまま立ち尽くしていたからか、正邪博士は解決法を提示した。
「あっ…。いえ…私は……」
とはいえ、最近は仕事も無かったから観察だけならしてもいいかもしれない。
「…はい…行ってきます」
言葉をすぐ翻して、写真の裏を確認し場所をチェックすると扉の外へ向かって歩き出した。
少しだけ、気になった事がある。それを確認するだけでも構わないだろう。

115無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:15:19No.16490805そうだねx11
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2124343 B
今まで確認されたラプトル種はいっぱいいる。発見された二種もいなかったのか、と思う程に。
それが今になって確認された、という事は理由があるはずだ。進化するに至った理由が。
正邪博士のカバーストーリーをそのまま飲み込めば進化の理由は頷ける。
だが、それなら。もっと早くに進化してもおかしくはなかったのだ。何故今になって。
写真の場所まで到着した頃には夕暮れ時だった。辺りにはラプトルは一匹も見当たらない。
同じ場所にそう都合良くいる訳もない、テントの設営をしてしばらく泊まり込もう。
勿論、その準備をしっかりしてきた。資源は無限ではないが、一週間くらいあれば見つかるだろう。
私がテントの準備をしていると、私を見つめる視線に気付いた。
視線を送っていたのはカゲロサウルスだった。少し行けば水場だ、そこに伴侶でもいるのだろう。
特別珍しくもない。視線を感じながらも淡々と作業を進めると夕飯の準備にする事にした。

116無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:15:59No.16490807そうだねx10
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飯盒に水を張り、小さい卓上バーナーで火をかけるとそこにレトルトパウチを放り込んだ。
出来上がるまでの間、持って来た双眼鏡で辺りを見回してみたけれどラプトルの姿はない。
新種…カゲロウラプトルとわかさぎラプトルは写真の中だけの存在だ。
姿を捉えた、という事はいる、という事に違いはない。この付近のどこかにいるはずだ。
それでも、私を見ているのはカゲロサウルスだ。何かを伝えたいのか、ずっと視界の端にいる。
近寄る事は簡単だ、だが不用意に近づいても相手はジュラシックだ。
温厚なジュラシックではあるが十分に危険だ。注意を払わないといけない。
…分かってはいるけれど。でも、…うん。私は出来上がったレトルトを取り出すと一枚の皿を地面に置いた。

117無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:16:40No.16490808そうだねx10
自分用と彼女用に取り分けたそれを彼女に向けて差し出すと、恐る恐る近寄りながら口を付けた。
これが他の生物とかなら塩分とか気にするんだろうけどジュラシックなら大丈夫だろう。
ついでに何かこれについて知らないか、と写真を皿の傍に置いてみた。
言葉による意思疎通は出来なくてもこちらの行動を理解しようとはしてくれているはずだ。
食べ終わったカゲロサウルスは写真をじっと見て、それを手に取った。
やはり珍しいのか、見た事がないのか、中々目を離さない。
カゲロサウルスからしたら陸上で生活出来るだろうわかさぎラプトルは魅力的なはずだ。
この後、探すのを手伝ってくれるかもしれない。カゲロサウルスの嗅覚さえあれば…。
そう思っていると、突然写真を置いて、どこかへ去ってしまった。
協力はしてくれないか。私は食後のココアを飲む為にカップを取り出して膝に置いた。

118無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:17:19No.16490810そうだねx11
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1465090 B
しばらくすると、カゲロサウルスが帰って来た。シーラワカサギンスを連れて。
陸上でもある程度は呼吸出来るから地上に連れ出す事には問題はないか。
でも、何故ここに連れてきたのだろう?それには意味があるはずだ。
わざわざ相方の彼女を、慣れない地上に運んできたのは私に伝えたい何かがあるはずだ。
言葉の疎通が取れないのがもどかしい。何を伝えたいのだろう。
考え込んでいると、まだ片付けていなかった皿を持ち出して地面に置いた。
おかわりが欲しいのか?それとも彼女の分も?無闇に食料を分け与えるべきではないが…。
悩んでいると、皿から少し離れた場所を爪でトントンと叩いた。その場所には見覚えがある。まさか…。
私は写真を取り出して、叩いた場所に向けて置いた。それに意味があると思ったから。

119無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:17:58No.16490815そうだねx10
カゲロサウルスはシーラワカサギンスを傍に寄せると、写真を爪で叩いた。
…本当か?いや、そんな筈は…。察せるものはあった、それは…、その写真と、二匹が一緒…だと言いたいのか。
カゲロウラプトルとわかさぎラプトルは、カゲロサウルスとシーラワカサギンスがそれぞれ進化したもの。
自分と正邪博士の知見ではこうだ。なら、それと同じだと言うのなら、ラプトルの姿をしていなくては。
二匹は進化前の姿に戻ってしまっている、という事になる。何故?そんな筈は無い。
だって、そう進化すれば二匹は同じ地上で暮らせるのだ。不都合がない、種の繁栄の為にもそうするべきだ。
戻る理由がない。私は必死に理由を探した、考えられる理由は、それがないとおかしい。
頭を悩ませていると、二匹は静かにこの場を後にした。水場に戻してあげるべきだろう。
シーラワカサギンスは水中にいないと…。もしかしたら…、もしかしたら。

120無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:18:38No.16490818そうだねx11
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520159 B
二人はようやく同じ世界で暮らす事が出来た。もう二人を縛る物は無い。
自由に過ごし、やりたいようにやればいいだろう。二人の間に障害はない。
だけども、それは果たして本当に二人、なんだろうか。
私は生まれ変わった。あなたの世界にいても不自由がない。どこまでもついていける。
でも、それは私?ずっと水底にいなければならないのが不自由だった。そこから這い上がりたかった。
ずっと同じ姿になりたかった。そうすれば同じ世界で生きていけると信じていたから。
同じになってから分かった。私達は元々、同じ世界で生きていたんだね。
私はちょっと水の中にいないと苦しいだけで、私はちょっと水の中にいると苦しいだけで。
姿を同じにする理由なんてない。それに気付いたから、元の姿に戻ろう。
お互い、その姿が好きだったでしょう?魔法はいつか解けるもの。たった一日だけの不思議な魔法。

121無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:19:22No.16490820そうだねx11
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29888 B
…報告書に走らせたペンをそこまでで止めた。カバーストーリーを書いていた。
一週間、ずっとこの場所で見張っていたがカゲロウラプトルもわかさぎラプトルも見つからなかった。
もう引き上げ時だ。報告書をくしゃくしゃに丸めて鞄の中にしまい込んだ。私は小説家にはなれない。
考えられる理由は…今までこの二種のラプトルが見つからなかった理由は。
たった一日でラプトルへの進化を辞めてしまうからだ。私はそう結論付けた。事実なんてのは分からない。
ラプトル化すると変な事に執着したりする習性もあるし、そういった事から以前の姿に戻ろうと…。
難しく考えても相手はジュラシックだ。あちらのペースにハマってたら考えが詰まる。
新種のラプトルは見つからなかった。貴重な写真になったこの一枚を改めて眺めておく。
…どうせ、この考えも間違いになって、この二種が地上に溢れる日も来るだろう。
目に焼き付けておくと、私は写真を鞄の奥に乱暴に押し込むと帰り道に向かって歩を進めた。

122無題Nameとしあき 23/09/02(土)00:19:57No.16490823そうだねx11
1693581597482.png-(264492 B)
264492 B
おわり

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