部屋に積み重なれたスケッチブックには恐竜の絵が描かれていた
彼女が仕事で使うからと大量に買ってきたものをくすねてきたのだ
そんなことをしていても寂しさというのは中々紛れるものではない元より寂しいから描いているのではなかった
女の子ならこれが好きだろうと買い与えられた玩具に触れたくなかったいつのまにか人形の数が人より恐竜のほうが多くなっていたくらいだ
でもその遊びも飽き始めてしまった次第にそれも認められてきてしまっていたのだ
彼女が嫌がる事をしたいそんな事を考えていたからこそ恐竜遊びをしていたのだ認められてしまっては元も子もない
それではどうすればいいかもう好きになってしまったものを今更嫌いというのも変な話だ
そこで思いついたのが仕事熱心な彼女をからかう為に恐竜を使うということだった

家にも仕事仲間と思われるペットが入ってくる彼女は偉い立場にある顎で人を使えるような人なのだ
だからこそこうしようと思ったそのペットの顔と恐竜の体をくっつけて新しい生き物を作ったのだ
一番最初に作ったのは清蘭と呼ばれていた兎だ一番弱そうで頼りなかったからその顔とラプトルの体をくっつけた
スケッチブックに描かれたラプトル清蘭はとても弱そうに出来たその隣に次々に弱い設定を書き足していく
恐竜いやジュラシックの中でも最も弱く余計なお世話を焼いては強いジュラシックにやられてしまう
作り出してからは止まらなかった次に作ったのは鈴瑚トプスこの二人はいつも一緒にいるから番いという事にした
次々と作っていく中であるジュラシックで手が止まったサグメノドンだ描いたはいいが設定が思いつかない
頭の中で様々な設定が浮かんでは消していくどれも当てはまらないと思ったけれどそれ以外に思いつかなかった

彼女は友人に呼ばれて夢の中にいた突然の呼び出しに困惑もしたが彼女は落ち着いていた
「あなたの所にいる子が随分と変な夢を見ていたわ」
そういって描いてくれたのは人の顔を恐竜の体にくっつけた化け物だった
流石にそれには困惑した最近恐竜の趣味に目覚めていたのは分かっていたし認めていたがこうなってしまうとは
隣にそのジュラシックの設定が描かれていくラプトル清蘭は弱く強いジュラシックに食われる
しかし他のジュラシックに優しくよく人に懐き時々人の感情を理解するような行動をとる
不思議な設定だった姿は明らかに人を馬鹿にした化け物であったはずなのにまるでその人の事を描いているような
次に鈴瑚トプス番いであるはずのラプトル清蘭を殺してしまう更にはそれを追って自殺してしまう始末だ
だがこれにもラプトル清蘭を守る為に時に限界を超えた力を発揮する等からかうにしては不自然な点が多かった
「これがあの子が最後に見ていたジュラシックよ」
そういって描いてくれたのはサグメノドンと書かれたジュラシックだった

サグメノドンは優しく母性に溢れ他のジュラシックの卵を温め子育てをする
友人が描いたのは一匹の謎のジュラシックに餌を与えるサグメノドンの姿だったその顔には見覚えがあった
「…このジュラシックの名前は?」
思わず声が出た普段から喋らないように気を付けてはいたが聞かずにはいられなかった
「そこまでは知らないわ本人から直接聞けばいいんじゃない?」
それが出来ないのを知っている癖にそこまで声に出そうだったが自分の弱さを晒すようで憚られた
ラプトル清蘭つまり清蘭を最初に家に入れたとき確かに一人で遊んでいたあの子の頭を撫でてくれた事を思い出す
鈴瑚トプス元の鈴瑚も清蘭に無茶な命令を出した時強く怒ってきた事があるあの子はそれを全部見ていたのだ
からかう為にこれを作ったのは間違いないただこのジュラシックには何か想いが込められている気がしてならない
サグメノドンの姿を夢から覚めるまで見続けたそれに込められた想いと自分がするべき事を考えながら

ラプトル清蘭と鈴瑚トプスが遊んでいる最近頻繁に見るようになった夢だ
夢の中では博士になっていてジュラシックの研究をしていてその手には生態研究を纏めたレポートが握られている
いつもの夢だそれをある博士の所に持っていく所で終わるしかし今回の夢はそれで終わりそうにない
サグメノドンに乗って研究所に帰るはずなのだがいつもと違う所へ飛び始めた
「どうしたんだ研究所は向こうに…」
急加速したかと思うと視界が突然真っ暗になり振り落とされる目が覚めたときには地上にいた
ラプトル清蘭が傍に寄ってきて頭を撫でる鈴瑚トプスは心配そうにこちらを見つめている
辺りを見渡すとサグメノドンの姿が見当たらなかったこのまま歩いて帰るしかないかと考えて立ち上がった時に気がついた

ここは地上だおかしな事を言っているかもしれないがしかしここは地上だった
この景色は夢の中になかったこの風は夢の中では感じなかったこの匂いは夢の中にはなかった
一体なんで自分がここにいるのか分からなかった今まで夢を見ていたはずだったのに後ろから迫る足音に振り向くと思わず声が出そうになった
「サグ…」
彼女はいつも通り口元を右手で隠しその表情は読めない抱いた安堵感はあっという間に消えてしまった
「…ここは地上だな面倒みるのが嫌になって捨てようって魂胆か」
彼女は何も答えなかった左手にはよく見るとボールが握られていて彼女はそれを差し出した
「それはオカルトボールという物でね都市伝説を具現化する力があるの」
後ろに控えていた友人が喋らない彼女の代わりに答えたその表情は妙に疲れているようだった
「大変だったのよ?地上の人間達に同時に夢を見せれば都市伝説になる筈って聞かなくて」
大きな足音が聞こえた振り返ればそこには自分が見た事もないジュラシックがいた
「モケーレムベンベ…蛮奇オサウルス…?」
知らない筈のジュラシックの名前が次々に頭に入ってくるいや知っている夢の中でずっと研究していた
近くに寄ってくる二匹のジュラシックがいたそのジュラシックの名前はよく知っている
まるで親子の様だ親が着地すると背中に乗っていた子供が駆け寄ってくる
「クッシラュジ…サグ…サグメノドン」

地上はいつの間にかジュラシックの楽園と化していた夢の中で見ていた様なそれよりもずっと大きい様な
今まで黙っていた彼女がゆっくりと口を開き始めた
「貴方が欲しがっていた物よ受け取りなさい」
その手には先程説明されたオカルトボールがあったそれの力によってこれが出来ているのは間違いない
確かに欲しかったこんな奇妙な生き物がいる世界が欲しかったでもそんな形で受け取りたくなかった
ラプトル清蘭が不思議そうな表情で見上げているクッシラュジも首を傾げている
後ろの友人はバクドレサウルスと共に独特な笑みを浮かべていた
「これを受け取れば貴方は私の家に帰る事もないそのまま地上で暮らせるのよ」
「結局は私を捨てたいって事じゃないか!そんなお前に都合の良い事誰が…」
突然サグメノドンは彼女の両肩を掴んだ勢いよく高く飛ぶとそのままぐるぐると周り始めまるで懲らしめるかのように速度を上げていく
おかしいこんな生態は知らない普段は温和で滅多に人に危害を加えないはずだ
友人がその謎を独特の笑みを崩さずに答えてくれた
「これで生み出したジュラシックは基本は夢で見たその人の性格や願望を反映しているそうですよ?
きっとサグメノドンを夢で見ていた人は貴方を虐めるような人を許せないみたいですね」
彼女はクールに振り回されている間も右手で口元を隠すのを忘れない普通なら酔って吐きそうなくらいの速度で旋回している
こんな事でしか自分の想いを伝えられないのかそう言いたかったけれどそれは自分も同じだった

ようやく地上に降ろされると這々の体で逃げてきて目の前でもう一度格好付けてボールを差し出す
分かっていたこんな生き物を勝手に作れるのは地上でしか出来ないとそして地上に置いていく事がどれだけ辛い事なのかと
それはサグメノドンが教えてくれたクッシラュジを見るサグメノドンの瞳と自分を見る彼女の瞳はまったく同じだった
「…ふざけるなこんなものっ!誰が貰うか!」
思いっきり力を込めてボールを弾いたボールは転がって通りすがりのケツァールべんべんによって遠くに飛ばされた
これでいいそう思ったそれを持っていたらいつかそのボールを壊してしまうだろうそうすればこの夢が覚めてしまう
折角見せてくれた夢ならば覚める必要はない今見ているのは夢ならば覚めるまで家に帰る必要もない
壮大な家出を始めようと思ったボールを探す旅でもいいジュラシックを研究する夢のままでもいい
ずっと傍に居て欲しいと思っているのなら二度と帰ってやるものかその為にもボールは必要なかった
サグメノドンの背中に跨るとクッシラュジもついてきたいつかきっともう一度そんな日も来るだろうとふと思った
「正邪すぐに帰って来るのよ」
「お前とは二度と会うもんか!クソババア!」
去り際の正邪は飛びっ切りの笑顔で答えたその言葉に裏表なんてないのだろう想いには何が篭っているか分からないが
「二人とも天の邪鬼ですねぇ帰ってこないって分かっててすぐに帰って来いだなんて確定した事象は…」
「五月蠅いわドレミー…まだ確定してないもの」
「サグメさんもあのジュラシックくらい素直になってくれればいいんですけどね」
弾かれた左手を痛そうに庇いながら帰っていくサグメの懐にはもう一個ボールがあったその中ではジュラシックの親子が仲良く寄り添う様に眠っていた
そのすぐ近くでは飛んできたピカピカ輝く紫色のガラス玉を覗き込むラプトル清蘭がいた
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