31. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:07:24 No.10564940
黄色く、大きな生き物が切り株に座っている。
立ち上がる、そして歩き出す、手を大きく振っている
「プス?」
一瞬、振り返る、そしてまた向き直る
歩き出す、林の中へと消えていく

……
「たしかに、この映像に収められているのは正真正銘の本物、まごう事は何もありません」

暗く、大きな町の集会場
大勢の記者が見守る中で、横に映し出される映像を胸を張ってそう喧伝するのはリンゴ・ダンゴ氏とセイラン・ダンゴ氏のダンゴ夫妻だ

32. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:11:54 No.10564972
1967年
幻想郷と月勢力間の冷戦がその影を色濃く世のあちこちに吹き出る、猜疑心にあふれた時代にそれは発表された。

はじめは子供向けの怪奇本の片隅、次は雑誌の数ページ、そして新聞の記事として
それは瞬く間に知られていった

『謎の怪生物、妖怪の山に現る!?』

でかでかと喧伝され、不安に煽られる時代であった昨今、その不可思議で滑稽な生き物を映した映像は一躍話題騒然となった

33. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:16:57 No.10564990
人妖らの疑いに満ちた心の隙間にその何処か気の抜けて、しかし興味を惹かれる話題はまさしく持って来いという恰好だった

「ニセモノに違いない、これは着ぐるみだ」
「偽物にしてもなんの意図があるっていうんだ?」
「田舎で撮影されたんだろう?きっと町おこしが目的だ」

真偽を巡る論争は燃え上がり、里には議論が絶えまない

「何を言いますか?本物ですよ、ええ」
「そうよそうよ!本物よ」

有名人となったダンゴ夫妻は押し寄せる記者たちの質問に対しそう答え続けた

34. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:30:01 No.10565033
現実に即した考察から宇宙人の姿を映した映像であるとか
政府の陰謀説という荒唐無稽極まるものまで
とにかく短期間のうちに星の数ほどの説が打ちあがった

その中でも力があった説の大筋は主に三つに絞られる

町おこしの為にきぐるみを使ってウソ映像をでっちあげたという説、特に力があったが、決め手に欠けた

なぜならば撮影された土地、つきのみやこは辺鄙な地方の小さな里ではあったが、財政的にひっ迫しているわけでもなくむしろ団子資源を都会へ卸す産業が安定し裕福ですらあったからだ

また撮影者のダンゴ夫妻も特に貧困に苦しんでいた訳ではなかった

35. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:33:57 No.10565053
第二に、本物であるとする説、これも根強かった

映る生き物は極めて自然に動きかつ何か生々しく、これは本物だと信じるに足るとする主張であったが、これも決め手に欠けていた

撮影場所の特定までもされた上でくまなく探し回られたにも関わらず生き物の姿はおろか死体や生存の痕跡などがまるで上がってこない事は拭いきれぬ疑念のそのものであったからだ

一方で、映像に映る生き物が肉食であれど草食であれど妖怪の山の環境であればこの程度の大きさの生物であれば生存は十分に可能だろうとし、
また痕跡に関しても生物の痕跡はごく短期間で失われる事から既になくなっていても不自然ではないとして、
少なからぬ動物学者がこの謎の生物の存在はそうありえないものではないと意見した

37. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:51:13 No.10565140
三つ目、主な出発点は第一の説と似通うが、こちらは「裕福だからこそできたのではないか?」という説

裕福なダンゴ夫妻が何者かに精巧な着ぐるみの作成を依頼し、これを用いて映像を作成しそれを各所に売り込み、大掛かりな冗談を仕掛けたという流れの説だ
冗談だからこそいくら偽物と言われようが本物と言い通すのだと

だが、この説は裕福なのは町の財政であった事がダンゴ夫妻が裕福だとどこかで誤解されたものだった

ダンゴ夫妻は貧困にこそ喘がなかったが、裕福でもない中流ダンゴ師として生活していた
そして毎日は忙しく、わざわざ着ぐるみを作ってもらって映像を撮影してそれを何処かへ売り込みに…なんていう悠長な事は当時まず不可能と思われる

更に、夫妻の友人であるレイセン氏はこの説を明確に否定していた
「暇があればあいつらキスして抱き合ってるよ」

38. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:55:45 No.10565149
本当に、数多くの説が信じられた
そして時は流れると、次第にその熱狂もどこへやらと過ぎ去れば、記憶の隅からも消えた
こうして謎の生物騒動は歴史の奇妙な一頁へと干からびる…かに思われた

1998年
正しく、長い年月が経ち、撮影者であるダンゴ夫妻が鬼籍に入って五年経ったある日

『ついに明かされる!?謎の生物の真実!』

着ぐるみの中に入っていたと名乗る人物が現れた
そして、またその怪奇の歯車は一目という油を注がれ、回転をゆっくりと再会した

39. 無題 Name としあき 2018/06/23 00:59:46 No.10565161
「ええ、私は確かにあの中で動いてましたよ」

てゐ氏はそう語る、あれは正真正銘のウソだったと
そして映像に見える謎の生物の背中の線、あれは着脱口だったと

長年の謎があっさりと解き明かされてしまった
世界中の映像が本物だと、生物の存在のそれを信じた者は皆うつむいた
奇妙な生き物の存在というロマンは今ここで失われ、現実という布がかけられてしまったのだ
40. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:03:14 No.10565181
そう思われた、思われていた

『徹底解剖!?真実を探れ〜謎の生物を追って〜』

ナショナルあおグラフィック、ナショあおの企画が打ち立てられた
どうせ嘘だと明かされたのだ、映像の再解剖を今一度行い、盛大な突込みをみんなで入れてやろうじゃないか
そんな意図の、軽い企画であるはずだったこの番組は、ダンゴ夫妻の親類から贈られたオリジナル・テープにより完全に覆る事となる

41. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:12:21 No.10565225
「つまり…これは」
「ありえないことかもしれませんが、本物」
「えぇ…?」
「筋肉の動きがあまりにも自然かつ繊細、当時の技術でこんな着ぐるみが作れるかはわかりませんが、私が見る限りでこれは生き物に見えますという事です」
「…本当に?」
「本当に」

短いやり取りを終えた
取材班のいなば氏は医療関係者としても名高くまた生物学者でもある八意氏のその言葉に訝しんだ顔を返す
解析を依頼すれば、謎の生物の化けの皮が剥がれると思っていた
どころか、事態は全てが逆転した
あのオリジナル・テープにはなんてことのない、流布された映像と同じ内容のものしか入っていなかった
それでも、十分にコトを覆す情報が刻まれている

鮮明な画質でモノが記録されていたからだ

42. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:20:13 No.10565260

……
編集部、オリジナル・テープは現在の技術を駆使してコマ単位で解析が行われる
「所詮冗談映像なんですから、気楽にいきましょう」
「そそ、ウソっこモンスターをぶっつしてやりますよ!昔私はこれにかな〜り怖がらせられたんですから!」

初めは草の根妖怪映像編集班は軽いノリで仕事に当たっていた

「これ、着脱口なんか見当たりませんよね…?」
「よく見て、尻とか肩も微妙に揺れ動いてるしなんかこれ…本当に生き物みたいですね?」
編集班に戦慄が走る「そんな」「まさか」がのど元に迫った
「嘘な筈…なんじゃなかったんですか?」
「…その筈なんだけどね…」

解析を終えた時、まんじりとも出来ずにその映像の拡大高画質化と生物の動きの割り出し結果を前にして編集班はそう交わした

43. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:29:21 No.10565296
「専門家に依頼するべきですって!」
「お願いします!どうしても!どうしても!」

軽い企画であった筈の、現代の技術で大昔のウソッコ怪映像を丸裸にする企画はあらぬ展開を迎える
編集班の必死の懇願もあり、取材班はまずは着ぐるみの専門家女性、アリス氏のスタジオを訪ねた

「当時、ここまで精巧な着ぐるみを作成できる技術はありませんよ」

「えっ?」

「ほら、この拡大した画像の二秒二番から九番にかけたのこことここ、切り株から立ち上がる時の尻と腰の微細な皮のゆがみが見えますか?」

「見えますね、これが何か?」

「着ぐるみのものじゃないんですよ、明らかに内部に骨と筋肉が入っている物の歪みです」

45. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:40:29 No.10565327
「十八秒の手を振る所の一番から七番の動きも着ぐるみには、特に当時の着ぐるみでは不可能だと思われますね、可動がなめらかすぎます」

「という事は、アリスさんの見解ではこれは」

「この生き物は本物です、当時の…数十年前の着ぐるみ技術を記録した物と比べるとわかりやすいと思います」

「そうですか…ありがとうございました…」

「こちらこそ、面白い物を見せてくれてありがとうございました」
結果が出た、言葉を詰まらせながら取材記録を持ち帰ると編集班が飛びついてくる
「結果はどうでした?やっぱり精巧な着ぐるみってオチでしたよね」
「本物らしいです」
「えっ…そんな?えっ?」
驚愕を隠せずにいるようだが、それは取材班も同じく
相談の末に映像のさらなる解析を別の視点から依頼する事になった

46. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:47:08 No.10565346
「よろしくおねいがいします、それでは」
「はい、こちらこそよろしくおねいします」
次なる解析を依頼した文教授は生物の専門家、次は動きの面から取材班は生き物を探らんとした

「えーと…なんですかね…これは…」

「どうされましたか?」

「いや…フェイク映像ですかね?それにしてもよくできている、おかしい所が見当たらないですよ」

「でも、足の動きとかは人そのもので…」

「この生物の歩行と人の歩行は全く似て非なります、ちょっとまねして見るとわかると思います」

試しに、取材班はその動きを行うと…まったくこれが難しく、ぎこちない足取りしかできない

47. 無題 Name としあき 2018/06/23 01:56:37 No.10565367
「この生物が作り物だとすれば…外見から想定される骨格に対してきわめて忠実に動作が考えられている事になります、まさしく生物として不自然が何一つないほどに」

「えーと…偽物じゃないんですか?」

「作り物の可能性は多分かなり低いんじゃないですか?ここまで動きが自然なものを作るのは今でも難しいことだと思います」

「…ありがとうございました」

どうなっているんだ?
専門家のお墨付きだって?偽物だったはずの、着ぐるみだと告白されたはずの謎の生物が?これは作り物の、大昔の出来の悪いフェイクのはずだ
取材班は混乱のままに局へ戻り、それは曲の内部にざわめきをもたらす程で迎えられた

長い編集会議と様々な意見が交換された後、依頼できる中で最高の人材へ最後の解析が依頼された

48. 無題 Name としあき 2018/06/23 02:03:48 No.10565384
そうして、八意氏からの返答に戻ってくるという訳だ

番組は放映され、局には異常なほどの問い合わせが鳴り響く
単発の深夜番組にもかかわらず、インターネットもこの話題でにわかににぎわい始めている

『怪物、本物だった!?』『掘り起こされた怪存在』
スポーツ新聞は一面でその存在を騒ぎ立てた

掘り起こされた怪物の情報、再び始まるという謎の生物の探索
かつてとは比べ物にならないほど技術の発展した現代、ついにその生物が白日に晒されるのだろうか

49. 無題 Name としあき 2018/06/23 02:12:39 No.10565391
されなかった、見つからなかったのだ、どこにもいない、何もない、多くの人々は次第に興味をなくした
数か月する頃にはオモシロ事件の一つとして数えられる、かつての時と同じ顛末を辿る事となった

「なんだったんですかね、あれ」
「さぁね、でも早く忘れたいわ」
「私も…」
編集班は目を合わせず、ふと思い出した謎の生物を忘れることに努めた、不気味で、恐ろしかったから

「…見つけてやる、見つけて…証明してやる!」「はいはいウサ」
無常に流れる情報の海へ埋もれた事が許せない取材班のいなば氏は発端になった中身を騙った詐欺師を連帯責任と認定し山奥の小屋で監禁し洗脳の末に助手に作り替え推定撮影地点の付近を今も探し求め、それの生け捕りを企てた

「はやくみつけてみるプスな」
その背中を、何かが一瞬見つめて去った

謎は結局謎のまま、それでも何時かは明かされる、そう願って止まないのは、かつて心躍らせた者のすべてだ

---- 50. 無題 Name としあき 2018/06/23 02:13:28 No.10565392
元ネタ
https://en.wikipedia.org/wiki/Patterson%E2%80%93Gi...

後日

無題 Name としあき 18/12/31(月)00:23:23 No.11226306 del
1546183403923.webm-(1586294 B) サムネ表示
動画ファイルへのリンク
ついに例の映像の入手に成功した
・・・以前あった怪文書気に入って動画作ろうと思ったはいいもののなかなか作れなくて気がついたらもう半年経っていたという

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