9 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:19:26 No.11751953 del そうだねx2
「あーましまし? ましまーし! えーあなたが一夜目を落ち着いて過ごせるようにメッセージを録音しまし。ジュラにゃんはあなたの前任者まし。先週辞めまし。だから――……」

電話口からくぐもった音声が流れる。前任者からの引き継ぎの言伝だ。部屋の中でそれを聞いているのは一頭のトプス。ちゃんと理解しているのかいないのか。いつも通りのんきな顔をしてテーブルの上のピザを食べている。

「トプ自身働く意欲はあるプスからねぇ」

その言葉は本心だった。ただトプスの仕事が長く続くことはなかった。就職したその先々で解雇されてきたのだ。最初に勤めたのはクッシラュジ農園の手伝いだった。傷物のyasaiはちょっとくらいならつまみ食いしていいと教わったので役得だと手を出していたら収穫量の8割ほど食べたところでクビになった。

「どこまでがちょっとなのか言っといてほしいプスな」

10 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:19:55 No.11751956 del そうだねx1
次に勤めたのはレンタルDVD屋の店員だった。ここではジュラシックパジャマを着た常連客とえっぐいジュラポ談議に花を咲かせていたところ館内放送のスイッチが入っているのを忘れてしまった。特殊性癖の生ライブは余すところなく店内に響き渡りトプスはクビになった。

「まだまだジュラポへの理解は足りないんプスな」

その次に受けたのはサグメ研究所の治験バイトだった。流石にここなら解雇されることはないだろうと思ったが渡された薬があまり美味しそうではなかったので飲ふりをして近くのコーヒーカップに捨てた。それを知らずに飲んだ片翼の研究員がラプトルになったことで治験そのものが中止になった。

「本人は人類ジュラ化計画の第一歩だ!って喜んでたからバイト代はもらってもいいと思うプス」

11 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:21:02 No.11751963 del そうだねx2
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そんなこんなでトプスは現在無職のぷージュラ。貯金も心許なくなってきたところ降って湧いたのがこのピザ屋のバイトだった。仕事内容はとても簡単で閉店後の店内に残り翌朝6時まで待機する夜間警備だ。やることと言えばときどき監視カメラで異常がないか確認するだけという清蘭にもできそうなものだ。何より会社都合の退職は絶対にないというのが魅力だった。

「これならトプにも続けられそうプス」

余り物のピザ(廃棄するものなので食べていいことになっている)を頬張りながらトプスは監視モニターをチェックしてみた。薄暗い店内には気味の悪い人形が並んでいる。これなら自分をマスコットにした方がまだいいんじゃないか、などと思っているとさっきまでなっていた電話のメッセージが途切れていることに気付いた。いつの間にか再生を終えていたらしい。ぼんやりと聞いていたのでろくに内容を把握していないが確か電気がどうのと言っていたのはかすかに覚えていた。

「省エネの時代プスからね」

12 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:21:41 No.11751965 del そうだねx1
とはいえ、閉め切った室内は空気の通りも悪くじっとりとした暑さをまとわりつかせる。耐えきれないほどではないが不快なぎりぎりのラインだ。トプスは冷房のリモコンを手にして一度逡巡し、除湿のボタンを押した。冷房は電気を食うから除湿で我慢しようというジュラシック的判断だ。トプスはこれを節約も室温も解決する英断だと思った。

「ついでに音楽もかけちゃうプス。こいつはご機嫌な夜になりそうプスね〜♪」

流れてくる東方アレンジBGM(九月のパンプキン)を聞きながらノリノリで監視モニタのリモコンを操作する。リズムに乗りながら画面を切り替え、左右の自動ドアを開閉して遊んだ。この調子なら朝の6時まで退屈せずに済みそうだと思っていると、バチンという音とともに視界が暗転した。

「プス!?」

手元のモニタを見ると電力が0を指し示している。空調機の除湿にBGM、モニタ操作と電力を使いすぎたのだ。トプスは仕事について30分で真っ暗闇の部屋に取り残されてしまった。

「参っプスなぁ。停電プス」

13 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:22:06 No.11751968 del そうだねx1
暗闇の中でトプスは嘆息した。このまま残りの時間を何の娯楽もなく過ごさなければならないのか。そう考えると途端に時間の流れが遅くなるような錯覚変え覚える。それなら何か暗闇の中でできることはないかと考え、トプスはあることを思いついた。それは圧倒的、悪魔的、ジュラシック的な閃き。まさに天啓だった。
トプスは自分の腕を伸ばし、そっと頭の帽子を取り外す。完全な全裸だ。暗闇の中で誰も見ていないとはいえ仕事先で一糸まとわぬ完全露出。こんな姿を誰かに見られたらトプスの社会的な地位は失われてしまうだろう。しかしそんな背徳感と解放感が押し寄せトプスの興奮を高めていく。今なら200Lどころではない。400Lくらい行ける気がする! 高ぶる感情を抑えきれず立ち上がるトプスの目の前に何かが立っていた。

「フイ?」

14 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:22:24 No.11751969 del そうだねx1
部屋の中は真っ暗だ。だがそれでも目の前に何かがいるのはわかった。存在感というか、息遣いというか。そしてかすかに漂う臭い。これは鉄と……腐臭のような。次第に慣れてきた目の中でそれは大きくなった。視界いっぱいに広がるほどに近づいたそれはボロボロになったクマのぬいぐるみ――……。

「プっ プスぁああああああああ!!!!1!!!」

トプスの絶叫が響き渡った。

15 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:23:44 No.11751979 del そうだねx1
「えーっとましまし、ましまし? えー、あなたががもしこれを二日目に聞いているなら、まずは祝福の言葉を贈りまし。おめでとまし!今回はあまり長くは話さないまし。フレディと彼の友達は週が進むにつれてもっと動きが活発に――……」

電話口からくぐもった音声が流れる。前任者からの引き継ぎの言伝だ。部屋の中でそれを聞いているのは一頭のトプス……のような何かだった。全身の黄色は暗い褐色になり、関節を動かすたびにキイキイと機械音が鳴る。トプスはマスコットの機械人形の一つとなっていた。昨夜、自動で動くぬいぐるみに襲われたトプスは彼らの仲間にされてしまったのだ。翌朝眼をさまし、そのことに気付いたトプスはとりあえず家に帰りもう一度睡眠をとった後、借りていたDVDを見て、何食わぬ顔でもう一度ピザ屋に出勤した。二日目の夜勤だ。

16 無題 Name としあき 19/06/05(水)22:24:04 No.11751983 del そうだねx2
1559741044182.png-(118038 B) サムネ表示

「まあちょっとした肉体改造ってやつプスね」

自分の身体が作り変えられたのには正直驚いたが、やたらと多いトプスsozaiの中ではまだマシなほうだと判断した。ついでにいうと腹にぶら下がっていた駄肉がスポンジ素材に置き換わっていたので鉄の骨格分を差し引いても幾分かのダイエットに成功していた。

「日ごろの節制の賜物プス」

そういってトプスはまた廃棄されるピザに手を伸ばしていた。今日もまた仕事が始まる。ぬいぐるみたちとの夜がやってくる。トプスはエアコンのリモコンを手に取った。どういうわけか、ぬいぐるみの身体でも暑さ寒さは感じるらしい。リモコンについてあるボタンを眺め、勝ち誇ったように呟いた。

「トプは進化するジュラシックプス。昨日までのトプと今日のトプは違うんプスねぇ」

トプスは冷房のスイッチを入れた。

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