17無題Nameとしあき 22/07/26(火)21:56:50No.15570644そうだねx10
「寂しがりやのウサギたちがぁああああ! 地上で隠れて泣いいいいぃいてえええるぅうう!!!11!1」
「それそんな熱唱する曲じゃないでしょ……」

一同はカラオケボックスに来ていた。気持ちよく熱唱する清蘭に合わせて心ばかりのタンバリンを鳴らす鈴瑚。その横でまゆマジロは興味深げに端末をいじっていた。
「知ってる局あれば入れるといいプス。トプは基本何でもいけるプスよ。ラプトルはラップが得意プスね。SOUL'd OUTも完コピできるんプス」
「キュキュイ」
「はにー」
渡されるがまま、まゆマジロは端末を手に取った。ぽちぷちと押してみるが出てくるのは知らない曲ばかりだ。
「7点ってなんでよー! 魂こもってたじゃん! 所詮は機械ね!」
「童謡カテゴリから探させてあげたら?」
わめく清蘭とアドバイスする鈴瑚。それもそうだとトプスが手を伸ばすより先に、まゆマジロはピポパポと入力を始めた。何かを選んでいるわけではなく、タッチパネルの感覚が楽しいだけなのだが、そのうち偶然検索欄に文字列が打ち込まれた。無作為に入力されたワードを元に、一つの曲が検出される。

19無題Nameとしあき 22/07/26(火)21:57:57No.15570652そうだねx9
「なんプスかこれ? タイトル入ってないプスね」
「キュイー?」
めちゃくちゃに打ち込んだから不具合でも起きたのだろうか。不思議がるラプトプをよそに伴奏が流れ始める。はて、再生ボタンを押しただろうか。思わず顔を見合わせるラプトルとトプス。しかしまゆマジロは自分が選んだ曲にご満悦だ。せっかくだし、ためしに歌ってみるかとトプスはまゆマジロを膝に抱え、マイクを手に取った。
「えーっと、姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉を吐く〜、……変な歌プスな」
「キュイ?」

曲のリズムや音階はさほど難しいものではなく、単調なフレーズの繰り返し。トプスは初めてながらも歌詞を見ながら難なく歌い上げる。ラプトルはそれをしり目にきょろきょろと部屋をうかがっていた。
何かおかしい。部屋の照明はこんなに暗かったろうか。いや、暗いのではない。赤黒い、まるで血のような色合いが部屋の中を照らしている。それにこの歌声は何だ。歌っているのはトプスのはずだ。そこに何重もの声が重なって聞こえる。大人も子供も、しわがれた老人も、男も女も、泣き叫ぶような絶叫も喜色に富んだ笑い声も、何もかもが入り乱れて歌ってる。

20無題Nameとしあき 22/07/26(火)21:59:04No.15570658そうだねx9
「キュっ……!」
「啼けば反響が地獄にひびき、狐牡丹の花がさく。地獄七山七谿めぐる、可愛いトミノのひとり旅……」
声を上げようとするも動くことができない。辛うじて傾けた視線の先でトプスは朗々と歌い続ける。その瞳は光をなくし、うつろな表情に意思は見えない。以上に気づいているのはラプトルだけではない。まゆマジロはぶるぶると怯えながら、トプスの腕を引っ張っている。向こうで鈴瑚さんが口を開いて何かを叫んでいる。けれど聞こえない。耳に入るのは既に大合唱と化したこの歌だけだ。

22無題Nameとしあき 22/07/26(火)22:02:57No.15570675そうだねx11
「地獄ござらばもて来てたもれ、針の御山の留針を。赤い留針だてにはささぬ、可愛いトミノのめじ」
「あー! トプスが歌ってる! あんた順番飛ばしたでしょ!」

バン、と大きな音を立てて部屋の扉が開いた。そこには飲み物を取りに離席していた清蘭がトレーを抱えて立っている。
「ずるいずるい! それなら私も先に歌うからね! はいはい、これ演奏中止〜」
言うが早いか、別の端末から強制的に演奏を止める清蘭。気が付けば部屋の照明も空気も元の通りに戻っていた。

「私ねーわかったのよ。ビブラートが足りてなかったんだわ。ん? ブブラート? オブラートだっけ?」

顔を見合わせる面々をよそに、清蘭は次の曲を入れ始めていた。我に返ったトプスが慌てて先ほどの履歴を見ても、そこには何も残っていない。その前に歌っていたタイトルが並んでいるだけだ。
「……清蘭、今日は順番気にしないで好きに歌っていいよ」
「えーなんでー? やったー!」
疲れた声で鈴瑚が告げると清蘭は嬉しそうにミックスしたドリンクバーでのどを潤していた。

■ SEARCH

■ JURASSICS BIRTHDAY

■ SHELTER

■ OMAKE ver.2024

どなたでも編集できます