前:玉兎とトプスと謎の祠

無題 Name としあき 19/03/14(木)22:36:26 No.11473943 del そうだねx2
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「こんな形で足止めを食らうなんてね。」
青い髪の兎が文句を言いました。隣の椅子に乗ったトプスはうつらうつらとしています。二人は、大きな街へと向かう道の途中の、小さな検問所の中にいました。人はほとんどいませんが、検査員の手際が悪く、いつまでたっても順番が回ってきませんでした。
「まあ、ゆっくりできていいかもね。そう考えましょう。」
壁にはいくつかの張り紙がされています。古い木製の建物はよく手入れされており、美しさを保っていました。しとしとと雨が屋根をたたく音が響きます。厚いガラス窓の向こうには、灰色の景色が広がっていました。

二人がのんびりしていると、背の高い、美しい女性が声をかけてきました。
「ごきげんよう。またお会いしましたね。お隣いいかしら。」
兎は「またお会いしましたね」という言葉に違和感を覚えました。以前この女性に会ったことがあったのでしょうか。でも、彼女の声はどこかで聞いたことがあるような気がしました。
「…ええ、どうぞ。」
紫色の道士服を着た女性は、兎の隣に静かに座りました。
「人を探しているのでしょう?」

無題 Name としあき 19/03/14(木)22:36:47 No.11473948 del +
兎は困惑しました。なぜ彼女は兎の目的を知っているのでしょう。そういえば、いつからこの部屋にいたのでしょう。荷物の一つも持っておらず、雨にも濡れていないのも不自然です。異様なまでに美しい姿は、奇しさを感じさせました。
「…でも。」
兎が返事をするのを忘れているのにもかまわず、彼女は続けました。
「たまには、この美しい世界にも目を向けるべきですわ。」

隣にいたトプスが、兎の膝に上ってきました。
「あら、お久しぶり。あなた、ちゃんと一緒にいてくれてるみたいね。えらいわ。」
そう言って、彼女はトプスの頭を撫でました。トプスはフイ、と鳴きました。
「この子のこと、知ってるんですか?」
「…答えてしまったら面白くありませんわ。」

無題 Name としあき 19/03/14(木)22:37:20 No.11473952 del +
『次!』
検査員の声が響き渡りました。
「お先にどうぞ。私はきっと時間がかかりますから。」
女性は手を差し出す仕草をしました。
「いいんですか?それじゃあ、お言葉に甘えて。」
「そうそう。」
「はい?」
「この先の街はとっても素敵なところですわ。ゆっくりなさるといいでしょう。それでは、良い旅を。」

無題 Name としあき 19/03/14(木)22:37:35 No.11473953 del +
「…書類を。それと、帽子をとって。トプスを抱き上げて、見せて。」
「はい。」
「…トプスと話せるの?」
検査員の男が、面倒くさそうに書類を見ながら兎に尋ねました。
「…え?」
「さっき、そこで何か話してたから。話せる人、たまにいるんだよね。君もそうなの?」
「いえ、私はあの人と…。」
兎は振り返り、驚きました。さっきまで女性がいたところには、誰もいません。部屋を見渡しても、彼女の姿はありませんでした。
「…なるほど。」
「…あの…。」
「たまにあるんだよね。ここ、そういうこと。…審査、終わったよ。通ってよし。」
そう言って彼は書類に雑にスタンプを押しました。そして、待合室に誰も居ないのを確認して、コーヒーを飲み始めました。

無題 Name としあき 19/03/14(木)22:38:01 No.11473956 del そうだねx2
「何だったんだろうね。」
兎が呟きます。トプスが、水たまりをよけながら横をついていきます。
「あなた、あの人のこと知ってるの?」
トプスは何も言いません。
「『言葉が分かる人』なら、教えてくれるのかな?」
二人の眼前のはるか向こうに、建物の青い影が見えてきました。
「大きい街だね。…素敵なところ、なんだっけ。」
兎は天を見上げました。雨上がりの澄んだ青い空をじっと見ていると、まっすぐ落ちていきそうな感覚に襲われます。目線を落とすと、道の脇の、雫の乗った花々が目に入ります。
「…綺麗だね。たまには、あの子のこと忘れて、のんびりするのもいいかもね。」

次:玉兎とトプスと海の見える街

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