無題 Name としあき 19/09/01(日)23:55:30 No.12045054 del そうだねx4
朝目覚めると、私の目の前に得体のしれないクリーチャーが立っていた。
しばし困惑、続き恐怖。すんでの所で悲鳴を飲み込みそのままゆっくりと目線を向ける。霞んだ視線が交差してお互いの姿を識別した。起き抜けだというのに心拍数が上がっているのがはっきりと分かった。
疲労からの幻覚か、はたまたドレミーの悪戯か。そうならばどれだけ良いことだろう。しかし意識が鮮明になるにつれて目の前の異形を現実だと認識させる。逃げるか、立ち向かうべきか、最適解を得るためには混沌としたこの状況を分析するしかなかった。

無題 Name としあき 19/09/01(日)23:55:58 No.12045057 del そうだねx2
奴は生き物だ。1mほど離れて相対するそいつはじっと静止しているものの、眼球や口元が僅かに動く。その姿勢から攻撃のそぶりは見られないが油断は禁物、目をそらさず警戒したまま観察を続ける。
首より上はまごうことなく玉兎の頭、人の顔だ。先の戦争で地上に脱走したイーグルラビィの誰かに似ているような気がする。表情はのっぺりとした間抜け顔で、何を考えているかはわからない。
問題は首より下だ。清らかな肌は胴体に近づくにつれ青くなり、蛇を思わせるザラザラとした鱗に変貌していた。その怪物はアンバランスに小さな手と、猛禽類を思わせる鍵爪のついた脚。そして全長の半分ほども占める巨大な尾を持っていた。天魔か、龍か、古今東西のどの幻獣にも該当しない珍妙な姿だった。
そうだ、一つ覚えがある。まだ浄土と穢土の距離が近かったころ、二億年にも渡って穢土を席巻していた旧支配者、恐竜の姿に酷似している。八意様の教えによればおそらく小型の獣脚類、サイズや羽毛の有無からしてコエロフィシスの仲間か、大型獣脚類の幼体か…

無題 Name としあき 19/09/01(日)23:56:24 No.12045060 del そうだねx2
玉兎と恐竜のキメラというべきか、何にせよ対処不明の未知なる生物だ。歯の形状から肉食獣とは考えにくいが危険なことには変わりない。どうする、脚力はありそうだ。飛んで逃げるにしては通路が狭い。ブザーで誰かを呼ぶか、いや、下手に刺激するのはまずい。待て、頭が玉兎なら意思疎通が可能かもしれない。
「…ハァイ、私稀神サグメ、あいふぁいんせんきゅ、ふぁっつあねーむ?」
「きゅいー」
意思疎通は行えない。しかしキメラからは威嚇や興奮した姿勢が見られなかった。野生動物にしては随分と人なれしているように見える。ならば誰かのペットだろうか?豊姫が酔狂で地上の妖怪を連れ帰ったのかもしれない。なるほど、それなら月の都に理解不能な合成獣がいることも納得できる。はて、ならばどうするべきか。
「…桃、食べる?」
「きゅいー」

無題 Name としあき 19/09/01(日)23:56:48 No.12045061 del そうだねx2
ノックの音がした。キメラは私の足元で桃を美味しそうに食べている。キメラの消化器官がアミグダリンに打ち勝つかは知らないが、幸せそうに食べるその姿で私は随分警戒を解いていた。扉が開き、依姫が何やら書類を抱えて入ってきた。
「おはようございますサグメ博士。昨日言ってたマタラスクの調査報告書治しましたんで後で見といてください」
博士?股ラスク?このポニテ甥っ子プレイで頭に穢れが回ったのか。ふと依姫の目線にキメラの姿が映った。驚いたことに依姫は何も意に介さず、ごく自然に私に尋ねた。
「博士いつのまにラプトル飼ってたんですか。ペットジュラには興味ないかと思ってましたよ」
なんと、依姫はこのキメラの名前を知っていたのか。それも一般名詞のように語るとは。どうやら私の寝ている間に常識は大きく変化したらしい。
「…それ私のではないわ。起きたらすぐ近くにいたのよ。もしかして豊姫のかしら」
「う〜ん、お義母さん専らモモちゃんマニアだしなぁ」
「ところでラプトルというのはエオラプトル?オヴィラプトル?バンビラプトル?」
「博士ジュラニーしすぎて頭に穢れでも回りました?」

無題 Name としあき 19/09/01(日)23:57:47 No.12045065 del そうだねx6
 世界が狂っているのか、私が狂っているのか。どちらにせよ私は無知の海に放り出されたらしい。私の腕の中で寝ているこのラプトルという生物はこの世界では普遍的な存在らしく、私以外このクリーチャーに目を見張るものはいなかった。
 私はこの世界について誰よりも無知でありながら、博士という肩書を持ってしまった。数分後には無知を晒して周囲は絶望するであろう。しかし不安は一切感じなかった。
 知らないものは仕方がない。これから新しいことを知っていけばいいのだ。昔の私もそうやって博士になったに違いない。私はラプトルをそっと抱きしめ、混沌を受け入れた。
「あ、そうそう博士。昨晩トプスが興奮して性欲崩壊の末、檻を破壊し脱走したから気をつけてくださいね」
「…トプス?」
数分後には絶望するであろう、さらなる混沌が地響きを立ててやってきた。

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