概要は
玉兎を参照。
さて、玉兎というサーヴァントは、世界中の物語に共通する「月の兎」という概念の集合体である。
ゆえに、月の兎であれば後からいくらでも付け足せるほどに、フレキシブルな性質を有している。
ハービンジャーのクラスで召喚されるにあたり、新たな玉兎の要素を付加した。
否。新たに玉兎の要素を付加したからこそ、ハービンジャーのクラスとなった。
基本となる「月の兎」の逸話は、中国とアメリカ先住民の伝説である。
嫦娥奔月の逸話にもある通り、嫦娥は地上から月に昇ったが、
この時兎を抱えており、その兎が月で玉兎になった──という説。
また、アメリカ先住民に伝わる話では、あるところに月に昇りたい兎がいたが、兎を運べるのは鶴だけだった。
故に兎は鶴の足に掴まって月まで運んでもらったが、兎が重かったので鶴の足は長くなってしまった。
しかも、月に到着した時に兎が鶴の頭を血の付いた足で触ったため、鶴の頭は赤くなってしまったという。
この二つの伝説をメインに、新たな要素を付加している。
玉兎を運ぶ嫦娥という共通点から付随する英霊は、すなわち嫦娥計画。
玉兎2号を搭載し、月まで運んだ嫦娥4号をメインに、玉兎号を運んだ嫦娥3号、そして嫦娥1号と2号。
加えて未だ見ぬ嫦娥5号、更には嫦娥4号のミッションに密接にかかわった中継衛星、鵲橋など。
「玉兎」を起点に、名前という繋がりから「玉兎号」を手繰り寄せ、「嫦娥計画」そのものを取り込んだ。
嫦娥計画は2003年に開始され、2020年現在も継続中の計画──すなわち存命の英雄である。
ゆえに伝説ではなく、嫦娥計画単体でサーヴァントとして召喚するのは非常に難しい。
グランドオーダー案件ならば行けなくもないかもしれないが、
2019年が焼却されていた世界において、その真価を発揮できるかは未知数である。
故に、この玉兎が幻霊として──あるいは自身の「月の兎」の一側面として取り込むことで召喚したのである。
言ってしまえば一種の疑似サーヴァント化。
さて、前述のとおり、このサーヴァントの「嫦娥計画」のメイン要素は「嫦娥4号」である。
1959年、ソ連の宇宙探査機ルナ2号が世界で初めて月の表面に到達した。
同年、同じくルナ3号が世界で初めて月の裏側を撮影した。
1966年、ルナ9号が世界で初めて月面に軟着陸した。
同年、ルナ10号が世界で初めて月の周囲を回る人工衛星となった。
1968年、アメリカの
アポロ8号が世界で初めて人を乗せて月の周回軌道に入り、
その乗組員たちは世界で初めて自らの肉眼で月の裏側を見た。
1969年、世界で初めて
アポロ11号が人を月面まで運び、
ニール・アームストロングが世界で初めて月面に足を踏み入れた。
2008年、
かぐや〔SELENE〕が世界で初めて月の裏側の重力分布を計測した。
1959年より始まった、人類の月への挑戦。
ここに書かなかった世界初以外でも、様々な国の、様々な宇宙機が月へ辿り着いている。
月の表面に着陸した宇宙機があった。月の周囲を回った宇宙機があった。月の裏側を映した宇宙機があった。月面に降り立った人がいた。
しかしそれでも、地球と月の航路が確立され、
アポロから深淵の航海者スキルが失われて尚、届かない領域があった。
それは月の裏側。今まで撮影することはできていた。目視することにも成功していた──しかし。
着陸することだけが、出来ていなかった。そこは既知にして未到の領域。
落ちるだけならば可能だろうが、地球の科学者と連携し、
月の裏側を調査するために降り立つには、大きく分厚い壁が立ちはだかっていた。
それは月そのもの。決して地球に背を見せぬ、天体という名の巨大な障壁。
月そのものが電波を遮断してしまうため、
アポロすらも為せなかった偉業。
しかし、現代。ここに最新の開拓は為された。
中継衛星「鵲橋」。2018年、地球と月のラグランジュ2ポイントを周回する世界初の通信衛星となり、
地球と月の裏側との通信──連携を可能とした。
そして2019年。嫦娥4号が今まで誰も辿り着けなかった領域へと降り立った。
最も近き星の、最も遠かった領域。月の裏側への軟着陸。中国が為した、人類初の偉業である。
更に、嫦娥4号はもう一つ、世界初の偉業を成し遂げている。
嫦娥4号は植物の種子、ミバエ、イースト菌を月面に持ち込んだ。(ミバエは割と宇宙に運ばれがちである)
その植物の種子を、なんと月面で発芽させることに成功したのである。
今までも、宇宙ステーション──地球の周回軌道上、地磁気に守られた領域での発芽、栽培には成功していたが、
しかし月──他天体。空気も雲もない、太陽の力を遮るもののない場所での発芽に成功したのは、世界で初のことである。
結局、月の夜の氷点下の極寒に耐え切れず、芽は枯れてしまったが──これが人類の未来を作る偉業であることに変わりはない。
映画オデッセイにおいて、主人公は火星でのジャガイモの栽培に成功しているが──それが現実となる日も近いかもしれない。
プランターやフォーリナーにも適性がある。