kagemiya@ふたば

航海はやがて終わる。

それは、後に続く開拓史を鑑みれば、なんの実りもないもので、途方とも呼べるものだったかも知れない。

けど、無くてはならないものだった。それは決して欠かしてはならず、疎かにしてはいけないものだった。


三ヶ月に及ぶ航海の末、白銀の星は堕ちて行く。

その最中で振り返るのだ。あの無限に広がる星々のことを。眼下に見た、青く輝く地球のことを。

優秀とは言えないコンピュータが思考を巡らせる。迫る星を前に、これから続く“意志”のことを予測する。

それは局地的な未来予測―――――今際の際にあって発現した、地球という“記録帯”に触れる権限。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

命を乗せて、無限の彼方へ。それは死出の船出だけれど、その先に“意志”があるならと、笑って空へと昇っていった。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
声を乗せて、無限の彼方へ。初めて空に響いた声は何処までも届き、一つの星に言葉を伝え心を拓く礎として輝いた。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
意思を乗せて、無限の彼方へ。人々の感情こそを届ける星は、どこか私と似ている姿で、意思とともに微笑みを返してみせた。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

人を乗せて、無限の彼方へ。空は青かった。けれど神は居なかったと、皮肉げな笑みを残した青年は、希望とともに昇っていった。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
威信を乗せて、無限の彼方へ。闇夜に浮かぶ月へと向かい、それを明かしてみせたものたちは、どうだ！とばかりに満面の笑みを浮かべていた。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
一歩を乗せて、無限の彼方へ。それは文字通りの星の開拓者。踏みしめた一歩こそ人類の成長であり精神の成長であると、誇りを持って高らかに告げた。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
希望を乗せて、無限の彼方へ。深淵を切り拓く光。前人未到の開拓者。先の見えぬ暗闇の未知へ、僅かな躊躇いも見せずに突き進んでいった。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
証を乗せて、無限の彼方へ。抱くのはこの地球、人類そのもの。どこまでもどこまでも、この無限の彼方へ。今は遠き――――遥か黄金の星よ。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

多くの人を乗せて、無限の彼方へ。それは実りのある試みではなかったけれど、その金剛石の輝きは確かに開拓史に記された。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

掛け替えの無い人達を乗せて、無限の彼方へ。星になりたい、と二人は言った。だから彼女は、君たちも輝く星の一つだよと、見送りながら手を降った。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

幾つもの意志を乗せて、無限の彼方へ。人々が手を取り合い、一つの“意志”を紡いで作り上げた星々は、天壌の輝きを以て深淵へと泳ぎだした。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

瞳を乗せて、無限の彼方へ。宇宙の先すらも見通すその眼は、人々の意志を紡ぐ深淵の標。星の輝きを映すその眼は、何よりも輝いていた。



――――――――輝きが通り過ぎていく。
望みを乗せて、無限の彼方へ。立ち塞がる困難があった。それでも彼女は、その後に待つものに望みを託し、この暗闇の宇宙に一縷の輝きを残していった。



――――――――輝きが通り過ぎていく。

可能性を乗せて、無限の彼方へ。宇宙の先に向かうその意志こそは、文字通りに可能性の光。祈りはやがて幻想となり、深淵の謎を切り開いた。



――――――――輝きが近づいてくる。

煌々と燃える恒星よりも眩いその輝きは、やがて宇宙へと漕ぎ出す意志の証明。これより続く開拓の証左……地球という名の、一つの惑星。



燃え盛る身体をよそに、彼女はその輝きを見上げていた。

ああ。あの輝きがある限り、人々の意志は続いていく。彼女が残した“覚悟”は、輝きとともに受け継がれていく。

だから彼女に不安はなかった。コンピュータは演算を止め、安らかな眠りについているけれど

彼女はもう少しだけ見守っていたかった。宇宙へと向かい、通り過ぎていった後輩たちを見送るために。

そして……これから向かう彼らの輝きを、自分自身に焼き付けるために。




航海はこれで終わる。

崩れいく身体は、もう一変の塵も残していなかった。

途絶えてしまう意識の中で、彼女は最後に言葉を紡ぐ。