最終更新:ID:TLsztuV72Q 2013年03月13日(水) 17:08:41履歴
(やれやれ、こんな老いぼれが代表者とは、わが一族も気の毒なもんじゃわい)
オーストラリア大陸の中心に位置するエアーズ・ロックを背に、この地の王がゆっくりとその巨体を歩ませていた。
あの女はミニチュアの地球などというよくわからないことを言っていたが、周囲の光景は彼にとっては住み慣れた土地と瓜二つであり、この幸運にほっと一息をついた。
彼、メガラニアの姿は七メートルもの体長がある巨大なトカゲである。このオーストラリア大陸で最大の肉食動物だった。
もっとも、彼がこの地の「王」であったのはもう随分と昔のことである。
(この老いぼれが幼い頃には、我が物顔でのし歩いていたものじゃがのう。いつからかのう、彼らがやってきたのは)
無敵の捕食者であった彼の一族は、獲物にくいっぱぐれることなどなく安泰に過ごしていた。
風向きが変わってきたのは、ある時今まで見たことも無い奇妙な生きものたちが彼らの目の前に現れてからである。
「ヒト」という、まっすぐに立ってあるく奇怪な動物と、「ディンゴ」という彼らにつき従う不思議な獣。
最初は大して力も無さそうな動物だろうと思っていたのだが、彼らの狩りの成功率は、この地の他の捕食者と比べると驚異的なものだった。
次第にメガラニアたちは獲物にありつけなくなり、一頭また一頭と餓死していった。
生き残ったものたちは、死骸や他の肉食獣の食べ残しで糊口を凌ぐしかなかった。
かつての王者の姿はもうそこには無かったのだ。
(だというのに、今更殺し合いなどをせよ、などと言われても、のう)
今更玉座への未練などないし、無益な殺生もしたくない。
ならば、ここで今までと変わらぬ暮らしを営むというのもいいかもしれないが、他の者たちはそうは思わないだろう。
(全く、面倒なことになってしまったわい)
やがて大河が目の前に現れた。とりあえず水浴びでもしようかと思いながら近付いていくと、川岸の大木の下に見慣れぬ生きものがいるのに気付いた。
一見エミューによく似ているが、奇妙なトサカと長いツメがあるのでそうではないとわかる。
この者も、無理矢理連れてこられて殺し合いを強いられているのだろう。
「そこなお方、何をお考えかな?」
振向いた動物は、メガラニアの巨体に驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「俺はシティパティって言います。向こう岸に渡ろうかどうか迷ってまして……」
「これは異なことを。先ほどの話を信じるなら、水の中でも息はできるとのことですぞ」
「いやあ俺、昔溺れて死にかけたことがあって以来、水の中がどうも苦手で……いくら息が出来るって言われてもねえ」
「ふむ……ならばこの老いぼれが力を貸しましょうや。ささ、この背中にどうぞ」
「いいんですか?」
「なあに、この老いぼれ、生まれてこの方溺れたことなどありませぬ。どうぞ遠慮せずに」
シティパティは申し訳なさそうに頭を下げる。
「じゃあ、ホントにすいませんけどお願いします」
そう言って、自分の三倍近い大きさのあるメガラニアの背に跨った。
「さて、それでは行きますかの」
しかし、メガラニアは進むことはできなかった。
前足を動かそうとするよりも早く、シティパティの鋭い鍵爪がメガラニアの喉元を切り裂いたからである。
シティパティはメガラニアの背から素早く飛び降り、しばし遠くで様子を伺った。
そして、確実に事切れたことを確信した。
「ははっ……バカなやつ」
しかし一匹殺したくらいで気を緩めるわけにはいかない。ここには他にも大勢の動物たちがいるのだ。
最初に全員が集められたあの場で、彼は長年共同営巣のペアを組んでいるヴェロキラプトルの姿を確認した。
自分が何年にも渡って子孫を残し続けられたのは、彼の存在があってのことだった。
なので、殺し合いのルールを聞いたとき、これは彼に恩を返すチャンスだと思ったのだ。
(あいつを生きて帰らせるために、他の奴は全員殺す。その後、俺も死ぬ。それでいい)
そしてシティパティは歩き出す。
その背後で王者は無言で、自らが支配した地に体を預け、静かに横たわっていた。
【一日目・黎明】
【オーストラリア・中央砂漠】
【メガラニア 死亡確認】
【備考】オス・老人 オーストラリア出身
【シティパティ】
【状態】健康
【思考】ヴェロキラプトル以外は皆殺し
【備考】オス・若者 中央アジア出身 ヴェロキラプトルとは共同営巣のパートナー
オーストラリア大陸の中心に位置するエアーズ・ロックを背に、この地の王がゆっくりとその巨体を歩ませていた。
あの女はミニチュアの地球などというよくわからないことを言っていたが、周囲の光景は彼にとっては住み慣れた土地と瓜二つであり、この幸運にほっと一息をついた。
彼、メガラニアの姿は七メートルもの体長がある巨大なトカゲである。このオーストラリア大陸で最大の肉食動物だった。
もっとも、彼がこの地の「王」であったのはもう随分と昔のことである。
(この老いぼれが幼い頃には、我が物顔でのし歩いていたものじゃがのう。いつからかのう、彼らがやってきたのは)
無敵の捕食者であった彼の一族は、獲物にくいっぱぐれることなどなく安泰に過ごしていた。
風向きが変わってきたのは、ある時今まで見たことも無い奇妙な生きものたちが彼らの目の前に現れてからである。
「ヒト」という、まっすぐに立ってあるく奇怪な動物と、「ディンゴ」という彼らにつき従う不思議な獣。
最初は大して力も無さそうな動物だろうと思っていたのだが、彼らの狩りの成功率は、この地の他の捕食者と比べると驚異的なものだった。
次第にメガラニアたちは獲物にありつけなくなり、一頭また一頭と餓死していった。
生き残ったものたちは、死骸や他の肉食獣の食べ残しで糊口を凌ぐしかなかった。
かつての王者の姿はもうそこには無かったのだ。
(だというのに、今更殺し合いなどをせよ、などと言われても、のう)
今更玉座への未練などないし、無益な殺生もしたくない。
ならば、ここで今までと変わらぬ暮らしを営むというのもいいかもしれないが、他の者たちはそうは思わないだろう。
(全く、面倒なことになってしまったわい)
やがて大河が目の前に現れた。とりあえず水浴びでもしようかと思いながら近付いていくと、川岸の大木の下に見慣れぬ生きものがいるのに気付いた。
一見エミューによく似ているが、奇妙なトサカと長いツメがあるのでそうではないとわかる。
この者も、無理矢理連れてこられて殺し合いを強いられているのだろう。
「そこなお方、何をお考えかな?」
振向いた動物は、メガラニアの巨体に驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「俺はシティパティって言います。向こう岸に渡ろうかどうか迷ってまして……」
「これは異なことを。先ほどの話を信じるなら、水の中でも息はできるとのことですぞ」
「いやあ俺、昔溺れて死にかけたことがあって以来、水の中がどうも苦手で……いくら息が出来るって言われてもねえ」
「ふむ……ならばこの老いぼれが力を貸しましょうや。ささ、この背中にどうぞ」
「いいんですか?」
「なあに、この老いぼれ、生まれてこの方溺れたことなどありませぬ。どうぞ遠慮せずに」
シティパティは申し訳なさそうに頭を下げる。
「じゃあ、ホントにすいませんけどお願いします」
そう言って、自分の三倍近い大きさのあるメガラニアの背に跨った。
「さて、それでは行きますかの」
しかし、メガラニアは進むことはできなかった。
前足を動かそうとするよりも早く、シティパティの鋭い鍵爪がメガラニアの喉元を切り裂いたからである。
シティパティはメガラニアの背から素早く飛び降り、しばし遠くで様子を伺った。
そして、確実に事切れたことを確信した。
「ははっ……バカなやつ」
しかし一匹殺したくらいで気を緩めるわけにはいかない。ここには他にも大勢の動物たちがいるのだ。
最初に全員が集められたあの場で、彼は長年共同営巣のペアを組んでいるヴェロキラプトルの姿を確認した。
自分が何年にも渡って子孫を残し続けられたのは、彼の存在があってのことだった。
なので、殺し合いのルールを聞いたとき、これは彼に恩を返すチャンスだと思ったのだ。
(あいつを生きて帰らせるために、他の奴は全員殺す。その後、俺も死ぬ。それでいい)
そしてシティパティは歩き出す。
その背後で王者は無言で、自らが支配した地に体を預け、静かに横たわっていた。
【一日目・黎明】
【オーストラリア・中央砂漠】
【メガラニア 死亡確認】
【備考】オス・老人 オーストラリア出身
【シティパティ】
【状態】健康
【思考】ヴェロキラプトル以外は皆殺し
【備考】オス・若者 中央アジア出身 ヴェロキラプトルとは共同営巣のパートナー
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