最終更新:ID:Ch3zNeYjyQ 2013年01月31日(木) 20:47:02履歴
まるで断線のように世界は途切れ、赤い世界への接続は開始された。
おそらくは一生触れ合うことの無かった、何気ない、細い繋がりは、赤い投影を通じて、数奇な運命を導き示した。
探索者達が覗いたのは、あるいは自身の心の裏側だったのか。
幸か不幸か非日常が与えた「もう一つの可能性」の存在。
この一件を収めるには、奇妙という言葉以外にならないだろう。
しかし、どうだろうか?この奇妙な一件は、おそらくは何故か、未来を行く彼らに転機を齎すことだろう。
彼らのこれからの記憶の片隅にずっと鎮座しつづけるであろう今回の経験は、今日も不思議で不気味な紅玉色を厳かに放っている。
セッションページ: http://w.livedoor.jp/trpgyarouzu/d/%5bSCENario%5d%...
おそらくは一生触れ合うことの無かった、何気ない、細い繋がりは、赤い投影を通じて、数奇な運命を導き示した。
探索者達が覗いたのは、あるいは自身の心の裏側だったのか。
幸か不幸か非日常が与えた「もう一つの可能性」の存在。
この一件を収めるには、奇妙という言葉以外にならないだろう。
しかし、どうだろうか?この奇妙な一件は、おそらくは何故か、未来を行く彼らに転機を齎すことだろう。
彼らのこれからの記憶の片隅にずっと鎮座しつづけるであろう今回の経験は、今日も不思議で不気味な紅玉色を厳かに放っている。
セッションページ: http://w.livedoor.jp/trpgyarouzu/d/%5bSCENario%5d%...
〜とある事務所〜
「十堂さん、何ぼーっとしてんすか?」
「ん?ああごめんごめん、ちょっと考え事をね」
「大丈夫スか?こないだからずっとその調子スよ?」
「大丈夫大丈夫、心配しなくても^^」
「まあそれならいいんスけど・・・」
「・・・なあ○○○、君は確か組長に拾われて組に入ったんだよね」
「はい?なんスか急に?」
「まあ・・・そうっすね、一年くらい前ですかね」
「会社の不正を告発しようとしたら、逆に全部俺に押しつけられて」
「仕事も何もかも失って、人生に絶望して・・・」
「そんな時にあの人に会ったんすよ」
「やばかったですね、俺はぁあんな漢見たことないですよ!」
「すぐ思いましたよ、俺はこの人に一生ついて行こうってね!」
「あの時あの人に会ってなかったら今ごろのたれ死んでましたかね」
「そっか・・・」
「・・・もしかして考え事って十堂さんが拾われた時の事ですか?」
「どうして分かったんだい?」
「いや、これだけ露骨に聞かれたらそりゃなんとなく感づきますよ」
「まあね・・・うん」
「でもどうして今頃そんな事を?」
「・・・実はこないだ夢を見てね」
「夢スか?」
「うん、そこには僕がいたんだ、血まみれでナイフを持った・・・」
「そいつが言うんだよ、『どうしてお前は幸せなんだって』てね」
「それで、あれはあの時拾われ無かった僕じゃないのかってね」
「・・・それが今まで気にかかってた分けですね」
「うん・・・」
「全く・・・何かと思えば、そんなのただの夢じゃないスか」
「まあそうなんだけどさ・・・気にかかってね」
「うーん、じゃあこういうのはどうですか」
「?」
「そいつの分まで幸せになってやればいいんですよ!」
「・・・ずいぶん安直だね^^;」
「だってそれ以外方法無いじゃないスか」
「それに、あんま気にすることでもないっスよ」
「そりゃ、もし会社を首にされなかった俺がドヤ顔で歩いてたら腹もたちますよ」
「なんで俺はこんなツイてないのにお前はツイてんだってね」
「でも今までの人生って、結局全部自分で選択して、責任持って生きてんだから」
「たとえどんな結果だって、自分が選択したんだから責任持たなきゃダメでしょう」
「それに俺は会社クビになったからこそ今ここに居れるわけですから、逆にツイてたかもしれませんね」
「だから今度また夢でソイツが出てきたらこう言えばいいんですよ」
「『自分の人生勝手にあきらめてんじゃねぇ』って」
「・・・って、なんかクサイこと言っちまいましたね」
「・・・いや、ありがとう、なんかスッキリしたよ」
「へへ、どういたしまして」
「・・・アイツにも、そんなことを言ってくれるやつがいればな」ボソッ
「え?何か言いました?」
「いや、何でも無いよ^^」
「はぁ・・・」
「よし、じゃあ気分も良いし飲みに行こうか、ちょうど美人な男性から貰ったお金もあるし^^」
「えっ、それ仕事の金じゃないスか。いいんスか勝手に使って(美人な男性?)」
「ちょっとくらい大丈夫大丈夫^^ヘーキヘーキ^^」
「全く・・・仕方ねぇ人だ」
「ところで十堂さん、事務所の裏の墓、ありゃなんですか?なんかナイフが置いてましたけど」
「ん、知り合いのね。ナイフは遺品」
「へぇ、名前はなんて言うんスか?」
「・・・ジャック」
「ジャック?外人スか?」
「さあ、どうだろうね」
「?」
バンッ
「おい十堂さん大変だ!」
「なんだい、騒々しい」
「ウチの若いモンが別の組のやつらと揉めてるらしい!」
「え、まじスか!?」
「はぁ、これだから血の気の多い子らは・・・」
「とにかく直ぐに来てくれ、準備も忘れずにな」
「了解したよ・・・飲み会はお預けだね」
「急ぎましょう十堂さん、抗争になりますかね?」
「そうはなりたくないけど、準備はしといた方がいいかもね」
「了解ッス!・・・て十堂さん何スかそのひょっとこ?いつもの面は?」
「たまには良いでしょこういうのも^^」
「はぁ・・・緊張感ねぇなぁ・・・」
「よし、準備は出来たかい?」
「あい、いつでも!」
「OK、じゃあ行こうか」
END
「十堂さん、何ぼーっとしてんすか?」
「ん?ああごめんごめん、ちょっと考え事をね」
「大丈夫スか?こないだからずっとその調子スよ?」
「大丈夫大丈夫、心配しなくても^^」
「まあそれならいいんスけど・・・」
「・・・なあ○○○、君は確か組長に拾われて組に入ったんだよね」
「はい?なんスか急に?」
「まあ・・・そうっすね、一年くらい前ですかね」
「会社の不正を告発しようとしたら、逆に全部俺に押しつけられて」
「仕事も何もかも失って、人生に絶望して・・・」
「そんな時にあの人に会ったんすよ」
「やばかったですね、俺はぁあんな漢見たことないですよ!」
「すぐ思いましたよ、俺はこの人に一生ついて行こうってね!」
「あの時あの人に会ってなかったら今ごろのたれ死んでましたかね」
「そっか・・・」
「・・・もしかして考え事って十堂さんが拾われた時の事ですか?」
「どうして分かったんだい?」
「いや、これだけ露骨に聞かれたらそりゃなんとなく感づきますよ」
「まあね・・・うん」
「でもどうして今頃そんな事を?」
「・・・実はこないだ夢を見てね」
「夢スか?」
「うん、そこには僕がいたんだ、血まみれでナイフを持った・・・」
「そいつが言うんだよ、『どうしてお前は幸せなんだって』てね」
「それで、あれはあの時拾われ無かった僕じゃないのかってね」
「・・・それが今まで気にかかってた分けですね」
「うん・・・」
「全く・・・何かと思えば、そんなのただの夢じゃないスか」
「まあそうなんだけどさ・・・気にかかってね」
「うーん、じゃあこういうのはどうですか」
「?」
「そいつの分まで幸せになってやればいいんですよ!」
「・・・ずいぶん安直だね^^;」
「だってそれ以外方法無いじゃないスか」
「それに、あんま気にすることでもないっスよ」
「そりゃ、もし会社を首にされなかった俺がドヤ顔で歩いてたら腹もたちますよ」
「なんで俺はこんなツイてないのにお前はツイてんだってね」
「でも今までの人生って、結局全部自分で選択して、責任持って生きてんだから」
「たとえどんな結果だって、自分が選択したんだから責任持たなきゃダメでしょう」
「それに俺は会社クビになったからこそ今ここに居れるわけですから、逆にツイてたかもしれませんね」
「だから今度また夢でソイツが出てきたらこう言えばいいんですよ」
「『自分の人生勝手にあきらめてんじゃねぇ』って」
「・・・って、なんかクサイこと言っちまいましたね」
「・・・いや、ありがとう、なんかスッキリしたよ」
「へへ、どういたしまして」
「・・・アイツにも、そんなことを言ってくれるやつがいればな」ボソッ
「え?何か言いました?」
「いや、何でも無いよ^^」
「はぁ・・・」
「よし、じゃあ気分も良いし飲みに行こうか、ちょうど美人な男性から貰ったお金もあるし^^」
「えっ、それ仕事の金じゃないスか。いいんスか勝手に使って(美人な男性?)」
「ちょっとくらい大丈夫大丈夫^^ヘーキヘーキ^^」
「全く・・・仕方ねぇ人だ」
「ところで十堂さん、事務所の裏の墓、ありゃなんですか?なんかナイフが置いてましたけど」
「ん、知り合いのね。ナイフは遺品」
「へぇ、名前はなんて言うんスか?」
「・・・ジャック」
「ジャック?外人スか?」
「さあ、どうだろうね」
「?」
バンッ
「おい十堂さん大変だ!」
「なんだい、騒々しい」
「ウチの若いモンが別の組のやつらと揉めてるらしい!」
「え、まじスか!?」
「はぁ、これだから血の気の多い子らは・・・」
「とにかく直ぐに来てくれ、準備も忘れずにな」
「了解したよ・・・飲み会はお預けだね」
「急ぎましょう十堂さん、抗争になりますかね?」
「そうはなりたくないけど、準備はしといた方がいいかもね」
「了解ッス!・・・て十堂さん何スかそのひょっとこ?いつもの面は?」
「たまには良いでしょこういうのも^^」
「はぁ・・・緊張感ねぇなぁ・・・」
「よし、準備は出来たかい?」
「あい、いつでも!」
「OK、じゃあ行こうか」
END
警察本部のとある一室で
「おい、山崎ちょっとこっちこい」
この部屋の責任者風の男が、地味な男を部屋の片隅に呼びつけている。
「課長、何ですか?」
「お前、曲垣を怒らせるようなことしただろう?」
「おっ俺じゃないですよ・・・ 最近あんな風にしかめっ面してること多いんですよねぇ 曲垣先輩」
「しかしだな、ほれ見ろ。曲垣はお前の方睨み付けてるじゃないか」
「イヤっ そんなはずは・・・ ヤベ、ホントだ」
細い目を更に細くして、眉間に皺を寄せている男がこっちを睨んでいた。
「おい。山崎・・・ ちょっとこっちに」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
蒼さんをデートに誘いたいがどこがいいかな。
彼女は騒がしいところは苦手そうだしな・・・
いや、その前に何かプレゼント渡した方が良いのかな・・・
彼女の好きな物は・・・ アロマか?
いやいや、それは向こうはプロだからそんなもの渡してもな
やっぱり、花か? いやしかし花言葉とか難しそうだしな・・・
甘い物でケーキとか・・・
その前に、やはり気持ちを伝えるべきか・・・
最近頭の中を占領してしまっている女性のことばかり考えてしまう。
まさか自分が人を好きになるとは・・・
以前の自分では考えられなかったこと。
そんな自分が嫌でもあり、好ましくも思う。
自分を偽って生きてきたが、あの世界ではほんの少し素直になれた。
そしてその世界で生まれたこの気持ちは、自分にとってかけがえのないはずのもの。
だからこそ失いたくなくて、もがき苦しんでしまう。
いっそいつもの女装をすれば、女性の考え方が自然に・・・
いやいや、それでは自分の本心ではなくなってしまう・・・
どうしたらいいんだ、まったく。
いっそ誰かに相談してみようか
「おい。山崎・・・ ちょっとこっちに」
「・・・ すいません!! 曲垣先輩」
突然謝る後輩に、面食らいながらも
「? 何を謝っているんだ、お前は」
「いや、てっきりあのことで怒られるのかと・・・」
「ほう、あのことね・・・」
またこいつは何かをしでかしたようだ。
まあ、それはおいおい追求するとして
「まあ、それは取りあえず置いておいて・・・」
「お前だったら、何が欲しい?」
「・・・え? 何かくれるんですか?先輩」
「いや、例えばだ」
「俺だったら・・・ バドミントンのラケットとか、アンパン?とか」
「・・・ もういい」
どうやら、聞いた相手が悪かったようだ・・・
後輩は首をひねりながら去っていった。
しかしいつまでも悩んでいるわけにはいかない。
どうせ後悔するなら、言って後悔する方が良い
こうなったら、行動有るのみだ。
「ちょっと出てきます」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「女性に、花を贈りたいんだが・・・」
とりえあず途中で花屋を見つけ、
店員に尋ねていくつか可愛らしい花を持ってきてくれたが、さっぱり分からない・・・
「じゃあ・・・ それ全部下さい」
前が見えないくらいの花束になってしまったが、まあ仕方ない。
おいしいと評判のケーキ屋に並んで、お勧めのケーキも買った。
並んでる間にかなり注目されたが、これもどうということはない。
これからのことに比べれば・・・
通い慣れたいつもの道を、いつもとは違う気持ちで歩いて行く。
伝えるべき言葉は、簡単だが難しい。
きっと上手く言葉に出来ないだろうことは、自分でも容易に想像が付く。
どうしようもなく、見苦しく無様な生の自分。
ふとあいつの顔が脳裏に浮かんだ
あの世界で会った、どうしようもなくへたれで、それでいてどこか幸せそうな奴
憎たらしくも、羨ましいあの男
「うらやましい・・・か」
あいつの顔を浮かべると、どうも苦笑いしかでてこない。
「す〜、はぁ〜」
一つ大きな深呼吸をして、彼女の店へ入っていった。
新しい自分に一歩近づくために
「おい、山崎ちょっとこっちこい」
この部屋の責任者風の男が、地味な男を部屋の片隅に呼びつけている。
「課長、何ですか?」
「お前、曲垣を怒らせるようなことしただろう?」
「おっ俺じゃないですよ・・・ 最近あんな風にしかめっ面してること多いんですよねぇ 曲垣先輩」
「しかしだな、ほれ見ろ。曲垣はお前の方睨み付けてるじゃないか」
「イヤっ そんなはずは・・・ ヤベ、ホントだ」
細い目を更に細くして、眉間に皺を寄せている男がこっちを睨んでいた。
「おい。山崎・・・ ちょっとこっちに」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
蒼さんをデートに誘いたいがどこがいいかな。
彼女は騒がしいところは苦手そうだしな・・・
いや、その前に何かプレゼント渡した方が良いのかな・・・
彼女の好きな物は・・・ アロマか?
いやいや、それは向こうはプロだからそんなもの渡してもな
やっぱり、花か? いやしかし花言葉とか難しそうだしな・・・
甘い物でケーキとか・・・
その前に、やはり気持ちを伝えるべきか・・・
最近頭の中を占領してしまっている女性のことばかり考えてしまう。
まさか自分が人を好きになるとは・・・
以前の自分では考えられなかったこと。
そんな自分が嫌でもあり、好ましくも思う。
自分を偽って生きてきたが、あの世界ではほんの少し素直になれた。
そしてその世界で生まれたこの気持ちは、自分にとってかけがえのないはずのもの。
だからこそ失いたくなくて、もがき苦しんでしまう。
いっそいつもの女装をすれば、女性の考え方が自然に・・・
いやいや、それでは自分の本心ではなくなってしまう・・・
どうしたらいいんだ、まったく。
いっそ誰かに相談してみようか
「おい。山崎・・・ ちょっとこっちに」
「・・・ すいません!! 曲垣先輩」
突然謝る後輩に、面食らいながらも
「? 何を謝っているんだ、お前は」
「いや、てっきりあのことで怒られるのかと・・・」
「ほう、あのことね・・・」
またこいつは何かをしでかしたようだ。
まあ、それはおいおい追求するとして
「まあ、それは取りあえず置いておいて・・・」
「お前だったら、何が欲しい?」
「・・・え? 何かくれるんですか?先輩」
「いや、例えばだ」
「俺だったら・・・ バドミントンのラケットとか、アンパン?とか」
「・・・ もういい」
どうやら、聞いた相手が悪かったようだ・・・
後輩は首をひねりながら去っていった。
しかしいつまでも悩んでいるわけにはいかない。
どうせ後悔するなら、言って後悔する方が良い
こうなったら、行動有るのみだ。
「ちょっと出てきます」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「女性に、花を贈りたいんだが・・・」
とりえあず途中で花屋を見つけ、
店員に尋ねていくつか可愛らしい花を持ってきてくれたが、さっぱり分からない・・・
「じゃあ・・・ それ全部下さい」
前が見えないくらいの花束になってしまったが、まあ仕方ない。
おいしいと評判のケーキ屋に並んで、お勧めのケーキも買った。
並んでる間にかなり注目されたが、これもどうということはない。
これからのことに比べれば・・・
通い慣れたいつもの道を、いつもとは違う気持ちで歩いて行く。
伝えるべき言葉は、簡単だが難しい。
きっと上手く言葉に出来ないだろうことは、自分でも容易に想像が付く。
どうしようもなく、見苦しく無様な生の自分。
ふとあいつの顔が脳裏に浮かんだ
あの世界で会った、どうしようもなくへたれで、それでいてどこか幸せそうな奴
憎たらしくも、羨ましいあの男
「うらやましい・・・か」
あいつの顔を浮かべると、どうも苦笑いしかでてこない。
「す〜、はぁ〜」
一つ大きな深呼吸をして、彼女の店へ入っていった。
新しい自分に一歩近づくために
あれから一ヶ月が過ぎた・・・
あの事件に巻き込まれこちらに帰ってきたほかの人たちはどうしているだろうか・・・
アキラさんとゼウスさんとユカリさんそしてキタロウさんはまあなんとなくではあるが
大丈夫だろうと思える・・・。
アロマさんは、いや蒼さんかな・・・、蒼さんはあの世界で負った傷が重傷だったこともあり
うちの病院で治療と入院のうえ通院をしていた・・・私はその時知ってはいたのだが、心の整理が
ついていなかったこともあり直接顔を合わせることはなかった・・・。少し落ち着いたいまなら
どうにか彼女と笑顔で会える気がする・・・きょうの帰りにでも会いに行ってみようかなと思う。
そして広瀬さんについてだが一週間ほど前に私は病院で彼を見ている・・・私の前を彼が丁度通り
過ぎて行こうとしていたので、声を掛けようとしたのだが彼をよく見て私は結局声を掛けることは
できなかった・・・。直感的なものだろうか、私は彼が彼だと思えなかったのだ・・・。
この事と、あの資料のことを照らし合わせると・・・・おそらくそうなのだろう・・・。
それゆえに私は、彼の願いを自分に出来る精一杯の力でやり遂げようと思う・・・たとえどんなに時間が
かかったとしても・・・。
そしてこれは、改めて見直すことのできた私の望みでもああるのだから・・・。
私は、自分の可能性である彼女の生き様を知って心のどこかで羨ましいと思っている部分があった・・・
彼女は、自分の信念が思うがままその生き方を貫き通し、そのまま私ではまだ手の届かぬところまで行ってしまった。
その生き方は、迷いながら生きる身にはとても眩しく望んでも容易く手に入るものではない・・・
そのことが彼にあう三週間の間ずっと私の心に重くのしかかっていた・・・
だが彼をみて、彼の願いを思い出したとき、自分がするべきことを再び思い出すことができた・・・
先を見過ぎてそばにいる患者さんたちのことを、全く診れていなかったことを思い出した・・・
まず私にできることを、患者さんたちの手助けを、一歩一歩確実にやって行こうと思う
それが彼女に近づき、彼女が至った境地に達する一番の近道だといまなら思える・・・
私の願いは、「誰かのためになることをしたい」というものだったのだから・・・
あの事件に巻き込まれこちらに帰ってきたほかの人たちはどうしているだろうか・・・
アキラさんとゼウスさんとユカリさんそしてキタロウさんはまあなんとなくではあるが
大丈夫だろうと思える・・・。
アロマさんは、いや蒼さんかな・・・、蒼さんはあの世界で負った傷が重傷だったこともあり
うちの病院で治療と入院のうえ通院をしていた・・・私はその時知ってはいたのだが、心の整理が
ついていなかったこともあり直接顔を合わせることはなかった・・・。少し落ち着いたいまなら
どうにか彼女と笑顔で会える気がする・・・きょうの帰りにでも会いに行ってみようかなと思う。
そして広瀬さんについてだが一週間ほど前に私は病院で彼を見ている・・・私の前を彼が丁度通り
過ぎて行こうとしていたので、声を掛けようとしたのだが彼をよく見て私は結局声を掛けることは
できなかった・・・。直感的なものだろうか、私は彼が彼だと思えなかったのだ・・・。
この事と、あの資料のことを照らし合わせると・・・・おそらくそうなのだろう・・・。
それゆえに私は、彼の願いを自分に出来る精一杯の力でやり遂げようと思う・・・たとえどんなに時間が
かかったとしても・・・。
そしてこれは、改めて見直すことのできた私の望みでもああるのだから・・・。
私は、自分の可能性である彼女の生き様を知って心のどこかで羨ましいと思っている部分があった・・・
彼女は、自分の信念が思うがままその生き方を貫き通し、そのまま私ではまだ手の届かぬところまで行ってしまった。
その生き方は、迷いながら生きる身にはとても眩しく望んでも容易く手に入るものではない・・・
そのことが彼にあう三週間の間ずっと私の心に重くのしかかっていた・・・
だが彼をみて、彼の願いを思い出したとき、自分がするべきことを再び思い出すことができた・・・
先を見過ぎてそばにいる患者さんたちのことを、全く診れていなかったことを思い出した・・・
まず私にできることを、患者さんたちの手助けを、一歩一歩確実にやって行こうと思う
それが彼女に近づき、彼女が至った境地に達する一番の近道だといまなら思える・・・
私の願いは、「誰かのためになることをしたい」というものだったのだから・・・
戻ってきた。
赤く染まった肉塊の街から、元の現実に。
夢なんかじゃなかった。手の傷も、体の傷も、そして、怪物に汚染された体もそのままだ。
あの資料からすると、このままじゃ死んで怪物化するらしい。
脳に衝撃を与えることで助かるって話だったけど、その方法も…
前の事件で医者が読んだあの本を使うことも考えた。
だけど、あれはあいつが、浩一が心を壊した原因だ。
だから…俺には使えなかった。
帰ってきた翌日、いつものように学校に向かった。
病院では見せられない銃で撃たれた傷を見てもらうために保健室に行く。
保険医のゴゴティーは以前にも同じような傷を見たことがあるらしく、快く引き受けてくれた。
手際よく治療していく。その途中、首元が泡立つ感覚が俺を襲った。
吐き気。心に入り込んでくる絶望。恐怖、憎悪、嫌悪、負の感情が混ざり合って心を蝕んでいく。
喉の奥から何かがせり上がってくる。急いで口を手で覆うと、黒い液体が手のひらにこびりついていた。
あの時と同じ。ヘドロのような、液体。
治ってないのか、と絶望した。と同時に、ゴゴティーの顔が険しくなっていった。
汚れた手や服を手際よく片付けると、厳しい表情のまま、仕事はどうにかしておく、早く帰れと言われ、無理やり帰らされた。
車の中でゴゴティーは、非常に危ない状態だ、僕がいいというまで学校に来てはダメだ。と言った。
時間はないんだってわかっていた。
それでも、学校に行けなくなるのは苦しかった。そして、自由に外を歩けなくなるのも。
もしかしたらよくなるかもしれない、と抗うつ剤を打ってもらい、布団に沈む。
ゴゴティーは毎日家に来た。抗うつ剤を打ちながら、症状を診てくれる。
ゴゴティーが見た限りだと、数週間でリミットが来るらしい。
そのうち、こんな感情が生まれ始めた。
怪物化なんてごめんだ、どうせ死ぬなら人間であるうちに死にたい。と。
「なあ、ゴゴティー…俺、」
と口を開く。
ゴゴティーは柔らかく微笑んで頷いた。
『俺の誕生日が終わったら、浩一のそばで殺して欲しい』
死ぬなら、最愛の人の傍で。幸せなうちに。
会いに行けない分、毎晩、電話をした。
電話ができないときにはメールをした。
記憶のないあいつからの返事は曖昧なものも多かったけれど、楽しそうに俺が話すと笑ってくれた。
そして、誕生日当日。
外では雪が降っていた。音も立てずに、儚げに。
迎えに来たゴゴティーの車に乗り込み、病院へ向かう。
見慣れた景色が、車窓に映る。
幾度と見た景色。浩一に会いにいくために、一人で歩いた景色。
ふと、その景色が歪む。頬を温かいものが伝う。
「…俺さ」
「何だい?」
「…あいつを幸せにしてやりたかったよ」
「いろんな景色を二人で見たかったし」
「いろんな思い出を作りたかった」
「あいつが苦しかった分、幸せな記憶でいっぱいにしてやろうって」
「……」
「バカみたいだよな、俺」
「…また、あいつを苦しめる」
拭っても拭っても止まらないそれ。
幸せな時間がいつかまた来るって信じて、あいつのそばにいたのに。
俺のせいでまた幸せな時間を壊してしまう。
「……それでも、それが君の選択なんだろう?」
「よく分からない本の事は聞いたけど… それを使えば君は助かったかもしれない」
「でも、あえてその選択をしなかった」
「それは間違いなく君のした選択だ、違うかい?」
咄嗟に返答ができなかった。
「そう、だな…選んだのは俺自身だ」
「…そう」
「だったら、その選択を後悔しちゃいけない」
後悔をしてしまっては、君自身の価値を陥れてしまう」
「そして、望月君がその本を使わなかった理由だと言うなら」
「同時に、望月君を冒涜してしまうことになる」
「…それは」
「それは君の望むところではないだろう?」
「…当たり前だ」
「弱音や泣き言はいくらいっても構わない」
「全て僕が聞き入れよう、ただ、それでも、後悔だけはしちゃいけない」
「…分かってくれるよね?」
「…ああ…悪かった」
「ふふ、でもこんな事を言う君なんて初めて見るかもしれないね」
くすくすと笑う。
「…そうだ、これ…」
そう言って俺は信号で車が止まったのを確認して、ポケットの中から封筒を取り出してゴゴティーに渡す。
「これは、君の最愛の人へ渡せばいいのか、それとも、もう一人の君に渡せばいいのかな?」
「もし、もし会えたら…渡してやってほしい」
「俺の、もうひとつの可能性に」
「…分かったよ、必ず渡しておく」
「この僕の名にかけて、それは約束しよう」
ゴゴティーはそれをカバンにしまうと、再び車を発進させた。
「…いつまでもこんな顔してるわけにはいかねえな」
顔をハンカチで拭き、再び窓の外を見る。
もう、病院はすぐそこにあった。
「あ、来た」
浩一は起き上がって小さく笑った。
ゴゴティーがお茶菓子の準備をしている間に、ベッド横の椅子に腰掛ける。
「約束したんだ、当たり前だろ」
「うん、ありがとう」
柔らかな笑みを浮かべて浩一を見る。
随分と笑顔を作るのが自然になった。本来のものに戻ってきている、そんな気さえするほどに。
「用意できたよ、今日の主役の小さな誕生会、始めようか」
ベッドに備え付けられている簡易テーブルの上には小さなホールケーキとマカロン、飲み物が置かれていた。
「さすがだな、手作りだろ?」
「勿論、君の誕生日なんだから市販の物なんて買うわけないでしょ?」
「この日のために、三週間ぐらい前からかな… 丹念に、下準備して、作ったんだよ」
「そ、そりゃすげえ」
「…無駄にならなくて、良かったよ」
小声でそう言いながらロウソクをケーキに挿す。
流石に病院内で多くのロウソクに火をつけるわけにはいかないからと、大きめのロウソクを中央に一本立てて火をつける。
この歳で吹き消すのは恥ずかしいと思ったが、せっかくの誕生日だし、と一息で吹き消した。
「…26歳だっけ? おめでとう」
「誕生日、おめでとう」
そう言って浩一は綺麗に包装された小さな箱を差し出した。
中には、ボールペンが一本、入っていた。
「なんとなく、いつも持ってる気がしたから」
「…ありがとな」
些細なことで、こんなに幸せな気分になれるんだな、と思った。
もらったボールペンを胸ポケットに差す。
それからは他愛もない話をして過ごした。
中身なんてまるでない、ありふれた話を。
浩一は笑っていたし、俺も笑った。
最後に、ゴゴティーに頼んで、写真を撮ってもらった。
「二人とも笑って笑って、はいチーズ」
かしゃりとシャッターがきられる。
昔の写真とは違い、今度は二人共が満面の笑みを浮かべている写真を。
それが終わると、久しぶりに騒いで疲れたのか、浩一は眠ってしまった。
布団を肩までかけてやり、寝顔を見つめる。
幸せそうな笑顔を浮かべたまま、眠っている浩一は、この世界の何よりも綺麗で。
俺は、そんな浩一の頬にくちづけを落とす。
最初で最後の。愛を伝えるために。
「…満足かな?」
「ああ、もう十分幸せな時間を過ごさせてもらったよ」
思い残すことはない。幸せそうな顔を見ることができた。
十分すぎるくらい十分だった。
「…それじゃあ、これを飲んでおくれ」
俺の決意を表情から感じ取ったのか、ゴゴティーは薬を取り出した。
俺は、それを受け取る。
「後は全て僕がやっておくよ、君の可能性にも会って話をしてみよう」
「だからそうだね…」
「おやすみ、広瀬君、いい夢を見てね」
「…ありがとうな、最後まで」
「構わないよ、君の友人としてここまで頼ってくれた事、誇りに思ってるよ」
これを飲んだら、お別れだ。
「…ありがとな、浩一…幸せだったよ」
そしてゴゴティーの方を見る。笑みを浮かべたままで。
「…あとは、よろしく。こいつと…もうひとりの俺に」
そして、薬を放り込んだ。
体の力が抜ける
景色が遠ざかっていく
寂しくはない
隣には愛する人がいる
さようなら
赤く染まった肉塊の街から、元の現実に。
夢なんかじゃなかった。手の傷も、体の傷も、そして、怪物に汚染された体もそのままだ。
あの資料からすると、このままじゃ死んで怪物化するらしい。
脳に衝撃を与えることで助かるって話だったけど、その方法も…
前の事件で医者が読んだあの本を使うことも考えた。
だけど、あれはあいつが、浩一が心を壊した原因だ。
だから…俺には使えなかった。
帰ってきた翌日、いつものように学校に向かった。
病院では見せられない銃で撃たれた傷を見てもらうために保健室に行く。
保険医のゴゴティーは以前にも同じような傷を見たことがあるらしく、快く引き受けてくれた。
手際よく治療していく。その途中、首元が泡立つ感覚が俺を襲った。
吐き気。心に入り込んでくる絶望。恐怖、憎悪、嫌悪、負の感情が混ざり合って心を蝕んでいく。
喉の奥から何かがせり上がってくる。急いで口を手で覆うと、黒い液体が手のひらにこびりついていた。
あの時と同じ。ヘドロのような、液体。
治ってないのか、と絶望した。と同時に、ゴゴティーの顔が険しくなっていった。
汚れた手や服を手際よく片付けると、厳しい表情のまま、仕事はどうにかしておく、早く帰れと言われ、無理やり帰らされた。
車の中でゴゴティーは、非常に危ない状態だ、僕がいいというまで学校に来てはダメだ。と言った。
時間はないんだってわかっていた。
それでも、学校に行けなくなるのは苦しかった。そして、自由に外を歩けなくなるのも。
もしかしたらよくなるかもしれない、と抗うつ剤を打ってもらい、布団に沈む。
ゴゴティーは毎日家に来た。抗うつ剤を打ちながら、症状を診てくれる。
ゴゴティーが見た限りだと、数週間でリミットが来るらしい。
そのうち、こんな感情が生まれ始めた。
怪物化なんてごめんだ、どうせ死ぬなら人間であるうちに死にたい。と。
「なあ、ゴゴティー…俺、」
と口を開く。
ゴゴティーは柔らかく微笑んで頷いた。
『俺の誕生日が終わったら、浩一のそばで殺して欲しい』
死ぬなら、最愛の人の傍で。幸せなうちに。
会いに行けない分、毎晩、電話をした。
電話ができないときにはメールをした。
記憶のないあいつからの返事は曖昧なものも多かったけれど、楽しそうに俺が話すと笑ってくれた。
そして、誕生日当日。
外では雪が降っていた。音も立てずに、儚げに。
迎えに来たゴゴティーの車に乗り込み、病院へ向かう。
見慣れた景色が、車窓に映る。
幾度と見た景色。浩一に会いにいくために、一人で歩いた景色。
ふと、その景色が歪む。頬を温かいものが伝う。
「…俺さ」
「何だい?」
「…あいつを幸せにしてやりたかったよ」
「いろんな景色を二人で見たかったし」
「いろんな思い出を作りたかった」
「あいつが苦しかった分、幸せな記憶でいっぱいにしてやろうって」
「……」
「バカみたいだよな、俺」
「…また、あいつを苦しめる」
拭っても拭っても止まらないそれ。
幸せな時間がいつかまた来るって信じて、あいつのそばにいたのに。
俺のせいでまた幸せな時間を壊してしまう。
「……それでも、それが君の選択なんだろう?」
「よく分からない本の事は聞いたけど… それを使えば君は助かったかもしれない」
「でも、あえてその選択をしなかった」
「それは間違いなく君のした選択だ、違うかい?」
咄嗟に返答ができなかった。
「そう、だな…選んだのは俺自身だ」
「…そう」
「だったら、その選択を後悔しちゃいけない」
後悔をしてしまっては、君自身の価値を陥れてしまう」
「そして、望月君がその本を使わなかった理由だと言うなら」
「同時に、望月君を冒涜してしまうことになる」
「…それは」
「それは君の望むところではないだろう?」
「…当たり前だ」
「弱音や泣き言はいくらいっても構わない」
「全て僕が聞き入れよう、ただ、それでも、後悔だけはしちゃいけない」
「…分かってくれるよね?」
「…ああ…悪かった」
「ふふ、でもこんな事を言う君なんて初めて見るかもしれないね」
くすくすと笑う。
「…そうだ、これ…」
そう言って俺は信号で車が止まったのを確認して、ポケットの中から封筒を取り出してゴゴティーに渡す。
「これは、君の最愛の人へ渡せばいいのか、それとも、もう一人の君に渡せばいいのかな?」
「もし、もし会えたら…渡してやってほしい」
「俺の、もうひとつの可能性に」
「…分かったよ、必ず渡しておく」
「この僕の名にかけて、それは約束しよう」
ゴゴティーはそれをカバンにしまうと、再び車を発進させた。
「…いつまでもこんな顔してるわけにはいかねえな」
顔をハンカチで拭き、再び窓の外を見る。
もう、病院はすぐそこにあった。
「あ、来た」
浩一は起き上がって小さく笑った。
ゴゴティーがお茶菓子の準備をしている間に、ベッド横の椅子に腰掛ける。
「約束したんだ、当たり前だろ」
「うん、ありがとう」
柔らかな笑みを浮かべて浩一を見る。
随分と笑顔を作るのが自然になった。本来のものに戻ってきている、そんな気さえするほどに。
「用意できたよ、今日の主役の小さな誕生会、始めようか」
ベッドに備え付けられている簡易テーブルの上には小さなホールケーキとマカロン、飲み物が置かれていた。
「さすがだな、手作りだろ?」
「勿論、君の誕生日なんだから市販の物なんて買うわけないでしょ?」
「この日のために、三週間ぐらい前からかな… 丹念に、下準備して、作ったんだよ」
「そ、そりゃすげえ」
「…無駄にならなくて、良かったよ」
小声でそう言いながらロウソクをケーキに挿す。
流石に病院内で多くのロウソクに火をつけるわけにはいかないからと、大きめのロウソクを中央に一本立てて火をつける。
この歳で吹き消すのは恥ずかしいと思ったが、せっかくの誕生日だし、と一息で吹き消した。
「…26歳だっけ? おめでとう」
「誕生日、おめでとう」
そう言って浩一は綺麗に包装された小さな箱を差し出した。
中には、ボールペンが一本、入っていた。
「なんとなく、いつも持ってる気がしたから」
「…ありがとな」
些細なことで、こんなに幸せな気分になれるんだな、と思った。
もらったボールペンを胸ポケットに差す。
それからは他愛もない話をして過ごした。
中身なんてまるでない、ありふれた話を。
浩一は笑っていたし、俺も笑った。
最後に、ゴゴティーに頼んで、写真を撮ってもらった。
「二人とも笑って笑って、はいチーズ」
かしゃりとシャッターがきられる。
昔の写真とは違い、今度は二人共が満面の笑みを浮かべている写真を。
それが終わると、久しぶりに騒いで疲れたのか、浩一は眠ってしまった。
布団を肩までかけてやり、寝顔を見つめる。
幸せそうな笑顔を浮かべたまま、眠っている浩一は、この世界の何よりも綺麗で。
俺は、そんな浩一の頬にくちづけを落とす。
最初で最後の。愛を伝えるために。
「…満足かな?」
「ああ、もう十分幸せな時間を過ごさせてもらったよ」
思い残すことはない。幸せそうな顔を見ることができた。
十分すぎるくらい十分だった。
「…それじゃあ、これを飲んでおくれ」
俺の決意を表情から感じ取ったのか、ゴゴティーは薬を取り出した。
俺は、それを受け取る。
「後は全て僕がやっておくよ、君の可能性にも会って話をしてみよう」
「だからそうだね…」
「おやすみ、広瀬君、いい夢を見てね」
「…ありがとうな、最後まで」
「構わないよ、君の友人としてここまで頼ってくれた事、誇りに思ってるよ」
これを飲んだら、お別れだ。
「…ありがとな、浩一…幸せだったよ」
そしてゴゴティーの方を見る。笑みを浮かべたままで。
「…あとは、よろしく。こいつと…もうひとりの俺に」
そして、薬を放り込んだ。
体の力が抜ける
景色が遠ざかっていく
寂しくはない
隣には愛する人がいる
さようなら
あの赤い世界から戻って数日後。
大怪我を負っていた私は、
一緒に戻っていた曲垣さんに病院に連れて行って貰った。
幸い頭はほんの少しだけヒビが入った程度で、直ぐに治るという。
ただ裂傷は大きく、3針ほど縫った。
撃たれた腹部には弾丸が残っており、摘出する手術を即座に受けた。
銃による怪我である以上、事情聴取などは当然必要ではあったけど
曲垣さんが手を尽くしてくれたお陰で、特に何もなくすぐに解放された。
病院には3日ほど入院した。
・・・その3日間、毎日曲垣さんが来ていたかな。
聴取という事もあるのだろうけど。
他の方達が無事だったのかどうか
戻ってから今まで再会していないので分からない。
少なくとも同じ戻り方をした『コウイチ』さんは戻れているはずだけど・・・。
でもきっと無事に戻れたはず。
それが『私達の世界』か、よく『似た世界』かまでは分からないけど。
そういえば。
最近来ない。
前まで週に何度か来てくれていたのに、
あの日以来お店に来なくなってしまった。
「・・・・・・飽き、ちゃった?」
病院には来てくれたのに。
<顔も綺麗だ 自信を持つことだ>
そんな事言ってくれたのに。
・・・そんな事言われたの、初めてだったのに。
小さな頃から引っ込み思案が災いして苛められ続けていた。
気持ち悪い。
イライラする。
はっきり喋れ。
寄るなウザい。
・・・ずっと一人だった。
一人の方が良かった。
それなのに。
「・・・・もう、・・・来ないのかな」
ほんの数日、来なくなっただけでこの状態。
そういえばもう一人の私だという『ユカリ』さん。
とても強くて真っ直ぐで、本来は同じ存在とは思えないくらい魅力的だった。
彼女くらいの行動力と魅力が私にもあれば・・・?
そんな事を悶々と考えていると、店のドアが開く音が聞こえた。
でも、今は怪我を理由に閉店状態にしている筈。
「・・・・・?」
誰だろう?
家族?
特に来るとは聞いていないし、そもそも滅多に来ない。
なら・・・?
「・・・・?」
確認に行くと、お店に誰かが入っていた。
いや、誰かというより、何か?
『それ』は、下半身は人間のズボンと靴だけど、上半身が凄かった。
花。
「・・・・??・・・・・????」
山盛りの花がそこに居た。
その謎の存在に呆気に取られていた。
少しの間。
お互いに何も言えない妙な沈黙の後。
その花から。
今、私が『1番聞きたかった人の声』がした。
花の横手からひょこっと顔を出して、
妙におどおどとしたいつもと違った話し方で、いつもと同じ声で。
その言葉を。
その意味を理解した時。
飛び込んでいた。
無数の花が咲き乱れたアロマの店で。
3日後にデートをする約束をした。
何を着ていくか、考えなければいけない。
ロクな服がないから・・・どうしようかな。
大怪我を負っていた私は、
一緒に戻っていた曲垣さんに病院に連れて行って貰った。
幸い頭はほんの少しだけヒビが入った程度で、直ぐに治るという。
ただ裂傷は大きく、3針ほど縫った。
撃たれた腹部には弾丸が残っており、摘出する手術を即座に受けた。
銃による怪我である以上、事情聴取などは当然必要ではあったけど
曲垣さんが手を尽くしてくれたお陰で、特に何もなくすぐに解放された。
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・・・その3日間、毎日曲垣さんが来ていたかな。
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他の方達が無事だったのかどうか
戻ってから今まで再会していないので分からない。
少なくとも同じ戻り方をした『コウイチ』さんは戻れているはずだけど・・・。
でもきっと無事に戻れたはず。
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そういえば。
最近来ない。
前まで週に何度か来てくれていたのに、
あの日以来お店に来なくなってしまった。
「・・・・・・飽き、ちゃった?」
病院には来てくれたのに。
<顔も綺麗だ 自信を持つことだ>
そんな事言ってくれたのに。
・・・そんな事言われたの、初めてだったのに。
小さな頃から引っ込み思案が災いして苛められ続けていた。
気持ち悪い。
イライラする。
はっきり喋れ。
寄るなウザい。
・・・ずっと一人だった。
一人の方が良かった。
それなのに。
「・・・・もう、・・・来ないのかな」
ほんの数日、来なくなっただけでこの状態。
そういえばもう一人の私だという『ユカリ』さん。
とても強くて真っ直ぐで、本来は同じ存在とは思えないくらい魅力的だった。
彼女くらいの行動力と魅力が私にもあれば・・・?
そんな事を悶々と考えていると、店のドアが開く音が聞こえた。
でも、今は怪我を理由に閉店状態にしている筈。
「・・・・・?」
誰だろう?
家族?
特に来るとは聞いていないし、そもそも滅多に来ない。
なら・・・?
「・・・・?」
確認に行くと、お店に誰かが入っていた。
いや、誰かというより、何か?
『それ』は、下半身は人間のズボンと靴だけど、上半身が凄かった。
花。
「・・・・??・・・・・????」
山盛りの花がそこに居た。
その謎の存在に呆気に取られていた。
少しの間。
お互いに何も言えない妙な沈黙の後。
その花から。
今、私が『1番聞きたかった人の声』がした。
花の横手からひょこっと顔を出して、
妙におどおどとしたいつもと違った話し方で、いつもと同じ声で。
その言葉を。
その意味を理解した時。
飛び込んでいた。
無数の花が咲き乱れたアロマの店で。
3日後にデートをする約束をした。
何を着ていくか、考えなければいけない。
ロクな服がないから・・・どうしようかな。
お疲れ様でした!
此度はゲストにお呼び頂いて本当にありがとうございます。
こんなにドラマティックな展開のお話に参加できて
とっても楽しかったです!
大したRP(口下手キャラが只の言語障害ちっくになりかけてた気がしないでもない)できず、
もっといっぱい色々できればもっと違ったED迎えられたのかなとちょっと心残りだったりしますが
他のPLKPの方々に色々と助けて頂き無事に帰還出来ました。
時間が不安定で参加できない時間があってご迷惑ばかりおかけして本当に申し訳なかったです。
この子がこんなに愛されるとは思ってなかったのでとても嬉しい限りです。
機会があればまた一緒にプレイング致しましょう!
お疲れ様でしたッ!
此度はゲストにお呼び頂いて本当にありがとうございます。
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とっても楽しかったです!
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他のPLKPの方々に色々と助けて頂き無事に帰還出来ました。
時間が不安定で参加できない時間があってご迷惑ばかりおかけして本当に申し訳なかったです。
この子がこんなに愛されるとは思ってなかったのでとても嬉しい限りです。
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お疲れ様でしたッ!
思うに人間とは残酷な生き物だ。
たとえどんなに大切な人間のことよりも、目先の自己の利を優先してしまうことがままある。
十堂・・・いや、ジャックか。
彼と道を分かったとき、俺の選択と状況こそ、まさに上記のとおりであったといえる。
俺は自身の利を切り捨てることも、ジャックを守ることも出来なかった。
人はこれを聞くとまさに「ヘタレ」だと思うだろう。
だが、俺は知っている。人間なんてのはそうそう夢物語のように出来たものじゃない。
ジャックにはジャックの運命と道があり、無論、俺にも避け得ない事情があったのも事実なのだ。
こういった言葉は幸せ者なんかに分かるはずはないんだ。
・・・そう言い切ってしまい、後悔の欠片も無ければ、少しは俺は格好が付いたのかも知れないな。
俺は弱い。だがその背徳を抱えたまま生きていけるほど、俺の生きる道には余裕がない。
時に葛藤し、時に思い切り、そんな繰り返しで、それでも一生懸命生きてきた。
気づけば、俺の周りには新しい大切な人たちが出来ていた。
もう、過去のようにこの大切な人たちを失いたくは無い。
苦しみ、ようやく手に入れた『居場所』・・・。やっと俺は全てを受け入れて生きることができるんだ。
・・・なのに。
「ジャック、どうしてまた俺の前に現れた?どうして、俺をこのまま行かせてくれなかった?」
腕の中で冷たくなってしまった、ジャック。
彼は俺の新たな生きる道、その犠牲になった。そう、整理していたはずなのに・・・。
感情が、涙が抑え切れなかった。
ああ、俺は確かに「ヘタレ」なんだな。
冷徹な悪魔にも、力強い英雄にもなりきれない、醜い大根役者。
俺はこのまま、ずっと真っ直ぐに生きる事ができないんだろうか。
「・・・・」
ふと、一人の人間が浮かんだ。
名をコウイチと言った。偽名ではあるが。
彼もまた、何か自らの生きる道、大切な人の生きる道、その齟齬に悩んでいた。
「・・・・」
もしも、ジャックとの再会。コウイチとの出会い。ゼウスとの邂逅。これらに意味があるのだとしたら・・・?
手に取る、写真立て。
ずっと捨てられずにいた、幼い頃のジャックとの写真。
前だけを必死に見つめて生きてきた、これまでの道。
もしかすると、その途中、俺は大切なものを落としてきてしまっているのかもしれない。
心に常に空きっぱなしだったポッカリとした穴。
恐ろしさと苦しさを嫌というほど味わわされたこの出会いの中で、仮に何かを見つけることが出来るのだとしたら。
意を決して、失われた俺の過去を覗いて見る。それが運命に課された、俺のなすべきことなのだろうか。
冷たい夜空。
「・・・ジャック」
虚空はただ、酷く澄んでいるだけだ・・・。
たとえどんなに大切な人間のことよりも、目先の自己の利を優先してしまうことがままある。
十堂・・・いや、ジャックか。
彼と道を分かったとき、俺の選択と状況こそ、まさに上記のとおりであったといえる。
俺は自身の利を切り捨てることも、ジャックを守ることも出来なかった。
人はこれを聞くとまさに「ヘタレ」だと思うだろう。
だが、俺は知っている。人間なんてのはそうそう夢物語のように出来たものじゃない。
ジャックにはジャックの運命と道があり、無論、俺にも避け得ない事情があったのも事実なのだ。
こういった言葉は幸せ者なんかに分かるはずはないんだ。
・・・そう言い切ってしまい、後悔の欠片も無ければ、少しは俺は格好が付いたのかも知れないな。
俺は弱い。だがその背徳を抱えたまま生きていけるほど、俺の生きる道には余裕がない。
時に葛藤し、時に思い切り、そんな繰り返しで、それでも一生懸命生きてきた。
気づけば、俺の周りには新しい大切な人たちが出来ていた。
もう、過去のようにこの大切な人たちを失いたくは無い。
苦しみ、ようやく手に入れた『居場所』・・・。やっと俺は全てを受け入れて生きることができるんだ。
・・・なのに。
「ジャック、どうしてまた俺の前に現れた?どうして、俺をこのまま行かせてくれなかった?」
腕の中で冷たくなってしまった、ジャック。
彼は俺の新たな生きる道、その犠牲になった。そう、整理していたはずなのに・・・。
感情が、涙が抑え切れなかった。
ああ、俺は確かに「ヘタレ」なんだな。
冷徹な悪魔にも、力強い英雄にもなりきれない、醜い大根役者。
俺はこのまま、ずっと真っ直ぐに生きる事ができないんだろうか。
「・・・・」
ふと、一人の人間が浮かんだ。
名をコウイチと言った。偽名ではあるが。
彼もまた、何か自らの生きる道、大切な人の生きる道、その齟齬に悩んでいた。
「・・・・」
もしも、ジャックとの再会。コウイチとの出会い。ゼウスとの邂逅。これらに意味があるのだとしたら・・・?
手に取る、写真立て。
ずっと捨てられずにいた、幼い頃のジャックとの写真。
前だけを必死に見つめて生きてきた、これまでの道。
もしかすると、その途中、俺は大切なものを落としてきてしまっているのかもしれない。
心に常に空きっぱなしだったポッカリとした穴。
恐ろしさと苦しさを嫌というほど味わわされたこの出会いの中で、仮に何かを見つけることが出来るのだとしたら。
意を決して、失われた俺の過去を覗いて見る。それが運命に課された、俺のなすべきことなのだろうか。
冷たい夜空。
「・・・ジャック」
虚空はただ、酷く澄んでいるだけだ・・・。
境沼市繁華街外れの裏路地にて
「はっ・・・!ほわぁぁ〜〜」
奇声を挙げる覆面の女性がやたら陰気くさい絨毯生地のクロスがあしらわれた台座に椅子をよせて一角を陣取っている。
「む、むむむむ!これは!」
一人でテンションを上げているが、クロスの隙間からみかん箱がチラチラ見え隠れしているのに気づいていない。
ちなみに愛媛みかんである。
それはともかく、彼女は尚も不思議な踊りを踊っている。
「あ!明日は晴れだぁ〜〜!」
そして、あまり意味の無いことを占っているようだ。
そんな彼女、ユカリは常にこんな生き方をしてきていた。
一見して、今回の赤い世界の一件についても気丈に何も感じていないように見受けられる。
だが、その実は違った。
ユカリの中で、明らかに変わったことが、いくつかあったのだ。
もっとも大きかったのは、あろまの存在。
今まで自由気ままに生きてきたユカリにとって、あろまのようなタイプは気に留める対象ではなかった。
しかし、それがなんと自分自身だという。
当初、ユカリにとって、あろまは忌むべき存在でしかなかった。
同じ星がこの世に存在してはいけないからだ。
だが、それは違った。間違いだったのだ。
ユカリはあの時、意を決してあろまに挑んだ。
彼女自身の一方的な勘違い。敵意。にもかかわらず、あろまは全力で受け止めようとしてくれた。
それがきっかけだったのは言うまでも無く、ユカリはあろまを今では一人の人間として想っている。
あろま・・・自分の相似の存在。一見、気にも留めないタイプの人間。だがしかし、実際に言葉を交わし、ぶつかった。そのことが確信をもたらす。
あろまは私に似ている。
あれほどまでの脅威と恐怖の対象であったあろまは、いまではユカリにとって友達という感覚で捉えられているようだ。あるいは妹か。
少し引っ込み思案だけれど、瞳には強い意志が燃えていた彼女。
ちょっと心配ではあるけれど、あの強さはユカリにもいい影響を与えたらしい。
「願わくば、あろまちゃん元気で幸せになればいいな」
素直にそう祈る。
「キタロウくんはかっこよかったし、ゼウスさんは頼りになった。マリアちゃんとは今度お話できればいいんだけどなぁ」
腕を前に張り伸びをする。
「・・・・・コウイチくんにアキラくん・・・だいじょぶ、かな」
だが気楽な一方、彼女は占い師でもあった。
運命は運命。それに干渉しようとはしない。
様々な出来事があり、そこから何かを学ぶ。
だが、彼女の本質は揺るがない。
もう、二度と同一の星が重なることなんて無いだろう。人生は一期一会。そういうものだ。
割り切った彼女の目には、それでも明るさが広がっている。
「さて!」
適当に仕事道具をしまう。
「明日はショッピングしよっかな!」
一人、だが、希望に溢れて。
「うん、アロマキャンドルなんていいかもね!」
彼女はこれからも変わらないのだろう・・・。
「はっ・・・!ほわぁぁ〜〜」
奇声を挙げる覆面の女性がやたら陰気くさい絨毯生地のクロスがあしらわれた台座に椅子をよせて一角を陣取っている。
「む、むむむむ!これは!」
一人でテンションを上げているが、クロスの隙間からみかん箱がチラチラ見え隠れしているのに気づいていない。
ちなみに愛媛みかんである。
それはともかく、彼女は尚も不思議な踊りを踊っている。
「あ!明日は晴れだぁ〜〜!」
そして、あまり意味の無いことを占っているようだ。
そんな彼女、ユカリは常にこんな生き方をしてきていた。
一見して、今回の赤い世界の一件についても気丈に何も感じていないように見受けられる。
だが、その実は違った。
ユカリの中で、明らかに変わったことが、いくつかあったのだ。
もっとも大きかったのは、あろまの存在。
今まで自由気ままに生きてきたユカリにとって、あろまのようなタイプは気に留める対象ではなかった。
しかし、それがなんと自分自身だという。
当初、ユカリにとって、あろまは忌むべき存在でしかなかった。
同じ星がこの世に存在してはいけないからだ。
だが、それは違った。間違いだったのだ。
ユカリはあの時、意を決してあろまに挑んだ。
彼女自身の一方的な勘違い。敵意。にもかかわらず、あろまは全力で受け止めようとしてくれた。
それがきっかけだったのは言うまでも無く、ユカリはあろまを今では一人の人間として想っている。
あろま・・・自分の相似の存在。一見、気にも留めないタイプの人間。だがしかし、実際に言葉を交わし、ぶつかった。そのことが確信をもたらす。
あろまは私に似ている。
あれほどまでの脅威と恐怖の対象であったあろまは、いまではユカリにとって友達という感覚で捉えられているようだ。あるいは妹か。
少し引っ込み思案だけれど、瞳には強い意志が燃えていた彼女。
ちょっと心配ではあるけれど、あの強さはユカリにもいい影響を与えたらしい。
「願わくば、あろまちゃん元気で幸せになればいいな」
素直にそう祈る。
「キタロウくんはかっこよかったし、ゼウスさんは頼りになった。マリアちゃんとは今度お話できればいいんだけどなぁ」
腕を前に張り伸びをする。
「・・・・・コウイチくんにアキラくん・・・だいじょぶ、かな」
だが気楽な一方、彼女は占い師でもあった。
運命は運命。それに干渉しようとはしない。
様々な出来事があり、そこから何かを学ぶ。
だが、彼女の本質は揺るがない。
もう、二度と同一の星が重なることなんて無いだろう。人生は一期一会。そういうものだ。
割り切った彼女の目には、それでも明るさが広がっている。
「さて!」
適当に仕事道具をしまう。
「明日はショッピングしよっかな!」
一人、だが、希望に溢れて。
「うん、アロマキャンドルなんていいかもね!」
彼女はこれからも変わらないのだろう・・・。
事件のことをふと思い出す。あれはもう、3週間ほど前のことだったか。
「まっさかもうひとりの俺がいるなんてなー」
「同じ人間なのに、全く別の道を歩んでるんだもんな、愉快愉快」
「そういうとこだけは十堂のやつを評価してやってもいいかな」
「面白いもんが見れた、ってな」けらけら
「もうひとりの俺といえば…儀式の時のアレは何だったんだ」
「前兆もなかったし、発作的なものだろうが…まさか」
「…赤い屍に、やられたのか…?」
「いや…あれには、ちゃんと救済の方法がある」
「あいつも俺なんだ、そこまで馬鹿じゃな…」
その時。
ぞくりと背中に悪寒が走る。
そして同時に襲う喪失感。
何かとても大事なものを、失ってしまったかのような、予感。
「くそ、なんだってんだ…」
ふと、魔道書の存在を思い出す
<ドッペル次元の開港>
自分自身を指定して、別の次元へ行けるのではないか。
そして、アフリカ語で書かれたメモ。そこにはもうひとりの自分が死んでしまったとき
その呪文を使うとどうなるのか、ということが示されていた。
「…何もなきゃいい…試すだけだ」
表記できないような言葉の羅列を口にする。
自分の精神が削られる感覚。
ぐにゃりと世界が歪み、そしてまた戻っていく。
そこは、自分がいた世界に酷似していたが、どこか異なる雰囲気を醸し出していた。
「…おいおい」
「嘘だろおい…」
「…いや、まだそうと決まったわけじゃねえ」
「十堂と同じようなことをしてるだけかもしれねえからな」
「とりあえず、あいつを探すしかない」
どこにいるのかわからない、もうひとりの自分を探す。
職業も聞いてない、普段どうしているのかも聞かなかった。
あてもなく歩く。
そこに車が通りかかる。
何の変哲もない車だが、何故か気にかかる。
「…ん?」
「…ただの車、だよな」
「それより早く、探さねえとな…」
車から目を離して歩き始める。
離れる前に耳に入った声。それは知らない男のもので。
「………これは笑うしかないな」
「広瀬君に頼まれた帰りに、まさかまさかの…」
「これも運命って奴なのかな」
「それより早く、探さねえとな…」歩き始める
「…このままだと行っちゃうな、話しかけてみるか」
「こんばんは」
後ろから声をかけられる。振り向くと、車の窓から笑みを浮かべた男が顔を出していた。
「…俺に言ったのか?」
「うん、紛れも無く君に言ったよ」
「人と人の縁は挨拶から築かれるものだ、そうは思わないかい?」
「…はっ、どうだかな」
「つれないねえ… 聞きたい事が一つあるんだ、君に」
「…聞きたいこと?」
「友達に頼まれていてね… 君ってもしかして、"広瀬修"だったりしないかな?」
「そうだけど…」
「…勘違いしないで欲しいね」
「…何?」
「僕が聞きたいのは、違う世界の"広瀬修"なのか、だよ」
違う世界。それはすなわち、今回の事件を知っているということで。
「…!てめえ、何者だ…」
「そうだね… さっき僕、人に頼まれ事をしたって言ったよね?」
「誰に頼まれたと思うかな?」
「……」
「…ま、さか」
ここに来る前の嫌な予感。この世界のあまりにも普通な感じ。
もしかしたら。本当に。
「君の想像通りだよ」
「アイツは今どこにいる…」
「……それも君なら想像つくんじゃないかな?」
「…っ」
「……でも、どこにいるかと聞かれるなら」
「正直に答えてあげよう、後ろの席でぐっすり寝てるよ」
「…!」
後部座席のドアを開ける。
そこには冷たくなっているこの世界の俺が、眠っていた。
安らかな顔をして。
「…なんで、死んだんだ…やっぱり、こいつ」
「……君は、こっちの世界の広瀬君の事を、どこまで知ってるのかな?」
「…何かしらの発作を起こしてた、ってことくらいだ」
「そうか… それなら僕が知ってる限りの事を話してあげよう」
「まず、こっちの世界の広瀬君はある高校の先生をしていてね」
「問題行動は多かったけど、生徒達から慕われる、いい先生だったよ」
「そして僕はその高校の保険医だ、三週間前に保健室に飛び込んできてね」
「三週間前…」
「銃で撃たれた傷は… いや、それはここでは追求しないでおこう」
「前にも診たことがあるから、それに関しては僕が問題なく治療したよ」
「そしてその発作が問題でね」
「……ヘドロのような、黒い液体を吐いたんだよ」
「…あの時と、一緒か」
「……」
「それを見てから診察を詳しくしてみたんだけどね」
「持って三週間… 限界まで生き長らえたとしても、今日までだという、そんな診断結果が出てね」
「……」
「それからは大変だったな、毎日広瀬君の家に通ったりして治療の日々さ」
「…それもさっき、終わっちゃったけどね」
「ちなみに三週間というリミットにはもう一つ、理由があってさ」
「…?」
「広瀬君が広瀬君でなくなる時間も、偶然だけどそうだったんだよ」
「体の中で変異が起きていてね、あのまま生きていたらこの世ならざるものに」
「なってただろうね」
「…やっぱり、怪物に攻撃されてたんだな…」
「…ああ、それが原因だったんだね」
「あんなんになるくらいなら…って考えたのか、こいつ」
「どうやらそのみたいだ… そんな広瀬君の介錯を務めたのは他ならぬ僕だ」
「本当に、今さっきの事だけどね」
「……」
「それに関してはどう罵られても構わないけど、こっちの世界の広瀬君の選択さ」
「これだけは知っていて欲しいかな」
「…あんたを責めるつもりはねえよ」
「…そう、ありがとう」
「……」
「車に乗ってくれるかな」
「君には一人、どうしても会わせないといけない人がいる」
「……わかった」
車に乗り込み、眠っている俺を見やる。
「…行くよ」
安らかな表情。
よくよく考えると、こいつのこと、何も知らないな。
「…ゆっくり話す時間もなかったもんなあ、俺とは」
「……そうだね」
そうして連れてこられた、病室。
プレートには見覚えのない名前。
「ここに、君が会わなくちゃいけない人がいるよ」
「…」
「詳しいことは… 僕の口から言う事じゃないな、入ろうか」
病室に入ると、そこにはひとりの男が眠っていた。
先ほどの『俺』のように幸せそうな笑みを浮かべている。
「ああ…」
「…こいつは?」
「望月先生、広瀬君とは同じ学校の教師で」
「広瀬君の思い人だよ」
「…思い、びと」
「……どうやら、こっちの世界の広瀬君は他にもこんな事に巻き込まれたみたいでね」
「病室に今そうしているのは、それと関係があるらしいよ」
「うん、思い人、ライクじゃなくてラブだよ?」
「…ふうん」
「…さて、そんな望月先生に関しては」
「これを読んでくれれば分かるんじゃないかな」
「…手紙?」
「だけど…愛なんて、くだらねえよ」
「ふふ、同じ顔でも言う事は違うんだね」
そんな言葉を聞きながら、手紙を開く。
___________________
もうひとりの俺へ
この手紙を受け取れるのかは分からないけど、とりあえず書いておく。
俺はあの世界で、赤い屍とかいう怪物に攻撃されてから何度か発作を起こしてる。
あの資料から考えると、俺はこのままだと死んであいつらと同じ姿になるんだと思う。
だから、その前に、俺が怪物になってしまう前に、人間であるうちに、殺してもらうことにした。
…そこで、お前に頼みがある。
俺達が儀式を行った病院に、望月浩一って男がいる。
俺の親友で、そしてこの世界で一番大事な人間だ。
…良かったら、面倒見てやってくれねえかな。
あいつは記憶を失ってる。だから、些細なことでも不安になると思う。
だけど『広瀬 修』の存在があれば、安心するはずなんだ。
本当なら、俺が傍にいて幸せにしてやりたかったけど、叶わないから。
じゃあ…お前がこれを読んでいることを祈って。
広瀬 修
_______________________
「……」
「……」
男は、笑みを浮かべながら俺の方をじっと見つめていた。
俺は口を開く。
「…馬鹿だなあ、届かないかもしれないのに」
「そうだったかもしれないけど、今こうして紛れも無く、君の手にその手紙があるんだ」
「君はこれから、どうするかな?」
「……頼むって、言われてもなあ」
「…やっぱりそういう内容だったんだね」
「…望月ってのは、こいつだったよな」
「うん、その人が望月先生だよ」
「…記憶、ないんだな」
「…そうだね」
「俺は、あいつみたいにはできないぜ?」
「別に、広瀬君を君に求めてるわけじゃないよ」
「君は君があるままに、望月先生と一緒にいてくれればいい」
「もしそうしてくれるなら、だけどね」
「…あーあー、わかったわかった」
「…引き受けてくれるのかな?」
「仕方ねえからやってやるよ」
「どうせやることもねえしな」
「それはありがたい事だ… 一応、聞いておくけれど」
「こっちの世界には、君の居場所はあるのかな?」
「…さあ?」
「…そっちの世界まんまだとは思えないし、ここは一つ…」
「先生をやってみないかな?」
「先生?ってこたあ…」
「あいつの代わりか?」
「うん、こっちの広瀬先生の後任だね」
「…教科にもよる」
「情報科だね」
「情報ね…わかった」
「…まあ、人生の道筋は違うかもしれない」
「それでも、君達は似た物同士だ」
「君なら、生徒達に慕われる先生になれるって、信じてるよ」
「ハードル上げてくるなあ」
「ふふ、その方がやりがいがあるでしょ?」
「まあな」
にやりと笑う。
「ま、ほどほどに頑張ってやるよ」
「うん、何かあったらいつでも来ておくれ、保健室にいるからさ」
「ああ、たまに寝に行くわ」
「寝るのが前提なんだね… もしかしてお酒は好きかな?」
「もちろん」
「本当に似た物同士… でもそれなら、もう一つ決めておこう」
「?」
「君はこれからこっちの世界の広瀬修として、教師として生きていくわけだけど」
「君もさっき言ってた通り、広瀬先生の代わりなんだよね」
「でも、広瀬先生じゃない、一人の人間なんだ」
「だからさ、広瀬修として埋もれてしまう前に、何か僕達の間で、新しい名前を考えてみないかい?」
「君自身のさ」
「…名前」
「そうだな…響、とか?」
響と書いて、きょう。お前がその人生を修めるというのなら、俺はこれから代わりに響かせてやる。お前の、そして俺の『広瀬修』という人生を。
「…ふむ」
「広瀬響か、いい名前だね」
「元の名前と響きも似てるしな」
「たしかにそうだね… それじゃあ君は、広瀬修であり、広瀬響だ」
「これから長い付き合いになると思うから、よろしくね」
「ああ、よろしく…ところで」
「なんだい?」
「あんたの名前、聞いてなかった」
「おっと、そうだったかな… すっかり忘れてたよ」
「僕の名前は己己己己五五五、覚え辛いという事で皆からゴゴティーって呼ばれてるよ」
「君も気軽に呼んでくれて構わないよ」
「ゴゴティー?」
「うん、ゴゴティー」
「わかった、ゴゴティーな」
「…あ、いや、断っておくとどこかの商品名だったりしないからね、一応ね」
「?あ、ああ…」
「よし、それじゃあ… まずはこっちの広瀬君の家まで案内しよう」
「そこが君の家になる」
「…それも大事だけど」
「うん?」
「まずはもうひとりの俺、ちゃんと休ませてやらねえと」
「…ああ」
「………」
「そうだね、僕一人で全てを片付ける約束はしたけれど」
「君がいいって言うなら、手伝ってもらおうかな」
「俺は構わねえよ、慣れてるし」
「話に聞いてた通りだね、それなら問題なさそうだ…… 行こうか」
「ああ」
あっちにはもう帰れない。
俺との約束、そして役目がある。
引き受けたぜ、全て。
だから、安心して眠れ。
「まっさかもうひとりの俺がいるなんてなー」
「同じ人間なのに、全く別の道を歩んでるんだもんな、愉快愉快」
「そういうとこだけは十堂のやつを評価してやってもいいかな」
「面白いもんが見れた、ってな」けらけら
「もうひとりの俺といえば…儀式の時のアレは何だったんだ」
「前兆もなかったし、発作的なものだろうが…まさか」
「…赤い屍に、やられたのか…?」
「いや…あれには、ちゃんと救済の方法がある」
「あいつも俺なんだ、そこまで馬鹿じゃな…」
その時。
ぞくりと背中に悪寒が走る。
そして同時に襲う喪失感。
何かとても大事なものを、失ってしまったかのような、予感。
「くそ、なんだってんだ…」
ふと、魔道書の存在を思い出す
<ドッペル次元の開港>
自分自身を指定して、別の次元へ行けるのではないか。
そして、アフリカ語で書かれたメモ。そこにはもうひとりの自分が死んでしまったとき
その呪文を使うとどうなるのか、ということが示されていた。
「…何もなきゃいい…試すだけだ」
表記できないような言葉の羅列を口にする。
自分の精神が削られる感覚。
ぐにゃりと世界が歪み、そしてまた戻っていく。
そこは、自分がいた世界に酷似していたが、どこか異なる雰囲気を醸し出していた。
「…おいおい」
「嘘だろおい…」
「…いや、まだそうと決まったわけじゃねえ」
「十堂と同じようなことをしてるだけかもしれねえからな」
「とりあえず、あいつを探すしかない」
どこにいるのかわからない、もうひとりの自分を探す。
職業も聞いてない、普段どうしているのかも聞かなかった。
あてもなく歩く。
そこに車が通りかかる。
何の変哲もない車だが、何故か気にかかる。
「…ん?」
「…ただの車、だよな」
「それより早く、探さねえとな…」
車から目を離して歩き始める。
離れる前に耳に入った声。それは知らない男のもので。
「………これは笑うしかないな」
「広瀬君に頼まれた帰りに、まさかまさかの…」
「これも運命って奴なのかな」
「それより早く、探さねえとな…」歩き始める
「…このままだと行っちゃうな、話しかけてみるか」
「こんばんは」
後ろから声をかけられる。振り向くと、車の窓から笑みを浮かべた男が顔を出していた。
「…俺に言ったのか?」
「うん、紛れも無く君に言ったよ」
「人と人の縁は挨拶から築かれるものだ、そうは思わないかい?」
「…はっ、どうだかな」
「つれないねえ… 聞きたい事が一つあるんだ、君に」
「…聞きたいこと?」
「友達に頼まれていてね… 君ってもしかして、"広瀬修"だったりしないかな?」
「そうだけど…」
「…勘違いしないで欲しいね」
「…何?」
「僕が聞きたいのは、違う世界の"広瀬修"なのか、だよ」
違う世界。それはすなわち、今回の事件を知っているということで。
「…!てめえ、何者だ…」
「そうだね… さっき僕、人に頼まれ事をしたって言ったよね?」
「誰に頼まれたと思うかな?」
「……」
「…ま、さか」
ここに来る前の嫌な予感。この世界のあまりにも普通な感じ。
もしかしたら。本当に。
「君の想像通りだよ」
「アイツは今どこにいる…」
「……それも君なら想像つくんじゃないかな?」
「…っ」
「……でも、どこにいるかと聞かれるなら」
「正直に答えてあげよう、後ろの席でぐっすり寝てるよ」
「…!」
後部座席のドアを開ける。
そこには冷たくなっているこの世界の俺が、眠っていた。
安らかな顔をして。
「…なんで、死んだんだ…やっぱり、こいつ」
「……君は、こっちの世界の広瀬君の事を、どこまで知ってるのかな?」
「…何かしらの発作を起こしてた、ってことくらいだ」
「そうか… それなら僕が知ってる限りの事を話してあげよう」
「まず、こっちの世界の広瀬君はある高校の先生をしていてね」
「問題行動は多かったけど、生徒達から慕われる、いい先生だったよ」
「そして僕はその高校の保険医だ、三週間前に保健室に飛び込んできてね」
「三週間前…」
「銃で撃たれた傷は… いや、それはここでは追求しないでおこう」
「前にも診たことがあるから、それに関しては僕が問題なく治療したよ」
「そしてその発作が問題でね」
「……ヘドロのような、黒い液体を吐いたんだよ」
「…あの時と、一緒か」
「……」
「それを見てから診察を詳しくしてみたんだけどね」
「持って三週間… 限界まで生き長らえたとしても、今日までだという、そんな診断結果が出てね」
「……」
「それからは大変だったな、毎日広瀬君の家に通ったりして治療の日々さ」
「…それもさっき、終わっちゃったけどね」
「ちなみに三週間というリミットにはもう一つ、理由があってさ」
「…?」
「広瀬君が広瀬君でなくなる時間も、偶然だけどそうだったんだよ」
「体の中で変異が起きていてね、あのまま生きていたらこの世ならざるものに」
「なってただろうね」
「…やっぱり、怪物に攻撃されてたんだな…」
「…ああ、それが原因だったんだね」
「あんなんになるくらいなら…って考えたのか、こいつ」
「どうやらそのみたいだ… そんな広瀬君の介錯を務めたのは他ならぬ僕だ」
「本当に、今さっきの事だけどね」
「……」
「それに関してはどう罵られても構わないけど、こっちの世界の広瀬君の選択さ」
「これだけは知っていて欲しいかな」
「…あんたを責めるつもりはねえよ」
「…そう、ありがとう」
「……」
「車に乗ってくれるかな」
「君には一人、どうしても会わせないといけない人がいる」
「……わかった」
車に乗り込み、眠っている俺を見やる。
「…行くよ」
安らかな表情。
よくよく考えると、こいつのこと、何も知らないな。
「…ゆっくり話す時間もなかったもんなあ、俺とは」
「……そうだね」
そうして連れてこられた、病室。
プレートには見覚えのない名前。
「ここに、君が会わなくちゃいけない人がいるよ」
「…」
「詳しいことは… 僕の口から言う事じゃないな、入ろうか」
病室に入ると、そこにはひとりの男が眠っていた。
先ほどの『俺』のように幸せそうな笑みを浮かべている。
「ああ…」
「…こいつは?」
「望月先生、広瀬君とは同じ学校の教師で」
「広瀬君の思い人だよ」
「…思い、びと」
「……どうやら、こっちの世界の広瀬君は他にもこんな事に巻き込まれたみたいでね」
「病室に今そうしているのは、それと関係があるらしいよ」
「うん、思い人、ライクじゃなくてラブだよ?」
「…ふうん」
「…さて、そんな望月先生に関しては」
「これを読んでくれれば分かるんじゃないかな」
「…手紙?」
「だけど…愛なんて、くだらねえよ」
「ふふ、同じ顔でも言う事は違うんだね」
そんな言葉を聞きながら、手紙を開く。
___________________
もうひとりの俺へ
この手紙を受け取れるのかは分からないけど、とりあえず書いておく。
俺はあの世界で、赤い屍とかいう怪物に攻撃されてから何度か発作を起こしてる。
あの資料から考えると、俺はこのままだと死んであいつらと同じ姿になるんだと思う。
だから、その前に、俺が怪物になってしまう前に、人間であるうちに、殺してもらうことにした。
…そこで、お前に頼みがある。
俺達が儀式を行った病院に、望月浩一って男がいる。
俺の親友で、そしてこの世界で一番大事な人間だ。
…良かったら、面倒見てやってくれねえかな。
あいつは記憶を失ってる。だから、些細なことでも不安になると思う。
だけど『広瀬 修』の存在があれば、安心するはずなんだ。
本当なら、俺が傍にいて幸せにしてやりたかったけど、叶わないから。
じゃあ…お前がこれを読んでいることを祈って。
広瀬 修
_______________________
「……」
「……」
男は、笑みを浮かべながら俺の方をじっと見つめていた。
俺は口を開く。
「…馬鹿だなあ、届かないかもしれないのに」
「そうだったかもしれないけど、今こうして紛れも無く、君の手にその手紙があるんだ」
「君はこれから、どうするかな?」
「……頼むって、言われてもなあ」
「…やっぱりそういう内容だったんだね」
「…望月ってのは、こいつだったよな」
「うん、その人が望月先生だよ」
「…記憶、ないんだな」
「…そうだね」
「俺は、あいつみたいにはできないぜ?」
「別に、広瀬君を君に求めてるわけじゃないよ」
「君は君があるままに、望月先生と一緒にいてくれればいい」
「もしそうしてくれるなら、だけどね」
「…あーあー、わかったわかった」
「…引き受けてくれるのかな?」
「仕方ねえからやってやるよ」
「どうせやることもねえしな」
「それはありがたい事だ… 一応、聞いておくけれど」
「こっちの世界には、君の居場所はあるのかな?」
「…さあ?」
「…そっちの世界まんまだとは思えないし、ここは一つ…」
「先生をやってみないかな?」
「先生?ってこたあ…」
「あいつの代わりか?」
「うん、こっちの広瀬先生の後任だね」
「…教科にもよる」
「情報科だね」
「情報ね…わかった」
「…まあ、人生の道筋は違うかもしれない」
「それでも、君達は似た物同士だ」
「君なら、生徒達に慕われる先生になれるって、信じてるよ」
「ハードル上げてくるなあ」
「ふふ、その方がやりがいがあるでしょ?」
「まあな」
にやりと笑う。
「ま、ほどほどに頑張ってやるよ」
「うん、何かあったらいつでも来ておくれ、保健室にいるからさ」
「ああ、たまに寝に行くわ」
「寝るのが前提なんだね… もしかしてお酒は好きかな?」
「もちろん」
「本当に似た物同士… でもそれなら、もう一つ決めておこう」
「?」
「君はこれからこっちの世界の広瀬修として、教師として生きていくわけだけど」
「君もさっき言ってた通り、広瀬先生の代わりなんだよね」
「でも、広瀬先生じゃない、一人の人間なんだ」
「だからさ、広瀬修として埋もれてしまう前に、何か僕達の間で、新しい名前を考えてみないかい?」
「君自身のさ」
「…名前」
「そうだな…響、とか?」
響と書いて、きょう。お前がその人生を修めるというのなら、俺はこれから代わりに響かせてやる。お前の、そして俺の『広瀬修』という人生を。
「…ふむ」
「広瀬響か、いい名前だね」
「元の名前と響きも似てるしな」
「たしかにそうだね… それじゃあ君は、広瀬修であり、広瀬響だ」
「これから長い付き合いになると思うから、よろしくね」
「ああ、よろしく…ところで」
「なんだい?」
「あんたの名前、聞いてなかった」
「おっと、そうだったかな… すっかり忘れてたよ」
「僕の名前は己己己己五五五、覚え辛いという事で皆からゴゴティーって呼ばれてるよ」
「君も気軽に呼んでくれて構わないよ」
「ゴゴティー?」
「うん、ゴゴティー」
「わかった、ゴゴティーな」
「…あ、いや、断っておくとどこかの商品名だったりしないからね、一応ね」
「?あ、ああ…」
「よし、それじゃあ… まずはこっちの広瀬君の家まで案内しよう」
「そこが君の家になる」
「…それも大事だけど」
「うん?」
「まずはもうひとりの俺、ちゃんと休ませてやらねえと」
「…ああ」
「………」
「そうだね、僕一人で全てを片付ける約束はしたけれど」
「君がいいって言うなら、手伝ってもらおうかな」
「俺は構わねえよ、慣れてるし」
「話に聞いてた通りだね、それなら問題なさそうだ…… 行こうか」
「ああ」
あっちにはもう帰れない。
俺との約束、そして役目がある。
引き受けたぜ、全て。
だから、安心して眠れ。
皆さんお疲れ様でした!
結構な実験卓なノリでしたが、いかがでしたでしょうか?
KPはなかなか不慣れながらも皆さんのRpを引き出す実験及び、皆さんによる反響のおかげでたっぷり楽しませていただきました。
感謝に尽きますね。
また、結構暗さと緊迫感も出てたんじゃないかな、とこれもPL皆様に感謝ですね。
イカナゴさんがRP楽しいって言ってくださったこと、あーるさんが存分に黒さを見せてくれたこと、いくささんが前卓のごとくKPと発想をシンクロさせてくれたこと、すごく刺激になりました。
とわさんが全力でダーク要素を受けてくれたおかげで深みが出ましたし、蒼鳥マウスさんの奥ゆかしく強いプレイが見れたのも面白かったです。
全編通して皆さんの助けに尽きたセッションとなりましたが、皆さん自身も存分に楽しんでいただけたのなら、これ以上のことはありません。
ダイスの女神も黒い笑みでとても愉しませてくれましたね・・・w
それでは、またお会いするときを楽しみにしております! 再び星辰が揃うそのときまで!
結構な実験卓なノリでしたが、いかがでしたでしょうか?
KPはなかなか不慣れながらも皆さんのRpを引き出す実験及び、皆さんによる反響のおかげでたっぷり楽しませていただきました。
感謝に尽きますね。
また、結構暗さと緊迫感も出てたんじゃないかな、とこれもPL皆様に感謝ですね。
イカナゴさんがRP楽しいって言ってくださったこと、あーるさんが存分に黒さを見せてくれたこと、いくささんが前卓のごとくKPと発想をシンクロさせてくれたこと、すごく刺激になりました。
とわさんが全力でダーク要素を受けてくれたおかげで深みが出ましたし、蒼鳥マウスさんの奥ゆかしく強いプレイが見れたのも面白かったです。
全編通して皆さんの助けに尽きたセッションとなりましたが、皆さん自身も存分に楽しんでいただけたのなら、これ以上のことはありません。
ダイスの女神も黒い笑みでとても愉しませてくれましたね・・・w
それでは、またお会いするときを楽しみにしております! 再び星辰が揃うそのときまで!
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