最終更新: armoredcore1234 2009年01月15日(木) 12:08:43履歴
《――すまない。結局、貴方に押し付けてしまったな》
「構わんさ」
レイテルパラッシュの通信に短く答え、俺は操縦桿を握り締めると口元を軽く舐めた。
アルテリア・クラニアムを――クレイドルに暮らす連中を守り、ORCAを叩き潰す。
彼女からの依頼は、端的に言えば、こういう内容だった。
だったから、俺はロクに思考する事無くコイツを引き受けた。
オペレータは「存外甘い男なのだな」とか言っていたが、別にそんなんじゃない。
クレイドルだとか企業だとかの思惑なんぞも、俺には全く関係ない。
しいて言えば――そう、彼女流に『言葉を飾らずに』言えば……
「お前らが気に喰わないから、だな」
小声で嘯き、モニターを睨みつける。映っているのはACスプリットムーン。
俺がアンサングの相手をしている間に、あっさりと「ブラス・メイデン」を沈めたらしい。
さすがはレイレナード最後の生き残りって所か。腕の月光は伊達じゃないようだ。
対する俺の機体はと言えば、正規パーツ構成のAALIYAH。信頼のおける奴だが、少々貧弱か。
おまけにアンサングと撃ち合ってたお陰でAPが心許ない上に、061ABSRは残弾ゼロ。
右背はレーダー。左背のCG-R500は弾数こそ残っているものの、これで仕留められるとは思えない。
となると、頼みの綱は――……
「……左腕のDRAGON-SLAYER」
幾ら兵器が進化しても、行き着く先は結局殴りあい……いや、斬り合いか。
俺はキーボードをタイプし、スナイパーライフル、チェーンガン、レーダーをパージする。
これからやるのはアリーナでの一騎討ちだ。射撃兵装もレーダーも、余計な重しにしかならない。
それに、こいつは俺からの『お誘い』だ。だったら、わかりやすい方が良い。
更に右腕のマニュピレーターを操作し、スプリットムーンに手招きをしてやる。
「来いよ、人間一度は死ぬもんだ。だろう?」
『……承知』
次の瞬間、敵機がモニターから掻き消えた。
――来る!
「ッ! なんとぉ……ッ!!」
即座に此方もQB。凄まじいGが全身に襲い掛かるが、レーザーブレードで串刺しになるよかマシだ。
さすがにブレードで彼女と互角以上に渡り合っただけある。何てスピードだ、実に羨ましい!
純正ブースター装備の愛機じゃ、真正面からやりあうだけ不利だ。
というか空中で斬り合うほど酔狂でもなけりゃ、そんな腕は無い。現実は厳しい。
何せ俺のランクは19だ。この前もスマイリーに叩き潰されたくらいだしな。
そういやスマイリー、近頃は男が出来たとかって噂だが――畜生め。
こんだけ厄介な――それも他人様の命を助ける依頼をやってるんだ。
終わったら、俺のところに良い女が来る程度の幸運があったって良いじゃないか。
そんな事を毒づきながら、素早くQBを吹かして迫り来る斬撃を回避する。
右、左、後ろ、後ろ、右、左、右、後ろ、後ろ……。
ガクガクと全身は左右に振り回され、きつく締めたベルトが内臓を圧迫した。
つい先ほどまでアンサングとやりあってたお陰で、三半規管はとっくに駄目になってるし、
痛めつけられた胃は内容物を喉元まで送り出してくる。それを強引に飲み下し、再度QB。
耳元でオペレーターだかレイテルパラッシュだかが喚いているが、気にしている余裕が無い。
まあ、傍から見れば、単にスプリットムーンに翻弄されてるようにしか見えないだろうし、
実際それは殆ど間違ってないんだから、無理もないんだが。
ただ――あくまでも“殆ど”だ。
「う、おらぁっ!」
一度距離をとったスプリットムーンが突っ込むのにあわせ「両肩の」ECMを発射。即座にパージ。
奴が怯んだのをロクに確認せず、俺はQTで反転。出口めがけて一気にOBを点火した。
勿論、奴もプロだ。すぐにロックし直し、ブーストを吹かして追撃してくる。
逃がす気はない、か。――そりゃあ良い。
「俺も、逃げる気は無いんでね」
再度QT。狭い通路の最奥で振り返る。
モニターの中には、瞬く間に近づいてくるスプリットムーンの姿。
知らず知らずの内に口元が歪んでいた。
「ハッハァッ! ここなら、もうピョンピョンできないだろうッ!」
奴が月光を振り上げる。
だけど遅い。 遅すぎる。
たった一瞬だけ早く、此方のブレードが煌いた。
「――――――ッ!」
スプリットムーンの頭部を斬り飛ばす。
だが――……奴のブレードもまた、俺の機体を深く貫いていた。
……やれやれ。
腕の月光は伊達じゃあない、か。
――爆発と共に、俺の意識も吹き飛んだ。
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