敗けた。圧倒的な屈辱感にファナティックは、ただうちひしがれるしか無かった。
それでも耐えがたいが、エースやロイヤルミスと言った怪物じみた奴らならマシだ。
ゲド。アリーナではEランクの小物。の筈。ファナティック自身Cランク上位。しかし、現に彼女の四脚は力無く崩れ、各所火花を散らしている。
「…レッドアイ帰還する。オペレーター揚げてくれ」
今生きているのも奇跡に近い。この状態ではMT一機でも殺られかねない。
帰投するヘリの中、ゲドと言う男にだけに意識を奪われていた。



「Cランクが何の用で?」
後日気が付けばファナティックはE・Dランクの待合室前に居た。名乗らずとも、その端正な顔立ちと眼帯で大抵は判別される。
「E-4ゲドは居るか?」
最低限しか喋らず、一目見たさに沸いてきた男達を睨みつけると、いとも簡単に散っていった。
「待たせた」
間違い無い。先日スピーカーから聴こえた声だ。酒か煙草か、歳不相応に枯れている。人目が邪魔になる。
「ついてこい。場所を取ってある」
ファナティックは踵を返した。たどり着いたのは今度空ける予定のガレージ。だだっぴろいがACと二人しか居ない。
「で?用というのは…」
「何故下位にとどまる」
ゲドの言葉を強引に制止した。ゲドの目が悪戯っぽく笑った。
「…恥ずかしいのか?」
「!?」
「こんな人気の無い場所に呼び出して。先日のミッションでだろう?」
図星を言われるのが聴いていられなかった。顔が赤くなるのが分かった。
「それとも、惚れたか?」
確かに自分より強い男しか見ないファナティックだが、そんな筈はない。自分に言い聞かせる。しかし、ますます顔は赤くなり今までに無い感情に戸惑うファナティック。それを、見て笑うゲド。
「全く、歴戦のレイヴンがウブなものだな」

なんなのだ、こいつは。
紅潮するファナティックの顔を、さぞ楽しそうに鑑賞するゲド。何故か怒る気もしない。
「…っくくく、冗談だ。本気でその気ならこちらも嬉しいがね。そろそろ良いかな?Eランクも暇じゃ無いんだ」
「っ待て!」
「質問の答えか?それなら運なんじゃないか?」
へらへらと笑い、立ち去るゲドの背を、追うことも出来ずファナティックは眺めていた。
−惚れた?馬鹿馬鹿しい。あんな奴…−
言葉に詰まる。ミッション以来『ゲド』で頭が一杯になっていたのは確かだ。
けれど、恋愛や肉欲に近いものなど一切無い。
ガレージの窓から差す夕日を眩しそうに、ファナティックは目を細めた。



「『貴様に興味が沸いた。早く上がってこい』…またか」
ゲドがさも面倒臭そうにメールに目を通する。呼び出されてからというもの、ファナティックがひっきりなしにメールをしてくるようになった。
アリーナ中にファンを抱える女が、あの時の様に顔を真っ赤にしてパソコンと向き合っている姿を想像すると笑いが漏れる。
「そろそろ良いかな?」
向こうもうずいている頃だろう。おもむろにゲドは返信のメールを打ち始めた。



二日後、先のガレージ。右目に赤い眼帯を巻いた美女が一人。
言うまでもなく、ファナティックだ。
ゲドからの返信では今夜九時にここで話があるらしい。胡散臭い上に危険も伴うが、自然に足を運んでいた。
しかも、九時を過ぎている。
「悪戯だったか…」
無駄足だったと椅子から立とうとした時、こちらの気も知らず呑気にゲドがガレージに入ってきた。相変わらずへらへらと笑いながら何事も無かったかのように。
「話とはなんだ?早く終わらせてくれ」
ゲドがくすくすと笑うのが癇に障る。
「わざわざ八通もメールを寄越して良く言えたものだ」
「それは…っ、話はそれのことか?」
「いや、それはいいさ。お前の気持ちは分かったからな」
意図が読めないファナティックの唇をゲドが奪った。
気が付いた時には唇を割られていた。突然の事態に、完全に主導権をゲドに獲られたファナティックは思うままに口内を蹂躙されるしか無かった。
「くっ…ふぅ!」
頭の後ろに回らせた手を必死に引き剥がし、突き放た。息苦しそうに胸を上下させ、ゲドを睨みつける。
「…どういうつもりだ」
「誘ってるくせにか?」
くすくすと笑う男を殺したい。とファナティックは思った。だが、それ以上に。
「怒ってる割に、上気しすぎてやいないか?まさか未通女では無いだろう?」
つくづくこいつは、人を辱めるのが巧い。
「下らん」
小さく意地を張ってみても、この男には見透かされている。
隠した右目の奥がうずく。自分でも驚く程、甘美な快感が押し寄せていた。
悟られまいと演じるほどに、躰の芯が熱くなる。
「下らん…か。それは拒絶なのか?あるいは」
席を立ち耳元まで顔を寄せるゲド。ぞくりとした。そして、枯れた声が耳を撫でる。
「受け入れているのか?…答えないならこのまま押し倒すぞ?」
声が出ない。出す用が無かった。くすりと笑うゲドが、いつしか資材を包むシーツの上に仰向けになったファナティックの前にあった。
どこかで意固持になっている自分に気が付き、やめた。
入ってきた舌を受け止める。今度は拒まずファナティックのも絡める。
今、自分はどんな顔で男の舌を甘噛みしているのだろう?今までしたこともないような淫らな顔で貪っているのか?
そんなことを考えた途端全身が燃えるような気がした。
見計らった様にゲドが唾液をなみなみと口に注ぎ込む。溜め、飲み込む。
不快感は不思議な位に無い。
「『猫』随分とおとなしいじゃないか」
猫とは彼女のエンブレムの事だろう。
猫は狡猾。決して誰かになつくことはない。
そんな意味を込めた象徴をこんな形で嘲られるとは。
「もう、立てる爪も無いか」
また笑う。ゲドの手がシャツのボタンにかけた。

ゲドは手際良く、シャツのボタンをはずしていく。自分のを終えると、今度はファナティクのを。
ファッション雑誌を飾るモデルの様な華美な服装でこそないが
スレンダーな躰が、見事に着こなしていた。
その上着も脱がすと、ふとゲドの手が止まった。
「どうした?」
今まで大人しくしていたファナティクが不安げに尋ねる。ここまで来て、止められると羞恥心が一気に押し寄せる。
騙されていた!?
そんなファナティクの思いも杞憂に終わった。
「黒」
一瞬考える。ゲドの視線で思い出す。今日は『黒』。
勝負下着だのは気にしていないし、馬鹿らしいが持っている中では良い物な方だ。
「せ、洗濯の周期が重なってだな…!」
「まだ何も言ってないだろ。『可愛い』…いや、『妖艶』と謂うべきか。
くく、似合ってるじゃないか」
「…知るか」
「素直に喜べ」
そう言う間に、ブラジャーのホックを外す。
露になった胸を手で包む。服の上からより小ぶりだが、形は整っている。
「んっ!」
前置きなしに、右胸に吸い付く。
舐め、噛み、転がす。
飴を食べる子供のようにファナティクの突起を弄ぶ。同時に左は輪をなぞる様に手で撫で回す。
その度、猫が濃艶な矯声をあげるのが、ゲドには素直に嬉しかった。
一際、首筋を舐めるのに弱い。それだけで、達してしまうように躰を反らすのだ。
とても、アリーナで冷たい視線を放つ女性とは思えない。
「首は、…っはぁあ!」
大きく反れる。絶頂を迎えたようだ。息も荒く、小刻みに震える。
「もうか。だがこれだけでは終われんぞ」
左手が秘所に辿り着く。
達っしたばかりのそこは、湿り気を帯び『誘う』香りが漂う。
「行くぞ」
「はぁ…は…、待て」
ファナティクが顎で自らの機体を指す。
「これからは、見られたら嫌だ。…その」
すぐに理解した。レイヴンが最も安心していられる場所。
「コアの中か…良いだろう」
力なく立ち上がるファナティクを『お姫様だっこ』にし腹の上に、脱ぎ散らかした衣服を乗せる。
恥ずかしいのだろう、ファナティクはゲドの胸板に顔を押し当てた。
まだまだ、猫は可愛がれる。
男はそっと頭を撫でた。

誰にも赦さなかったところに、他人を迎えた。言い方次第では男を囲った。
機材だらけ壁に、人工的なシート。殺し会う職業柄、どこよりも信用を置く場所だ。さすがに、ゲドは中に入る手前で止まる。
「粋狂なものだ。俺もレイヴンだぞ。こんなところにまで入れてしまっていいのか?」
コアに半身を入れていた、ファナティックがうるさそうに軽く唇を塞ぎ、すぐ離す。
「ならば貴様は無粋か変態だな」
「何?」
「ガレージと言っても、人は来る。そんな所で『見せつけ』たいか?それに…」
グッ、とゲドの首に腕を回す。
「『お誘い』は受けておくものだ」
もう一度ファナティックからキスをする。
先程とは逆にファナティックが優位に立っている。
左目は妖しい光を持ち、離れたばかりの唇が微かに笑う。猫はなついていない。意地が出る。なつけてやろうじゃないか。
「では。邪魔をする」
余分な空間があるとは言え本来一人用のスペース。
二人は必然的に密着せざるおえない。それも、今は好都合。ゲドが再び、秘所に手をあてながら、五度目のキス。
卑猥な水音と唇の隙間から漏れるファナティックの艶っぽい声が一層二人を興奮させた。
「っく…そろそろか」
舌をほどき、ゲドが自らのズボンに手をかけようとするも届かない。
手を回すスペースが足りない。下らない発想が浮かんだ。
「下ろしてくれないか?」
何のことは無い。
ズボンを下ろすなど、行為の上でごく当たり前の事だが相手のを、と言うのは羞恥心を煽る。屈辱的なものがあるのだ。
「…」
「いやか?なら俺はここで止めても良いがな」
冗談ではない。ここまで溜った『熱』はどこにやればいいのだ。
「悪趣味め」
渋々ファスナーに手をかけるファナティックを尻目に、ゲドは満足気に笑う。
ズボンを下げると、テント状に下着が張っている。頬が熱い。仕方なしにパンツまで下ろす。
目線の少し下。熱くなったゲドのが視界に入ってくる。
「準備はいいか?」
声を出せない。ファナティックは、首を小さく縦に振った。
当てがった場所は不思議な感触がした。
ゲドもファナティックもこれ以上無い程に熱くなっているはずなのに
互いの性器が当たったところは、えらく冷たい。
処女でないが、こんな感覚は初めてだった。
「…いいぞ」
このおかしな感覚はゲドも同じらしい。
ひとつ息をついてから、強く抱きしめた。
静かに先端が入る。
途端、一転して全身が熱くなった。額は拭ってもすぐに汗で濡れる。
一気に突き上げた。
「うっ、あぁあ!!」
突然のゲドの爆発にファナティックは思わず声があがる。
その声が余計にゲドを煽る。更に激しく、深く、奥までゲドが自らのを入り込ませる。
「んんぅ!…はぁ!」
根元まで入るきると、抜く。また挿す。
徐々にぬらぬらとした愛液が運動を速める。子宮に当たっているのが、躰で感じた。動く度にファナティックのあげる甘い声が、ゲドを興奮させる。
「っうぁ!ひゃ!あぁ!!」
「猫…」
二回目の絶頂。ファナティックの左目の焦点が少しの間、定まらなくなる。
ようやく、あわさった瞳でゲドを見つめる。
「…名前で」
息を切らせながら、小さく言葉を綴る。
「名…前で、呼んでくれ」
レイヴンなど偽名だらけだ。それでも、抱いている間だけでも、名前で呼んでほしかった。
「まるで童女だな…。ファナティック」
耳元でそっと囁いてやる。赤くなった顔で皮肉の無い笑顔を向けるファナティック。
寂しげな目付きの女性は、必要ない。
「んっんっ!!はぁああぁ!」
唇を合わせ、舌を絡ませながら腰を振る。
レイヴンだとか管理者などは、どうでも良かった。今は、ただ交わる悦びが二人を支配していた。
「っ出るぞ!」
引き抜こうとするゲドの腰をファナティックの脚が止める。
意思と反するのかも知れないが、すでに遅い。
ゲドは有るだけの精を、ファナティックの中に放った。
荒く息を吐き、ゲドの胸に寄りかかった。
甘えて名前を呼ばせたのも、膣内に出させたのも少し冷静になれば恥ずかしいことこの上無い。
それでも、体力が持たない。ゲドの胸板の上下で余韻を感じていると、不意に腰が浮いた。ゲドが笑っている。
「…!まさか、貴様」
「『名前で呼んでくれ』ファナティック。良いだろう?」
まだ挿したままだったゲドのものが、ムクムクと大きくなる。
「それに、ファナもまだだろ?」
「ファナとはなんだ!?」
だが、反論の余地がない。
事実、自分の躰が求め穴を締めているのが分かる。
ほてった熱も取りきれていない。
「っあ…うひゃあ!!」
動く。先程よりも固くなった棒は、大きな快感の波を引き起こす。
「ふぁ!!貴っ…様」
「名前だよ名前。ファナ」
言うなり首筋に舌を這わせる。
「っう!…ゲドぉ!っあん!くぁ!」
「はぁ、やっと読んでくれたか」
なおも激しくなる動きにガクガクと腰が揺れる。
爪が立つほどゲドの背をがっしりと掴む。
「もう一度出したら、変わらんな。…っはあ、このまま出すぞ」
「にゃ、に…何を…!ひゃあぁあああ!!」
二度目の膣内射精。
完全にファナティックの体力が尽きた。
それでも…





「はぁはぁはぁはぁ、よ…四回中に…なんて」
「子持レイヴン…くく、聞いたことがないな」
「笑…い事じゃ…ない!」
言葉も切れ切れにファナティックはようやく離れた躰をシートにもたれかける。
「…責任は取ってもらうからな」
「…!くくく、はははは!顔赤いぞ」
小さな部屋の中でゲドが笑い声をあげた。

確か、最初も急なキスだった。
今も、ゲドの顔が近くなったと思ったらキスをしていた。
ただし、同じ轍を踏む真似はしない。今度はファナティックがゲドの口内を攻め立てる。
一通り終え、唇を離す。
名残惜しい気がした。
レイヴンなのだ。今、交わっている相手が明日生きている保証はない。
「なぁ…」
さすがのゲドも子供の可能性まで作っておいて、
飄々としては居られないか。ファナティックのかおに相手の力量を知ったような安堵の笑みが浮かんだ…







「っ…んく、ちゅ…あ!」
何故だ。ファナティックの予想を裏切り、ゲドは口淫を要求してきた。
嫌々、自分の液と、ゲドの精が付いたモノを丁寧に舐めとる。フェラチオはこれが初めてだった。性に合わない。と言うことは分かった。
「…満足か?」
体勢を変えるだけで一苦労した上、尽きた体力を振り絞りフェラをした。
これ以上出すものはない。
「あぁ、良かったぞ」
「それはどうも」
絶倫とはこいつの様な奴を指すのか。
体に汗を浮かべただけで『まだまだ』と言った風だ。ふと、思い出す。
「本当にどうするつもりだ?」
「良いのではないか?俺は構わん」
他人事の様に流すゲドにイラッときた。
「本当に出来たら…!」
「ならば」
「なら?…」
「いっそ、家庭を持つのも悪くないな」
「……!ふん、私を越えたら、考えてやる」
ファナティックが笑ってみせた。




数ヵ月後、一人のEランカーレイヴンが突如として
Bランクまで駆け上ることになる。
他人など様々な憶測が飛び交う中、真相は彼と、彼の新妻しか知らない。


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