一体いつまで続く。面倒だ。スティンガーは狭々しいコアの中、苛立っていた。
スミカとかいった女レイヴンが邪魔になっているが、腕が立つ。捕縛しろとの
作戦。眼下の旧市街で戦う様を、一人見下ろしていた。
そもそもがこんな女と自分を競わせるなどが侮蔑。だが、ここで騒がれるのも
面倒だ。
『・・・降りるぞ』
『はっ・・・しかしまだ・・・・』
愚能が。愛機のヴィクセンで輸送機もろとも破壊し、降下する。
本来なら、おびき寄せ叩くはずの作戦。そんなのは勝手に研究者が立てていれ
ばいい。捕縛なぞ手間のかかることは考えない。俺がいればいい話だ。故にス
ティンガーが下した決断は撃破。拉致など[出来たら]としか考えなかった。
ヴィクセンが右腕の標準を定めた。
青。スミカの機体にレーザーライフルを三発打ち込む。
一発目。完全な不意打ちに避けるすべなく、左腕部の間接を貫く。急ぎ、機体
を旋回させるとスミカは一気に後退する。残りの二発は被弾こそしたものの戦
闘に影響を及ぼすほどでない。彼女との距離およそ600m前後、白銀の機体が
降り立つ。
奇形。
それはスミカが知るACの形と似てこそいるがどこか不自然だった。
外装はネスト規格では見たことのない。こちらもオリジナル機だが、向こうの
は、どこか悪魔的でさえある。異常に長い両腕にはレーザーだけでないような
ライフル。左手のは、恐らく盾。計りがたいが、緊喫時の硬直は愚。
分かるのは、敵であること。レイヴンならば、それだけで充分だ。
『一体・・・』
マシンガンで応戦し距離を取る。左手はさっきの射撃で使い物にならない。接近
戦ができないうえ性能未知数の敵ならば離れたほうが無難。
最悪は作戦放棄だ。アンバークラウンへの土地勘なら圧倒的に有利だ。背を向け
スミカは振り切ろうとしたが速い。完全に追いつかれないまでも、逃げ切れない。
盾と思っていたものの前方が煌めく。「日本」の「イアイ」のように振り抜いた。
『光波!?』
寸前で気がつき、機体をズラす。左腕は持っていかれたがもともとつけ使い物に
ならない。むしろブレード使用のせいで不明機は止まる。通信が入ってきた。
『ちょこまかと。面倒だ!』
切っ先の鋭いコアが、光った。突如、衝撃。スミカのコーラルスターが大きな何
かに撃たれた。ディスプレイが上空を映し出し、体勢をスミカに思い知らせた。
損傷を確認して絶望した。脚部が完全に破損している。悪魔は容赦なく詰め寄る。
仰向けのコーラルスターのメインディスプレイに、鮮烈な白が入ってきた。
右腕部をレーザーで撃ち抜く。武装、移動手段を断たれた。だがこの段になって
向こうからの追撃がやむ。
『・・・・どうして?殺せるでしょう』
生への執着が薄い訳でない。ただ醜態を晒すまいと、気丈でいたいとする強がりか
らの捨て台詞。
スピーカーは何も言わず、返事とばかりに左腕を振り上げる。目を瞑る。耐え忍ん
でいた涙が頬を伝った。死んでいない。熱は確かに感じたが、通り過ぎた。開いた
目が捉えたのは溶解して穴の開いた、コアとそこからこちらに銃を向けている男の
シルエット。顔はヘルメットで見えない。
「スミカ・ユーティライネン、貴様を取りきた。出ろ」
まるで物のような扱いだが従うほかない。それにこれはチャンス。相手が機体から
降りてきたならば状況は、まだマシ。出る瞬間、男の手首を肘でうった。思わずこ
ぼした銃を奪い取る。
「動くな!!」
これぐらいの格闘術、レイヴンであるにしろ覚えはある。不覚を取ったはずの男は
全く動じた様子はない。銃口は確かに向けているはずなのに、こちらが劣勢になっ
たような、更にスミカの正確な感想は取り返しのつかないことをしてしまったよう
な気さえした。
「貴様、撃てるのか?」
「嘗めないで、レイヴンよ。下がって。そのまま壁に手をついて」
男は鉄塊になったコーラルスターに向かった。
「ヘルメットを取って。手をつけて」
「・・・だ」
「えっ?」
「・・面倒だ!」
男は振り返ると、スミカの方を振り向いて走る。撃てないと高をくくったか。スミ
カは発砲した。確かに撃った。軌道は誤差なく男へ向かった。
証拠に弾丸は奥の機体表面にぶつかり痕を残した。
「ウソ・・?」
発砲してから男に当たるまで文字どうり一瞬だっただろう。男は、確かに、避けた。
コンマ数秒唖然とするスミカの隙を取り、手刀で喉を打った。
「ぁ!!・・・っか」
痛みと酸欠で朦朧とする。腕をつかまれた。ヘルメットを取られる。
日系である証の美しい黒髪と落ち着いた目鼻立ち。
「ふん・・・」
男はまだメットをしたままなので声がくぐもっている。
「気が変わった。愉しませてみせろ」



地面に投げ捨てられた。
スミカがそう理解したのは、体が押される感覚と直後の落下、左半身に痛みがあっ
たから。ベルトのようなもので目隠しと口封じをされた。
手に巻いた綱で引っ張られるように暗闇を歩かされ、階段を上がる。狂う。視界と
交渉の消失。いつ訪れるか分からない死。極限状態の中、スミカは感覚が麻痺し始
めていた。
「ここだな」
そう言われた時、十三階段を上りきったような恐怖に襲われた。コンクリートの雑
なビルだろう。床は冷たく硬い。じゃりじゃりとした砂礫が溜まっているのも分か
る。
「貴様、立てんのか?」
「!」
綱で無理矢理起こされると、目隠しが取られる。舌を噛み切ると思ったのか、まだ
猿轡は外されない。
「せっかくだ。顔が見えんと興ざめる」
想像していたよりも広いが、八割方正解と言った所か。陰気な空気の廃屋だろう、
落ちている雑誌からするにここが捨てられたのは相当に古い。
「無駄だ。あと一時間もすれば増援が到着する。ソレまでの遊戯だ」
言うなり男は綱を窓枠に縛りつけた。否応無く室内に背を向けることになる。
外は修繕不可能なほどになったコーラルスターと、それを見下す男のAC。似ている
と思った。
「俺は優しくない。貴様のことなど気にかけるのは面倒だ」
声がこもっていない。振り返ると男はヘルメットを取っていた。中々のハンサムで
はあるが、嗄れの印象は端正だとか整っているだとかの話でない。その男の目に、
スミカは底知れぬものを感じ取り恐怖した。あるレイヴンの名が浮かんだ。誰も遭
遇して還ったことがなく、戦闘の意図がつかめない都市伝説のようなレイヴン。
「スティンガーだ。殺したければいつでも来い」
やはりか。顔を見せたので名前など隠すようも無く。
「もっとも、もう貴様は何も出来まい」
スティンガーはスミカの背に覆い被さりスーツ越しに、手荒く乳房を掴んだ。
「・・!」
言ったとおり、優しさの欠片も無く欲望のままに柔らかな胸を変形させる。それで
もまだ、スーツの上からで痛みは感じない。
「このままでは、つまらんな」
スティンガーは人間とは思えないような力で、耐圧スーツを掴み、引き裂く。
「!?」
寒気がした。銃弾を避け、耐圧スーツをものともせず裂く。こいつは化け物か。そ
んなスミカをお構いなしにスティンガーは再び胸を揉みだす。
「ふ・・・・ぅ!!うぅ!」
抵抗しようと、体を動かすたび肩が軋み、痛みが走る。
「死を感じ」
「?」
「貴様の全てを支配している男に嬲られ、貴様は発情するのか」
違うと否定しようにも、声も出せず、体は徐々に順応しようと心を裏切る。
スティンガーが下半身のスーツに手をかけた。

屈辱。自分は今、男に秘所と肛門を晒している。想像するだけで悪寒がする姿勢を
させられている。いくら強く瞼を瞑っても涙が溢れた。
「終わらんぞ」
追い討ちをかけるようなスティンガーの言葉は、的確にスミカの心に傷をつけた。
元々が恥じらいを持つ性分。慎ましやかを美徳とする日本の血が、こんな格好を許
せるはずも無い。
「声を聞かせろ。どういう心境でいるのか」
おもむろにスティンガーはスミカの口から器具を外す。もう舌を噛み切る勇気がな
いのを見透かされていた。実行に至れない自分に腹が立った。
「ガキなど作られては面倒なのでな・・・!」
「やめて!!」
まさか避妊具などを用意しているわけもなく、すぐさまその意を理解する。
理解したが、それは頭でのこと。そんなことをするのはせいぜいアダルト作品かポ
ルノ雑誌であり、自分とは関わりのない、さらに言えば別世界だと思っていた。
スティンガーは左手で腰を掴み、もう一つの手で自らのをスミカの肛門に当てる。
当然そちらに関しては、一度もしたことが無かった。する気も無く、性行為も昔に
「前」でだけ。
「いやぁ!!!」
廃墟に響き渡る声に耳を貸さず、スティンガーはスミカの中に突き入れた。
「!?ひ!!」
熱さ。ついで、抉られるような痛み。身悶えすると、ギシギシと腕が痛む。
「中々やる・・・」
「ぎぃ!!カハッ!!」
快感など何処にも無い。男が堪能する手段に気使いなどあるわけも無かった。
「そのうち、痛みなど消える。黙っていろ・・!」
「そんな・・うぐぅ!!」
突き上げられるたび、芯から壊されていく気がした。ジンジンと中が熱くなり、次
第にスティンガーの言葉どおり痛みが和らいでいく。まさかと否定しようとすると
一層体に、認めたくない感覚が伝う。同時進行で、スティンガーは痣がつくほど乳
房を鷲づかみにしている。
滑らかな肌が、上気して熱を持ち出す。
「気持ちよくなってきたのか?」
「違ッ!!ひぁ!!」
声が出た。疑いようも無く牝の声。声帯を震わすだけの行為が、スミカの尊厳を打
ち崩す。逃れる場を無くし、快感に背をそらした。
「」
「ぅ!うぅ!あぁ!!」
処理しきれない感覚に、圧死しそうになる。視界が霞む。
「なんだ、結局そうなのか・・・」
スティンガーはどこか、残念そうな声色で呟いた。抵抗する女を凌辱するのが好き
なのかもしれない。そんなことを考える余裕はすでになかった。
「まぁいい。出すぞ」
「!!ぁ・・・・」
溶解させるほど熱く、濃い。スティンガーは文字どうりスミカの腹の中に、精を放
った。
「あぁぁぁああ!!」
脳に来る絶頂に耐えるように埃まみれの床を足踏みをし、スミカは失神した。
「落ちたのか、面倒な女だ」
聞くものがいなくなった中、スティンガーは機関に通信をかけた。
ウェンズデイ機関は拍子抜けするほど紳士的であった。
代表の目つきと、耳の残る湿っぽい声が不快だったが、拉致と言うよりは、客人。
何を誤解したか、スティンガーの愛人ないし妾のような勘違いをしているものす
らいた。
何一つ問題はなく、身体検査も体重と背丈のみ。これはスミカが特別のようで、
別のレイヴンはこまごまと調べ尽くされ、その場で「廃棄」されるのもいるよう
だった。後に知ったことだが、女性レイヴンとなると慰み者にされるのが関の山の
ようだ。全てが輸送中にスティンガーから渡された、カード。これを見せるだけで
研究者はコーラルスターすら、調達して見せた。カードに何が書かれているのかは
分からない。ただ、スティンガーがスミカをウェンズデイ機関から離れさせようと
している気がするような施しが、いくつもあった。
スティンガー自身はここが製作しているファンタズマなるものさえ得られれば、機
関への執着心は皆無に近いのも分かった。
脱走のため与えられた時間意外にコーラルスターに乗り込んだときも誰一人として
見張りはいなかった。
「まさか・・・・ね」
もう一度スティンガーの顔を思い出す。いつも険しく、私を汚していったと言い聞
かせている自分がいることに、スミカははっとした。
セキュリティも容易にハッキングできるものに書き換えられ、難なく重い扉が開く。
全速力でコーラルスターが走っていく。走らせながら、一人の急成長株のレイヴン
に依頼メールを打った。
どうしようもなく不器用な男を解放するためには、機関を徹底的に破壊し、幻想を
壊してあげるしかなかった。

『地下複合都市「アンバークラウン」に侵入してほしい』

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