アライアンス結成から約半年。
バーテックスとの戦は日々激化していく。
戦術部隊隊長エヴァンジェは戦闘そのものよりも、
専ら司令本部の呆れるような机上の空論を潰すのに忙殺された。
「隊長、疲れてるみたいですね?」
前線じゃないとは言えこの場にそぐわない妖艶な声。
プリンシバル。アーク時代からの古参と言ったら失礼になるかもしれない。
女性とは歳だとかを気にするものだ。エヴァンジェはそう信じていたし、
事実彼女も装飾などには気を使うほうだ。
直轄の部下である以前に、レイヴンとしてエヴァンジェは好ましいとは
思わなかったが注意をしないのは『邪魔』にならないから。
「何だ、用じゃ無いなら戦略でも考えておけ」
たとえ直属の部下であっても情は挟まない。
戦死した時悲しさが増すだとか、不公平が生じるだとかではない。
ただ、『邪魔』にしかならなかった。『今』も、これから成そうとする事にしても。
「冷たいですね」
自称チャームポイントの縦ロールの髪をいじりながら不満げに漏らす。
「少しは休まないと、倒れますよ?」
半ば強引に手を取る。鬱陶しいが振り払うのも、はばかられた。
「やめろ」
「いやです…それに、女性のお誘い受けられないなんて恥ずかしいですよ」
ため息も出ない。






「どうぞ、コーヒーです」
結局、抗う術は無かった。いや、断るなど容易い筈だった。それすら出来なく
なっていたのかとエヴァンジェは自嘲した
兵士達の数少ない憩いの場とされるカフェ。差し出されたコーヒーの水面には
アーク時代からすれば、他人と見間違うほどやつれた自分の顔が映っている。
「頼んだ覚えは…」
「知らないんですか?レイヴンには無料なんですよ」
「そういう意味じゃ無い!」
「ほら、すぐカッとなる。少しは休まなきゃ」
ずいと押し出されたコーヒーはプレッシャーをかける。
「どうせ本部なんて下らない連中の集まりです」
「ほう、分かっているじゃないか」
渋々コーヒーを口にしながら、意外な部下の一面に感心した。



想像以上に聡明であった。
同時にアライアンス自体に執着は無いことも分かった。
それは何処か自分と似ているような気がすることでもあり興味と
同時に不安要素も孕んでいた。
それから、プリンシバルとエヴァンジェが同行する光景がよく見られた。
アライアンス兵は今まで戦争一筋だった『司令官殿』を
密かに、はやしたてる様な視線を送り続けたが
誰もエヴァンジェ心中を知る者はいない。
だからその日も、ただ単に二人で飲みに行ったとしか見ていなかった。
「ぅ・・・!」
「起きましたか?隊長やはり疲れているみたいですよ。
飲んだらすぐに寝ちゃって」
どうやら、自分は布の上らしい。
何があったか?
覚えているのはプリンシバルと酒を飲み…。頭痛か思考を遮る。
「どういうことだ?」
「私の部屋ですよ?何か?」
「『何か』…ではないだろう」
怒っていても声を出すと頭に鈍い痛みが走り大声は辞めた。
今までのハードワークがたたったのか、四肢も動かすのが面倒だ。
「だから、今日は寝てもらいます」
視界にようやくプリンジパルが入り込んだ。
いつもの縦ロールは健在で、制服でない分なめかましい。
今、エヴァンジェが寝ているベッドの足側の先、バスローブに身を包み
入浴後のケアをしているようだ。全くこういうところは、えらく几帳面な
モノだ。普段見れる筈も無い部下の一面は欲情的であったが、
エヴァンジェ本人の頑迷なまでの高潔な意地が目を閉じさせた。
「隊長」
男としての下らない下心を悟られまいと事もなきように目を開けた先の胸。
弄ぶように大きく開けた胸元を隠しもせず、酒を呷った。
二人で飲んでいたこともあって頬が紅潮している。
「ふふふ」
エヴァンジェの寝るベッドに腰を降ろしカラカラと氷の入った
グラスを揺らした先の顔はどこまでも艶やかに笑う。
「酔っているだろう。変な気を抱く前のはやめろ」
正直そそられていない訳が無い。躰の芯から熱いものが蠢いているのを
誰よりも自身が分かっている。
「隊長も……酔っちゃえば良いんですよ」
もう一口酒を含み、飲み込まぬまま唇を押し付ける。
押し当てられたプリンシバルの口からエヴァンジェの口へ、
酒を移す。噎せ返るほど熱い気がする。アルコール度数やらではなく
気の問題なのだろう。
「知らんぞ?」
「可愛い人。私でよろしければ」
笑った。エヴァンジェは顎に触れ唇を引き寄せた。
もう、酔ってしまおう。




「隊長はお休みください」
そう言ってプリンシバルは、起き上がろうとするエヴァンジェを
止めた。勿論、気使いも在ったが、其の実彼女の性癖に由来する
ところが大きい。
実際エヴァンジェ自身動くのが面倒だったので、素直に従った。
「ふふ、きれぇ」
羽織っていたエヴァンジェのバスローブを脱がしにかかる。
レイヴンであれば自ずと身体は引き締まる。エヴァンジェも
然り。涼しい顔に似合わずいい体格を持っている。
「では」
プリンシバルがその豊かな胸を押し当てながら、男の胸板に
舌を這わせる。
何かに耐えるようなはエヴァンジェの声と表情をプリンシバルは
上目遣いで眺めるたび、喜ぶように、胸板を入念に舐めまわす。
腹、そして今まで乳房で圧をかけていた股間へ蛇のように動いていった。
「まだまだ、マダマダ。これからですよ」
悪戯っぽく笑うとそっと布越しに熱くなっているモノに触れる。
一番神経を集中させたところに生暖かい肌が当たる。
それだけで、欲望を放ってしまいかねない程の電流が背筋を駆け巡ったが
なんとか、体裁がそれを防いだ。
「我慢しちゃってぇ。いけませんよ?」
帯が緩くなる。そのままフサっと床に放られる。何も言わず始められた
布越しとは一線を画す素肌同士の手淫に、今まで以上に甘いものが波打つ。
「っく・・・」
「隊長、素敵…」
自らの手で感じているのを嬉しそうにプリンシバルは、それの先に軽く
口付けをした。その勢いのまま、アイスキャンディーでも舐めるように
口に含む。
身体を180度ずらし、自らの恥部をエヴァンジェの顔面に向けた。「どうぞ」
などと言われて本能を止められる筈も無い。ぐちゅりと卑猥な音が
二人だけの部屋に響く。微かに見える部下が自分のフェラチオする光景と、
逆に自分が吸う光景。えも言えぬ背徳感がエヴァンジェを更に興奮させる。
「むン…っつあ隊長…いつでもお好きな時に」
その言葉がはちきれそうになっていた快感を決壊させることとなった。
申し分なくプリンシバルの顔中に精を放つ。
「…済まない」
「っくっふふスッゴイですね。流石隊長」
胸の谷間に溜まった精液を指で舐め取りながら笑う。
「じゃあ、本番いきますよ?」

あやす様に寝かされ下半身にプリンシバルが馬乗りになる。
いわゆる『騎乗位』だが、エヴァンジェはこの手は初めてだった。
そもそもが、皆無でないにしろ性行為は経験が乏しい。
接合部を見せつけるようにゆっくりとプリンシバルが下がる。
ズブズブと膣に自分の突起が入るのを眺めるのは、不思議な光景で
同時にもやもやとした快感に包まれた
「あはっ、隊長全部入りましたよ」
「わっ、分かっている!」
「もう、ホントに可愛いんですね」
完全に主導権は彼女のものだった。
両手でエヴァンジェの横腹を掴み率先して彼女から動き出した。
「ひゃは!隊長ぉ凄い!…んぁん」
奥の壁を叩いては引き、また打ちつける。最中、プリンシバルは
何かを探すように淫らに踊りつづけた。
「っつぁ!」
「隊長、ここですか?」
エヴァンジェは不覚にもだらしない声をあげてします。
「何を…私なら……っぬ!」
もう一度確認するようにプリンシバルが動く。やはりエヴァンジェの
弱点を衝いたらしい。一度嬉しそうに口元を歪めると重点的に突いて
体をよじらせる。
「つぁ!…」
爆ぜる。何の前置きもなしに彼女の中で果ててしまった。プリンシバルも
上り詰めたらしい。一度大きく首を縦に振り肩で息をしている。
「済まない…」
「謝らないで、隊長……いえ」
先ほどと打って変わって急におとなしくエヴァンジェを見つめる。
なんて事も無いはずだがエラく胸が高鳴る。
「エヴァンジェ」
「なっ…!!おい、履き違えるなよ、あくまで上官だ」
不機嫌に言うエヴァンジェをよそにプリンシバルが抱き寄せる。
「あなたは、エヴァンジェ。あなたは抱え込みすぎている。…せめて
私の前では何も……」
次第に抱きしめられる圧力が大きくなる。息がしづらい。
喉の奥がむせ返る気がする。
「だからこうしている時だけでもあなたは『エヴァンジェ』。泣いていいの」
再び見上げた彼女の笑顔は先より、ずっと明るく光っ見えた。
「ところで…」
「?」
「『ドミナント』って知ってますか?」
二人並んでベッドの上、硝煙の雲から微かに漏れる月光の下静かに汗が滲む肩を引き寄せあった。
「名だけは」
ドミナント。確か頭でっかちな科学者達が最近急に提唱しだした先天的な才覚らしい。
下らなかった。今の地位にまで辿り着いたのは力があったからだ、と
言うのがエヴァンジェの持論である。叩き上げの軍人なのだ。度々、司令本部と
ぶつかるのはエヴァンジェ本人の性格にもあった。
「信じますか?」
「無いな」
「へぇ、意外。貴方ほどなら信じていると思ったのに」
「居るとすればこんな情勢を一気に変える者だ。それに・………」
「それに、なんです?」
エヴァンジェはもう一度肩を抱く。
「今は心の拠り所は出来ている」
「やっと、素直に笑ってくれましたね」
母にすがるように胸に頭をうずめた。



  • プリンシバル戦死-
決戦を前に一機の中立レイヴンに殺された。
それ以降エヴァンジェはより前線に立つようになり自らをドミナントと
称し始める。
そして、それより約20時間後
「笑わせる…」
忘れていた。仮初の拠り所であったことを。仇敵を前にそんなことすら。
今そっちに行く。爆発寸前のコアで独り思う。
「偽物は私のほうだったか」
インターネサインが破壊されたのと同じころ一人の戦死者が出る。
彼が見た最期の夢は、誰も知らない。

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