何事も、覚えたてというものは時間の経過というものを忘れて熱中してしまうものだ。
「これが若さ、か・・・・・・」
 呟いて、セレンが咥えていた煙草に手を沿えて気怠げに煙を吹かす。
 既に見慣れてしまった天井の模様に目を走らせながら、彼女は部屋の主のタフさを再確認していた。
「セレンさん、こういうのはどうですか?」
 愉悦の響きを声に滲ませた青年の指が新たな軌跡を描き、惚けていた彼女の思考を追い立て始める。

 青年が掌の下に広がる突起を両の指でリズミカルに叩くと、それは常に一定の力で押し返してくる。
「んっ―――わるく、ないな」
「ようやっと、コツが掴めてきたって感じですね」
 感触を忘れぬ内に、と青年に強くせがまれたのを断りきれなかった、自分が悪い。
 そうは思いながらもセレンは心の中でついつい、ぼやかずにはいられなかった。
 ―――本当に良くも飽きないものだ。
 
 その行為の妨げにならぬ様に心の声を再び紫煙に乗せて、セレンはストレイドのチューンナップ設定を表示したディスプレイとキーボードを打ち続ける愛弟子の横顔を交互に見つめ続けていた。

マザーウィルとの戦闘で得た教訓と経験を直ぐにでも活かしたい。
 先日のミッション終了後、ネクスト搭乗後のお約束である精密検査を済ませた青年の申し出を受けセレンは急遽本日のスケジュールを組み、必要な資料と機材を揃えて彼の部屋へと出向いていた。

 そしてその結果、セレンは今現在大いに時間を持て余している。 

「にしても・・・・・・何時までも経っても片付かんな。お前の部屋は」
 既に短くなった煙草を灰皿の上で捻り潰し、セレンが呆れ顔で呟く。
 時間にして6時間半。分にして390分。
 その間殆どディスプレイから目を離さず作業に没頭する青年を見守り続けるのにもいい加減飽きを感じ始めて、セレンはきょろきょろと部屋の中を見回していた。

「え・・・・・・あ、部屋の事ですか。でも、セレンさんがここに来るのってまだ3回目じゃないですか」
「次に来た時には片付くとでも言うのか。全く、こんな状況下でよく作業に集中していられるものだ」
 集中力ゼロといった感じで手近に落ちている物体を物色し始めながら、セレンは文句を言い続ける。
「折角のアセンブル資料もこの扱いでは到底―――こら、覗くなよ」
「それはこっちの台詞です。人の部屋を勝手に漁り始めないで下さい」
 椅子から半ば腰を浮かした姿勢で床に手を伸ばしていたセレンが背後にいる青年の視線に気付く。
「どうだかな・・・・・・お前は思っていた以上に目端が利く。侮れん」
 上は黒のノースリーブに下は紺色のジーンズという格好の彼女だったが、それでも一応は突き出したヒップが気にかかるのか、チラリと肩越しに青年の方を振り返りながら睨みを効かせていた。
「言葉の使い方、間違っていますよ。先生」
 ―――口の減らない奴だ。
 自分のミスを棚に上げて青年の抗議の声を黙殺すると、セレンは得意の捜索作業を続行し続けた。

埃を被った床の上で乱雑に散らばる雑誌類と衣服。
 所々生地の破れた狭苦しいシングルのベッドに茶色く染みのついたシーツ。
 戸が開け放しになったまま、本来の役目を果している様には見受けられないクローゼット。

 散らかり放題の部屋の中、そこだけが異様な程丁寧に整理された青年の専用端末の設置スペース。 

「―――む? これは・・・・・・」
 混沌を極める捜索状況の中、彼女は一つの異変を探り当てる事に成功していた。
 クローゼットからベッドに一直線に続く床板の上のみ、そこに積もった埃の量が僅かに少ない。
 一見何の法則も無く無軌道に乱れた部屋の中にあって、セレンはその形跡を見落とさなかった。
 相も変わらず机の前で黙々とチューン作業に打ち込み続ける青年を、ちらりと片目で確認するとセレンは部屋の奥へと気配を殺しながら、一歩ずつそろりそろりと足を踏み出していった。

「ここも既に、この有様か」
 汚染が酷いな。
 そう付け加えてから覗き込んだクローゼットの内部をセレンは己の目で以て細かに調べ上げていく。
 開いたままの引き出しの中に投げ散らかされた人工革製のジャンパー。
 片隅に転がる、出鱈目な時間を指し示したまま針の動きを止めた黒い腕時計。
 季節外れの防寒着に何故だか存在するスノーゴーグル。
それら、全く使用されていないと思われる物体が辺りを所狭しとばかりに占拠していた。

「故人曰く。宝を隠すにはガラクタの中、か」
 今度は青年の声が飛んで来ないのを確認したセレンが、細く白い腕を伸ばし周囲を探り始める。

「本当にガラクタばかり―――ん?」
 調べる続ける事、数分。その腕と目の動きを、はたと止めてセレンが呟く。
「これは・・・・・・」
 その手が触れたのは、スペースの最奥部に積み上げられた分厚い数冊の本だった。

「ネクストとAMSに関するマニュアル全集―――随分と、使い古された手を使う」
 言うが早いか、セレンは左手で本の背表紙部分を押さえ、残る右手をその下へと差し込んでいた。
 ―――ざっ。
 短い摩擦音を立て、本と本の間から1冊の雑誌が抜き取られる。
「――――――ふむ」
 肌も顕な成人女性の痴態が堂々と表紙を飾った雑誌が、そこにはあった。


「君のOIGAMIから溢れるコジマ粒子を解き放て! ・・・・・・誰だ、こんな記事を書いた奴は」
「ちょ、待っ・・・・・・セレンさん! 何しているんですかっ!?」
 突如、抑揚の無い声で特集ページの見出しを朗読し始めたセレンに驚き、青年が素っ頓狂な叫びを上げ勢いよく振り向く。
「こういったものが趣味なのか。お前は」
 その所業を見咎められて尚、別段慌てた素振りも見せずに彼女は手にした雑誌の1ページを椅子から立ち上がって身を乗り出してきた青年へと向けて開いて見せる。
「――――――!」
 眼前に飛び込んできた一番のお気に入りであった一枚絵に、青年は水面に浮かぶ餌を求める金魚の如くパクパクと口を動かしながら、その全身を硬直させていた。

「私としては、重量級に偏った選定をするよりは中量級を軸に―――」 
 ばしっ。
 その発言が終わるよりも一瞬だけ速く、我に返った青年が乱暴な手付きで雑誌を奪い取っていた。
「・・・・・・そんなに、それが大切というわけか」
 場所の薄暗さ故か、呟いたセレンの表情が微妙な変化を見せていた事に青年は気付けない。
「本当に、何しているのですか・・・・・・」
「そう恥ずかしがるな。お前くらいの年齢の男性には良くある事なのだろう」
 苦悩の表情を浮かべて深く溜息を吐く青年へと向けて、セレンは慰めにもなら無い言葉を返していた。

「勘弁して下さいよ―――って、セレンさん?」
 またいつもの調子で自分をからかって遊んでるのだ。
 そう考え、彼女のにやけた顔を覗くつもりで視線を動かした青年の視界に予想外の結果が飛び込む。
「何だ」
「いや、何だか・・・・・・少し―――怒って、ます?」
 この手のやり取りの後に彼女が毎回見せてくる余裕の表情とは掛け離れた、憮然とした表情と態度に遅まきながら気付いた青年が、恐る恐るといった感じで質問を投げ掛けた。
「・・・・・・私が何故、お前の趣味に対して怒らねばならんのだ」
「趣味に怒ったんですね。わかりました」
 暫しの間を置いて返ってきた彼女の言葉の響きの中から明らかな怒気を感じ取り、青年が頷く。

 ―――セレンさんが、怒った。
 その事実を認識して青年の意識が一瞬遠くなりかける。
「・・・・・・明るいところで、話しましょう」
 まずは、時間を稼ぐんだ。打開策は、その間に考えればいい。
 内心の動揺を必死に抑えながら、青年はクローゼット内を足早に後にしていた。

セレンは、かつて感じた事のない感情に強い困惑を覚えていた。
 長時間に渡るネクストのチューン指導。
 異性の部屋で独り時間を持て余すという状況。
 大量のピンナップが掲載された男性向け雑誌とその内容。
 その全てが彼女にとって初めての事尽くめであった。

 ―――私は、怒ってなどいない。
 青年に対して怒りを覚える明確な理由など自分にはない。
 そうは考えても全身を走り続ける不明瞭で煩わしい感覚が気に掛かり、それが止むことは無かった。
 
 故に、セレン・ヘイズは己のとった行動に困惑していた。


「セレンさん、俺が悪かったです。機嫌直して下さい」
 そう謝ってしまえば、彼女を宥める事は可能だったのかもしれない。
 だがそれだけでは急場凌ぎの無計画な回避行動に過ぎない。
 戦場に措いて、仕掛けてきた相手の意図を掴めぬままに状況に流されるのは愚の骨頂。
 青年はそう考える。
 ―――陽動を仕掛けてみるか。
 眼前で微動だにせず佇む女性に気圧され、焦燥に駆られた思考が慣れもせぬ虚偽の一手に指を伸ばす。

「セレンさんが怒るのは、俺にだってわかりますよ」
 薄皮一枚で作られた余裕の笑みを浮かべて青年が口を開き、セレンの眉がぴくりと反応を指し示す。
 ―――私には、見当も付かないのだがな。
 その呟きを何故だか言葉にはできずに、セレンは沈黙を守り続けた。
「仮にも職場を兼ねる場所に、品の無い私物を持ち込んだのは認めます」
 直球。
 何の捻りも無しに持って回った事実確認でセレンの神経を逆撫でしながら、青年は「陽動」を続ける。
「でも・・・・・・俺にだってプライベートってものはあるんですよ」

 ―――プライベートだから、立ち入るなという訳か。
 青年の放った一言に己の感情の揺らぎが強まったという事だけは、セレンにも理解できた。
「セレンさんにだって、他人に知られたくない秘密の一つや二つはあるでしょう?」 
 無言の重圧に心のPAを削り取られながら舌先を回し続ける青年には、それが理解できていなかった。
「だから今回の事はお互い水になが―――」
「わかった」
 締めの言葉を遮り、セレンが口を開くと青年は知らずの内にほっと胸を撫で下ろし。
「今日からお前と私は、単なる部下とその上司の関係だ。それを肝に銘じておけ」
 そのままの姿勢で、全身を凍りつかせていた。


「セレンさん、俺が全面的に悪かったです。本当にゴメンナサイでした」 
 すぐにそうして謝っていれば、彼女の怒りを爆発させる事も無かったのかもしれない。
 恐ろしいまでの衝撃力を伴った絶縁宣言に依る硬直から何とか復帰し、青年は頭を垂れ続けていた。
「謝る必要など、ない。いいからそこをどけ」
 目の前に立ち塞がる青年の身体には指一つ触れようとせず、セレンが淡々とした口調で告げる。
 ―――本気だ、この人。
 冷ややかな眼差しで自分の背後にある部屋の出口をじっと見つめる彼女の様相に、青年は戦慄を覚え思わずごくりと生唾を飲み込んでいた。

 如何な理由であれ宣告通りの結果に辿り着くのだけは、何としても避けたい。 
 そこに至るまでの手立てを求め、青年は気後れした身体を引き摺る様にしてセレンに詰め寄る。
「・・・・・・せめて、セレンさんがそうまで怒る理由だけでも」
 食い下がる。例え打つ手が無くとも、そうする事だけは徹底的に叩き込まれてきていた。
 しかし今回はその指導役が相手。薄い望みとは知りつつも、青年は尚も粘りの姿勢を取り続ける。
「さあな。お前は知っているらしいが、私には見当も付かんのだ。答えようもなかろう」
 だが、必死の思いで縋りつく青年に対し、セレンは取り付く島も見せない。
「うっ―――し、失言でした・・・・・・お願いですから、教えて下さい」

 それは青年が精神的に追い詰められた末に、反射的に洩らした一言に過ぎなかった。  

「―――」
 仕方が無いな。
 は、と口を開きかけてセレンの動きがそこで止る。
 ―――何だ。私は今一体、何を言おうとしていた。
 喉元まで出かかって来ていたその言葉にセレンはかぶりを振って抵抗する。
 
 これだ。これが、突破口だ。
 直感が彼の頭上に舞い降りる。
 大した期待すら持たず。むしろ諦めに似た感情を織り交ぜて口にした、嘆願の言葉。
 それに対してセレンがほんの僅かな瞬間見せた、素そのものの表情を青年は見逃さなかった。
「教えて下さい。セレンさん」
 最小限の言葉を選び、真摯な口振りで青年が追撃を開始した。

「自分で考えろ」
 変化。無関心から、明らかな反応に変わったそれを青年は見逃さない。
『有効な攻撃手段を見出しても、戦果に逸った不用意な濫用は避けろ。まずは相手の隙を窺え』
 了解。
 脳裏に蘇ってきた師の教えに、青年は心の中でだけ短く返答をする。
 平静を装う彼女の言葉尻に隠しきれぬ戸惑いを嗅ぎつけた青年が、左の掌で自らの口元を覆って
 神妙な面持ちで以て思案顔をしてみせる。
「・・・・・・怒っているわけではない」
 暫しの間二人の間に流れた沈黙を破り、セレンが口を開いた。

 怒っているわけではないのだ。
 真剣な表情で考え込む青年を目の前に次第に心の平静さを取り戻して、彼女は自らが告げた言葉を反芻するかの様に心の中で呟いていた。
「怒っているんじゃないのなら、何で、部下と上司だなんて言い出すんですか。教えて下さい」
 何故だろうな。
 ずっと覗く事のなかった、もう一つの自分の心の奥底で燻る気持ちに向けてセレンは自問する。
「俺は、セレンさんと他人同然になるなんて嫌です。だから、理由を教えて下さい」
 青年の口調に熱が篭ってくる。
 
 その熱にあてられ、火がつくのがわかる。
 青年の手から離れた雑誌が、とさりと乾いた音を立てて床の上へと着地する。
 肩に掛けられたその両腕を馴れ馴れしいとは、セレンは思わない。
 嫌悪感は、ない。
「―――だったら」
 あるのは、幼い子供の様に全てを欲しいと願う衝動だけ。


「だったら、私以外の女に興味を向けたりするな!」

「は―――?」
「は、じゃないだろう。この、朴念仁が」
 間の抜けた声を上げた青年のシャツの襟首を掴み上げて、彼女が前に詰め寄る。
「い、いや、セレンさん。ちょっと話が見えな―――」
「まだ言うか。なら望みどおりに教えてやろう。私を他人ではなく、恋人として見ているのならこんな低俗な雑誌に掲載されている、胸が大きくて頭の薄そうな胸ばかりデカイ牝犬に向けてこの節操の無い代物をおっ勃てているんじゃないと言っているんだ。わかったか!」
「ちょ、待っ、握らないで! 潰さないでセレンさん!」
 特定の形容詞を繰り返しながら、青年の重要器官に手を伸ばしたセレンが一気に捲し立てる。

「大体、朝から日が暮れるまでレディをほっぽり出して仕事の虫とは何だ。何時から私はお前の付属品になったというのだ?」
「いや、だって、何時もやれるところまでは一人でやってみろって口癖の様に」
 必死の抵抗で彼女の細腕を抑え付け、青年が抗議の声を上げる。
「少しは初心者らしい所でも見せて上役の顔の一つも立てろ。馬鹿野郎が」
「セ、セレンさん実は寂しかっ―――ノゥ! ストップ、ストップです! 捻らないでぇぇっ!」
「女の恥らいという物も理解させねばならんか。全くそういった事ばかりに手が掛かるhttp://cms.wiki.livedoor.com/wiki/edit?wiki_id=723...
 ぎりり、と更に腕に力を込め、出来の悪い生徒を叱り付ける様な口調でセレンが呟いた。

 ―――このままじゃ、嬲り殺しだ。
 過去経験した事のない恐怖と激痛に身を悶えさせながら、青年は何とかこの窮地を脱するべく一つの賭けに出る事を決意していた。
「じゃ、じゃあ、セレンさんに質問があったので、教えて下さいっ」
「ほぅ。聞くだけは聞いてやろう。精々、辞世の言葉にならない様に注意はしろよ」
 苦し紛れの感が拭いきれない青年のその言葉に、優しげな声音でセレンが返す。
 当然その目が笑っていないのを確認し、青年は喉を大きく鳴らしながら慎重に言葉を選び始めた。

「何故、私がこんな事をせねばならんのだ・・・・・・」
 黒のノースリーブの裾に手を掛けたセレンが、無数の皴が刻まれたシーツの上でぼやく。
 そんな彼女の様子を横目で窺いながら、青年も彼女に倣って同じベッドの上に腰掛ける。
 まさか、本当に聞いてもらえるとは。
 内心の動揺を悟られぬ様に表面上では真剣な表情を保ったまま、青年はつい先程彼女に投げ掛けた質問とそれに対して出された返答を思い返していた。

「パイ―――なんだ?もう一度言ってみろ」
「や、名称はどうでもいいです。重要なのは中身ですから」
 釈然としない。
 そんな表情で自分を見返してくる彼女に向け、青年は床から拾い上げた雑誌を開いて見せていた。
「む・・・・・・」
「おっと、セレンさん。タンマです。まずは冷静になってこのページを見て下さい」
 明らかに不機嫌さを増したセレンに静止の声を掛けて、青年が説明を開始する。

「ここに写っている女の人、何をしている様に見えますか?」
 青年の右の人差し指が示したのは、肌と言う肌を露出させた女性が無駄に逞しく鍛え上げられた肉体を持つ男性の股間に在るモザイク部分を、その豊満なバストで包み込んでいる光景だった。
「な、ナニをしているか、だと」
「まあ、ナニしてますね。見ればわかると思いますが」
 チラ、チラと雑誌の男性と自分を見比べるセレンを無視して青年が言葉を続ける。
「これをですね。実際にやってもらったら、一体、どんな感じなのかなー・・・・・という質問なんです」
 その質問に一瞬きょとんとした表情で青年を見返し、はっと我に返ったセレンが首を振る。

「そ、そそそ―――そんな、そんな恥ずかしい事ができるか!」
「・・・・・・そうですか。残念です」
 狼狽しながらいつもより声のトーンを高くして拒否反応を示すセレンに対し、青年は至極あっさりと諦めの声を上げて見せた。
「え、あ―――いいのか?」
「先生ができないと言うのなら、仕方がありません。この行為は通常の性行為よりも格段に難易度の高い、高等技術ですし・・・・・・経験の浅い先生には、無理もありませんね」

 ―――なんだと。
 気に入らない。視線は合わさずに、自分に向けられた青年の落胆の様子が気に入らない。
 気に入らない。胸ばかりが極端に発育した小娘にできて、自分にできないというのが気に入らない。
「・・・・・・? セレンさん?」
 俯き加減になって肩を小さく振るわせ始めた彼女の様子に気付き、青年が声を掛けた直後。
 

 セレンの右の親指が、その背後に設置されたシングルベッドを指し示していた。

 ダウンライトに照らされた部屋の中で響く、生地と合成繊維の擦れる僅かな音が青年の耳を打つ。
 ぎこちない手付きでジーンズのジッパーを引き下げ、細く引き締まった両脚を抜き去るとセレンは
 微かな溜息を吐いて全身の硬直を解いた。
「・・・・・・お前も脱げ!」
 既に上着を脱ぎ終えて下着姿になっていたセレンが、惚け顔でその光景を見つめ続けていた青年に向けて呆れ気味に催促の声を上げる。
「セレンさん・・・・・・」
「言うな。いいから、お前が脱がんと話が進まんだろうが」
 ごもっとも。そうは思いつつも青年はセレンの白い肌を僅かに覆う衣類に目を奪われていた。

「シリエジオカラー・・・・・・」
 無地のシャツを脱ぎ捨て中腰になってズボンを引き摺り下ろしながら、思わず青年が口を動かす。
「婉曲な表現でも同じだ。ストレイドも同じカラーリングにされたいか?」
 珍しくむくれた様な表情で脅しを掛けてくるセレンに、青年が首を横にブンブンと振って答えた。
「いや、でも―――うん。可愛いですよ、セレンさん」
「そうか。だが、お前のここは可愛くないぞ」
 素直に感想を述べる青年のその下半身に視線を注いだセレンが、存在を主張し始めた男性の象徴を左の人差し指でツンと軽く弾く
「元気なものだな。全く」 
「そりゃあ、期待しちゃってますから」
 御期待に沿えるといいがな。
 声には出さぬ様に口中で呟き、セレンがソフトワイヤーのブラのホックを外していく。 
「じろじろと見るな。後、もう少し照明は絞れ」
 肩紐外し終え、両腕を胸の前で交差させてブラと二つの重みを支える様な姿勢を取ったセレンがトランクス一丁になって自分を見つめ続けていた青年へと、いつもの如く指示を与える。
「えー・・・・・・偶には明るい所でセレンさんの身体、眺めて見たいんですけど」
「物好きだな、お前も。・・・・・・兎に角、今回は暗くしてくれ」
 ブツブツと抗議の声を上げながらも青年がベッドの脇に据付けられた小型のテーブルの上にあった
 リモコンを手に取って光源を調整すると、セレンは息一つ吐いて両腕の緊張を解いた。

「準備ができたぞ。そちらも開始しろ」
 心なしかその視線を宙に彷徨わせて、セレンが青年を急かす。
「了解。おりゃっ」
「―――っ!?」
 青年のトランクスがズバッという音を立てて勢い良く引き下げられ、その直ぐ傍らにいたセレンの鼻先僅か5cm程の位置に男のシンボルが躍り出る。
「お、驚かせるな。・・・・・・それにしても本当に元気なモノだな。昨日のミッションで少しは身体の方も疲れてはいないのか」
 一瞬、身を仰け反らせて息を呑んだセレンが今度は青年の方をまじまじと見つめて感想を洩らす。
「そういえば、目の前で見られるのは初めてですね。普段は出したらすぐに埋めちゃいますし」
「―――と、兎に角だ。始めるぞ。ええ、と・・・・・・」
 青年の何気ない言葉を聞いて、思わず頭の中に浮かんできた「普段の光景」を振り払ったセレンが身を乗り出して、そこでピタリと硬直する。
 
 先ず、非我の戦力差を計算する事。それは戦場に於ける情報収集行動で第一に優先する事であった。
 ―――正面から行くのは、得策ではないな。
 暫くの間そそり立つ怒張と己の胸元とを見比べていた彼女は、そう判断すると青年に視線を移した。
「もう少しだけ、小さくして貰えないだろうか」
「またそんな無茶を・・・・・・」
 唐突に無理難題を吹き掛けられて困り顔を浮かべる青年に、セレンはチッと舌打ち一つして両手を自らの乳房へと添えて再び怒張と向き合った。
「仕方が無いか。―――いくぞ」
 数秒置いて、ようやく覚悟を決めたのか。セレンが腰掛けた位置から身体を前にずらして移動する。
 そのまま青年との距離を詰めると、顔をやや横に背けながらおずおずとした動きで以て自らの乳房を天を仰ぐ怒張に差し出す様に近づけていった。

 ヤバイ。これはくるものがある。
 慣れない様子の彼女のその動きを見下ろしながら、青年はごくりと生唾を飲み込んでいた。
「ん・・・・・・」
 小さく声を洩らして、セレンが白く柔らかな乳房で青年の怒張の先端に触れる。
「っう、わ・・・・・・」
 ひやりとした感触が一瞬で広がり、それが視覚的な興奮と相まって青年は小さく声を上げていた。
「こ、こんな感じでいいのか?」
 恐る恐る、と言った口調でセレンが尋ねてくる。
「あ・・・・・・は、はい。できたらもう少し、こう、包み込んでくれる様にして―――っ」
「こうだな。何だ、意外に簡単なものだな」
 青年の反応に気を良くしたのか、自らの乳房を掌で左右から揉み上げる様にして剛性を増した怒張を責め上げながらセレンが独りごちた。

「すごっ・・・・・・う、く・・・・・・」
「どうだ? 感想を聞かせてみろ」
 堪える様な表情をして息を荒げる青年に対し、セレンが早くも余裕の笑みすら浮かべて問いかける。
「え、と・・・・・・なんていうか、刺激そのものよりも、この状況がエロいです」
「む・・・・・・気持ち良くはないのか?」
 微妙に手と指の動きに変化を付けながらも、青年の答えにセレンが不服そうな声を上げる。
「うー・・・・・・気持ちは、いいですよ。でも何だかこうい―――うぁ!?」
 弁明じみたその言葉を突如下半身を襲った強烈な快感に遮られ、青年は激しく身を震わせた。
「す、すまない。刺激が、強すぎたか?」
 急変した青年の様子に驚き、セレンが顔を見上げる。
 その口元には、室内を薄暗く照らすダウンライトの光を鈍く反射する一筋の軌跡。

―――咥えたんだ。セレンさんが、俺のを。
 その行為の正体に辿り着いた青年の息と鼓動が、自然と乱れていく。
 くらりと眩暈がする様な陶酔感。頭の芯が沸騰するかの如き高揚感。
 その二つと今しがた感じた快感とが混ざり合い、青年の意識を支配する。
 支配する。幼い子供の様に、欲しいと思うモノをそうする為に。

「すまん、調子に乗っていた。酷い事をしてしまったな・・・・・・」
 沈黙を続ける青年に、しゅんとした様子で謝罪の言葉を述べたセレンがその身を離そうとする。
 ―――ヒドイコトをした?
 それを阻む様に青年の両手が疾り、垂れ下がろうとする彼女の左腕と右肩を押し留めていた。
「なっ・・・・・・」
 予想外の力強さで身体の自由を奪われ、セレンが反射的に顔を見上げる。

「安心して下さい。酷い事なんて、セレンさんはしていませんよ」
 滾るのがわかる。心と身体の両方が。
 整った顔立ちに、怯えの色を入り混じらせて見上げてくるセレンに青年が宣言する。
「ヒドイコトをするのは―――僕の方です」

 まずい。不味い。マズイ―――。
 セレンの頭の中に人生最大級の警鐘が鳴り響く。
 窮地を窮地足らしめるのは、それを回避する事自体が困難であるからだ。
「先に感想を言っておきますね。―――最高ですよ、セレンさんは」
 避けられない―――否、避けてもコイツは絶対に諦めてくれない。
 一度獲物を定めた肉食獣のそれに類する瞳の輝きを青年に見止めて、セレンは微動だにする事すらできずに息を震わせ続けていた。

「そうか。ならばもう、満足しただろう」
 恐怖に屈するよりも速く、セレンが口を開く。
 攻守の選択ではなく、退避する事を彼女は即座に選んでいた。
「ええ。しました。だから次は、僕がセレンさんを満足させる番です。月並みですけどね」
「・・・・・・遠慮しておこう。身体が保ちそうにないのでな」
 嬉々とした口調で語る青年の申し出を断ってセレンが腕に力を入れるが、びくともしない。
「そう言わずに。セレンさんがお望みの通りに、セレンさん以外の女性に興味を向けたりしないのを是非証明して見せたいんですよ」
 優しげな口調で語りかけてくる青年の瞳に宿る暗い情欲の炎に己の肌を照らされ、ぞくりと彼女が背筋を震わせたのは恐怖故か。


 息を吐けば、それを咎める様に青年の指が白く透ける肌と乳房の上で踊り、彼女の思考を狂わせる。
 肩を戦慄かせれば、すぐさま唇を奪いあやす様に黒髪を撫でつけて、その心を満たしてくる。
 
 舌を這わせれば、苦鳴の声の中から押し殺した吐息が微かに洩れ、青年の欲望を満たしていく。
 腰を引き寄せれば、身をくねらせてそこから逃れようとする肢体に、その渇きが増してゆく。

 青年の掌の間から零れ落ちる様にその姿を覗かせた乳房が、ダウンライトの光を妖しく照らし返す。
「もうこんなに、汗掻いちゃいましたね。ここなんて・・・・・・ほら、特に酷いです」
 正面からセレンを寝台の上に組み伏せた青年の指が彼女のうなじから脇の下へと奔り、そのまま下腹部に到達して跳ね回り始めた。
「や、め・・・・・・あ、く―――っ」
「そんなに締め付けないで下さいよ。僕の指までずぶ濡れになっちゃうじゃないですか」
 指先でその抵抗とぬめりを愉しみながら、青年が苦笑混じりにセレンを非難する。

「おま、え・・・・・・あ、とでおぼえ、て―――ぁあ!」
「後で、何ですか? そんなに言葉を途切れさせていたら、オペレーターなんて務まりませんよ」
「こ、の・・・・・・あっ、はぁっ・・・・・・や、めっ・・・・・・ろ」
 未だその気丈さを失わせていない彼女の燃える様な瞳に睨まれても、まるで臆した様子も見せずに青年が指の動きの激しさを増していく。
 じゅぷ、じゅっ、ちゅくっ・・・・・・。
 その責めに彼女の秘裂を濡らしていたぬめりが湿り気の域を通り越し、卑猥な水音を立て始める。
「凄い音ですね、セレンさんのここ。案外、喋り声よりこっちの方が大きく出せるんじゃないですか?」
「―――なっ、なにを・・・・・・っあ、ひっ・・・・・・やぁ・・・・・・」
 声を殺し、身を強張らせて必死に耐える彼女の耳元に顔を近づけて、くすくすと笑い声を上げながら青年がそう囁きかけると、セレンは頬を一瞬で紅潮させて再び戦慄くように身体を震わせ始めた。

 甘く痺れる様な感覚が、徐々にセレンの全身を支配し始める。
「ひっ、あ、ぁ・・・・・・いやぁ、いやあぁ!」
 青年の若くしなやかな力を蓄えた指先がもたらすそれが、激しく水音を立てる秘裂から囁き声を吹きかけられた耳元へと向けて細波の様に広がっていき、全てを狂わせる。

 怖い。これまでの彼と違う、目の前の男が怖い。
 恐い。今までの自分の殻を優しく溶かしていく、甘いさざめきが恐い。

 肩が抱き寄せられ、それにしがみつく。唇と唇は触れたか触れないか。
 互いの手が互いの首筋の消える事の無い傷跡へと伸び、それを覆い隠す。
 ―――僕がついています。
 流れ込んできた暖かな声に最後の畏れを奪われ、セレンの意識は弾け飛んでいた。
 


「全く・・・・・・何につけても強引すぎるぞ、お前は」
 いつの間にか逞しく成長した青年の胸板に埋めた顔を、拗ねた様に背けてセレンが溜息を吐いた。
「セレンさんは、頑な過ぎるんですよ―――いてっ!」
「生意気な口を叩くのはここか。それとも・・・・・・ここかっ!」
 満足気な表情で目を伏せて自分に肩に右腕を回してきた青年の口元をセレンが小突き、続けて元のパルス砲サイズに戻った局部へとターゲットを移す。
「わ、ちょっとセレンさんっ!今こっちPA展開してないんですけど!」
「好都合だ。今後迂闊に悪さができない様、動力源を潰してやろう」
 慌てふためく青年にニヤリと笑みを浮かべて見せて、セレンが執拗に竿の直下にあるタンクを狙う。
「こらっ、暴れるな。大人しく―――」
 もがく青年の腕を押しのけて目標へと顔を辿り着かせたセレンが、そこにあった光景に絶句していた。
「・・・・・・おい。これは一体、どういう事だ」
「いや、だって俺、射精した訳でもありませんし・・・・・・仕方ないじゃありませんか」
 それまで二人の間に流れるムードを読んでその身を潜めていた男性の象徴が、セレンに与えられた
 刺激に反応して再び大きく起立していたのだ。
「まあ、な・・・・・・」
 その言葉に納得し、呟いたセレンが何かを思案するかの様に俯く。


「・・・・・・たいのか」
「え?」
 彼女にしては珍しい、蚊の鳴く様な声を青年は聞き取る事ができていなかった。
「セレンさん、今なんか言いま―――」
「お前もちゃんと満足したいのか、と聞いているのだ!」
 がば、と勢い良く顔を上げたセレンが、青年に向けて大音声で問いかける。
「ええと・・・・・・取り敢えず。顔、真赤ですよ」
「うるさいっ。したいのか、したくないのかだけを答えろ」
 睨みを利かせ、しかし頬は見事な朱色に染めたセレンが青年を睨み付けた。
 ―――可愛いなぁ、セレンさんは。
 口に出すと余計に怒り狂うのが目に見えていたので、心の中だけでそう呟くだけに留めて青年はその問いに対して大きく頷き返していた。


「あ・・・・・・やぁ、あっ―――や、止めろ。もう十分だぞ」
 濡れた声が再び室内に響き渡り、そしてそれがすぐに制止の声へと変わる。
「ん、りょーかいです。・・・・・・なんかセレンさん、感じ易くなっていません?」
「ば、馬鹿な事ばかり言ってないで、少しは真面目にやれ」
 つい今しがたまで胸に舌先での愛撫を受けていた彼女が、青年のその指摘に狼狽の声を上げた。
「真面目に、ってのも何だか可笑しいですけど―――やっぱ、もうちょい続けさせて下さい」
「こ、こら。話が先に進ま―――あぁ、もう、おま、え・・・・・・という奴はっ・・・・・・・!」
 青年が一旦離したその舌先を目の前で揺れる柔らかな乳房の先端へと、再びちろちろと這わせ始めそれに呼応するかの様にセレンの黒髪が乱れ、息が瞬く間に弾む。

「おっぱい、ふにょふにょになっちゃいましたね」
 言いながら、青年が空いていた左の掌で彼女のほんのりと朱に染まった乳房を優しく捏ね回す様に撫でつけ、もう片方から零れ落ちてきた唾液を丹念に塗り込んでいく。
「おまえが、す・・・・・・っ、きな・・・・・・ぁは、ぅ―――っ」
 二つ揃いの柔肉を責め上げられたセレンが、襲い来る温かな快感の波にその吐息を途切れ途切れにさせながらも夢中で愛撫を続ける青年に、問い成りきらぬ言葉をぶつけた。
「―――俺が好きな胸は、セレンさんのおっぱいだけですよ。大きさなんて関係ありません」 
 かりっ。やや憮然とした響きを声に含ませ、返答を伝え終えた青年がその口先に僅かに力を込める。 
「っひぅ!」
 突如、それまでの柔らかな愛撫とは一転した強すぎる刺激を乳首へと与えられたセレンが、甲高く鳴き声一つ上げ上半身をびくりと反り返らせた。

「―――はぁっ、はぁ、はっ・・・・・・」
「少し、刺激が強すぎましたね。でもセレンさんが悪いんですよ。他の女性には興味が向かないってついさっき教えてあげたばかりでしたよね」
 悪びれた様子も見せずに肩で息をするセレンにそう告げて、青年が穏やかに微笑む。
「はぁ、は・・・・・・ふ、うっ、あっ、あっ! ああっ! ひぅ!」
 落ち着きを取り戻しかけていたセレンが責め立てられ、いやいやする様に激しくかぶりを振る。
「下の方もびちょびちょじゃないですか。・・・・・・丁度いいや、こっちも使わせてもらいましょう」
 その反応にさも驚いたという風に声を上げた青年が、指先にぐっちょりと纏わり付いた粘り気のある液体を固く猛り狂った自らのペニスに塗りつけ、軽くゆっくりと上下にしごいて見せた。

「見てくださいよ。セレンさんと俺のが混ざり合って、ほら」
「・・・・・・ぁ」 
 青年がセレンの手を取り、右手の中で熱く脈打つ剛直に寄り添わせる様に重ねさせる。
 その光景を惚けた様な眼差しで見つめていたセレンが、暫しの間瞬巡する様に頭を垂れたかと思うとゆっくりと汗に濡れた上体を起こして始めていた。
「満足させてくれるんでしょう? どうしたらいいか、わかりますよね」
 その動きに合わせてベッドの上で膝立ちの姿勢になった青年の怒張がセレンの眼前に突き出される。
 ―――こくり。
 生徒が師の教えに従う様に小さく頷いて、セレンはその唇を青年の熱く滾った怒張へと寄せていた。

 艶やかな黒髪を愛おしむ様に両の手で撫でつけ、青年はその瞬間を心待ちにする。
 ちゅ―――っ。
 小さく閉ざされたセレンの薄い唇が脈打つ亀頭の先端に触れ、微かに濡れた音を立てた。
「ん・・・・・・む」
「っ、くぅっ!」
 外気に晒されていた怒張の頭頂部にぬめりとした感触と跳ね返してくる様な柔らかな抵抗を感じたその直後、ずるりっと亀頭全体をセレンの咥内へと呑み込まれ、青年が思わず呻き声を上げる。

「くっ・・・・・・ふふ、やっぱりセレンさんはっ、う、くっ・・・・・・最高、ですね」
 ぎこちなく動く唇の挙動に合わせて揺れるセレンの黒髪を、青年が指で鋤く様にして弄ぶ。
「最高で、そして綺麗ですよ。・・・・・・はっ、ふ・・・・・・っく!」
「ん、ぅ―――んむ、んっ・・・・・・ン、あ・・・・・・」
 ゆっくりと蠢き、吸い上げられるその快感に、下半身ごと呑み込まれそうになる様な錯覚すら覚え青年が腰を引いてその怒張をセレンの咥内から逃がすと、彼女が空虚さに喘いで小さく声を上げる。
「―――く、ぅ・・・・・・駄目だなぁ、セレンさん。そんなに美味しそうに頬張っていたら、一体どっちが気持ちいいのかわからないじゃないですか」
 精一杯の余裕を見せようと憎まれ口を叩く青年を見上げていたセレンの口元から、つぅっと一筋のきらめきが疾り、それが彼女の胸元へと流れ落ちていく。
 その淫猥とも神秘的とも思える光景が、青年の中で燃え盛る情欲の炎を更に煽っていった。
「さて、と。折角準備してくれたんですから、そっち方でも愉しませて下さいね。セレンさん」
「・・・・・・ん」
 青年の要望の声に、セレンがぼうっとした眼差しのままで頷き返す。
 そしてぬらぬらと淫靡な光を照り返す自らの濡れた乳房を、まさぐる様な手付きで以て怒張の前に差し出し、彼女は自ら知らぬ内に艶然とした微笑を浮かべていた。

 ぬぷっ、ちゅ、ちゅぱっ、くちゅ―――。
 指。唇。乳房。
 その全てを淫猥な埋没音を奏でる楽器として、セレンが弾き続けていく。
「っ、だいぶ・・・・・・コツが掴めて、きた・・・・・・っみたい、ですね・・・・・・」
 こっちも大分、余裕が出てきた。
 何かに得体の知れないものに魅入られたかの様に、一心不乱になって行為を繰り返すセレンの責めを受け続けていた青年が、声には出さずにそう呟いて息一つ吐く。

 今度は彼女にも―――いや、彼女と一緒に快楽を貪りたい。
 余裕が出てくると、そう考えて青年は息を弾ませながら思考を巡らせた。
「ぅん・・・・・・んぅ、んむ・・・・・・っ」
 その間にも青年の亀頭から溢れた透明な液体を、セレンがその舌先ですくう様にして舐めとりながら両の掌で押し上げたやわらかな乳房で残る竿の部分を包んできていた。 
「っ、ぅく・・・・・・ダブルトリガー顔負けってところで―――そうだ、それがあったか」
 痺れる様な快感を陰茎全体で享受しながら、青年が一つの妙案を思いついて声を上げた。
「セレンさん、ちょっと失礼します」
「っ、ん・・・・・・? あっ―――」 
 ぎゅっと下側から乳房を押し上げてその行為に没頭していたセレンの細く滑らかな指先を青年が手に掴んで強引に中断させ、新たな形を作り上げていく。
「指でですね。こう、挟んで・・・・・・良し。できましたね」 
 彼女の胸の中央で桃色に染まりぷっくりと大きく腫れ上がった二対の突起を、淫靡な雫で白く濡れた人差し指と中指の間の付け根の部分にすっぽりと挟ませると、青年は満足気に頷いていた。

「そのまま自分で気持ちよくなる様にしながら、俺のも責めてみて下さい」
「―――ん・・・・・・わかっ、た・・・・・・っ、んっ、は、ぁ・・・・・・」
 青年のその指示に答え終えぬ内に、セレンは自らの乳首をひっぱる様にして乳房を蠢動させ始める。
「んぅっ、ぁ・・・・・・ふ、ぅ、は―――あ、ぁあっ」
「自分で弄るのも、中々に巧いもんですね。流石にポイント探しにかけてはセンス抜群ってとこですか」
 自らの手によって生み出される甘美な感覚に酔い痴れ、瞬く間に息を荒げさせるセレンの頭をまるでいい子いい子する様にして優しく、ゆっくりと撫で付けながら青年が褒めちぎっていく。
「でもね―――こっちの方が疎かになっちゃっていますよっ!」
「・・・・・・え―――んぅっ!?」
 その台詞を言い終えると同時に、半ば自慰行為に耽る形になっていたセレンの唇へと放置されていた青年のペニスがぐぼっと大きな音を立てて、勢い良く突き入れられる。
「っぷぁ! はぁっ、はっ、あ―――」
「難しいとは思いますけど、同時にこなして下さいね。それまでは何度でもおしおきしちゃいます」
 唇を解放され、喘ぐ様に空気を求めるセレンへと向けて青年が愉しげに微笑みながら忠告を行う。
「セレンさんの良く通る声、俺大好きなんです。だから、頑張って下さいね」
 彼女の頭部を抑え付けるその手にぐっ、と力を込めてみせて青年がおねだりを開始する。

 口内を犯されその都度上がり続ける彼女の苦鳴には、何時しか悦楽の響きが混ざり始めていた。

「・・・・・あ、ぅぁ―――っく」
 二人の汗と体液を吸い込み、ぐしゃぐしゃになったシーツの上にセレンが闇色の黒髪を広げながら背中から崩れ落ちる様に倒れこむ。
「すみません。体力の限界まで苛めちゃいましたか」
 部屋の天井を見上げる形で、しかしその顔を右腕で隠したまま息も絶え絶えにその身を戦慄かせる
 彼女に、青年がゆっくりと覆いかぶさっていった。
「・・・・・・てくれ」
 できる限り自分の重みを掛けぬ様に、彼女と身体を重ねていく青年の耳にか細い声が届いてくる。
「もう一度。聞こえるようにお願いします、セレンさん」

「―――お願い・・・・・・だ、・・・・・・頼むから、もう、いかせて・・・・・・くれ」
 それは、懇願の声だった。
「了解ですよ、セレンさん。正直言って俺の方も、もう限界でしたから」
 表情を隠したまま、肩を震わせるセレンの濡れた下腹部へと青年が左の人差し指を這わせ、答える。
「今から、お望み通りにセレンさんのここを使わせて貰います。覚悟して下さいね」
 その言葉と青年の指先に込められた圧力に、セレンの顔を覆っていた腕が静かにおちていく。
 青年が、それ以上の返答を待たずに彼女の腰のくびれに手をかけて引き寄せる。

「いきます」
 一声。今にも暴発しそうな程に反り返った自らの分身を薄い、襞を覗かせる彼女の芯へと宛がうと青年は一気にそれを衝き入れ、根元まで埋めさせていく。
「――――――っ! ぁあ! ひ、あっ、いぅ! ぁぁあああっ!」
「っくっ!」
 歯を食いしばり、かき鳴らされる嬌声にも耐え、青年がセレンの最奥へと休む事無く腰を打ち付けその顔を眼前で乱れ跳ねる乳房の元へと運んでいく。

 じゅっ! じゅぱ! ぐぽっ! ぐちゅ!

「んっ! ぐっ! くぁっ! ―――セレンさんっ、セレン、さん!」
「あっ、ひぅ!あ、やぁ・・・・・・やぁっ!あ、あ、あ―――っ!」
 滾る欲望を何憚る事無く、愛しい人の膣内へと叩き付けて青年が叫び続ける。
 愛する人の顕れを無我夢中で受け入れ、想いを溢れさせてセレンが鳴き声を上げ続ける。

「ぁあ! ひっ! やぁ・・・・・・ひ、ぃっ!」
 流れ落ちる汗と情欲の飛沫に二人がまみれる程に、その交わりは激しさを増す。
 男と女。牡と牝。人と獣。
 意味を成さぬ言葉と、解さずとも伝わる一揃いの鼓動。
 止る為には走り続け、到達する他無い太古からの摂理。

 ぱんっ! ぱちゅ! ぐちぃ! ずちゅ! じゅちっ!

 激しさの余り、セレンの指が握り締めていたシーツから引き剥がされて、宙を彷徨う。
 ―――がっ。
 視線を虚ろにしてその指先を眺めていた彼女の上半身ごと抱きしめ、青年が最後の力を振り絞る。
「うくっ―――ぐっ! はっ! セ、レンッ、さんっ!・・・・・・セレンッ!セレン!」
「ぁ―――ひぅ!ひ、ぁ、あぁ・・・・・・っ―――ああああああああぁぁっ!」
 どくんっ! どくっ、どくん! どく、どぷぅ・・・・・・。

 伸ばされた腕にしっかりと抱えられた肢体を弓なりに反らせてセレンが到達した直後。
 青年はその熱く煮え滾ったもの全てを彼女の膣内へと注ぎ込んでいた。

 
「・・・・・・覚えているか?あの時、私がお前に言った事を―――」
 膝を抱える様にして背を丸め、吐息が微かに漏らされる。
 その横に並んで微笑み、頷く。
「お前に―――後で、おぼえておけ。そう言った事を」
 セレンが、背を丸めたままで全身を恐怖に震わせ続ける青年に穏やかに呼びかけた。

 怖いもの見たさ。
 そうとしか言えない理由で、ちらりと彼女の顔色を窺った青年は即座にその行動を後悔した。

 それまで見せた笑みの中でも極上の笑みを浮かべ、セレンは顎から下を親指で掻っ切って見せた。 




「マザーウィル?あんな骨董品、本物の恐怖の前にはまるで子供騙しでしたよ。HAHAHA」
 後にその勇名を馳せた伝説的リンクスは、当時の思い出をまるで魚が死んだ様な目で語ったという。
 
 

                                       
   < 完 >

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