最近―と言うのは、あの24時間から数ヶ月後に蒼いパルヴァライザーを壊し
てから更に数ヶ月。気がつけば彼女を、拾ってから半年近くが経っていた。
可愛いと思うようになった。容姿は火傷を見たうえでも上々、しなやかな体
スタイルも良い。勿論胸を除けば。それ以外、外見とは少し違うところで、
ジナイーダを好きになっていた。
特に、ジナイーダの方から笑うことが多くなった。二人の間に敵であってと
いう事実以上に良好な感情が流れている。自信というよりももっと確かな何
かを肌で感じるほどだ。
「どっちがいい?」
こうして二人で買い物に出かけるのも、少し前では考えられないような事だ。
外出する際、ジナイーダは長袖でしか出ない。火傷は心を許した相手にしか
見せないらしい。
「聞いているか?」
両手に服を掲げ、時々後ろに回す。判断しかねるがとりあえずは、右と言っ
ておく。
「じゃあ、左だな。お前はセンスが悪い」
「・・・なんだそれ」
「ふふ、冗談だ。こっちも悪くないがな」
それこそ同棲者にしかわからない程度に嬉しそうな顔で、店員に話し掛ける
ジナイーダを見ていると、未だに事後処理などはあれどそれでもまだあの頃
よりは平和になったのだと痛感する。紙袋に包まれた服を突き出された。怪
訝な顔をすると呆れたようにため息を一つ。
「気遣いというものだ」
気に入った品の買い物を終えると座り込んでいた踏み台から立ち上がり、狭
々しい、服屋を後にした。買ってるの、右じゃん。白々しい。
服屋だけでない。こうして民間が経営する店舗など、大概狭い。元々そうだ
が特攻兵器と、あの日の爪痕が特に大きい。
食材は意外にも揃っている。生きるために見せる人間の底力と言うものは、
大きいものだと思い知らされる。買ったのは鶏肉、人参にホワイトソース。
家にジャガイモとキノコが残っていたはずだから今夜はたぶんシチュー。
「何かあるのか?」
例に外れず、こじんまりとした宝石店の前で足を止めるジナイーダ。宝石は
こちらに悪いと思ったのか、何でもないと小さく笑った。宝石の一つや二つ
などレイヴンの報酬からすれば安いものなのに。
「それより早く帰ろうか。夕飯が遅れる」
それより問題なのは微笑んで差し出された手を、取らないわけにはいかない
か。一つ息をつくと、ぎこちなく指を絡めた。

『From: シーラ・コードウェル
 To: レイヴン
 無題
 貴方と組んでいた時から早くも半年。貴方とだったから
 今があり、世界は安定と向かいつつあると思うわ。
 せっかく戦乱も過ぎたのだから 二人で服でも買いに
 ショッピングなんかもいいんじゃない?
 もっとも伝説的な二人の傭兵がデートなんてしてたら
 その道に携わった人間には見つかりやすいでしょうけど。』

やられたとしか言い様がない。まさか、あの通りに居たとは。彼女の事だ、
張っていたのかも知れない。シーラはまだジナイーダを信用していない節が
ある。
「シーラ・・・女か」
「勘違いするな。元オペレーターだ」
風呂からあがったジナイーダは、件のメールを読む。液晶越しに悪意に満ち
た文章。それでもジナイーダの表情は満足げだ。
「楽しそうだな」
「このシーラという女、私に妬いてるからな」
シーラがジナイーダを恋敵として送ってきたとは思えないが、女とはやはり
こういうのが好きなのか。上機嫌に冷蔵庫のミネラルウォーターを飲む姿は
健康的であり、危険である。複雑な心境の視線をジナイーダはすぐに感じ取
る。
「なんだ?」
「スパッツはやめろって・・・」
ジナイーダは自分の格好に目をやる。少し赤面して事を飲み込んだ。
「・・・そういうことか・・・・変体め」
無理を言うな。Tシャツとスパッツの美女を目の前にして、平然としろと言
う方が、どだい無理な話だろう。ペットボトルをしまうと再び、メールに目
を通す。
「デートか。そうか。そう、見えるのか・・・。デート・・・・・」
「なんだってんだよ」
「シーラという女、いまも見ているかな?」
「まぁ住所もアドレスも割れているなら盗聴・盗撮もやりかねん奴だ」
そうかとジナイーダ。不審に思った次の瞬間には、唇が吸い付いていた。

驚いた事だったが、嫌な事でない。
「急にどうした?」
「すこし、そいつが見ているならそれもいい。今日は寝て欲しかったしな」
椅子に座ったままの状態で、立ったジナイーダが覆い被さるような形でキス
となる。
「今度はお前からだ。抱きしめて、しっかりと、キスしてくれ」
始めて見るここまで積極的なジナイーダに困惑しながらも、彼女の指示どお
り立ち上がって抱きしめる。映画の様に互いの髪を掻き乱しながらの甘い口
付け。途中で離すとジナイーダはうらめしそうにこちらを見た。
とても、屈指の実力を誇ったレイヴンには見えないようなあどけない表情。
「まだだ・・・」
「せめてあっちでだ」
顎で壁際に置かれたソファーを指す。二人が横になるには、少し小さいが構
わないだろう。ソファーの前で先ほどの続きをしながらそのまま崩れるよう
に倒れこむ。ジナイーダの口の内側で舌を暴れさせながら、首筋を撫でやる。
手を上下させる都度、反射的に身体を震わす。想定どおりの反応。
「ン!パは!・・くすぐったい」
「服・・そろそろ」
ストレートに言うのはどうも。下に倒している形のため、ジナイーダは一人
では脱げない。気づけと言った視線でこちらを見る。
「ほら、バンザイしろ」
「恥ずかしい言い方だ・・・」
そう言いながらも、ジナイーダは両手を伸ばす。袖のあたりを掴み、できる
だけ優しくTシャツを取り払う。
「綺麗だな」
わざと、ジナイーダが紅くなるような台詞を吐く。ジナイーダ。名前からす
るにロシア系なのだろう。肌は透き通るように白い。右腕の火傷の痕を舐め
まわす。
「っっ!?っん!ひ!」
右の二の腕から脇へ。滑り落ち舌がまさぐる。
「や、何処を!?はぁ、あん」
風呂から上がったばかりであるだけに、石鹸の残り香がジナイーダの身体を
覆っている。それ以上に彼女自身の香り。
「凄い、いい・・・匂いしてる」
「馬鹿が・・・」
大胆にジナイーダの右腕は性器に触れにいく。
手。熱くなっている男性器にジナイーダの手が添えられる。女性にしては硬
く、潰れた肉刺の痕もどれだけあるのか知れない手は、恐る恐るその棒に触
れ、最初想像以上の熱にか、反射的に手を弾いたが再び挑むように握る。
握っている物とその行為自体に恐怖しながらも、始めてしまったからには止
められずに戸惑っているのが、絶妙な強弱の加減を生み出している。
知らぬ間に舌を離していた。
「どうしたら・・いい?」
「そのまま・・・手を擦ってくれれば・・」
「こうか・・・?」
たどたどしく手が上下するだけで、快感が背筋を走る。表情に出たようでジ
ナイーダが嬉しそうな顔をした。

段段とペースが速くなる。ジナイーダが慣れたのか、どこかで学ばされたか。
もうそんな事を考えている余裕じゃない。とりあえず、このままはまずい。
「出る・・・のか?」
既に限界が近かったが、ここでのギブアップは男の面子に関わってくる。
「私に構わず、好きな時に・・・出していいぞ」
なかなか男とは上手くいかないもので、この男の面子と言うものは、こうし
て少し涙目などにはどうしようもなく弱い。血液が一点で沸騰するような感
覚に襲われ、ジナイーダの手と腹の上に、粘性の白濁をぶちまけた。
「熱い・・んだな。お前の・・」
頭がクラクラする。気の向くまま身体をちょうど180度回転させ足が顔の目
の前に来るようにした。多分彼女はさっきまで擦っていたそれが面前に来て
紅くなっているだろう。
「何をする・・」
「・・・・お礼?」
本能的に力んだジナイーダの脚をこじ開ける。スパッツを穿いたままの秘所。
「そんな、見るな・・・」
「無理・・・」
「スパッツ・・・」
「あったほうが、何か楽しい」
脚と脚の間にキスをするように始め、口を介したスパッツ越しにも湿り気が
伝わってくる。要領はキスと同じ。甘い感覚に酔うように回を増すごとに、
貪欲に執拗に喰らう。
「あ!やっん!!はんッッ!!」
もしかしたら、泣いているかもしれない。そうだとしても止められない。
「やぁ!!」
花弁がひくつき、一瞬筋肉が硬直してすぐに緩む。確実にイッた。
すがるものが欲しい。完全に迎え入れる準備の出来たそこへの、舌での嬲り
はあまりに強烈すぎる。身体を抱きしめたせいで、男のそれは一層近くなる。
手で握った時よりも熱い。センチ単位での距離で張り詰めた一物は想像以上
にグロテスク。それでもこいつの物で、こいつが気持ちよくなってくれれば
咥えるなど躊躇する事でない。
ジナイーダは威勢良く口に収めて見せた。
「ジナ・・・?」
どういう気になったか、想像するのは少し怖かったが二人で口淫し合ってい
るのは、紛れもない事実。静かな夜。リビングのソファーで、互いが互いの
を慰めあっているのは異様に思えた。もうスパッツはその意味をなさない程
にビシャビシャに濡れ、指で押すと液体が染み出てくる。
「ん、ちゅ。ぷぱッッ」
丁寧に先端をいじくると、幹をしっかりとくわえ込む。何度も口をすぼめて、
刺激すると、離して側面から舐める。ようやく下に伝い根本に来ると、そっ
と睾丸を撫でまわした。

こんなコースをやられたら、平気でいられるはずがない。
「二度目だ・・・・離れろ」
「ぷぁ、私を気にするなと、云ったはずだ」
勧告に従わないならば、仕方ない。しっかりと口にしている時に、思い切り
吐きだした。
「あ〜・・・悪い。ほらテッシュ・・」
飲み下す。苦しそうな顔をした。
「おいッッ!」
「不味い」
「わざわざそんなこと・・・」
「お前のじゃなかったら、飲めん」
可愛いことを。顔が見たくなりソファーに座った自分の上に、ジナイーダが
座るように引き寄せる。あんなことをしておいて目を合わせると心音が高ま
る。スパッツを取るとき、裂けたような音がしたが、もう気にしない。
「いくぞ・・・」
「いつでも」
猫がミルクを舐めたような音を立ててゆっくりと中に陰茎を挿れる。誰が最
初に『本番』なんて呼び方を始めたか知らないが、なるほどやはり前戯とは
質が違う。繋がっている事が二人の快感を共有する。無理矢理つけた筋肉も
ジナイーダの強くなろうとした過去の象徴。今は彼女の全てがいとおしい。
「ああ!くぁん!!」
壁?否、これがジナイーダの子宮。生命を創る、一番大切な。そこに触れて
いる。ジナイーダの一番神秘的な場所を犯している。力が一層こもる。
「かぁ!あぁん!!あ!ひぁん!」
雄を逃がすまいと、雌の性は自らの膣をキュウキュウと締め付ける。こする。
明らかにジナイーダの反応が違う。クリトリス。重点的に子宮の奥と同時に
乱暴にぶつける。打つごとに、声は艶と媚を増し甘い快感に侵食される。
涎までたらすまいと、開いた口を閉じようとするが敵わずピクピクと口元が
震えているのが、なんともいやらしい。唇で塞ぎとめ、ジナイーダの全身を
支配する。淫らな水音で部屋中が満たされた時である。
「あああ!!あん!ああん!はぁああんんッッ!!」
腕の中で、爆ぜるように揺れると、全体重をこちらに傾けた。こちらはまだ、
終わっていないがしかたない。まだ勃起したままの自分のをジナイーダから
引き抜きにいこうとすると、ジナイーダが弱々しく手で阻んだ。
「いい。最後まで続けてくれ・・・」
「知らねぇぞ」
がくがくと揺すられるままに、ジナイーダは身体を揺らす。
「へあ、んむぁ!!」
きっと身体への負担も大きいだろう。そろそろ、終わらせるとする。
「今度こそ出るから、抜くぞ」
「ダメだ」
残る力を振り絞り、ジナイーダは腕を首に回す。
「お前との子が欲しい」
熱い。ソファーが二人の重さを受け止めた。

手ごろな毛布一枚を羽織り、ジナイーダを脚の間に座らせ、後ろから抱きし
める。子供が欲しい、か。こいつとなら、あるいは。
「可愛い」
「どうした?急に」
「特に。ただ可愛いって思っただけ」
ジナイーダが黙り込む。こういう甘いやり取りは嫌いなのかもしれない。
「似ている」
「誰に」
「思い出した・・・いや、忘れようとしていた。レイプなどされていなかっ
た。私は」
「・・・ジナイーダ」
「恋人が死んだんだ。忘れるために、記憶をすり替えた。私だけ生きたから
だ。強くあろうとしたのも、そいつを倒すためだったが、そいつも死んでい
た。・・・すまんな死に別れた男の話を、してしまうなんて。少し、似ていた
から、つい」
「お前・・アグ」
「言うな。私はジナイーダで、『今』のお前を一番愛しているんだ。もう死
んだんだ。そいつも私も、・・・お前も」
(本当に貴方の言った通りだ、こいつは貴方に良く似ている)
アーク時代のエースランカー。赤い星の二つ名を持つ失踪した女性レイヴン。
そして、旧兵器を止めきれず『死んだ』男。ジナイーダは全部知っているん
だろう。
「レイヴンなんだ。死を受け止められなかった私が悪い。それに、お前を一
番愛している。子を欲しいとさえ思ったのはお前がはじめてだ」
自然と抱きしめる力が強くなる。ジナイーダは振り返ると、悪戯を知って欲し
い子供のように笑った。
「お前の方が、気がきかんところがあるがな」
「こういうときに言うか普通?」
「ふふふ、それより近いうちにあの市に行こう」
「欲しいもんでも?」
「指輪だ」
「指輪・・・?」
服屋で見せた以上に呆れたような、と言うより伝わらず困ったようなは視線。
対して頬は少し赤い。
「分からんか?こう教会とかで・・・こうだな」
こちらの指を取り、ジナイーダは薬指を挟ませるような動作をする。
「あぁ、そういうことか・・・うん、結婚しよう」
「もう少し雰囲気のある言葉はないのか?まぁそこが好きだ」
「お前も十分、ストレートすぎるがな」
「ちゃんと抱きしめていてくれ。今日はこのまま眠りたい」

『From: シーラ・コードウェル
 To: ジナイーダandレイヴン
 祝電

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