よく、覚えていない。
騎士道的な精神を持ち合わせている筈もないだろう。
この二十四時間で何人ものACを、いや、レイヴン以外なら、それこそ無数の人間を殺してきた。
今更、ヒーローの様に『殺さず』などの訳もない。
が、現に飛散したファシネイターの中から奇跡としか言いようがない。瓦礫の空間で押し潰されなかった彼女を拾った。
ジナイーダ。
最後のレイヴンの一人は息を飲むほど美しかった。
自分を馬鹿に思うほど献身的に診て、二日後にジナイーダが起きた。
生きている事自体と敵が介抱していたことに、らしくもなくキョトンとした表情が印象的だった事は今でも覚えている。

「まったく、どうかしているな」
転末を話すと、ジナイーダは呆れ果てたように溜め息をついた。当然だ。
究極、あのまま死ぬのを望んでいたのかもしれない。
だが、なんだかんだ言っても、怪我でベットから立つことすらかなわない重症者が、意思を通す事など出来る訳もなかった。
こうして始まった奇妙な男女の同棲生活も一ヶ月が経とうとしていた。
ベット生活も終わり、この一ヶ月ジナイーダが分かったことは、この男が職業柄真っ先に死ぬような性格と言うこと位だ。
こいつなら、戦場で敵を救うのも分かる気がする。
こんな類の人間は初めてだった。嫌いでない。
いつしか、好感すら持ち始めていた。
消えることのないであろう右腕の火傷痕を擦りながら、『最後のレイヴン』の出撃を見守った。





夕食。二人で食事をとるのは中々悪くない。ただ、シーラとか言うオペレーターは
助けただけででも
怒ったのに、二人で食事をしている事には事あるごとにうるさく言うそうだ。
裏切りの懸念か、
彼女の首にかかった懸賞金を取れとでも言うか
はたまた、女としての単純な嫉妬か。
「後者なら、嬉しいかな」
怪訝そうにこちらを見る。
「独り言だ。気にするな」
愛と言えばおこがましいかも知れないが、ジナイーダは小さく不思議な幸福感を感じて、パンに手を伸ばした。






夜も深まりベットの上。
全てはこいつが悪い。自分に言い聞かせた。
酒でジナイーダより先にこの男が何も羽織らずに寝息をたてた。
毛布でもかけてやろうと気を利かせて近付いたとき、おかしな劣情が湧いた。
こいつの耳を、口を、肌を、躰の全てを支配したい衝動が胸の奥を熱くした。
そして−
気が付くと仰向けに寝る男の上で馬乗りに見下ろしている自分が居た。
さすがに目を覚まし異変に気付いく。男より先にジナイーダ慌てて、口を開く。
「これはだな…お前が……」
ジナイーダの言葉を遮る様に虚ろな瞳のまま、男が手を右腕の火傷痕を撫でる。
気恥ずかしく、柄にもないような可愛い声をあげて、手を引いた。
触らせて欲しいと男はゆっくりと傷口を撫でてゆく。
躰を撫で回させる事を許してしまった自分に驚く。それ以上に、この手の温もりに理性が溶ける気がした。
ジナイーダは自信の秘部がじんわりと湿り気を持ちだすのが克明に分かった。
「なぁ」
男の手が止まる。ジナイーダの話すのを、真剣に聞いてくれるのもこいつの好きなところだ。
「……あっと、、…寝てくれないか?」
頷いた気がした。
月明かりだけの部屋、よく見えない。
意を決して顔を近付ける。耳元で囁いてくれた名前が聴覚を快く刺激する。
暗黙の了解だ。ジナイーダは覆い被さるように、口に吸い付いた。





純愛だとかとは無縁の存在だった。幼い頃に既に無理矢理『奪われ』た事が、性に対する悪印象を脳に植え付けた。
キスですら、恐怖を感じた。そんな環境下、愛情など与える相手は居なかっただけのこと。
いくらAC巧みにを駆ろうとその実、生娘と何ら違い無い。
余談だが、確かプリンシバルとか言うアライアンスの女は、レイヴンになってからも男と楽しんでいたらしいが、とても出来る性分じゃない。
「っん…!?」
当然舌を入れるなど未知の世界。いや、遠い彼方のトラウマが再燃した。思わず侵入してきた舌に噛みついてしまった。
「!…すまん!その、、、怖いんだ……」
耳の先まで一気に熱くなる。
「だから、、、、巧く出来んか」
普段、ジナイーダを優先する男が突然抱き絞めた。
噛んだ事に対する怒りでは無さそうだ。力強く、温かい。
ジナイーダの頭をそっと撫でる。子供が純粋に慰めか、褒められたでもしたような嬉しさがあった。
手を離すと静かに笑ってくれた。こんな瞳で見つめられたのは、生まれて初めてかもしれない。
今度は男からリードするように口を合わせた。
舌。同意を得るように、ジナイーダの唇に当てる。
心で一つ息をし、迎え入れた。
ゆっくりと舌は歯茎をなぞり、内側から頬に触れる。
徐々に歯を開かせ、隙間に舌を入れ絡ませる。
その間、ただ恐怖に耐えるだけのジナイーダを男は優しく見つめ続けた。
物心ついて以来悩まされたものが、不思議とこれだけで和らぐ。
既に身を起こし、抱き合った状態でいた二人は、最初とは逆にジナイーダが促すように男が覆い被さった。
唾液が頬を伝い、シーツに染みを作る。
上手く出来たか分からない。それでもこいつは笑ってくれる。
「…準備は出来ている。いつでも良いぞ」
全てをこいつに捧げよう。
緊張か、興奮か、大きく息をつく男を眺めジナイーダはふと思った。

丁寧に、服に手をかける。
この服は男が買ってくれたもの。少し可愛すぎる気もしたが、文句をたれる立場でもなかった。
まるで壊れ物を扱う様にゆっくりとジナイーダのを脱がしていく。
産まれたままの様な新雪の如き肌と簡素な下着だけになる。
ここまで来て、緊張した面持ちで男はジナイーダに無言のうち目で了承を得る。
背に手を。ホックが静かに外れ、ブラが力無く落ち、胸が露になる。
決して豊かでは無い。むしろ小ぶりでろくに陰影も出来ない。一女性として悩んだ事もあった。
その胸にジナイーダは自ら男の手を取り、当てさせる。
振っ切れた。
引っ張られた右手の先の胸を掴む。背に回していた左腕でジナイーダの躰を寄せる。
手は胸を寄せ、握り、頂に至る。急に本能に身を委せた様に揉みしごく。
「…っ!」
声を出すまいと、口を閉じるジナイーダの姿勢が嗜虐心を高ぶらせた。
突起を、つねり。掌で回す。徐々に固さを帯び、熱も持ち出す。
「ぁく!…おっ、おい!?」
ジナイーダの胸に顔を埋め、乳房に吸い付く。
右手と口で硬化した乳首を弄らかす。
ピチャピチャと恥ずかしい音も気にせず舐め回し、吸う。
息を吹きかける度に、小さく背を反らすのが堪らなく、無意識に力が入る。並行して右手の愛撫もエスカレートしていく。
「んなん…はぁ!…ひゃぁあぁ!!」
大きく腰を上げ絶頂を迎える。今まで味わったことの無い甘い快感。一際大きくなったかと思うと意識が薄らいだ。
奇妙に躰をよじらせ、余波が脈に合わせて押し寄せる度、痙攣する。
力が回らず髪は乱れたままで、口もだらしなく舌を延ばし開け、呼吸を続けるのに必死だった。
多少、落ち着いた頃名前を呼ばれている。上を向くと、そこにはいとおしい男の顔。
キス。もう恐怖は無い。互いに腕を回し、液を絡ませた。


どちらのとも知れぬ溢れた唾液が、重力に従いジナイーダの頬を濡らす。
舐め取るため、男が頬に舌を這わす。伝い、耳へ。こそばゆいが嫌でない。
何処で覚えた性戯か知らないが、自分でない誰かを抱く姿を考えたくなかった。
そんなジナイーダの嫉妬も突如耳の穴へ侵入してきた舌が掻き消す。
「ひャぁん!!」
横を向かされ、片耳はシーツに押し付けられ塞がれている。そしてもう片方はくすぐったいような快感と
脳に響くような水音。抵抗は在ったが、支配される事に悦びを感じ始め、おとなしく受け入れた。
「…はぁ、、、もっ…とぉ」
不思議なもので誰よりも強くあろうとした筈なのに、この男には屈する事で
満たされる感情が湧く。水音は大きくなり、聴覚は全てそれだけになった。
「あっ、あぅ…っ!!」
再び思考が白に染まる。一度目の絶頂よりも、ほてった状態での昇天はより大きく、より深い。
視界には男の顔が入っていても、それが男の顔だと認識するのに時間を要した。心配と
言うべきか、男は不安気にジナイーダの顔を覗き込む。意識を戻し、見つめ返すとようやく安堵の笑みを浮かべた。
「やめてくれそんな顔は」
微笑み返してジナイーダが呟く。こいつは訳が分からないだろう。首に手を回し顔を見させないようにしてから
耳元で囁く。
「甘えたくなる」
笑っているだろう。言ってからジナイーダは考えたが、後悔はない。
ふと、ズボンが邪魔な気がした。



少し馬鹿になりすぎたかも知れない。
この男なら、と抱かれる事への恐怖を無くしたつもりでいた。先端が中に入った瞬間
劣悪な過去が脳を駆け巡った。まだ幼い頃、潤滑が悪い、と酒で濡らされた膣と醜悪な男の裸体。
今、目の前に居る男とは似ても似つかぬ筈なのに、一瞬で恐怖で支配される。
頭を抱え、溢れ出す涙は止まることがない。
「ごめんなさい、許して……下さい。許して下さい。………許して下さい」
性器が入る事自体を拒絶していた。引き抜き、目元を真っ赤に腫らし涙が枯れるまで泣きながら乞い続ける。
ようやく現実との区別が着いたのは泣いてから20分も経っての事。
あまりの情けなさに、泣きやんでも毛布にくるまって言葉を探していた。
「…すまない。……こんな事になってしまって…」
語気には力の欠片も無く、虫の羽音の様に小さい。
嫌っているだろうか?そうに決まっている。誘った女が発狂したように泣き出したのだ。会わせる顔もない。
諦念を感じた矢先の、重さ。次に体温。毛布越しに
、男を感じる。
「…」
なんなのだ、一体。
静かに微笑み何時までも見守ってくれてる。
全く、どこまでも甘い。ジナイーダはゆっくりと顔を出す。頬に触れ暖かく笑う。四度目のキス。もう一度と決心した。
不安から逃げようと回した手で背を掻きむしりながらも、男のを受け入れ始めた。
一線。男に後押しされ、醜悪な思い出が消えた。
「!!…あぁくぅ!あ、あ、あ、!」
壊れてしまいそうな快感。それを喰らう様に必死に躰を振る。
汗も受け付けず、ただ甘い快感に酔い痴れた。
壁を擦る度に髄に電流が走る。
躰を持ち上げられ抱き合った形で互いに腰を上下させた。
−あぁ、そうか−
快楽の中、ジナイーダはこの男と自分の何かが分かった気がした。
−惚れたんだ。きっと…−
月明かりが二人だけを照らした。









揺らし、揺すられる度に全身が焼ける気がする。
骨が軋む音を挙げるほどしがみつかずに居られなかった。
息は次第に荒くなっているのはジナイーダだけではないようだ。
それに合わせて男の動きもより激しく、深く躰を刺激する。
「ふっ、ぅう…ん……あん!!」
今までのを更に越えた、刺すような快感にあらげもなく鳴いてしまう。
顔を真っ赤に、口を塞ぐも時既に遅し。男に敏感な場所を気付かれた。
「仕方ないだろ……気持ち、、良かったんだ」
少し間が空き、盛大に笑われた。顔から火が出るとは良く言ったものだ。ジナイーダからしたら素直に言っただけの話。
「笑うな……」
涙目になりかけたジナイーダを見て、流石にと、男が右手を取る。火傷痕を撫でながら、引き寄せた。
ボソリと耳元で告げると益々赤面せざるおえなくなった。
「『可愛かったから』じゃない!………………本当か?」
声を絞って聞く。一瞬きょとんとした後、またくすりと笑われた。何故か男の方まで赤くなっている。
同時に行為を再開した。さっき知ったばかりの彼女の弱点に容赦無く当て攻め立てる。
「きぃ!?…んふぁあ…!」
理性で押しとどめようとしても声が漏れた。
「そんな、、に…くあ!」
力ずくで押し倒され、追い撃ちをかけるように覆い被さる。
足から肩まで重ね合わせて密着した。重さでジナイーダは動けない。男に任せるしかなかった。
「ふゃ!…んなぁん!…もうぅ!こ…これ以上は…わはぁ!!」
男のを挿れたまま意識を飛ばした。自然、膣が締まりより男に快感を与えた。
臨界点に達しようとしたモノを引き抜こうとするのを、止めた。
「ぜっ………全、全部」
焦点を男に合わせて、肩で息をしながら声を出す。
「お前の…全部を……!!」
…白。薄れる意識の中、それだけを感じた。




かなり深く寝入ったらしい。久しぶりに頭が上手く働かない。
少しして、何故自分が裸で、隣に男が寝ているのかを思い出す。どうやら、あの後にわざわざ毛布をかけてくれたらしい。寝冷えせずに済んだ。
目を覚まさせたのは鳥のさえずりや日の光では無く、前の職業柄。
それにしては、「こいつも」の筈なのに未だに眠りこけっている。
「馬鹿なのか?…」
問うまでも無いか、と呆れて一つ溜め息。
「100万の首も…」
すっと、首筋の脈に触れる。軽く押すだけで勁動脈は押し潰された。
「簡単なものだな…」
頬に唇を寄せる。誰にも邪魔はさせない。
ごく小さな愛情表現と、誰に対するでもない優越感に浸り
立ち上がろうとして驚愕する。
「いつから…起きていた……!」
中々、こいつには勝てそうにない。




数ヶ月後の事、男は久しぶりにACに乗った。
隣で眺めていた依頼文によると『中枢』で青いパルヴァライザーが出たらしい。
ついて行きたいところだが機体もなく、第一もうレイヴンとしてやっていける躰でもない。
帰投した男が降りてくるのを一人待つ。
「……おかえり」
−だから言っただろう。そんな目で見るな−
「−−!」
最後に言おうとした男の名前は
キスに消された。


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