・先日の女体化ズベン×リムのお話の続きです。
・先日言った通り、エロシーンありません。予め御了承ください。
「だが安心しな! 『天秤の決意、弾丸の想い』をNGワードにすれば見えないぜ!」
・例によって、著しく長いです。
「だが安s(ry
・他の注意書きは前の奴参照で。

・LRが起動しないからアセンわかんないよウボァー
 よって記憶を手繰ってメカシーン書いてます…我が記憶は以下の通り。
 劇中台詞も一部違うかも。

サウスネイル
右 CR-WH05RLA 速射リニア
左 忘れた スナ
肩 忘れた ミサ?
EX 忘れた 連動ミサ

バレットライフ
右 WH03M-FINGER
左 WH03M-FINGER
右格納 WH05M-SYLPH
左格納 WH05M-SYLPH
肩 MAGORAGA マイクロミサ
肩 CR-WB69CG チェイン

ファシネイター
右 YWH13M-NIX マシ
左 CR-WL79LB2 旧2551
右肩 CR-WB78RP2 中ロケ
左肩 忘れた ミサ?



現在、正午前。
ズベンが本拠を置くACガレージR11エリアのACガレージで、
リム・ファイヤーの愛機バレットライフは静かに佇んでいた。
ただ、通信は騒がしい。

「サンダーハウス、R12Aエリア、クリア。姉御、聞こえるかい」
「ズベンだ。サンダーハウス、R12Aをそのまま確保。
 エクスカリバー、R12Bエリアに向かえ。サンダーハウスを側面から援護」
「エクスカリバー了解。30秒くれ」

矢継ぎ早にズベンの命令が飛ぶ。
その命令を忠実に、そして確実に実行する部下達。
人望もあるのだろうが、それにしても見事な手際だった。

「メビウス1から4はR12Dエリアへ移動。後方の安全を確保」
「メビウス1了解」
「2了解」「3、OKだ」「4了解。90秒で到達します」
「メビウス5、6はR12Aへ。サンダーハウスを援護」
「5了解、任しといてくれ、姉御」
「6了解。こら、メビウス5、無駄口叩かないで仕事しろ」

リムは、ズベンをレイヴンとしては三流だと思っていたが、
同時に指揮官としては一流、
前線指揮官としてなら超一流だと思っていた。
ただの流民をここまで鍛え上げるとは、並大抵の手腕ではない。

「エクスカリバー、R12Bクリア」
「ズベン了解。スカイアイ、ABエリアの上空を旋回しつつ索敵」
「スカイアイ了解。現在機影無し、索敵を続行」

一旦声が止んだと思えば、次の通信が入る。忙しい限りだった。

「ズベン」
「こちらHQ」
「どうだ、状況は」
「全戦闘隊展開完了。機影ありません。制圧完了です。
 後は輜重隊をこっちに移動させるだけです」
「よし、後はオレ達に任せろ。通信終わり」
「了解。通信終わり」

終わった。
ズベンは部下との通信は切ったものの、リムとの回線は開けっぱなしにしていた。
バレットライフの通信機から、彼女の溜息が漏れてくる。

「はー、疲れたぁ〜」

ズベンの本拠地はここ、ACガレージR11エリアである。
その本拠地に、彼女はジナイーダを招いた。
敵ACに攻撃されている小規模な勢力と偽って、救援要請を行ったのである。

ジナイーダが罠にかかれば、ズベンの本拠地での戦闘となる。
その戦闘は過酷なものになるだろう。
だから、ズベンは部下達を全員、隣接する12エリアに避退させたのだった。
「ズベン」
「はい〜?」
「本当にジナイーダは来るんだろうな」

しかし、リムにしてみればこれが心配だった。
いくらなんでも、罠にしては杜撰すぎる。
ACガレージに居を置く独立系レイヴンが
バーテックスかアライアンスに襲われた、これは判る。
しかし、ACガレージに居を置く小規模な勢力がレイヴンに襲われた、これは変だ。
どこがどう変と言わずとも、変だ。

しかも、ズベンはジナイーダに、
「敵ACはエネルギー兵器で全身を固めた高火力機」と伝えていた。
生き残りレイヴンで、そんな奴はライウンぐらいだ。
しかしライウンは既に死んでいる。

こんな杜撰な罠では、余程の馬鹿でもない限り引っ掛からないだろう。

「来るよ」
「何故そう言い切れる」
「ジナだから」

はぁ?、と思わず声を出しそうになる。

「知ってると思うけど、ジナイーダは強さだけを求めてるレイヴンでしょ。
 ただひたすらに、強者との戦いを、特にレイヴンとの戦いを求めてる。
 だから来るのよ。
 ジナイーダだってこの依頼が罠だって判ってる。
 レイヴンを罠にかける奴なんて、レイヴンぐらいしかいない。
 逆に言えば、この依頼を受ければジナはレイヴンと戦える、そういう寸法だよ」

リムは思わず唸った。やはりこいつは策士としては一流だ。
見え見えの罠を敢えて仕掛ける事でジナイーダを誘い出すとは。
ジナイーダは、こちらの依頼が罠だと見抜く事で、結果的にやってくる。
ジナイーダの自信とその性格を最大限に生かした見事な計画だった。

「後は私達次第だね。ジナイーダを倒せるかどうか。
 倒せなかったらどうにもならない」
「うむ」
「あ、そうだ、リム…」

ズベンが言いかけて、やめる。
その理由はリムにも判った。機影。AC輸送用の輸送ヘリ。
ACが投下される。
…ファシネイター。ジナイーダだ。

「じゃ、先、行ってくる。援護するなりしないなり、好きにしてね」

思わずリムが「待て」と言いかかる。
三流の腕前でジナイーダに挑むなど、自殺行為だ。
だが、口をつぐんだ。制止しなかった。

――そうだ。俺はレイヴンを抹消する。全て。

ならば、ズベンをジナイーダに倒させ、
その戦いで消耗したジナイーダをリムが叩く。
この方法が最も確実だ。彼は作戦開始前にそう考えていた。

ジナイーダは最強の一角だ。
いや、まだエヴァンジェらと戦っていないから判らないが、恐らく最強だろう。
戦績を見るだけでそれが伺える。それほど、彼女は凄まじい実力の持ち主だった。
アーク時代、『王の中の王』と呼ばれた最高位ランカー、ジノーヴィーを彷彿とさせる。
だからこそ、ズベンがお膳立てしたこの有利な状況で必ず倒さねばならないのだ。

――だと言うのに、何故今俺はズベンを止めようとした?

考えるのをやめようとすればするほど、考えてしまう。
何故?
憎むべきレイヴンを何故俺は救おうとした?
存在を否定すべきレイヴンを。
戦いの元凶の一つに違いない、レイヴンを。

考えを振り払う様に頭を振り、通信回線をパッシブでフルオープン。
リムが喋っても向こうには通じないが、向こうの通信は全て聞こえる。
ジナイーダの声も、ズベンの声も聞こえてくる。

「お前に依頼したのはこのオレさ。そうとも知らずにのこのこと…おめでたい奴だ」

ズベンだ。
腕が三流であるが故か。必死に虚勢を張る姿は滑稽ですらあった。

「…いや、おめでたいのはお前じゃない。
 あんたはあの依頼が嘘だと判ってたな?
 だがあんたの周囲はそうじゃなかった。
 おめでたいのはリサーチャーかオペレーター、ということか」
「ほう、何故そう思う?」
「あんたのアセンさ。いつものファシネイターと何の変わりもない。
 お前は罠だと判って、レイヴンと戦う為にここへ来たんだろう。
 しかしまさかアセンブルを全く変えないとは…
 EN兵器の一つも持ってくるかと思っていたんだがな。
 それを止めないとは、余程ボンクラを雇ってると見える」
「…フ」

褒めているのかけなしているのか判らないズベンの台詞に、ジナイーダが笑う。

「面白い奴だ。
 だが私のリサーチャー…エド・ワイズはボンクラかもしれんが有能だぞ。
 たまにだが、重要な情報を持ってくる。たまにというのが問題だがな。
 それにシーラも悪いオペレーターではない。確実に職務を果たしてくれる」

ジナイーダも似た様な事を言い出す。
何をやってるんだ、こいつらは。
「この戦いが終わってまだどちらも生きていたら、会ってみたいものだな」
「オレもだ。あんたは思ってたより面白い。それもかなりな
 ただの最強馬鹿かと思ったが、オレの見込み違いだったな」
「私も見込み違いをしていたよ、ズベン・L・ゲヌビ。
 性根の卑しい小者とばかり思っていたが、なかなか面白い人間だ。
 だが今は敵同士。お前が誘ったんだ。無論、やる気だろう?」
「…そうだな。その通りだ」

メインシステム、戦闘モード起動。
両者のACの動きが明らかに変わる。

「安心しな、すぐ楽にしてやるよ!」
「手間は取らせん!」
ズベンのサウスネイル、ジナイーダのファシネイターが同時に機動を開始した。
サウスネイルは軽量逆間接、空中から距離を取りつつ狙撃を主とする。
一方ファシネイターは中二ながら瞬発力に優れた中近距離戦用高機動機だった。
サウスネイルが勝つには、瞬発力の代償として
ファシネイターから失われた持久力を突くしかない。

空中に飛び、後退しながら牽制にミサイルを放つ。
だが、速い。ファシネイターが最小限の動きでミサイルをかわしつつ迫ってくる。
右手のリニアライフルと左手のスナイパーライフルを斉射。
リニアライフルは三点射で撃ち込む。合わせて二発命中。
だがそれでもファシネイターは止まらない。

焦りを覚えた頃に気付いた。被ロックオン警告。
それに気付くとほぼ同時にファシネイターがミサイルを放つ。
マズイ。回避の為にサウスネイルが大きく動く。
空中だから地面に落としてミサイルを消す事も出来ない。
そして激しい機動のせいでロックが不可能。マズイ。

そう思った時には、既にファシネイターは
右手に持つマシンガン『NIX』の射程まで迫ってきていた。
速射。驚くべき発射速度で弾丸の雨が撃ち込まれる。
サウスネイルの、軽量脚という宿命から来る薄い装甲に弾痕が穿たれる。

これ以上接近されたら、今度はブレードの射程だ。
狙撃機のサウスネイルにとって、その距離に張り付かれる事は死を意味する。
リニアライフルを三点射。スナイパーライフルも半分盲目撃ちで撃つ。
その弾幕を前に、ファシネイターは無理に近付かない。
NIXの射程を維持しながらサテライトを開始。

「じょ、冗談じゃ…」

強い。
いや、強いなどというレベルではない。
超一流とか最強とか、そういう次元を超越して、強い。
サウスネイルに次々と穴が開く。統合コンピュータが警告を発していた。

「早く援護…っ!」

援護してくれ、と言おうとしたズベンが思い留まった。
その事はリムも察していた。何故だ。何故援護を求めない。
ガレージの外部カメラの映像だけでも、サウスネイルの劣勢は明らかだ。
いや、むしろファシネイターがサウスネイルを一方的に蹂躙していた。
最早戦いと呼べるレベルですら無い。

奴は一体何を考えている。何故助けを求めない。
もう単独で勝つのは絶望的だ。
否、あの状況からでは逃げるので精一杯だ。
なのに何故助けを求めない?
何故援護を要請しない?

『じゃ、先、行ってくる。援護するなりしないなり、好きにしてね』

リムの脳裏に、先のズベンの台詞が蘇った。
そうだ。奴は言った。援護するもしないも俺の自由だ、と。
何故だ? 俺が全レイヴン抹殺を目標に掲げているから?
奴も俺にとっては標的の一つだから?
馬鹿な。それでは何故俺を引き込んだ。
混乱するリム。そして気付いた。

――俺は、奴を助けたがっている。
「否…否! 違う! 違う違う違う!」

叫び、モニターを力一杯叩いた。
強化素材で出来たACのモニターは、人間の膂力で壊せるものではない。
何度も何度も叫び、モニターを殴る。
気付けば、パイロットスーツの手袋の中にぬめりがあった。

血だ。それほど、彼は強烈に何度もモニターを殴っていた。

「きゃあっ!」

ズベンの悲鳴が通信回線から聞こえてきた。
直後、統合コンピューターがメッセージを出す。

「サウスネイル 擱座」

…やられた、か。
あくまで擱座であり、ただ戦闘続行不可能なだけだ。
多分彼女は生きているだろう。

(ジナイーダがとどめを刺すまで待つか?)

彼の『何処か』が彼女を助けろと叫ぶ声を無理矢理押し殺す。
動かないでいる事が、自分でも驚くほど難しかった。
しかし、ファシネイターは中破したサウスネイルに背を向け、歩き始めた。
(…強者との戦いを求めるレイヴン。
 弱者に、それも戦えない奴に興味は無い、という事か)

心のどこかが安堵する。ズベンは助かる。
その事実に、彼の何処かが安心していた。

「違う!」

その感情を振り払う。
レイヴンは敵だ。滅ぼすべき敵。抹消すべき敵。
敵は倒す。破壊する。殺す。

通信回線をアクティブに変更。
同時にACガレージの扉を開ける。
*
「助けるつもりなどもとより無い…!」

果たしてその台詞は誰に言っていたのだろうか。
ズベンに? ジナイーダに?
…自分に?

否。断じて否。
俺は認めない。レイヴンなど認めない。

「随分と派手に暴れてくれたな」

歩いていたファシネイターがバレットライフに向き直る。
そのファシネイターの顔が、こちらを嗤っている気がした。
緑に光る単眼が、リムの心底を見破り嘲笑っている気がした。

操縦悍を握り締める。
血で真赤に濡れて居るだろう手で、しかし全力で握り締める。
鋭い痛みが脳に走る。その痛みが、思考を一瞬止めた。
それで充分だった。

「お前もここで終わらせてやる
 おれが倒してきた奴らと同じくな!!」
レイヴンは抹消する。全て排除する。全て抹殺する。
消えろ、消えろ、消えろ…!

殺意だけを増幅させるリム。
殺す。あのジナイーダを殺す。
奴は憎むべきレイヴンだ。殺す。殺してやる。

念じながらバレットライフを前に出す。
一瞬宙に浮き、マイクロミサイルを発射。
バレットライフの主兵装は両手のフィンガーマシンガン、
そして肩のチェインガン。
このマイクロミサイルは敵との距離が離れた時の搦め手だった。

五つの誘導弾がファシネイターに殺到する。
だがジナイーダは冷静に回避。
後退しながら、お返し、とばかりにミサイルを撃ってくる。

「ちっ」

地上からのミサイルだ。
一瞬宙に浮き、着地すれば地面に突入して消える。
だが、その動作の間に更にファシネイターは後退していた。

とは言え、優勢ではある。
ファシネイターの主兵装NIXはバレットライフのフィンガーと同じマシンガン。
そして、両手にフィンガーを持つこちらの方が瞬間火力で圧倒的に優れている。
ファシネイターは自分の一番得意な距離を殺されているのだ。

ファシネイターが障害物に足を取られた。
かかった。
リムが内心細く笑む。このR11エリアは障害物が非常に多い。
熟練のレイヴンとて、初めてここで戦闘すれば障害物に足を取られるのは免れ得ない。

バレットライフが全速で突っ込む。
真っ直ぐだ。今ファシネイターが何かを撃てば、ほぼ確実に当たる。
しかし、リムはバレットライフを直進させた。
ファシネイターが苦し紛れに反撃してこようが、近接してフィンガーを叩き込めば勝てる。
こちらがどれだけ被弾しようが、奴さえ倒せば勝ちなのだ。
だが、リムは気付くべきだった。
確かに、ジナイーダほどのレイヴンでも障害物に足を取られる事はある。
だが、彼女ほどの腕前であれば、そのミスをカバーし得る行動を取ってくる筈だった。

フィンガーの有効射程内。リムは迷う事無くフィンガーを斉射する。
それとほぼ同時、ファシネイターの肩から推進弾頭が発射された。
バレットライフにそれが命中、一瞬機体が停止する。

「なにっ!?」
「少々思い切りが良すぎたらしいな。小僧?」

中型ロケット。彼女はこれを狙っていたのだ。
いかにノーロック武器とは言え、直進するACに当てるなら容易い事である。
彼女が障害物にはまったのは罠だったのだろう。
そうとも知らず、リムは突っ込んでしまったのだ。

「悪いが手加減の出来ん性分だ。特に貴様みたいなのにはな!」

ロケットを連射しながらファシネイターが前に出る。
リムも急いで機動する方向を変えようとするが、
ロケットの命中で思う様に動きが取れない。
ファシネイターが最接近。緑の刀身が光る。

一閃。79LB2の刃がバレットライフの右腕を切り取った。
殆ど弾を撃たないままフィンガーどころか片腕まで失った。
即座に右格納武器のシルフをパージ。
だが、ファシネイターの猛攻は止まらない。

NIXを撃ちながらサテライト、そして再度接近。
明らかにブレードで斬るつもりだ。
チェインガンとフィンガーで迎撃しようとするが、
ファシネイターの機動性がそれを許さない。

「負ける筈が…負ける訳には……!」

リムが自分に言い聞かせる様に叫ぶが、現実は彼を追い詰めつつあった。
=====  ・・・  =====
時間は少し戻る。

「ん…んん〜?」

中破し擱座したサウスネイルの中で、ズベンが目覚める。
擱座させられた衝撃で気絶していたらしい。

「あっちゃー…こりゃ酷い。穴だらけだ」

機体損壊状況を見るが、どこもかしこも酷い。
一次破損していないパーツなど無かった。
だが不思議と駆動系に損傷は無い。
右腕の照準精度、左腕の反動制御が僅かに下がっていたが、誤差の範囲内だ。

「…動ける」

サウスネイル再起動。いける。
まだ天秤の南の爪は、折れていなかった。

「負ける筈が…負ける訳には……!」

リムの声が聞こえる。
見れば、バレットライフがファシネイターに追い詰められていた。
放置する訳にはいかない。
彼を失う訳には、いかない。

連動発射ミサイル、アクティブ。
ミサイルロック……オン。
既にバレットライフの破局は迫っていた。

「終わりだ! 小僧!」

バレットライフにファシネイターが迫る。
ズベンは迷わず発射釦を押す。
大量のミサイルが飛び立った。
同時にサウスネイル再動。
ブーストを使って立ち上がり、両手のライフルをファシネイターに向ける。

「!?」

ジナイーダがミサイルの接近に気付いた。
バレットライフにとどめを刺してからでは回避が間に合わない。
その事を瞬時に悟った彼女は攻撃を途中で止め、避退する。

その判断の速さ、避退しながらもバレットライフにNIXを叩き込む冷静さ、
更に障害物を使ってミサイルを自爆させる回避の妙。
全てがレイヴンと呼ぶに相応しかった。
サウスネイルがバレットライフとファシネイターの間に入る。

「リム、逃げて」
「何!?」

その声はリムと同時に、ジナイーダにも届いていた。
リムの様に声こそあげなかったが、彼女も心の中では声をあげていた。

「君でもジナには敵わない。それは今の戦いで判ったでしょ」
「だが」
「命令だよ、リム」

ズベンの声がリムの台詞を遮る。
『命令』。そう、彼女は『命令』と言った。
『リム・ファイヤーはただ一度だけ、ズベンの命令に絶対服従する事を認める。
 その際、ズベンはリム・ファイヤーに対し相応の代価を支払う』
ズベン・L・ゲヌビとリム・ファイヤーの間に取り交わされた契約の最重要項目。
彼女はそれを持ち出したのだ。

「ならば『代価』は!
『契約』では、俺に命令する時は相応の『代価』を支払う必要があるとあったぞ!」

リムは認めたくなかった。
何を認めたくないのか、自分でも判らない。
だが、認めたくなかった。ここから逃げ出したくなかった。
そうしてしまうと、今までの自分が否定されてしまう様な気がした。

「…もう、にぶいんだから」

ズベンが、笑った様な気がした。
まるで、数時間前、彼女の部屋の中で笑っていた様に。

「代価は、私の命だよ」

リムが息を呑む。
ファシネイターを障害物の裏で待機させ、
様子を伺っていたジナイーダも心の中で唸っていた。
なんという女だ。

「あとの命令は君のメールボックスに送っておいたから、そっちを見て。
 さ、ほら、早く逃げて! 私の腕じゃあんまり長くはもたないよ!」

言い返したかった。何か言い返したかった。
救われた。そう、俺は救われたんだ。この女に。このレイヴンに。
リム・ファイヤーはズベン・L・ゲヌビに救われたのだ。
自分が殺す筈の、レイヴンに。

「早く!」

言い返せなかった。やるせなさが全身を襲う。
何故だ。何故。
何故お前は俺を庇う。何故だ。何故だ!

リムはバレットライフを走らせた。
ズベンの部下が避退しているR12エリアへ向け、走らせた。
そうするしかなかった。そうする事しかできなかった。
今すぐにでも拳銃を取り出し、
自分の頭を撃ち抜きたくなるほどの感情の奔流が、彼をもてあそんでいた。
「…随分と、報われない性格だな。ズベンよ」

ファシネイターが物陰から姿を現す。
右手に持つNIXはこちらに銃口を向いていなかった。

「いいの。むしろ、嬉しいぐらいだよ。…死にたくは、ないけど、ね」
「業深き時代だな…強くなければ、自分の命を投げ出さなければならないとは」

シーラが何か言ってきていたが、ジナイーダは通信を切った。
目の前の、中破したACを駆る女は決意を固めていた。
何故、ジナイーダがその決意を汚せようか。
ジナイーダは金の為に戦っている訳ではない。
なら信念の為かと言えば、これも違う。自分で言うのも何だが、ノンポリだ。
だが、それでも。

それでも、捨ててはならぬものはある。

「お前の意思は私が受け止める」

ファシネイターが、サウスネイルに銃口を向けた。

「全力でかかってこい!」

戦闘機動が、再開した。
サウスネイルが唸り、ズベンが吼える。
リニアライフルが火花を散らし、スナイパーライフルが砲火を噴いた。
戦闘領域離脱。
もうここまで来れば、ファシネイターの追撃は無いだろう。
少なくとも、しばらくの間は。

奴がほぼ無傷でサウスネイルを蹴散らしたら…追撃は無いとは言いきれなかったが。
そして可能性は大いにあった。あの実力である。
とは言え、当面の危機は去った。
戦闘モードを解除、通常モードに移行する。

リムは大きく溜息を吐いた。
どの面を下げて、ズベンの部下に会えばいいのか。
彼女の部下は、確実に今の通信を傍受している。
だから、彼女がリムの為に犠牲になった事、
換言すれば、リムが彼女を見捨てた事を皆知っている筈だ。

下手をすれば、ACから降りた途端に殺される。
だがそれでも、彼はR12エリアにACを走らせた。
彼女の、最初で最後の、最期の命令だ。聞き届けねばならない。

ふと、彼女が言っていた事を思い出した。
メールボックス。そう、ズベンはメールボックスに命令を送ったと言っていた。
新着メール確認。確かにある。

本文は無かった。ただ、添付の動画ファイルがある。
迷わず再生。ややタイムラグを置いて、動画が再生される。
モニターに、彼女が映った。ズベンが、映った。

「や。これ見てるって事は、多分私は死んじゃったって事だね。
 ま、死んじゃったは死んじゃったでしょうがないから、置いとくね。
 あ、できればこの動画、私の部下連中と一緒に見てね」

モニターの中の彼女に言われて少し困ったが、
そう言えば彼は通信回線をアクティブのフルオープンにしていた。
ならば、R12エリアにいる彼女の部下にもこれは聞こえている筈だった。
そして、R11エリアで戦っている二人にも。
=====  ・・・  =====
「私はね、本当言うと、レイヴンじゃないの。
 父がアリーナ大好きな金持ちで、それでACを持ってたの。
 だから私はACを動かせるだけ。腕が三流なのはそのせい」

通信回線から、ズベンの声が再生される。
だが、彼女も、ジナイーダも、戦闘機動をやめなかった。
サウスネイルがミサイルを発射。
ファシネイターは引き付けてから切り返し、これをかわす。
だが連動発射ミサイル付だ、弾数が多く、回りこんだミサイルが一発命中。
ファシネイターが空中で僅かにバランスを崩すが、持ち直す。

「でも、特攻兵器が降ってきたあの日から、私はレイヴンにならなきゃいけなかった。
 ACを動かせるのは私だけだったし、私の居た街は完全に消えちゃった。
 だから、街の人を守る為に、私はレイヴンにならなきゃいけなかったの」

今度はファシネイターがミサイルを発射。
高速で迫るミサイルをかわしきれないと見たか、
サウスネイルは連動発射ミサイル発射管をパージする。
ミサイル数発が発射管に誤って突入。残りはサウスネイルがどうにかかわす。

「けどね、やっぱり現実は厳しかった。
 私程度の腕前じゃ、本物のレイヴンには全然歯が立たないの。
 でも、だからって負けてばかりじゃいられなかった。
 街がもう無いんだもん、誰かから奪う他無かった。
 だから酷い事も一杯した。人も一杯殺したよ」

ファシネイターがミサイルポッドをパージ。
ロケットもパージする。
身軽になったファシネイターは速度を大幅に向上させ、サウスネイルに迫る。
そうはさせまいとサウスネイルはミサイルを一斉発射。
更にリニアライフルとスナイパーライフルの弾幕を張る。

「でもね、それでもね、やっぱり駄目だった。
 私が弱すぎたの。皆を守るには、あまりに弱すぎたの。
 でも、この動画を見れてるって事は、どうにか君だけは守れたんだと思う」

ファシネイターは迫るミサイルをかわそうともしない。
コアの迎撃システムが唸りを上げ、ミサイルを潰しにかかる。
更にNIXを振りかざし、肉薄するミサイルを片っ端から撃ち落とす。
リニアとスナイパーの弾頭が何発か命中。コア、損傷。
だが、その警告メッセージを意にも介さず前進を続ける。

充分に接近してから、サウスネイルの居る空へと上昇。
至近距離。ブレードの有効射程範囲内だった。
ファシネイターが左腕を振るい、緑の刀身がサウスネイルを襲う。
サウスネイルの右腕が吹き飛んだ。
「だから、お願い」

ファシネイターは離脱しない。そのまま勝負を決めるつもりだった。
79LB2が、その緑の刃を再び形成する。
だが、サウスネイルもそのまま負けるつもりはなかった。
ファシネイターの左腕が再び振られるのとほぼ同時、
サウスネイルがスナイパーをファシネイターのコクピット向けて突き出す。

苦し紛れと言えば苦し紛れな一撃。しかし、有効な一撃でもあった。
ファシネイターはサウスネイルに接近する為加速していたし、
後退していたサウスネイルは打突の瞬間前進に機動を変えていた。

スナイパーライフルが歪み、ファシネイターの胴体装甲が変形する。
これが射突型ブレードなら、ファシネイターは一発で鉄屑になっていただろう。
79LB2の刃はそのせいで浅く入り、
コクピットごと蒸発する筈だったズベンは無事で済んだ。

…いや、無事ではなかった。
直撃こそしなかったものの、
79LB2はサウスネイルのコクピットを裂き、中のズベンを露出させていた。

中の彼女は血にまみれていた。
以前に被弾した時内装が吹き飛んで傷ついたのか。理由は判らない。
だが、彼女の両手は操縦悍を握り締め、その瞳は戦う意思を今だ燃やしている。

「君は強い。だから、皆を守ってあげて。
 皆の力になってあげて。君なら、皆を守ってくれる。
 そう、信じてる」

ファシネイターがサウスネイルを蹴り落とす。
大破したサウスネイルが建造物を破壊し、埋もれた。
残っていたミサイル弾が爆発したのか、サウスネイル背部で爆発が起こる。
ファシネイターはその近くへ着地した。
銃口をサウスネイルに向けたまま。

「じゃあね。リム。
 …愛してるよ」

通信回線から入ってきていた音声が途絶えた。
動画の再生が終わったのだろう。
ファシネイターの中から、ジナイーダがサウスネイルを見る。
ズベンが咳き込みながらも、こちらに目を向けていた。

「これほどやられても、まだ戦うと言うのか…」

ほぼ二次破損状態なのだろう、
サウスネイルがぎこちなく左腕を動かす。
銃身が曲がり、もう二度と弾は撃てないだろう
スナイパーライフルの銃口を、ファシネイターに向ける。

「えへへ…」

ズベンは自嘲気味に笑っていた。
口から血がこぼれる。内臓でもやられたのだろうか。
医学知識が乏しいからよく判らない。

ただ、熱かった。
身体が、熱に浮かされている様に熱かった。
まるで燃えている様ですらあった。自分の身体ではない気がした。
それでも彼女は左手の操縦悍を握り締め、見越しで照準を合わせる。

「こんな時だっていうのに、いい台詞が思い浮かばないや」

一方のファシネイターは動く気配が無い。
NIXの銃口を向けたまま、こちらを睨んでいた。
まるでサウスネイルの最期を看取るかの様に。
事実、ジナイーダはそのつもりなのだろう。

「まさか、ズベン!」

ジナイーダが叫んだ。嫌な予感。
嫌な予想が頭に浮かんだのだ。

「やめろ!」

ファシネイターが前進する。
その声と光景を目の当たりにしたズベンが、満足げに笑った。

――さよなら、リム。
――私も、楽しかった。

サウスネイルが、左手に持つスナイパーライフルの引き金を引いた。
あの銃身が曲がったライフルを。
即座に弾頭が銃身内へ撃ち出され、薬莢が排莢され、薬室へ次の弾丸が装填される。
そして、撃ち出された弾頭は曲がった銃身により本来の機動を外れ…

「くっ!」

サウスネイルのスナイパーライフルが爆発した。
曲がった銃身に向かって撃ち出された弾頭により薬室内の弾丸が暴発、
更に隔壁を突き破り、ライフル内にあった全ての弾丸が連鎖的に爆発したのだ。
弾頭の破片が、薬莢の破片が、そして何よりライフル本体の破片が飛び散る。
接近していたファシネイターの頭部を、破片が貫いた。
一撃で二次破損クラスまで持っていかれる。
同時に、サウスネイルにも破片は降り注いだ。
ファシネイターは後退。
ジナイーダは素早く被害状況を把握する。
頭部は一次破損だが、機能のほぼ全てが死んでおり、事実上の二次破損状態だった。
買い替えは確定だろう。
モニターの映像の映りは最悪に近い。
他には、右腕の肘関節部に破片が入り込んだらしく、
不調を起こしていたが、こちらはさほど緊急を要する被害ではなかった。

「…」

ジナイーダはファシネイターを操作し、サウスネイルを見る。
死に掛けのカメラ越しにも、サウスネイルが黒煙を噴き上げているのが判った。
やるせない気持ちがジナイーダを襲う。
だが、どうしようもない。彼女が自分で選んだ事だ。
そして、ジナイーダはその決意を受け入れる事を選んだ。
覚悟の上だ。だがそれでも、辛かった。

彼女は、最後の力でファシネイターを追撃不能に追い込んだのだ。
その事実だけが、ジナイーダにとってせめてもの慰めだった。
彼女はファシネイターに一矢を報いたのだ。リムの為に。部下の為に。

ややもするとその光景から目を逸らそうとする自分を叱咤し、
シーラとの通信を回復させる。

「ジナイーダだ。聞こえるか、シーラ」
「ジナ! ジナなのね! 良かった、心配したんだから…」

シーラが安堵の息をこぼす。
彼女は彼女なりに、ジナイーダを心配していたのだ。
ジナイーダも、それは判っていた。
「頭をやられた。追撃は不可能だ。
 ガレージに帰還する、ヘリを寄越してくれ」
「判ったわ。帰りましょう、ジナ」

すっかり安心したらしいシーラが、ファシネイターに合流予定地点を指定してくる。
彼女はそこへ向かう前にもう一度、サウスネイルを一瞥した。
そして、ファシネイターを走らせる。

「お前は強かった。誰よりも、強かったぞ。
 ズベン・L・ゲヌビよ」

ファシネイターのブースタが火炎を噴く。

「渡り烏の…レイヴンの称号は、お前の様な者にこそ、相応しい」

小さく、ジナイーダが呟いた。

「? ジナ、何か言った?」
「いや、何でもない」

シーラの言葉に答えながら、ファシネイターを走らせるジナイーダ。
ズベンの戦いは終わった。だが、まだ彼女の戦いは終わっていない。
彼女は次に来るだろう戦いに備え、ファシネイターを走らせていた。


サウスネイルは、今だ黒煙をあげていた。
まるで、ズベンの墓標であるかの様に。




12:18 ズベン・L・ゲヌビ、戦死。
――残るレイヴンは、あと17人。

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