感慨深かった。もう一度、欠片でもこの目に焼き付ける事が出来るとは。既に纏っていた深紫のカラーリングも落ち、赤褐色の、金属の死骸とも言える姿を晒していた。
今でも覚えている。この機体の眼にはエメラルドカラーの光が宿り、私の友人として、鎧として、あらゆる物に引き金を引いていた事を。


「まだだ…まだ…」
自らの身体に異常とも言える負荷を掛けて望んだ終止符の為の戦い。今度こそ邪魔の入らない至高の空間。
誰もが、私が取り分け望んだ最後の傭兵を決める戦いに相応しい相手がそこに居た。
アライアンス、バーテックス、人類の未来、世界の終末、そんな物を全て忘れて、私は「最後」の相手を求め続けていた。
ある意味では誰よりも愛しい相手に引き金を引く快感。一発一発が金属を焼く音を響かせる度、私の待ち望んでいた瞬間が近づくのだと確信する。
「…もうすぐだ…」
そこにあるのが栄光である筈が無い。私が勝ったとしても、もう傭兵の出番は無いだろう。
私はこの、手の届く「まで」の瞬間が欲しかったのだと始めて自覚した。
もし勝ったなら…この機体と同じ運命を辿るのが良いだろう。同じように出番無く、朽ちていく事にしよう。
負けたなら…その時はこの機体が炎の棺桶となり、地獄への道標を示してくれるだろう。

警告が響く。ディスプレイの異常もはっきりしていた。レーダーエラー、ロックエラー…闘志をつきさせる前に、機体が膝をついた。

見上げた先には、勝者の機体。
私が見たかった「最後の傭兵」。自由の象徴。何者にも捕らわれない黒い翼…

視界に闇が浮かんだ。そのまま眠りに就く事にした。最後の眠りにしては、心が安らいだままで…

「ふっ…」
自嘲したくなる。どんな形であれ、まだ現世にいたのだ。あれから大分経ったのだろう。インターネサインでさえ掘り起こされてしまった様なご時世だ。
幸運はその現場に立ち会えた事だろうか。目の前にある金属の残骸には見覚えがありすぎる。
香水と女神を象った様なエンブレム。私の相棒の目印。色がくすんでいたがあれは肩パーツだっただろう。おそらく間違いない。

それからは朽ちた日々を過ごしていた。生き甲斐が無くなった人間を拾う奇特な奴など、そうはいない。声を掛けたのは同業者ぐらいだ。
抜け殻同然だった私は欠片程のプライドで、奴にこう言った。
「敗者が勝者に従うのは同然の成り行きだろう」
それからは奴に言われるがままに過ごして来た。
私は敗者だったから従う。
どのような扱いでも文句を言うつもりも無く、それこそ奴隷同然の扱いでも構わないでいた。
だが奴は一言、「もう少しこの世界に拘れ」と言ったきりで、特に私を拘束しなかった。

あのやりとりからどれだけ経つのかは解らないが、相変わらず私は奴の近くにいる。同じ生き残った者として、興味があるのも本当だが…離れられない理由も出来てしまっていた。…いや…作らされていた。

「恐ろしい物が出てきたな…」

「それ程私が怖かったか?」

「いや…」
奴はエンブレムを指す。

「コレと違って鉄ぱ」
「三度目は無いと思え」
(ry

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