「アンタ、私に買われないか?」
女は男に向かってそう言った。
女は決して、女だと言うことを差し引いても大柄では無い。薄く、太陽の光に抜けてオレンジ色に見える髪と。少々キツメだが、どこか危なっかしさと幼さを持つ瞳を持っていた。
…ガキだな。
そんな女に見下ろされた男はそう思う。
男の方は瓦礫の上に腰掛けている為に見下ろされているだけで、まともに立てば逆に見下ろせる位の身長は持っていた。
体格も良い。肩幅などは二倍ある様にも見える。
切れ長の目と、自分のイメージカラーに染め上げた紫の髪。それにその体格が合わされば、気圧される者も少なくないだろう。
顔の傷は無茶と、戦いの証だった。

「おい」
「うん?」
「お前さんが何をしたいのかは解らんが…俺が誰かを知ってるのか?」
「ああ。有名人じゃないか。狂犬だろ?」
「…なら話は早い」
ゆっくりと男は腰を上げた。そのまま立ち上がる姿勢になる前に、
女の、パイロットスーツの襟首を掴んだ。
「!」
女が怯んだ隙に、男は掴んだ腕に力を入れ、廃墟となっているビルの壁まで押し込んでいく。
後ろへの逃げ道を奪う為に。

「こういう事をされてもおかしくない。そういう事だ」
片手は襟首を握ったまま、もう片方の手がスーツ越しの女性の膨らみを掴んでいた。

「っ!」
「治安なんてあるんだか無いんだか解らない世の中だ。ココで俺がお前を好きにして、その後でバラまいても良い。勿論逆もある」
男の角度からは前髪に隠れて、女の表情が見えなかった。
女は、震えていた。
男からすれば予想通りの反応だった。後は好き勝手にするか、面倒事だと割り切って、震えが止まらない内に突き放すのもアリだ。と思った。
お互いが思案している間、沈黙が続く。

先に、女の方が口を開いた。

「…もし」
「うん?」
「…もし私が今、お前の好きにされたなら…」
「…」
「組んでくれるなら…それで良い」

始めて、男は女にまともに取り合った。
「…どうしてそこまでして俺を?」
「仲間が居る。皆で生き残りたいんだ。この先私達がどうなるのかは解らない。でも、せめて奴らを助けてやりたい」
「…俺に道徳が通じるとでも?」
「だから買うんだ。私なら好きにすれば良い。だから組んで欲しい」
「…」
暫くの沈黙の後、一気に男の口元が緩んだ。

「…ガルム」
「え?」
「ガルム。ケルベロス=ガルム。狂犬がお前の番犬だ」
「それじゃ…」
男の手を振りほどいて、女は嬉々とした表情男を見上げた。
やっぱりガキだ。と、男は同じ感想を繰り返す。
「どうせ面白く無い世の中だ。思い切り暴れてやるさ」
「これで百人力だよ!」
「…まだ名前を聞いてないぞ?」
「ムーム、ムームだよ!」

「そうか。ムーム」
「うん?」
「強がりは辞めておけ。命取りになる」
「強がり?」
「ああ。生娘じゃ俺の相手は務まらない」
「あ…」
女の赤面に、男は益々表情を緩ませた。

後ろでは二体のACが立つ。破壊の申し子であるこの人形は、似つかわしく無い程太陽の光を鮮やかに反射していた。
瓦礫の中にも鮮明な光を、真っ直ぐに導かせていた。

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