『―――何故、撃たなかった』
聴き慣れたはずの声を何故だがとても懐かしく感じられる。
イカレかけたモニターと利目に中破した彼女の愛機が映し出され、俺は軽く口笛を吹いた。
「アンタに殺られるのも悪くない。それだけの事さ」
喉の奥から、灼熱の塊が吹き上げてくるのがわかった。このポンコツめ。
懐の煙草を取り出そうとして左手を動かすが、指が言うことを聞かない。
『そうか。ならば、望みどおりに刈り取らせて貰うぞ』
シリエジオの左腕が軋みながらゆっくりと上がり、黄昏の赤を受けて銃口が鈍い光を返す。

「じゃあな、先生」
通信スイッチを切ると、俺はゆっくりと瞼を閉じてあの鼻歌を口ずさんだ。

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