・エロ無しです(親子でなんて書けません…てか、書きたくありません)
・前に書いた乙樽x♀主とは関係ないです。
・微妙にアンジェ→ベルリオーズが入っています。
・すまない旧友…戦隊物&父の日はムリだと悟った。



































紅い薔薇が白昼に散った。
国に不満を持つ武装集団同士のいつもどおりの争い。
たまたま、妻と娘が巻き込まれて運悪く妻が射殺されただけだ。
それも娘の目の前で。

ベルリオーズは一人、モニターに向かい作業をしていた。
ふと、後ろに気配を感じ振り向く。
娘が黒いクマのヌイグルミを引き摺っている。
その顔には何も表情が浮かんでいない。
ただそこにいるだけだ。
「眠たいのか?」
ベルリオーズは優しく尋ねた。
娘はコクリと頷いた。
「分かった…先に寝ていなさい」
ずるずるとクマのヌイグルミを引き摺りながら娘は寝室に向かった。
もう十歳になると言うのに、娘は幼い子供のようだ。
時が止まってしまったのかもしれない。
そう、あの日から感情も言葉も失くしてしまった。
「私は…何の為にリンクスになったのだ……」
誰も答えるものはいない。

あの声がまた聴きたいと思う。
あの笑顔がまた見たいと思う。
ベルリオーズは自分の手を見る。
あの日の散った薔薇のように紅く染まっている気がした。
リンクスになるという代償で、妻の命と娘の心が失われてしまったと言うならただ受け入れるしかない。
いつか救われるとは思わない。
明日は笑えるなんて都合がよすぎる。
そっと、ベルリオーズは隣で寝ている娘を見た。
胎児のように丸まっている。
まるで“外”を拒んでいるようだ。
「私の子供で無ければよかったのにな…」
違う親ならば幸せに出来ただろうに。
そういう意味でベルリオーズは言った。
暗闇の中、娘が微かに震えたことには気づかない。
明日も国家解体戦争の英雄として、レイレナードの誇りとして生きなければならない。
どんなに尊敬されても、愛しい娘と一緒にいる時間のほうがずっといい。
「…お休み」
娘の額にキスをし、ベルリオーズはゆっくりと甘美な夢の世界に落ちていった。

「お早うございます、ベルリオーズ」
「ああ、お早う…ザンニ」
いつもどおりに娘を伴って出勤するベルリオーズ。
「今日は父の日ですよ。もう言われました?」
楽しそうにザンニは言う。
「ベルリオーズみたいな父親がいたらそりゃぁもう感謝されまくりですよね!」
「いや、それはないと思うぞ…むしろ怨まれるだろうな」
と困ったようにベルリオーズは言った。
「はぁ…私は憧れますよ。ウチの親父ときたらスペイン男を地で行ってますし…」
陽気で楽天家、トマト大好きのザンニの父親。
その所為でザンニは慎重な性格になった。
「ああ、いいなぁ。君はこんな父親を持てて」
ベルリオーズの手に引かれている女の子の頭を撫でるザンニ。
全く変わらない表情。
そのはずだが、幾分か暗い気がする。
「それでは、ベルリオーズ。時間に遅れないで下さいね」
ニコニコ笑うザンニ。
そういうところは父親似なのではないかとベルリオーズは思った。
娘を見る。
「今日も、大人しくしているんだぞ?」
毎日言っている言葉。
娘は何かを指差した。
その先を見るベルリオーズ。
エグザウィル内の小さな庭園に様々な色の薔薇が咲き誇っていた。
「ん、帰りに見よう。ちょっと、いや…かなり不味い」
腕に着けているアンティークな時計を見ながらベルリオーズは言った。
娘を自分の執務室に置いておかなければ。
声なき言葉にベルリオーズは気づかなかった。

彼女は真っ白な画用紙に絵を描いていく。
黒のクレヨンを滑らし、下書きも必要とせず塗り続ける。
誰もが彼女を指してこう言うだろう。
『異常』だと。
 ――おとーさんはわたしをいらない。
今度は赤のクレヨンでまた一心不乱に塗っていく。
非常に精巧で写実的なシュープリスがそこに現れていく。
 ――しんだらよろこんでくれるかな。
窓を見る。
何処までも青空が広がっている。
落ちたらきっと死ぬだろう。
それは毎日のように思っていた事だ。
だが、今日は父の日だ…父の為に何か特別な事をしなければ。
彼女は考える。
 ――バラをちらそう、おかーさんがねてしまったときもそうだった。
あの日も父の日だった。
彼女は母に連れられ薔薇を買いに行った。
そして、その薔薇を散らし母は凶弾に斃れた。
何も言えなかった、泣く事も出来ない。
父が母の代わりをしてくれたが、彼女の心は冷えていった。
その優しさが欲しいわけではなかったのだ。
彼女はシュープリスの絵にある文を書き加えた。
あとは薔薇を用意すればいい。
“父親”が悦んでくれる事をするのが、父の日なのだから。
今度は真っ赤な薔薇を何枚も描きはじめた。
 ――なんでわたしはいきてしまったんだろう。
不要な子供なのに。
誰からも祝福されないのに。
何処に行っても愛されるわけがないのに。
彼女は真っ赤な薔薇とシュープリスを父の机に置き、窓の向こうの空に溶け込んだ。
「ベルリオーズ」
アンジェが呼ぶ。
項垂れたまま嗚咽を零すベルリオーズ。
手は娘の手を握っていた。
奇跡的に殆ど無傷だった。
医者は不思議がった。
あり得ないと立場を忘れ言ってしまうほどに。
「元気出せとは言わん…言わんが……」
初めてだった。
あのベルリオーズが涙するなど。
「大事にならなくてよかったじゃないか」
「奇跡だと言いたいか、アンジェ」
怒りをこめた声でベルリオーズは言う。
「絶望だけしかない、こんな奇跡が!私は望んでいない!!私が生きる事も、あの子ばかりが壊れていく事もッ!」
アンジェを壁に押し付ける。
ベルリオーズの強く握った拳からはぽたぽたと血が零れ落ちた。
「救いは何処にあるんだ…アンジェ……私に教えてくれ…耐えられんよ」
抱きしめてやりたい衝動に駆られるアンジェ。
だが、それは許される事ではない。
「探すものではないと私は思う」
一枚の画用紙を指す。
そこにはこう書いてあった。
『To the best Dad in the whole world!』と。
「自分の死を最愛の父に贈ろうと思ったのか…」
「彼女にとってはそれが最高の、自分が出来る感謝の気持ちだったんだろう」
そんな事は望んでいない。
それが感謝だと言うならばベルリオーズは自分の人生をかけて否定するだろう。
「自分の子供が亡くなって喜ぶ親などいないよ」
「…目が覚めたら本人にそう言ってやれ。それとだな、お前はもう救われてる」
驚いた顔になるベルリオーズ。
アンジェは微笑むだけだ。
「お前が思う以上にこの世界は優しいよ」
アンジェはそう言い残し部屋を出た。
親子二人残される。
長い沈黙。
ベルリオーズはずっと娘の傍にいた。
このまま、目が覚めないほうがいいのではないかと思ってしまう。
それでも、伝えたい事がある。
やり直せないのは分かっていた。
何年、いや何十年先になるか分からない。
その声を聞くことが出来るなら、その笑顔を見る事ができるなら…伝える事も無意味ではないと思う。
「お前は望まれて生きているんだ。私はそうだよ…」
最後に愛しい、愛しい娘の名前を呼んだ。
いつの日か答えてくれると信じて。

このページへのコメント

5oSKeA Really appreciate you sharing this article.Much thanks again. Really Great.

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Posted by stunning seo guys 2014年01月20日(月) 12:54:34 返信

EXiuLf Appreciate you sharing, great blog.Really looking forward to read more. Great.

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Posted by check this out 2013年12月19日(木) 16:44:29 返信

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