そういえばラインアーク防衛は夕焼け(?)ですよね…
李商隠の「楽遊原」が個人的にはしっくり来ます ^^;
・主人公が♀です。
・オーメル様は乙樽だって容赦なく使います。
・4主人公存命…4主xフィオナな表現が微かにあります。
・ヘタレすぎるダンくんをレギュ1.15で斬り刻まないで下さい。
・ゑロなし。
女体化などが苦手な方は読まない事をオススメします。
『案外、純情なのだな』
「何がだ」
苛立つオッツダルヴァ。
この男に純情など言われたらおしまいだ。
『いや…十年以上も恋い慕う辺り。まあ、ちょっと歪んでいるが』
「お前、私に喧嘩を売っているのか!?しかも、歪んでいるだと!メルツェェル!」
とオッツダルヴァ、かなり短気な彼であるがいつもは余裕の笑みを浮かべている。
勿論、心の中ではぼろくそに罵倒している。
それを本音で、声に出して言えるのは亡きベルリオーズとメルツェルぐらいなものだ。
『怒るなよ…お前のもう失いたくない気持ちは重々に分かっているさ』
「だが、私は願っているのではなく、呪っている…傍にいてほしいだけなのに……守りたいんだ、今度こそ」
誰からも侵害されない為に待ち続けていた。
自分だけを見てくれれば彼女を守れると本気でオッツダルヴァは思っていた。
その為なら他の人間がどうしようが関係ない。
ただ、彼女に危害を加えるなら排除する。
何とも単純で恐ろしい事だろう。
いや、そうせざるを得なかったと言うべきか。
そうは言ってもクローズプランは心願だ。
それと同等に彼女を想っていた。
人類と一人の女が釣り合うのは秤が間違っているのだろうか?
「メルツェル、私は間違っていないよな?」
『お前が出した答えだ。私は判断出来んよ』
オッツダルヴァはそうかと一言だけいった。
この一言に計り知れない力が込められているのをメルツェルは分かっている。
「前菜と行こうじゃないか…」
彼女を食べるにはまだ早いから。
何がなんだか判らない料理の山。
それをペロリと食べる女性が一人。
「ア、アンタ…すげぇな」
思わず感嘆するダン。
彼女の食べっぷりは少食のダンにすれば“有り得ない”
「てか、カラード主催の親睦会なのに食ってばっかりじゃないか」
クレイドルで定期的に行われるカラード主催の親睦会。
ターゲットは何処の企業も支援していない独立傭兵だ。
それを口説く為に行われているのだが、二人は上手い具合に仲介人を避けていた。
「美味しいご飯を放って置けません!全部天然素材ですよ…あ!首輪つきケモノ!!」
彼女は何かのセンサーでも着いているのか人込みの中に紛れる。
「口拭けぇッ!みっともない!!」
なんだかんだで楽しむ二人であった。
それを面白く思わないオッツダルヴァ。
首輪つきケモノの着ぐるみを着てのご出席である。
どれもこれもオーメルの策略だ。
背中のチャックにはこの短い手足は届かない。
それに気付いたのはつい先ほど…後の祭りであった。
汗だくになりながらちびっ子達―リンクスや関係者の子ども達―の相手をするオッツダルヴァ。
――クソ、オーメルめ!!この私にこんな物を押し付けやがって!
オッツダルヴァは暗い感情を滾らす。
「可愛いです!フワフワモコモコ…えへへ」
聞き慣れた声に硬直した“首輪つきケモノ”
オッツダルヴァの汗が滝のように流れる。
「ほれ、こっちを向け」
「ん…ンっ」
彼女の口を布で拭くダン。
「よし!抱き着いていいぞ」
と綺麗になった口を見てダンは言った。
「はい…そのつもりですー!覚悟、首輪つきケモノ!」
彼女は抱き着くというより、突撃をする。
あまりの衝撃によろめき倒れる首輪つきケモノ。
頭が取れないように押さえるオッツダルヴァ。
恐らく彼のこれ程、必死な姿は最初で最後だろう。
「……?!」
慌てて彼女は首輪つきケモノを起こそうとした。
だが、重くてちっとも動かない。
「ダンくん、手伝ってくださいー」
「お、おう!」
ようやく立てた首輪つきケモノ。
ペコリと一礼すると早足で去って行った。
「しゃ、写真撮るの忘れていました…」
と残念そうに彼女は言った。
次があるさとダンは笑いながら慰めた。
あのオッツダルヴァが着ぐるみを着ることは未来永劫無いだろう。
何故ならば……体中に出来た汗疹(あせも)で数日間、ネクストに乗れなくなったからだ。
薄暗い場所に立つ男。
下を見れば白き閃光の名の愛機がある。
旧式のオイルライターで煙草に火を点ける。
紫煙を吐き、手を振った。
「此処、禁煙ですよ」
と大人しそうな女性。
「俺はレイヴンだ…人間様の決め事に囚われない…なんて、な」
ボリボリと頭を掻き、吸い始めの煙草を足で消した。
「フィオナ…眼見えないからあれだが、怒ってるか?」
「怒っています…えーと、今日はなんて呼べばいいですか?」
気分で男は名前を変える。
昨日はシャルル、一昨日はアカヅキなど規則性はない。
「今日はエヴァンジェかな」
「では、エヴァンジェ…私は貴方をこれ以上危ない目にあわせたくないです。
貴方ときたら、彷徨して私に安心させてくれない…んっ!」
男はフィオナの唇を指で軽く押さえる。
「死ぬときはお前の温もりじゃなくてACの中って決めている。それが最後の鴉の粋ってもんだろ?」
指が水で濡れる感触。
男はよしよしとフィオナを撫でた。
「俺はお前に生かされている」
「レイヴンなんて嫌いです…私は貴方が大切なのに」
「俺はフィオナの笑顔は見れんが、温かみは分かる…毎日、救われているんだ」
明日は見えない。
だから、今日を生きる。
それが男なりの答えだ。
人類を憂い、どうにかしようなんて考えていない。
我が儘に見えるだろう。
力を持ちながら自分の生きたいように生きる事は。
男は山猫ではない。
縛られる道理はないのだ。
「酒に溺れて女に呑まれるより、お前の声が聞きたい」
「私でよければいくらでも」
フィオナはそっと男が教えてくれた本当の名前を呼んだ。
「それ文字で書くと間違って呼ばれるから困るよな」
男は苦笑する。
いつ終わってしまうか分からない幸せな日々。
傷付いた体に山猫が這い寄り喰らわれても、男は生を乞わない。
それがリンクス戦争の英雄としての誇りであった。
彼女はテラスで風に当たる。
人工的に造られた環境でも清清しい気分になれた。
「元気出たか?」
「お見通しですか…やっぱり凄いですね、ダンくん」
微笑む彼女。
ダンはそれだけでポッと頬を赤らめた。
「俺はヒーローだからな!ヒロインを守るのが使命だぜ!」
機体エンブレムとは真逆のひょろひょろの身体。
強風に吹かれたら飛ばされてしまいそうだ。
それで守ると言われても鼻で笑われるのがオチだろう。
だが、彼女は笑わなかった。
ありがとうと頬に軽い口付けをした。
「〒$☆≒@!!」
ダンは言葉にならない声で慌てふためく。
「も、もしかして潔癖症でしたか!?」
「いや、あ、あのだな…そーじゃなくて…」
熱暴走するダン。
茹蛸のように顔が真っ赤に染まる。
お湯も沸かせそうだ。
「ねぇ、ダンくん」
「は、はひ!?」
とダンは声が裏返っている。
彼女は軽い声で言う。
「また、逢えますよね?」
「し、仕事か?」
「ええ、今度はアスピナ機関のCUBEと協同で。その後…すぐにラインアークに向かわないといけないのです」
ラインアーク…今度はホワイトグリントが出迎えるだろう。
彼女とて無傷では帰れまい。
いや、そもそも帰れるかどうかも分からない。
「一人でラインアークに行くのか?」
「いえ、まだ詳細は分かりませんが、上位ランクの人が僚機になってくれるみたいですね」
「そっか、じゃ…俺が行くまでもないか。俺が行ったらアンタの出番なくなっちまうしな!」
ハハハと笑い始めるダン。
顔が引き攣っている。
「ダンくん、ありがとう」
「止せ、止せ!これで逢えなくなるわけじゃないんだ…なぁ、そうだろう?」
「そうですね…また逢いましょう」
ダンは込み上げるものに戸惑った。
本当は陽炎のようにあやふやな彼女を引き止めたいのだ。
そして、思い出した。
彼女は手の届かない距離にいたことを。
引き寄せて抱き締めるなんて許されない。
――私は臆病者だ……こんな関係でいいはずがないのに。
ダンは先ほどの高揚とした気持ちからどん底に突き落とされた。
昔の彼ならばちっとも気にかけなかったのに。
いつの間にか空虚な心を彼女が占めていた。
「俺、アンタが…!」
「…私じゃダメですよ…ダンくんの本当のヒロインはちゃんと何処かにいます。私はダンくんを惑わす魔女ですから」
「たとえアンタが魔女でも、俺の気持ちは俺のものだろう!?だから、好きになりたい…アンタが好きなんだ」
何故、彼女は悲しそうに笑うのか。
笑わないで欲しい。
その笑顔の下は涙で濡れている事を悟ってしまったから。
――あなたに触れたい……抱き締めたい。求めていいですか?
さぁ、蓋を開けよう。
失ったものを取り戻さねば。
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