阿呆な女は良い−
騙しやすいく、情をかければ喜んで駒になる。それが地獄の番犬の持論だった。
「ガルム」
番犬の腕の中で女は名を呼んだ。痩せた、小柄な女だ。数多の猛者を食い殺し
てきた自分ならば、こんな華奢な首も簡単にへし折れてしまうだろう。情事の
最中でもそんな事をふと思い付く。男がケルベロスと呼ばれるのはそういった
ところからなのかも知れない。
「ムーム」
番犬も意味もなく名を呼び返してやる。女は嬉しそうに笑うと、キスをせがん
だ。噛み付くように唇を吸ってやると、女の吐息が甘い色を帯びる。ニコチン
が染み込んだ自分の口を、こんなにも好むのがガルムには理解できなかった。
背に回された手もやはり細く、頼り気ない。こんな腕でACを、人類から忌み嫌
われ、欲されている兵器を操っているのかと思うと、笑いすら込み上げてくる。
「よそ見」
「なに?」
「全く関係ないこと考えてた。そう、次の仕事の事?」
「お前は考えなくていい」
管轄機構もない今、生兵法は大怪我どころか死に直結している。
「あっそ」
「楽しむ時に楽しむんじゃなかったのか?」
「無粋ね。まぁ良いわ」
およそ信じ難いが、どうやらムームはこの実力で生き延びていけると踏んでい
るようだ。
「まぁいい」
「まだ何か考えてるの?」
(生き残るのは俺だ)
煽ればこいつは敵に突撃するだろう。それが自分よりも遥かに格上のレイヴン
であろうと。足止め程度には働いてくれるだろう。そう考えたなら…
「可愛いものだ」
「何さ、気持ち悪い」
情は移さない。貫き、歓喜させながら、ガルムはムームを誰に当てるかを思案
していた。
「今夜は可愛がってやる」
どういう方向にであれ二十四時間で世界は動く。その変化に乗れぬ非力な者は
死ぬ。こいつも、その非力な者の一人に違いない。
ならば一時、狂うほどの快楽に浸らせても良いだろう。ガルムは突き上げなが
ら首筋に吸い付いくと、ムームは傭兵とは思えぬかわいらしい声を上げた。

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