「ふぅ…」
一人で街に繰り出してみたものの、大した予定などなかった。
ただ、あの場所に居づらかった。

数日前から、サークシティから帰って来た日から、あの二人はいちゃついてばかりいる。
独り身の寂しさが身に沁みた。今までこの仕事に没頭して、男を作った事などない。加えて、大概自分が恋愛感情を持つのは、レイヴン。別れはいつも死と言う別れ。
始めて生きて帰って来た人が居たと思えば、いきなり同業者と恋に落ちて、私の存在など無かったように…
「…無かったように…」

カウンターに突っ伏して、コースターに乗ったグラスを尻目に、小さく呟いた。
カラカラと鳴る氷は、まるで映画のワンシーンのように、悲恋劇を演出している。
既に時計は十時を回った。でも帰りたくなかった。今からあの二人は愛を確かめあうのだ。
「どんな気持ちかしら…彼女…」

始めてマトモに人と付き合い恋に落ちた彼女は、今どれ程の幸せを享受しているのだろう。
私はまだ20前半。男遊びだって出来る年頃なのだが、そんな気にはなれかった。
男が寄ってこなかった訳じゃない。
容姿にだって少々自信がある。
肩までのびた金髪、大きいとまではいかないがハッキリとした瞳。
ツンとした鼻。
引き締まった唇。
背もそれ程低くはないし、肌の色も白とは言えずとも、きめ細かな肌だ。
体も締まっているし、出るトコは出ている。
ただ、彼女以上の美人かどうかは自信がない。

容姿について語った事は少々高飛車に思われるかも知れないが、淋しいからだ。

カラン
扉の開いた音がした。
「…」
背中から声を掛けられる。
「悲劇のヒロイン…か?」
感が鋭い癖にこの男は無神経な事を言う。わざとやっているのかと思い時々腹が立った。
やたらと私にちょっかいを掛けてくる。
「…シーラ?」
「何しに来たの?」
「つれないな。仲間だろ?」
「仕事のでしょ?あなたはプライベートに突っ込み過ぎ」
「…独り身だし…」
「うるさいわね!」
酒が入っているせいかムキになってしまった。

エド・ワイズ。

一応、一つ屋根の下に住んでいる男だ。彼とは何も起きてはいないし、起こしてはいないが。

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