湿り気のある地面を金属の脚が踏みしめる。
濃い緑色に塗装された人型兵器─私用にカスタマイズされたアーマードコア、『グラッジ』は違和感なくこの密林に溶け込んでいた。
今回のミッション・オブジェクティブは単純だった。ディム密林地帯に逃げ込んだテロリスト共の排除だ。
所詮はテロリスト、貧弱な装備しかないのはもはや目に見えているのだが、密林に逃げ込んだとなれば話は別だ。
農霧と密林という隠れ蓑がある以上、どれほど貧弱でもMT部隊ではある程度の被害は覚悟せねばならない。
だからこそ企業の連中はレイヴンを雇う事に決めたのだろう。圧倒的な性能を持つアーマードコアならば、地の利など簡単にひっくり返す事ができるのだから。
そしてその掃討任務に選ばれたのが私、カラードネイルという訳だ。
レーダーに赤色の光点が映る。彼らはまだ自分達が逃げ切れていると思っているのだろう。ECMも撒かずに、無警戒な事だ。
「さっさと終わらせるか」
私は一人呟くと、推進機を起動させた。テロリスト共に気付かれたようだが、もはや手遅れとしか言いようが無い。
何故なら─既に彼らは私の武装の射程圏に入っているのだから。
右腕に装備されたバズーカ砲が、左腕部のグレネードランチャーが、火薬の塊を放出する。爆音と共に吹き飛んでいくMTの群れが、私にはひどく嫌悪感のあるビジョンに見えた。
奴も─ゼロもこのように、まるでゴミ屑を処理するように私の家族を殺したのだろうか─
突然警告音が響き、レーダーに新たな光点が現れる。私は即座に我に返ると、すぐさま飛びかけていた意識を再度集中させる。
輸送機─テロリストの増援だろうか。既にここの部隊は全滅したというのに無意味な事を。しかし、あの中身がACならば面倒だ

「ランカーACを確認」
頭部に積載された自立回路の無機質な音声がコクピットに響く。悪い予感とは当たるものなのだ。私が操縦桿を握り直したと同時だった。
「クラッシングです」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
クラッシング、クラッシング、クラッシング─
敵ACの名前が、幾度も脳内で反響する。
「…ふ、ふふふ」
気付けば、私は笑っていた。
「手間が省けたよ。ここで、ここで息の根を止めてやる」
操縦桿を握る手に自然と力がこもる。
「敵は高火力のマシンガンとグレネードを装備。近接戦闘は危険です」
的確なアドバイスをくれるコンピューター音声は既に私の耳には届いていなかった。ロックオン─真紅の塗装を施した逆関節機体に向けて砲弾を乱射する。
だが、それは奴の舞うような動きで全て回避され、鬱蒼と生い茂った木々を焼き払うのみだった。
弾速の遅さを加味しても奴は凄まじいまでの操作技術を持っているという事は疑いようの無い事実。これ以上この距離で攻撃しても無駄と判断し、一旦攻撃を止める。
その瞬間、奴が攻勢に回った。リニアガンの弾が飛んでくる。が、かわせない。
反動で大きくよろめくグラッジ。
隙を突くようにクラッシングが一気に彼我の距離を詰めた。
ガトリング砲身が向けられ、軽快な音と共に断続的に鉛弾を吐き出す。
「離れ…ろっ!」
私は反射的にイクシード・オービットを展開する。
それを読んだかのようにクラッシングが飛び、オービットの射撃を回避する。
弾丸は先程のバズーカと同じように巨木を打ち抜き、無意味に浪費された。
私はグレネードランチャーをクラッシングに向けた。空中ならば弾も当たりやすい─と内心呟きかけた瞬間だった。
全く同じ武器の全く同じ砲弾が先にグラッジの片脚に直撃した。
「な…!」
緑色のカラーリングを施された脚部フレームが爆散し、片脚を失ったグラッジがバランスを崩してゆっくりと傾く。
馬鹿な、私は奴に一撃すら与える事もできないのか?無力な私を嘲笑うようにクラッシングは、武器を構える事もせず私を淀んだ空から見下ろす。
グラッジが仰向けに転倒した。
「…こんなものか」
俺は、倒れたグラッジを見詰めながら呟いた。
レイヴン─いや、単純に『AC乗り』として戦いを楽しみたかったのだが、期待させておきながらコイツは拍子抜けするほど弱い。
こんな粗末な腕でよくもこの俺に復讐する気でいたものだ。
「雑魚が」
普段ならここで帰る所だった。
だが、予想より大幅に速く任務が終わったため、輸送機の到着までまだまだ時間がある。
カラードネイル─俺に復讐を誓った男の顔を一度くらい見ておいても罰は当たらんだろう。
よくもまぁこんな下らん事を思い付く物だ、と自嘲しながら私はグラッジに近づく。
クラッシングの左手武装は接着式だ。
よって、マニュピレーターは空いている。
左腕部を操作しながら丁寧にグラッジのコアフレームを剥がしていく。
耐久性に定評のあるクレスト製なだけあって随分手間取ってしまったが、そこで俺は信じられない物を見た。
「女…だと…?」
手入れの行き届いたストレートの黒髪、白磁の肌、パイロットスーツで強調された体のライン、そして大きめの胸、女だ。
むしろこれで男だったら色々と詐欺だ。
どうやら転倒の衝撃で頭をぶつけたのだろう、気絶しているようだ。

密林、
テロリストは既に壊滅、
イコール目撃者は俺以外に存在しようもない。

俺は最早笑みを隠せなかった。クラッシングから降りると、グラッジによじ登る。
復讐を誓った相手に犯される時、コイツは一体どんな表情をするだろう。どんな声で喚くだろう。
俺は既に達しそうな程の官能的な興奮を覚えながら、グラッジのコクピットに侵入した。

このページへのコメント

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Posted by tips about seo 2013年12月20日(金) 13:15:11 返信

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