最終更新:ID:z0el5PS39g 2009年02月05日(木) 03:20:38履歴
MC「注目の第一回戦の組み合わせは……!!!」
電光掲示板に八人の顔が順々に映し出されて消え、それが何十回か繰り返された後に止まった。
MC「第一試合!!!五野井真佐人VS春夏秋冬直美!!!!」
MC「第二試合!!宇井公彦VS矢柄司郎!!!」
MC「第三試合!!!幟義若VS羽根尾野場須!!!」
MC「第四試合!!西之柏戸VS小中沙都美!!!」
八人ともさほど驚かない様子から察するに、既に組み合わせは関係者に伝えられていたのだろう。
MC「第一試合は二十分後に始められる!!選手退場!!!!」
南方「遂に始まったね……」
勅使河原「ああ……」
刀西くんが声を発した直後、私のお腹が少しだけなった。
それは本当に小さい音だったので、刀西くんにも聞こえていないようである。
南方「……ごめん、私ちょっと……」
勅使河原「……ああ、好きにして来い」
南方「……え?トセくん?」
……何か誤解されいているような?
勅使河原「言わないのが男にできるマナーだ」
南方「……ち、違うよ、私……」
勅使河原「……まあ違っても違わなくても違うと答えるものなんだろう?」
南方「そ、そうだけど……」
南方「本当に違うんだけどな……トセくんの分も買っておけばわかってもらえるかな?」
私はエレベーターを降り、会場をひたすら走り回って自販機を見つけた。
大好きな抹茶味のアイスを購入し、刀西くんの分も買おうと思ってお金を入れ――
南方(トセくんって一体何が好きなんだろう?)
悩んでも分からないしとりあえず私と同じ抹茶味を買おう――嫌いだったら私が二つ食べればいいから――そう思った次の瞬間。
???「――は本当に抹茶味が好きだな」
南方(な、え……?)
私にはいる筈のない刀西くんの声が聞こえた気がした。
びっくりして背後を振り返る――そこには本当に刀西くんがいた。
またまたびっくりして私はその場に座り込んでしまった。
勅使河原「……おい、急にへたり込むなんてどうした?貧血か?」
南方「え、だって、待ってるって……」
勅使河原「ちょっと遅かったからな、気になって探しに来たんだ」
南方「ごめん…ありがとう、お詫びにアイス奢るね」
勅使河原「いや、いい」
南方「ううん、元々持っていくつもりだったんだから……はい、抹茶味」
勅使河原「あ、ああ……ありがとう」
南方「ねえトセくん……私の好きなアイス知ってた?」
勅使河原「ん?今手に持ってる抹茶味じゃないのか?」
南方「(別にそういう意味で言ったんじゃないんだけどな……)……ごめん、なんでもない」
移動しながら私たちはアイスを食べた…………………………………………。
南方「………ごめん、私……先行ってて」
勅使河原「……やっぱりそうだったのか」
南方「だ、だから違うってば!!」
手早く用を済ませた私は時計を見た。
南方「……まだ時間あるし、ヒトトセさんに会いに行こうかな」
選手共通控え室を目指して歩く私は途中でドアの開いた部屋を見つけた。
ドアが僅かに開いていて、何か話し声が聞こえる――。
南方「…?」
興味本位で私は部屋を覗いてみた。
こちらに背を向け数人の男女がTVを見ている――別になんて事のない風景た。
……なんて事のない風景の筈なのに、その光景を見た瞬間私に言いようのない嫌悪感が生まれた。
南方(え…?な、何で……?)
心の奥から怒り、憎しみ、悲しみ――これほどの醜い感情を私は経験した覚えがない、そう言ってもいいほどにそれらは複雑に交じり合っていて――
???「誰です!?」
南方(わっ…!?)
やましい事をした訳ではないが、怒られるのではないのかと私はドアを開けた時に見えない部分――ドアの後ろ――に隠れた。
???「…………」
モザイク状のガラス越しでよくは見えないが、大きな――声から察するに男の――人だ。
???「……気のせいですか」
そういって彼はドアを閉じた……私は奇跡的にやり過ごしたのだ。
南方(助かった……それもTVのコントみたいな方法で……)
安堵のため息をつきながら、私はその場に座り込んだ。
……ふと、腕時計に目をやった。
南方「あ、十分前……あんまり時間がないから急ごう」
心の奥から湧き出た感情を理解できないまま、私は春夏秋冬さんの所へ走った。
私が選手共通控え室に着いた時、春夏秋冬さんは小さな男の子に服を渡されていた。
……その場にいる八人全員が、独特の空気をかもし出していて、少し怖い。
???「じ、自転車で……全力疾走したの久しぶり……」
春夏秋冬「すまないな西水……こいつでないと私は落ち着かないんだ」
そう言うと彼女は支給品の服をベンチにおき、上からツナギを着た。
黒いツナギを着ている彼女が、何というか……漠然としていて形容しがたいが私には綺麗に思えた。
西水「じゃあね、僕は引き続き……」
春夏秋冬「うむ…頼んだぞ」
春夏秋冬「…おや、南方君じゃないか」
息を切らして走ってきた私に気づいたらしく、彼女は私に声を掛けてきた。
南方「あの、その……頑張ってください!!」
春夏秋冬「ああ、君の期待に沿うデュエルをしよう……」
南方「……」
春夏秋冬「……」
南方「……な、何ですか?」
春夏秋冬「……息を切らしているから何かと思ったがもしや用件はそれだけか?」
南方「え、えっと……そうだ、これ、受け取ってもらえませんか?」
南方「あんまり役には立たないかもしれませんけど…」
春夏秋冬「ふむ……いいのか?君の大事なカードだろ?」
南方「私はあんまり使わないですし…このカードもきっとヒトトセさんに使ってもらいたいと思ってますよ」
春夏秋冬「……そうか、君の期待に沿う使用方法ができるか否かは分からないが君と思ってデッキに入れておこう」
南方「ヒトトセさん……」
西之「おやおや、これも青春なんでしょうか……」
南方「に、西之さんも茶化さないでください!!」
???「オー、コレがジャパニーズユリですネ?」
南方「は、はい!?」
≦風`・ω・)「ワタクシ、ハネオノバスとモーシます」
南方「え、えっと、外国の……確か八世代目、でしたっけ?」
≦風`・ω・)「イエース!!ヨクシッテマスね」
南方「ま、まあ、一応……」
≦風`・ω・)「ユーとヒトトセはシテイのようなカンケイ!!ブラボー!!」
南方「い、いや、私は……」
春夏秋冬「……彼女は同僚になる予定の者、只それだけだ」
≦風`・ω・)「ワッツ?ノンノン、ユーは……」
係員「そろそろ第一試合が始まりますので、五野井さんと春夏秋冬さんはスタンバイしてください」
春夏秋冬「時間がない、君との話はここまでだ」
春夏秋冬「南方君、観客席で見ていてくれ……」
南方「……はい!」
羽根尾さんが何か言っていたけど私は無視して刀西くんのところに戻った。
時計は第一試合開始五分前を刻んだ。
係員「念のため、確認事項を取ります」
係員「従来のバイクで言う所のアクセルの部分は…」
五野井(終日に渡された二枚のカード……結局デッキに入れてしまった)
五野井(本当に……これでいいのか?)
係員「……バイクが機能停止した場合は無効試合となりますが、決してそのような行為はしないでください」
五野井「プロとして当然です」
春夏秋冬「勿論だ」
係員「…確認事項は以上です、ノイさんの声が聞こえたら五野井さんから先に出発してください」
MC「プロデュエリスト丸藤杯、第一試合のカードはこいつらだぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」
MC「火傷に注意!全てを燃やし尽くす熱血の男!十一期生、五野井真佐人!!!」
MC「そしてもう一人、人は彼女を恐れるか、敬うか!?魔の十期生!DragonMaster、春夏秋冬直美!!!」
五野井さんが遊星風のDホイールに乗って現れる。
それに続いて、春夏秋冬さんがアトラス風のDホイールに乗って颯爽と登場する。
二人の入場と共に派手な歓声が上がる。
……これがエンターテイナーの仕事なのだ。
…………果たして今の私たちにこんな大役が務まるのだろうか?
観客A「帰れ帰れ!」
観客B「五野井!そんないけすかない奴ぶっ倒してやれ!」
五野井「ご声援感謝する!この五野井真佐人、全身全霊を賭けて倒して見せよう!!」
南方「うう……やだな、こういう空気」
勅使河原「彼女の性格上、どうしても肯定か否定かきっぱり分かれてしまうからな……」
南方「でも……」
春夏秋冬「…………」
春夏秋冬さんは無言だ。
しかし、おもむろに目を閉じて口を開き―――。
春夏秋冬「汝等に問う!」
大きい声で言った。
その声はまるで心そのものに浸透するかのような感覚に私を陥らせる。
春夏秋冬「私は何だ!?」
観客達「DragonMaster!」
春夏秋冬「勝利するのは!?」
観客達「DragonMaster!」
春夏秋冬「私は汝等の望む勝利を約束する!!」
彼女の言動で観客が沸きあがる――彼女曰く勝手に盛り上がっているだけらしいが――立派なパフォーマンスだ。
南方(…なんだろう、すっごいドキドキする……)
見ているだけで、胸が、ぎゅっとなって―――。
勅使河原「何だ…南方はレズビアンか」
南方「え…いや…」
勅使河原「隠さなくってもいいさ、米国では肯定された文化だ」
南方(幽鬼…じゃなくて、えーと、アメリカの事で……)
南方「ち、違うよ……なんていうか、憧れだから……」
勅使河原「…つまりプラトニックってことか」
南方「と、トセくん!!」
MC「両者位置について!!」
五野井「こうやって再び戦う時を待ってましたよ……」
春夏秋冬「波の音がうるさくて聞こえんな」
五野井「……」
MC「スピード・ワーーールドォォ!セット・オン!!!」
MC「フィールドはスピード・ワールドによって支配された!これによりSp以外の魔法は使えないぃぃぃーーーー!」
MC(いや本当は使えるけどね、でも空気ってものがあるじゃない)
CPU「デュエルモードオン……オートパイロット、スタンバイ!」
MC「10!9!8!…………3!2!1!GO!!」
ウィキッド・リボーン
春夏秋冬
「デュエル!」
五野井
バーン・ツー・ラッシュ
五野井「レディファースト、俺は後攻を選択する!!」
春夏秋冬「ふざけるな、欠片もその気はないだろう?」
五野井「っ……」
春夏秋冬「ふん……気取った奴だ、私も後攻を希望すると言ったらどうする?」
五野井「……なら俺が先攻を、俺のターン!」
手札
Sp−アクセル・ドロー
デス・アクセル
フルスロットル
フレイム・オーガ
Sp−サモン・スピーダー
Sp−ソニック・バスター←ドローカード
五野井(な、なんだこの手札は…くそっ!!)
五野井「俺はカードを二枚伏せターン終了!!」
MC「おおっと!?五野井、手札事故かぁーー!?モンスターを出さずにターン終了したぞ!?」
春夏秋冬「私のターン!」
手札
ドレインシールド
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
ガード・オブ・フレムベル
Sp−オーバー・ブースト
フレムベル・グルニカ←ドローカード
五野井「ドローフェイズに罠発動、フルスロットル!」
フルスロットル
永続罠
「スピード・ワールド」発動時に発動する事ができる。
スタンバイフェイズに「スピード・ワールド」に乗る自分用スピードカウンターをさらに1つ増やす。
五野井「これにより俺のスピードカウンターが毎ターン更に1増える!!」
春夏秋冬「それがどうした!フレムベル・グルニカ召喚!!」
春夏秋冬「バトルだ!プレイヤーにダイレクトアタック!」
五野井 LP4000→2300
MC「モンスターのいない五野井には手痛い一撃だぁぁぁーーーー!!」
MC「1000以上のダメージを受けた五野井はスピードカウンターが1さが…ってないぞぉーー!?これはどうした事か!?」
南方「スピードカウンターが2どころか5になってる…?」
勅使河原「怪しいのは伏せカードだな…一体何を発動したんだ?」
五野井「俺はデス・アクセルを発動した!!」
デス・アクセル
通常罠
相手モンスターの攻撃によって戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。
この戦闘でのダメージでスピードカウンターは減らず、
受けた戦闘ダメージ500ポイント毎に自分用スピードカウンターが1つ増える。
五野井「よってスピードカウンターが2から5に増える!!」
春夏秋冬「ふん…カードを伏せターン終了!」
LP :2300
モンスター:なし
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :4枚
SC :5
五野井「俺のターン!」
ドローカード:炎を支配する者
五野井「Sp−サモン・スピーダーを発動!炎を支配する者を特殊召喚!」
Sp−サモン・スピーダー
通常魔法
自分用スピードカウンターが4つ以上ある場合に発動する事ができる。
手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
五野井「更に炎を支配する者をリリース!フレイム・オーガをアドバンス召喚!!」
五野井「行け、フレイム・オーガ!フレムベル・グルニカを攻撃だ!」
春夏秋冬「ドレインシールド発動!フレイム・オーガの攻撃を無効にする!!」
春夏秋冬 LP4000→6400
南方「ドレインシールド……攻撃反応系罠の中では微妙なカードだよ、ね?」
勅使河原「ああ……プロは見世物のようなものだ、だから次元幽閉なんかは使えない訳だ」
南方「うーん……ってことは畳返しや天罰は外さないとダメなのかな?」
勅使河原「それはわからないな、デッキ内容次第とも言える」
五野井「ならば!Sp−ソニック・バスターを発動!!」
Sp−ソニック・バスター
通常魔法
自分用のスピードカウンターが4つ以上ある場合発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力の半分のダメージを相手プレイヤーに与える。
(この効果で相手のライフポイントが0になる場合、この効果は発動できない。)
春夏秋冬 LP6400→5200
春夏秋冬「ううっ…!!」
南方「春夏秋冬さん…!」
勅使河原「こっちがスピードカウンターを減らされてしまったか…厳しい戦いになるな」
五野井「ターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :1枚
SC :7
Sp−アクセル・ドロー
???
LP :5200
モンスター:フレムベル・グルニカ
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :1
春夏秋冬「私のターン、ドロー!」
ドローカード:仮面竜
春夏秋冬(シンクロ召喚……いや、この場を去られても困る……となると仮面竜しかないな)
春夏秋冬「私はモンスターを守備表示!ドラグノフを守備にしてターン終了!!」
MC「おおっと春夏秋冬!!打つ手がないのかあぁーーー!?」
勅使河原「…この展開はまずい」
南方「トセくん?」
勅使河原「五野井…さんは今はSCを増やすだけに留まっているが、あのカードが来ると危険だ……」
南方「あのカードって…もしかして!?」
LP :5200
モンスター:フレムベル・グルニカ、(仮面竜)
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :2
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :1枚
SC :9
五野井「俺のターン!」
ドローカード:Sp−シフト・ダウン
五野井「Sp−シフト・ダウン発動!」
Sp−シフト・ダウン
魔法カード(種類不明)
自分用スピードカウンターを6つ減らして発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
MC「おおっと、五野井はスピードを落としたぞぉぉーーー!?」
五野井「女性を置いて先に行っては失礼でしょう」
春夏秋冬「ふん…心にもない事をよく言えるな!偽善者め!!」
五野井「…フレイム・オーガでフレムベル・ドラグノフを攻撃!!カードを伏せターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル、???
手札 :2枚
SC :5
Sp−アクセル・ドロー
???
???
LP :5200
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :3
春夏秋冬「私のターン!」
ドローカード:???
五野井「おっと、罠オープン!スピード・エッジ!」
スピード・エッジ
永続罠
スタンバイフェイズ毎に、自分用スピードカウンターの数値が相手用スピードカウンターの数値より多い場合、
その差分×300ポイントのダメージを相手ライフに与える。
五野井「よって900ポイントのダメージだ!!」
春夏秋冬 LP5200→4300
勅使河原「やはり、危惧していた状況が起きてしまった…」
南方「差が4以上になっちゃったら毎ターンカウンターが減っていくから…どうすればいいの!?」
勅使河原「俺たちが騒いでもどうしようもないから落ち着け、彼女の手札にきっと策がある筈だ…」
春夏秋冬「私はカードを伏せターン終了!」
LP :5200
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :???
手札 :4枚
SC :4
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ
手札 :2枚
SC :7
五野井「俺のターン!」
ドローカード:灼熱ゾンビ
五野井(モンスターを出さないという事はあれは破壊される事を前提にしたリクルーターか強固な壁モンスターのいずれか……ここは攻撃すべきだな)
五野井「俺は灼熱ゾンビを召喚!」
五野井「バトルだ!フレイム・オーガで攻撃!」
春夏秋冬「仮面竜の効果でアームド・ドラゴンLV3を特殊召喚!」
五野井「そんなモンスター灼熱ゾンビが破壊してやる…攻撃だ!」
春夏秋冬「させるか!くず鉄のかかし発動!」
かかし君「かかしって案山子って書いて英語でスケアクロウって読むんだよ、知ってた?」
今回のもぐら叩き君「スケア(烏)をクロウ(恐怖)させるとはよく言ったものだ……!」
五野井「なに…!くそっ、カード2枚伏せる!ターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ、灼熱ゾンビ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、???、???
手札 :1枚
SC :9
ヴォルカニック・カウンター
LP :4300
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :くず鉄のかかし
手札 :4枚
SC :4
春夏秋冬「私のターン!!!」
ドローカード:???
五野井「1800ダメージを受けてもらう!!」
春夏秋冬 LP4300→2500
春夏秋冬「くっ…アームド・ドラゴン LV5を特殊召喚!」
春夏秋冬「更にSp−エンジェル・バトン発動!!」
Sp−エンジェル・バトン
通常魔法
自分用スピードカウンターが2つ以上ある場合に発動する事ができる。
デッキからカードを2枚ドローし、その後に手札1枚を墓地へ送る。
ドローカード:???、???
春夏秋冬(こいつはリクルの選択幅として一枚ずつ入れているだけ…アームド7がない私にはまずい展開だ)
春夏秋冬(となるとここは…よし、この手でいくか!!)
春夏秋冬「私はアームド5で灼熱ゾンビを攻撃する!ウインドウィーゼル!!」
五野井 LP2300→1500
五野井「灼熱ゾンビが破壊された事により罠オープン、魂の綱!」
五野井「この効果により灼熱ゾンビの攻撃力を800上昇させ墓地より特殊召喚!!」
南方「だからカードを伏せてたんだ…」
勅使河原「魂の綱は特別仕様でない限り手札コストを1枚は払わねばならない…見事だ」
春夏秋冬「…カードを2枚伏せターン終了!」
LP :2500
モンスター:アームド・ドラゴン LV5
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)、(???)
手札 :4枚
SC :4
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
グランド・ドラゴン
Sp−ギャップ・ストーム
LP :1500
モンスター:フレイム・オーガ、灼熱ゾンビ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、???
手札 :1枚
SC :11
五野井「俺のターン!ドロー!」
ドローカード:Sp−ゼロ・リバース
五野井「伏せカード、Sp−アクセル・ドローを発動!」
Sp−アクセル・ドロー
通常魔法
自分用スピードカウンターが12個ある場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
五野井(以下に次善を最善に近づけるか、か…やってやろうじゃないか!)
五野井「俺は怨念の魂 業火を特殊召喚!!更にSp−ゼロ・リバース!」
Sp−ゼロ・リバース
通常魔法
自分用のスピードカウンターが3つ以上ある場合発動する事ができる。
このターン、効果によって破壊されたモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力が0になる。
五野井「灼熱ゾンビの効果でカードをドロー!」
ドローカード:???
五野井(こ、これは奴に貰ったカード……)
五野井はふと春夏秋冬の入る後方を向いた。
五野井(……くっ、こんな遠くでもすごい威圧感がありやがる……流石魔の十期生と呼ばれるだけの事はある)
五野井(…………今の俺はこいつなしにはきっと勝てない、メイン2で伏せるしかない……!!)
五野井「灼熱ゾンビをリリース!業火の攻撃力は500アップだ!」
五野井「行け!フレイム・オーガ!!」
春夏秋冬「アームド・ドラゴン LV5とは相打ちとなる!!」
五野井「わかっているさ!カードを伏せターンエンド!」
LP :1500
モンスター:怨念の魂 業火
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、(???)
手札 :1枚
SC :12
業火
ゼロ・リバース
???
???
???
LP :2500
モンスター:なし
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)、(???)
手札 :4枚
SC :5
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:???
五野井「再び1800のダメージだ!!」
春夏秋冬「ふっ…このカードが見えないか?」
場を指差す春夏秋冬さん。
促されるままに五野井がフィールドを見ると一枚表になった罠カードがあった。
五野井「エネルギー吸収板だと…!だがそんなものはその場しのぎに過ぎない!!」
春夏秋冬 LP2500→4300
春夏秋冬「どうかな?これで用意は整った…私はグランド・ドラゴンを召喚!」
五野井「そのモンスターは攻撃力2000に過ぎない!何をするつもりだ!?」
春夏秋冬「こうするのさ…リバイバル・ギフト発動!!」
春夏秋冬「出でよ!!ハイパー・シンクロン!!!!」
南方「…って事は……」
勅使河原「…ああ、そうなるな。彼女の十八番が来る!」
春夏秋冬「レベル4、グランド・ドラゴンにレベル4、ハイパー・シンクロンをチューニング!!」
春夏秋冬「強者の鼓動、今ここに烈を成す!!天地鳴動の力を見るがいい!!!」
光が収束、グランド・ドラゴンは黒曜石のような美しい闇色に染まっていく。
烈を成し、現れる龍は当然――
春夏秋冬「シンクロ召喚!!狂える悪意………レッド・デーモンズ・ドラゴン!!!!」
春夏秋冬「跳べ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!!!その力を偽善者に披露せよ!!!!」
五野井(くっ……仕方がない、使うタイミングはここだ!!)
五野井「させるか!!俺は――」
五野井「一族の掟を発動!!!」
五野井「これにより全てのドラゴン族は攻撃できない!!!」
南方「そんな……!?」
勅使河原「ロックか……金利の如くギリギリ許されるかもしれないというグレーゾーンラインのカードだな」
南方「でも、こんなの……」
勅使河原「だがMCが黙認しているあたり特には問題なさそうだ……この辺は定まっていないのかもしれない」
春夏秋冬「む…ならば私はSp−オーバー・ブーストを発動!!」
五野井「…何のつもりだ!?」
春夏秋冬「そんなもの、決まっているだろう……」
春夏秋冬「カードを一枚伏せる!!ターンエンド!!」
南方「…え?な、何もしないの?」
勅使河原「うーむ…プレイミスとは思えないが……?」
LP :4300
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)
手札 :2枚
SC :1
ガード・オブ・フレムベル
Sp−ギャップ・ストーム
五野井「俺のターン!!!」
五野井(…ここは場を固めるのみだ)
五野井「俺は超熱血球児を召喚!!カードを二枚伏せターン終了!!!」
五野井(俺の伏せたカードはカオス・バーストと盗賊の七つ道具!!これで場の守備は完璧だ!!)
LP :4300
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)
手札 :2枚
SC :2
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:???
春夏秋冬(む……このカードは!!)
五野井「今度こそくらえ…2700のダメージだ!!!」
春夏秋冬 LP4300→1600
春夏秋冬「くううっっ…!!」
SC12の五野井さんに対し、いまや春夏秋冬さんのSCは僅かに1。
当然Dホイールの速度には点と地ほどの差がある。
諦めたのかとかプロ失格だとか野次が飛ぶ。
南方「ヒトトセさん……」
勅使河原「……まさか、こんなにあっさりと……いや……」
春夏秋冬「……だからお前達は子供だと言うのだ!!!」
その言葉に観客が静まり返る。
それほどに彼女の言葉は真剣みを帯びており、吹聴する者が魯鈍だと彼女の声と眼が語っていた。
春夏秋冬「目先の事に捉われるな!!私はSpを発動…」
春夏秋冬「 ギ ャ ッ プ ・ ス ト ー ム ! ! ! 」
Sp−ギャップ・ストーム
通常魔法
自分用スピードカウンターと相手用のスピードカウンターが10個以上離れている時に発動する事ができる。
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
彼女の場から竜巻が発生し、カードを全て破壊する…
スピード・エッジによるバーン効果も一族の掟によるロックも破壊され、全て消え去ったのだ。
南方「だから、わざとダメージを…!?」
勅使河原「ライフとは究極的に言ってしまえば1あればいい為いくらでもコストにしてしまえる…流石魔の十期生だ」
南方「……トセくん」
勅使河原「なんだ?」
南方「あんまり、その二つ名は聞きたくない…」
勅使河原「…彼女自身が好んで二つ名を呼称してる筈だが…」
南方「それでも……揶揄してるみたいでよくないよ、やめてほしい……」
勅使河原「やっぱり南方はレズビアンなんだな」
南方「ち、違うよ!!」
会場は彼女の行為に歓声を上げた。
これぞ彼女の掲げる――直前のではあるが――理を無視したプレイだ。
五野井「な、な……!?」
春夏秋冬「更に言ってやろう、私には分かっているぞ……貴様がコストとして捨てたモンスター、それはヴォルカニック・カウンター!!!」
五野井「…!?」
南方「そうか、だからあのタイミングで……!」
勅使河原「流石……春夏秋冬さん」
春夏秋冬「その事を知っていようとも私は退く気はない!散れ!!クリムゾン・ヘル・フレア!!!」
五野井 LP1500→700
春夏秋冬 LP1600→800
五野井「……ヴォルカニック・カウンターの効果は発動、800のダメージを与える……」
春夏秋冬「唯一の見せ場になったと言うのに残念だったな!!龍を罵倒する行為に及んだ貴様にはいいザマだ!!カードを伏せターン終了!!!」
五野井(俺は散々罵倒された挙句負けるのか?……くそっ、終日に渡された吐き気のするようなカードを使ったってのに、俺は……)
五野井(せめて…いくら侮蔑されようとも勝たねばならない!!)
五野井(そのために、俺は、俺は……あのカードを引く!!)
五野井「……俺のターン!!」
ドローカード:Sp−ジ・エンド・オブ・ストーム
五野井「ふ、ははははは……」
五野井(後で協会から説教を受けるかもしれない……だが、もうどうにでもなれ!!)
五野井「俺はSp−ジ・エンド・オブ・ストームを発動!!!」
春夏秋冬「む…その眼から察するに今引いたな!?」
五野井「…消え去れ!!俺に対する悪意よ!!」
Sp−ジ・エンド・オブ・ストーム
通常魔法
自分用スピードカウンターが10個以上ある場合に発動する事ができる。
フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
この効果で破壊し墓地へ送られたモンスター1体につき、
そのモンスターのコントローラーは、300ポイントのダメージを受ける。
春夏秋冬 LP800→500
五野井 LP700→400
五野井「ここで追撃したいところだが俺はモンスターカードを持っていない……カードを伏せターン終了!!」
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:デコイドラゴン
春夏秋冬「私はデコイドラゴンを召喚、直接攻撃だ!!」
五野井「させるか、リミット・リバースにより超熱血球児を特殊召喚!!!」
春夏秋冬「ふん…ターン終了!!」
五野井「俺のターン!!」
ドローカード:Sp−アクセル・ドロー
五野井(……このタイミングでこのカードか、この引き次第で戦局が大きく…)
春夏秋冬「スタンバイフェイズに罠発動!!!」
五野井(このタイミングでだと……!?)
春夏秋冬「――バトルマニア!!!」
五野井(な、な……!?)
春夏秋冬「このカードの発動に成功した時に存在する全ての相手モンスターはバトルを行わねばならない!!!」
勅使河原「…な、何!?」
南方「トセくん?」
勅使河原「あの伏せカードは2ターン前の彼女のターンで伏せたカード……つまり前から発動はできた」
勅使河原「だが、彼女はSp−ジ・エンド・オブ・ストームを読んであえて発動しなかった……そうとしか考えられない!!」
南方「あ……そ、そう、だよね……!?」
勅使河原「これが、プロに求められる実力か……」
南方(……ヒトトセさん凄いなぁ、私にそんな事できるのかな……)
理に適わないモンスター破壊効果を使わない。
字に書くと簡単そうだがこれが意外と難しい。
私の不安を察したのか、刀西くんが声を掛けてくれた。
勅使河原「南方は謙虚なのかもしれないが物事を悪い方に考えすぎだぞ」
南方「え……」
勅使河原「いい方にいい方にと思っていれば、自然といい方に向かうもんだ」
南方「……うん」
春夏秋冬「哀れな人間に真実の救済を――やり残した事はあるか?」
五野井「……くっ!俺はアクセル・ドローで二枚のカードをドロー!!!」
勅使河原「無駄だ……!」
ドローカード:火霊術−「紅」、???
五野井「俺は……俺は」
五野井「Sp−ファイナル・アタック発動!!!」
五野井「これにより超熱血球児の攻撃力は――5000!!!」
春夏秋冬「……」
五野井「バトルマニアも無駄だったようだな!!超熱血球児でデコイドラゴンを攻撃する!!」
春夏秋冬「デコイドラゴンのモンスター効果……攻撃対象はレッド・デーモンズ・ドラゴンとなる」
五野井「だが攻撃力3000に何ができる!?これで終わりだ!!!」
春夏秋冬「…………私は罠カードを発動―――弱体化の仮面!!!」
五野井「な…何!?そのデッキに守備系罠はそれ以上入っていない筈……!?」
春夏秋冬「それはそうだ、今日盟友に貰ったものだからな……!!」
五野井「弱体化の仮面はファイナル・アタックを打ち消し攻撃力を700ポイント下げる!!!!」
春夏秋冬「……くそっ、仮面って事はお嬢ちゃんか……!!やはり彼女は……!!」
五野井 LP400→0
MC「デコイドラゴンの効果が決まったあぁーーーーーーーー!!!勝者は春夏秋冬だあぁぁぁーーーーーー!!!」
五野井「うああああああっっっ!!!」
ライフが0になり、五野井さんのD−ホイールが横転する―――。
春夏秋冬「ふうっ…君ではこの程度だろう」
Dホイールを止め、ヘルメットを取った彼女の長髪が反動でばさっと広がり――とってもかっこよかった。
春夏秋冬「私は何だ!?」
観客達「DragonMaster!!」
春夏秋冬「勝利したのは!?」
観客達「DragonMaster!!!」
春夏秋冬「私は汝等に楽しい一時を送り続けよう!!」
その言葉を最後に、更に歓声が上がる。
南方「ああいうパフォーマンスもしなくっちゃいけないんだよね……」
勅使河原「……うーむ、プロは思った以上に複雑な世界なんだな」
五野井「う、うう……」
何故だ?何故勝てない?
努力を怠った事など露ほどもないというのに――。
自身は何の為に努力したのだ?
彼女に恥をかかされた、その憎しみを晴らす為に――
五野井(…俺はいつの間にそんな事を考えて戦ってたんだ!?)
五野井(……俺は憎しみを糧に戦っている……きっとそれがいけないんだ)
五野井(単純に、純粋に、プロを目指したときのように……強い人と戦いたい、そういう気持ちで戦う事がきっと重要なんだな)
Dホイールから横転した俺は立ち上がり、彼女に向かって言った。
五野井「もう一度、もう一度だけ……チャンスをくれ!」
五野井「いや、ください!」
五野井「俺は…貴女を倒してみせる!」
春夏秋冬「ふん……虚勢を張るのも大概にしろ、古期生でも私を倒せないのに新期生たる君に私が倒せる筈がなかろう」
五野井「ううっ…」
春夏秋冬「まあ、戦いたいのならいつでも相手はしてやる……また会おう」
KCドームのとある場所。
数人の男女が、TV中継を見ていた。
その中には五野井に接触した謎の男、終日もいる。
終日「手配はしてみましたがやはり無理でしたか……」
???「新期生の質は彼女以外悪いと言わざるを得ないのが現状ですから」
???「我々古期生の為にせいぜい道化を演じてもらうしか価値がないとしか言いようがありませんね」
???「問題は十三期生、あの勅使河原という男……」
???「彼なら我等の理想に賛同してくれるでしょう……くっくっくっ」
???(目的を果たすまで、私は退かない。)
???(この力が、私の正義。)
???「(誰にも邪魔はさせない)はっはっはっは……」
文章くん『因みに口調が同じなのは一人に対して敬語を使っている為であり仕様である』
警備員「あ…お電話ですよ」
南方「わ、私ですか?」
警備員「春夏秋冬さんからです」
選手待機場所から彼女が私たちに電話をかけてきたのだろう。
言われるままに私は電話を受け取った。
春夏秋冬「…聞こえるか?」
南方「ヒトトセさん!聞こえますよ!」
春夏秋冬「……ひよっこ相手に少し熱くなりすぎたかもしれんな」
勅使河原「お見事でした」
春夏秋冬「君達の参考にはなったかな?」
勅使河原「はい」
南方「はい!」
堂々と自信を持っていればよい、と彼女は私たちにそう教えたかったのだろう。
自分は彼女のようになれるのだろうか…いや、彼女のようになりたい。
何事も肯定的に考えなければ結果はついてこないのだから。
つづく
電光掲示板に八人の顔が順々に映し出されて消え、それが何十回か繰り返された後に止まった。
MC「第一試合!!!五野井真佐人VS春夏秋冬直美!!!!」
MC「第二試合!!宇井公彦VS矢柄司郎!!!」
MC「第三試合!!!幟義若VS羽根尾野場須!!!」
MC「第四試合!!西之柏戸VS小中沙都美!!!」
八人ともさほど驚かない様子から察するに、既に組み合わせは関係者に伝えられていたのだろう。
MC「第一試合は二十分後に始められる!!選手退場!!!!」
南方「遂に始まったね……」
勅使河原「ああ……」
刀西くんが声を発した直後、私のお腹が少しだけなった。
それは本当に小さい音だったので、刀西くんにも聞こえていないようである。
南方「……ごめん、私ちょっと……」
勅使河原「……ああ、好きにして来い」
南方「……え?トセくん?」
……何か誤解されいているような?
勅使河原「言わないのが男にできるマナーだ」
南方「……ち、違うよ、私……」
勅使河原「……まあ違っても違わなくても違うと答えるものなんだろう?」
南方「そ、そうだけど……」
南方「本当に違うんだけどな……トセくんの分も買っておけばわかってもらえるかな?」
私はエレベーターを降り、会場をひたすら走り回って自販機を見つけた。
大好きな抹茶味のアイスを購入し、刀西くんの分も買おうと思ってお金を入れ――
南方(トセくんって一体何が好きなんだろう?)
悩んでも分からないしとりあえず私と同じ抹茶味を買おう――嫌いだったら私が二つ食べればいいから――そう思った次の瞬間。
???「――は本当に抹茶味が好きだな」
南方(な、え……?)
私にはいる筈のない刀西くんの声が聞こえた気がした。
びっくりして背後を振り返る――そこには本当に刀西くんがいた。
またまたびっくりして私はその場に座り込んでしまった。
勅使河原「……おい、急にへたり込むなんてどうした?貧血か?」
南方「え、だって、待ってるって……」
勅使河原「ちょっと遅かったからな、気になって探しに来たんだ」
南方「ごめん…ありがとう、お詫びにアイス奢るね」
勅使河原「いや、いい」
南方「ううん、元々持っていくつもりだったんだから……はい、抹茶味」
勅使河原「あ、ああ……ありがとう」
南方「ねえトセくん……私の好きなアイス知ってた?」
勅使河原「ん?今手に持ってる抹茶味じゃないのか?」
南方「(別にそういう意味で言ったんじゃないんだけどな……)……ごめん、なんでもない」
移動しながら私たちはアイスを食べた…………………………………………。
南方「………ごめん、私……先行ってて」
勅使河原「……やっぱりそうだったのか」
南方「だ、だから違うってば!!」
手早く用を済ませた私は時計を見た。
南方「……まだ時間あるし、ヒトトセさんに会いに行こうかな」
選手共通控え室を目指して歩く私は途中でドアの開いた部屋を見つけた。
ドアが僅かに開いていて、何か話し声が聞こえる――。
南方「…?」
興味本位で私は部屋を覗いてみた。
こちらに背を向け数人の男女がTVを見ている――別になんて事のない風景た。
……なんて事のない風景の筈なのに、その光景を見た瞬間私に言いようのない嫌悪感が生まれた。
南方(え…?な、何で……?)
心の奥から怒り、憎しみ、悲しみ――これほどの醜い感情を私は経験した覚えがない、そう言ってもいいほどにそれらは複雑に交じり合っていて――
???「誰です!?」
南方(わっ…!?)
やましい事をした訳ではないが、怒られるのではないのかと私はドアを開けた時に見えない部分――ドアの後ろ――に隠れた。
???「…………」
モザイク状のガラス越しでよくは見えないが、大きな――声から察するに男の――人だ。
???「……気のせいですか」
そういって彼はドアを閉じた……私は奇跡的にやり過ごしたのだ。
南方(助かった……それもTVのコントみたいな方法で……)
安堵のため息をつきながら、私はその場に座り込んだ。
……ふと、腕時計に目をやった。
南方「あ、十分前……あんまり時間がないから急ごう」
心の奥から湧き出た感情を理解できないまま、私は春夏秋冬さんの所へ走った。
私が選手共通控え室に着いた時、春夏秋冬さんは小さな男の子に服を渡されていた。
……その場にいる八人全員が、独特の空気をかもし出していて、少し怖い。
???「じ、自転車で……全力疾走したの久しぶり……」
春夏秋冬「すまないな西水……こいつでないと私は落ち着かないんだ」
そう言うと彼女は支給品の服をベンチにおき、上からツナギを着た。
黒いツナギを着ている彼女が、何というか……漠然としていて形容しがたいが私には綺麗に思えた。
西水「じゃあね、僕は引き続き……」
春夏秋冬「うむ…頼んだぞ」
春夏秋冬「…おや、南方君じゃないか」
息を切らして走ってきた私に気づいたらしく、彼女は私に声を掛けてきた。
南方「あの、その……頑張ってください!!」
春夏秋冬「ああ、君の期待に沿うデュエルをしよう……」
南方「……」
春夏秋冬「……」
南方「……な、何ですか?」
春夏秋冬「……息を切らしているから何かと思ったがもしや用件はそれだけか?」
南方「え、えっと……そうだ、これ、受け取ってもらえませんか?」
南方「あんまり役には立たないかもしれませんけど…」
春夏秋冬「ふむ……いいのか?君の大事なカードだろ?」
南方「私はあんまり使わないですし…このカードもきっとヒトトセさんに使ってもらいたいと思ってますよ」
春夏秋冬「……そうか、君の期待に沿う使用方法ができるか否かは分からないが君と思ってデッキに入れておこう」
南方「ヒトトセさん……」
西之「おやおや、これも青春なんでしょうか……」
南方「に、西之さんも茶化さないでください!!」
???「オー、コレがジャパニーズユリですネ?」
南方「は、はい!?」
≦風`・ω・)「ワタクシ、ハネオノバスとモーシます」
南方「え、えっと、外国の……確か八世代目、でしたっけ?」
≦風`・ω・)「イエース!!ヨクシッテマスね」
南方「ま、まあ、一応……」
≦風`・ω・)「ユーとヒトトセはシテイのようなカンケイ!!ブラボー!!」
南方「い、いや、私は……」
春夏秋冬「……彼女は同僚になる予定の者、只それだけだ」
≦風`・ω・)「ワッツ?ノンノン、ユーは……」
係員「そろそろ第一試合が始まりますので、五野井さんと春夏秋冬さんはスタンバイしてください」
春夏秋冬「時間がない、君との話はここまでだ」
春夏秋冬「南方君、観客席で見ていてくれ……」
南方「……はい!」
羽根尾さんが何か言っていたけど私は無視して刀西くんのところに戻った。
時計は第一試合開始五分前を刻んだ。
係員「念のため、確認事項を取ります」
係員「従来のバイクで言う所のアクセルの部分は…」
五野井(終日に渡された二枚のカード……結局デッキに入れてしまった)
五野井(本当に……これでいいのか?)
係員「……バイクが機能停止した場合は無効試合となりますが、決してそのような行為はしないでください」
五野井「プロとして当然です」
春夏秋冬「勿論だ」
係員「…確認事項は以上です、ノイさんの声が聞こえたら五野井さんから先に出発してください」
MC「プロデュエリスト丸藤杯、第一試合のカードはこいつらだぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」
MC「火傷に注意!全てを燃やし尽くす熱血の男!十一期生、五野井真佐人!!!」
MC「そしてもう一人、人は彼女を恐れるか、敬うか!?魔の十期生!DragonMaster、春夏秋冬直美!!!」
五野井さんが遊星風のDホイールに乗って現れる。
それに続いて、春夏秋冬さんがアトラス風のDホイールに乗って颯爽と登場する。
二人の入場と共に派手な歓声が上がる。
……これがエンターテイナーの仕事なのだ。
…………果たして今の私たちにこんな大役が務まるのだろうか?
観客A「帰れ帰れ!」
観客B「五野井!そんないけすかない奴ぶっ倒してやれ!」
五野井「ご声援感謝する!この五野井真佐人、全身全霊を賭けて倒して見せよう!!」
南方「うう……やだな、こういう空気」
勅使河原「彼女の性格上、どうしても肯定か否定かきっぱり分かれてしまうからな……」
南方「でも……」
春夏秋冬「…………」
春夏秋冬さんは無言だ。
しかし、おもむろに目を閉じて口を開き―――。
春夏秋冬「汝等に問う!」
大きい声で言った。
その声はまるで心そのものに浸透するかのような感覚に私を陥らせる。
春夏秋冬「私は何だ!?」
観客達「DragonMaster!」
春夏秋冬「勝利するのは!?」
観客達「DragonMaster!」
春夏秋冬「私は汝等の望む勝利を約束する!!」
彼女の言動で観客が沸きあがる――彼女曰く勝手に盛り上がっているだけらしいが――立派なパフォーマンスだ。
南方(…なんだろう、すっごいドキドキする……)
見ているだけで、胸が、ぎゅっとなって―――。
勅使河原「何だ…南方はレズビアンか」
南方「え…いや…」
勅使河原「隠さなくってもいいさ、米国では肯定された文化だ」
南方(幽鬼…じゃなくて、えーと、アメリカの事で……)
南方「ち、違うよ……なんていうか、憧れだから……」
勅使河原「…つまりプラトニックってことか」
南方「と、トセくん!!」
MC「両者位置について!!」
五野井「こうやって再び戦う時を待ってましたよ……」
春夏秋冬「波の音がうるさくて聞こえんな」
五野井「……」
MC「スピード・ワーーールドォォ!セット・オン!!!」
MC「フィールドはスピード・ワールドによって支配された!これによりSp以外の魔法は使えないぃぃぃーーーー!」
MC(いや本当は使えるけどね、でも空気ってものがあるじゃない)
CPU「デュエルモードオン……オートパイロット、スタンバイ!」
MC「10!9!8!…………3!2!1!GO!!」
ウィキッド・リボーン
春夏秋冬
「デュエル!」
五野井
バーン・ツー・ラッシュ
五野井「レディファースト、俺は後攻を選択する!!」
春夏秋冬「ふざけるな、欠片もその気はないだろう?」
五野井「っ……」
春夏秋冬「ふん……気取った奴だ、私も後攻を希望すると言ったらどうする?」
五野井「……なら俺が先攻を、俺のターン!」
手札
Sp−アクセル・ドロー
デス・アクセル
フルスロットル
フレイム・オーガ
Sp−サモン・スピーダー
Sp−ソニック・バスター←ドローカード
五野井(な、なんだこの手札は…くそっ!!)
五野井「俺はカードを二枚伏せターン終了!!」
MC「おおっと!?五野井、手札事故かぁーー!?モンスターを出さずにターン終了したぞ!?」
春夏秋冬「私のターン!」
手札
ドレインシールド
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
ガード・オブ・フレムベル
Sp−オーバー・ブースト
フレムベル・グルニカ←ドローカード
五野井「ドローフェイズに罠発動、フルスロットル!」
フルスロットル
永続罠
「スピード・ワールド」発動時に発動する事ができる。
スタンバイフェイズに「スピード・ワールド」に乗る自分用スピードカウンターをさらに1つ増やす。
五野井「これにより俺のスピードカウンターが毎ターン更に1増える!!」
春夏秋冬「それがどうした!フレムベル・グルニカ召喚!!」
春夏秋冬「バトルだ!プレイヤーにダイレクトアタック!」
五野井 LP4000→2300
MC「モンスターのいない五野井には手痛い一撃だぁぁぁーーーー!!」
MC「1000以上のダメージを受けた五野井はスピードカウンターが1さが…ってないぞぉーー!?これはどうした事か!?」
南方「スピードカウンターが2どころか5になってる…?」
勅使河原「怪しいのは伏せカードだな…一体何を発動したんだ?」
五野井「俺はデス・アクセルを発動した!!」
デス・アクセル
通常罠
相手モンスターの攻撃によって戦闘ダメージを受けた時に発動する事ができる。
この戦闘でのダメージでスピードカウンターは減らず、
受けた戦闘ダメージ500ポイント毎に自分用スピードカウンターが1つ増える。
五野井「よってスピードカウンターが2から5に増える!!」
春夏秋冬「ふん…カードを伏せターン終了!」
LP :2300
モンスター:なし
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :4枚
SC :5
五野井「俺のターン!」
ドローカード:炎を支配する者
五野井「Sp−サモン・スピーダーを発動!炎を支配する者を特殊召喚!」
Sp−サモン・スピーダー
通常魔法
自分用スピードカウンターが4つ以上ある場合に発動する事ができる。
手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
五野井「更に炎を支配する者をリリース!フレイム・オーガをアドバンス召喚!!」
五野井「行け、フレイム・オーガ!フレムベル・グルニカを攻撃だ!」
春夏秋冬「ドレインシールド発動!フレイム・オーガの攻撃を無効にする!!」
春夏秋冬 LP4000→6400
南方「ドレインシールド……攻撃反応系罠の中では微妙なカードだよ、ね?」
勅使河原「ああ……プロは見世物のようなものだ、だから次元幽閉なんかは使えない訳だ」
南方「うーん……ってことは畳返しや天罰は外さないとダメなのかな?」
勅使河原「それはわからないな、デッキ内容次第とも言える」
五野井「ならば!Sp−ソニック・バスターを発動!!」
Sp−ソニック・バスター
通常魔法
自分用のスピードカウンターが4つ以上ある場合発動する事ができる。
自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力の半分のダメージを相手プレイヤーに与える。
(この効果で相手のライフポイントが0になる場合、この効果は発動できない。)
春夏秋冬 LP6400→5200
春夏秋冬「ううっ…!!」
南方「春夏秋冬さん…!」
勅使河原「こっちがスピードカウンターを減らされてしまったか…厳しい戦いになるな」
五野井「ターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :1枚
SC :7
Sp−アクセル・ドロー
???
LP :5200
モンスター:フレムベル・グルニカ
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :1
春夏秋冬「私のターン、ドロー!」
ドローカード:仮面竜
春夏秋冬(シンクロ召喚……いや、この場を去られても困る……となると仮面竜しかないな)
春夏秋冬「私はモンスターを守備表示!ドラグノフを守備にしてターン終了!!」
MC「おおっと春夏秋冬!!打つ手がないのかあぁーーー!?」
勅使河原「…この展開はまずい」
南方「トセくん?」
勅使河原「五野井…さんは今はSCを増やすだけに留まっているが、あのカードが来ると危険だ……」
南方「あのカードって…もしかして!?」
LP :5200
モンスター:フレムベル・グルニカ、(仮面竜)
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :2
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル
手札 :1枚
SC :9
五野井「俺のターン!」
ドローカード:Sp−シフト・ダウン
五野井「Sp−シフト・ダウン発動!」
Sp−シフト・ダウン
魔法カード(種類不明)
自分用スピードカウンターを6つ減らして発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
MC「おおっと、五野井はスピードを落としたぞぉぉーーー!?」
五野井「女性を置いて先に行っては失礼でしょう」
春夏秋冬「ふん…心にもない事をよく言えるな!偽善者め!!」
五野井「…フレイム・オーガでフレムベル・ドラグノフを攻撃!!カードを伏せターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル、???
手札 :2枚
SC :5
Sp−アクセル・ドロー
???
???
LP :5200
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :なし
手札 :4枚
SC :3
春夏秋冬「私のターン!」
ドローカード:???
五野井「おっと、罠オープン!スピード・エッジ!」
スピード・エッジ
永続罠
スタンバイフェイズ毎に、自分用スピードカウンターの数値が相手用スピードカウンターの数値より多い場合、
その差分×300ポイントのダメージを相手ライフに与える。
五野井「よって900ポイントのダメージだ!!」
春夏秋冬 LP5200→4300
勅使河原「やはり、危惧していた状況が起きてしまった…」
南方「差が4以上になっちゃったら毎ターンカウンターが減っていくから…どうすればいいの!?」
勅使河原「俺たちが騒いでもどうしようもないから落ち着け、彼女の手札にきっと策がある筈だ…」
春夏秋冬「私はカードを伏せターン終了!」
LP :5200
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :???
手札 :4枚
SC :4
ハイパー・シンクロン
Sp−エンジェル・バトン
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ
手札 :2枚
SC :7
五野井「俺のターン!」
ドローカード:灼熱ゾンビ
五野井(モンスターを出さないという事はあれは破壊される事を前提にしたリクルーターか強固な壁モンスターのいずれか……ここは攻撃すべきだな)
五野井「俺は灼熱ゾンビを召喚!」
五野井「バトルだ!フレイム・オーガで攻撃!」
春夏秋冬「仮面竜の効果でアームド・ドラゴンLV3を特殊召喚!」
五野井「そんなモンスター灼熱ゾンビが破壊してやる…攻撃だ!」
春夏秋冬「させるか!くず鉄のかかし発動!」
かかし君「かかしって案山子って書いて英語でスケアクロウって読むんだよ、知ってた?」
今回のもぐら叩き君「スケア(烏)をクロウ(恐怖)させるとはよく言ったものだ……!」
五野井「なに…!くそっ、カード2枚伏せる!ターン終了だ!」
LP :2300
モンスター:フレイム・オーガ、灼熱ゾンビ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、???、???
手札 :1枚
SC :9
ヴォルカニック・カウンター
LP :4300
モンスター:(仮面竜)
魔法&罠 :くず鉄のかかし
手札 :4枚
SC :4
春夏秋冬「私のターン!!!」
ドローカード:???
五野井「1800ダメージを受けてもらう!!」
春夏秋冬 LP4300→2500
春夏秋冬「くっ…アームド・ドラゴン LV5を特殊召喚!」
春夏秋冬「更にSp−エンジェル・バトン発動!!」
Sp−エンジェル・バトン
通常魔法
自分用スピードカウンターが2つ以上ある場合に発動する事ができる。
デッキからカードを2枚ドローし、その後に手札1枚を墓地へ送る。
ドローカード:???、???
春夏秋冬(こいつはリクルの選択幅として一枚ずつ入れているだけ…アームド7がない私にはまずい展開だ)
春夏秋冬(となるとここは…よし、この手でいくか!!)
春夏秋冬「私はアームド5で灼熱ゾンビを攻撃する!ウインドウィーゼル!!」
五野井 LP2300→1500
五野井「灼熱ゾンビが破壊された事により罠オープン、魂の綱!」
五野井「この効果により灼熱ゾンビの攻撃力を800上昇させ墓地より特殊召喚!!」
南方「だからカードを伏せてたんだ…」
勅使河原「魂の綱は特別仕様でない限り手札コストを1枚は払わねばならない…見事だ」
春夏秋冬「…カードを2枚伏せターン終了!」
LP :2500
モンスター:アームド・ドラゴン LV5
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)、(???)
手札 :4枚
SC :4
Sp−オーバー・ブースト
ガード・オブ・フレムベル
グランド・ドラゴン
Sp−ギャップ・ストーム
LP :1500
モンスター:フレイム・オーガ、灼熱ゾンビ
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、???
手札 :1枚
SC :11
五野井「俺のターン!ドロー!」
ドローカード:Sp−ゼロ・リバース
五野井「伏せカード、Sp−アクセル・ドローを発動!」
Sp−アクセル・ドロー
通常魔法
自分用スピードカウンターが12個ある場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
五野井(以下に次善を最善に近づけるか、か…やってやろうじゃないか!)
五野井「俺は怨念の魂 業火を特殊召喚!!更にSp−ゼロ・リバース!」
Sp−ゼロ・リバース
通常魔法
自分用のスピードカウンターが3つ以上ある場合発動する事ができる。
このターン、効果によって破壊されたモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力が0になる。
五野井「灼熱ゾンビの効果でカードをドロー!」
ドローカード:???
五野井(こ、これは奴に貰ったカード……)
五野井はふと春夏秋冬の入る後方を向いた。
五野井(……くっ、こんな遠くでもすごい威圧感がありやがる……流石魔の十期生と呼ばれるだけの事はある)
五野井(…………今の俺はこいつなしにはきっと勝てない、メイン2で伏せるしかない……!!)
五野井「灼熱ゾンビをリリース!業火の攻撃力は500アップだ!」
五野井「行け!フレイム・オーガ!!」
春夏秋冬「アームド・ドラゴン LV5とは相打ちとなる!!」
五野井「わかっているさ!カードを伏せターンエンド!」
LP :1500
モンスター:怨念の魂 業火
魔法&罠 :フル・スロットル、スピード・エッジ、(???)
手札 :1枚
SC :12
業火
ゼロ・リバース
???
???
???
LP :2500
モンスター:なし
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)、(???)
手札 :4枚
SC :5
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:???
五野井「再び1800のダメージだ!!」
春夏秋冬「ふっ…このカードが見えないか?」
場を指差す春夏秋冬さん。
促されるままに五野井がフィールドを見ると一枚表になった罠カードがあった。
五野井「エネルギー吸収板だと…!だがそんなものはその場しのぎに過ぎない!!」
春夏秋冬 LP2500→4300
春夏秋冬「どうかな?これで用意は整った…私はグランド・ドラゴンを召喚!」
五野井「そのモンスターは攻撃力2000に過ぎない!何をするつもりだ!?」
春夏秋冬「こうするのさ…リバイバル・ギフト発動!!」
春夏秋冬「出でよ!!ハイパー・シンクロン!!!!」
南方「…って事は……」
勅使河原「…ああ、そうなるな。彼女の十八番が来る!」
春夏秋冬「レベル4、グランド・ドラゴンにレベル4、ハイパー・シンクロンをチューニング!!」
春夏秋冬「強者の鼓動、今ここに烈を成す!!天地鳴動の力を見るがいい!!!」
光が収束、グランド・ドラゴンは黒曜石のような美しい闇色に染まっていく。
烈を成し、現れる龍は当然――
春夏秋冬「シンクロ召喚!!狂える悪意………レッド・デーモンズ・ドラゴン!!!!」
春夏秋冬「跳べ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!!!その力を偽善者に披露せよ!!!!」
五野井(くっ……仕方がない、使うタイミングはここだ!!)
五野井「させるか!!俺は――」
五野井「一族の掟を発動!!!」
五野井「これにより全てのドラゴン族は攻撃できない!!!」
南方「そんな……!?」
勅使河原「ロックか……金利の如くギリギリ許されるかもしれないというグレーゾーンラインのカードだな」
南方「でも、こんなの……」
勅使河原「だがMCが黙認しているあたり特には問題なさそうだ……この辺は定まっていないのかもしれない」
春夏秋冬「む…ならば私はSp−オーバー・ブーストを発動!!」
五野井「…何のつもりだ!?」
春夏秋冬「そんなもの、決まっているだろう……」
春夏秋冬「カードを一枚伏せる!!ターンエンド!!」
南方「…え?な、何もしないの?」
勅使河原「うーむ…プレイミスとは思えないが……?」
LP :4300
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)
手札 :2枚
SC :1
ガード・オブ・フレムベル
Sp−ギャップ・ストーム
五野井「俺のターン!!!」
五野井(…ここは場を固めるのみだ)
五野井「俺は超熱血球児を召喚!!カードを二枚伏せターン終了!!!」
五野井(俺の伏せたカードはカオス・バーストと盗賊の七つ道具!!これで場の守備は完璧だ!!)
LP :4300
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン
魔法&罠 :くず鉄のかかし、(???)
手札 :2枚
SC :2
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:???
春夏秋冬(む……このカードは!!)
五野井「今度こそくらえ…2700のダメージだ!!!」
春夏秋冬 LP4300→1600
春夏秋冬「くううっっ…!!」
SC12の五野井さんに対し、いまや春夏秋冬さんのSCは僅かに1。
当然Dホイールの速度には点と地ほどの差がある。
諦めたのかとかプロ失格だとか野次が飛ぶ。
南方「ヒトトセさん……」
勅使河原「……まさか、こんなにあっさりと……いや……」
春夏秋冬「……だからお前達は子供だと言うのだ!!!」
その言葉に観客が静まり返る。
それほどに彼女の言葉は真剣みを帯びており、吹聴する者が魯鈍だと彼女の声と眼が語っていた。
春夏秋冬「目先の事に捉われるな!!私はSpを発動…」
春夏秋冬「 ギ ャ ッ プ ・ ス ト ー ム ! ! ! 」
Sp−ギャップ・ストーム
通常魔法
自分用スピードカウンターと相手用のスピードカウンターが10個以上離れている時に発動する事ができる。
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
彼女の場から竜巻が発生し、カードを全て破壊する…
スピード・エッジによるバーン効果も一族の掟によるロックも破壊され、全て消え去ったのだ。
南方「だから、わざとダメージを…!?」
勅使河原「ライフとは究極的に言ってしまえば1あればいい為いくらでもコストにしてしまえる…流石魔の十期生だ」
南方「……トセくん」
勅使河原「なんだ?」
南方「あんまり、その二つ名は聞きたくない…」
勅使河原「…彼女自身が好んで二つ名を呼称してる筈だが…」
南方「それでも……揶揄してるみたいでよくないよ、やめてほしい……」
勅使河原「やっぱり南方はレズビアンなんだな」
南方「ち、違うよ!!」
会場は彼女の行為に歓声を上げた。
これぞ彼女の掲げる――直前のではあるが――理を無視したプレイだ。
五野井「な、な……!?」
春夏秋冬「更に言ってやろう、私には分かっているぞ……貴様がコストとして捨てたモンスター、それはヴォルカニック・カウンター!!!」
五野井「…!?」
南方「そうか、だからあのタイミングで……!」
勅使河原「流石……春夏秋冬さん」
春夏秋冬「その事を知っていようとも私は退く気はない!散れ!!クリムゾン・ヘル・フレア!!!」
五野井 LP1500→700
春夏秋冬 LP1600→800
五野井「……ヴォルカニック・カウンターの効果は発動、800のダメージを与える……」
春夏秋冬「唯一の見せ場になったと言うのに残念だったな!!龍を罵倒する行為に及んだ貴様にはいいザマだ!!カードを伏せターン終了!!!」
五野井(俺は散々罵倒された挙句負けるのか?……くそっ、終日に渡された吐き気のするようなカードを使ったってのに、俺は……)
五野井(せめて…いくら侮蔑されようとも勝たねばならない!!)
五野井(そのために、俺は、俺は……あのカードを引く!!)
五野井「……俺のターン!!」
ドローカード:Sp−ジ・エンド・オブ・ストーム
五野井「ふ、ははははは……」
五野井(後で協会から説教を受けるかもしれない……だが、もうどうにでもなれ!!)
五野井「俺はSp−ジ・エンド・オブ・ストームを発動!!!」
春夏秋冬「む…その眼から察するに今引いたな!?」
五野井「…消え去れ!!俺に対する悪意よ!!」
Sp−ジ・エンド・オブ・ストーム
通常魔法
自分用スピードカウンターが10個以上ある場合に発動する事ができる。
フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。
この効果で破壊し墓地へ送られたモンスター1体につき、
そのモンスターのコントローラーは、300ポイントのダメージを受ける。
春夏秋冬 LP800→500
五野井 LP700→400
五野井「ここで追撃したいところだが俺はモンスターカードを持っていない……カードを伏せターン終了!!」
春夏秋冬「私のターン!!」
ドローカード:デコイドラゴン
春夏秋冬「私はデコイドラゴンを召喚、直接攻撃だ!!」
五野井「させるか、リミット・リバースにより超熱血球児を特殊召喚!!!」
春夏秋冬「ふん…ターン終了!!」
五野井「俺のターン!!」
ドローカード:Sp−アクセル・ドロー
五野井(……このタイミングでこのカードか、この引き次第で戦局が大きく…)
春夏秋冬「スタンバイフェイズに罠発動!!!」
五野井(このタイミングでだと……!?)
春夏秋冬「――バトルマニア!!!」
五野井(な、な……!?)
春夏秋冬「このカードの発動に成功した時に存在する全ての相手モンスターはバトルを行わねばならない!!!」
勅使河原「…な、何!?」
南方「トセくん?」
勅使河原「あの伏せカードは2ターン前の彼女のターンで伏せたカード……つまり前から発動はできた」
勅使河原「だが、彼女はSp−ジ・エンド・オブ・ストームを読んであえて発動しなかった……そうとしか考えられない!!」
南方「あ……そ、そう、だよね……!?」
勅使河原「これが、プロに求められる実力か……」
南方(……ヒトトセさん凄いなぁ、私にそんな事できるのかな……)
理に適わないモンスター破壊効果を使わない。
字に書くと簡単そうだがこれが意外と難しい。
私の不安を察したのか、刀西くんが声を掛けてくれた。
勅使河原「南方は謙虚なのかもしれないが物事を悪い方に考えすぎだぞ」
南方「え……」
勅使河原「いい方にいい方にと思っていれば、自然といい方に向かうもんだ」
南方「……うん」
春夏秋冬「哀れな人間に真実の救済を――やり残した事はあるか?」
五野井「……くっ!俺はアクセル・ドローで二枚のカードをドロー!!!」
勅使河原「無駄だ……!」
ドローカード:火霊術−「紅」、???
五野井「俺は……俺は」
五野井「Sp−ファイナル・アタック発動!!!」
五野井「これにより超熱血球児の攻撃力は――5000!!!」
春夏秋冬「……」
五野井「バトルマニアも無駄だったようだな!!超熱血球児でデコイドラゴンを攻撃する!!」
春夏秋冬「デコイドラゴンのモンスター効果……攻撃対象はレッド・デーモンズ・ドラゴンとなる」
五野井「だが攻撃力3000に何ができる!?これで終わりだ!!!」
春夏秋冬「…………私は罠カードを発動―――弱体化の仮面!!!」
五野井「な…何!?そのデッキに守備系罠はそれ以上入っていない筈……!?」
春夏秋冬「それはそうだ、今日盟友に貰ったものだからな……!!」
五野井「弱体化の仮面はファイナル・アタックを打ち消し攻撃力を700ポイント下げる!!!!」
春夏秋冬「……くそっ、仮面って事はお嬢ちゃんか……!!やはり彼女は……!!」
五野井 LP400→0
MC「デコイドラゴンの効果が決まったあぁーーーーーーーー!!!勝者は春夏秋冬だあぁぁぁーーーーーー!!!」
五野井「うああああああっっっ!!!」
ライフが0になり、五野井さんのD−ホイールが横転する―――。
春夏秋冬「ふうっ…君ではこの程度だろう」
Dホイールを止め、ヘルメットを取った彼女の長髪が反動でばさっと広がり――とってもかっこよかった。
春夏秋冬「私は何だ!?」
観客達「DragonMaster!!」
春夏秋冬「勝利したのは!?」
観客達「DragonMaster!!!」
春夏秋冬「私は汝等に楽しい一時を送り続けよう!!」
その言葉を最後に、更に歓声が上がる。
南方「ああいうパフォーマンスもしなくっちゃいけないんだよね……」
勅使河原「……うーむ、プロは思った以上に複雑な世界なんだな」
五野井「う、うう……」
何故だ?何故勝てない?
努力を怠った事など露ほどもないというのに――。
自身は何の為に努力したのだ?
彼女に恥をかかされた、その憎しみを晴らす為に――
五野井(…俺はいつの間にそんな事を考えて戦ってたんだ!?)
五野井(……俺は憎しみを糧に戦っている……きっとそれがいけないんだ)
五野井(単純に、純粋に、プロを目指したときのように……強い人と戦いたい、そういう気持ちで戦う事がきっと重要なんだな)
Dホイールから横転した俺は立ち上がり、彼女に向かって言った。
五野井「もう一度、もう一度だけ……チャンスをくれ!」
五野井「いや、ください!」
五野井「俺は…貴女を倒してみせる!」
春夏秋冬「ふん……虚勢を張るのも大概にしろ、古期生でも私を倒せないのに新期生たる君に私が倒せる筈がなかろう」
五野井「ううっ…」
春夏秋冬「まあ、戦いたいのならいつでも相手はしてやる……また会おう」
KCドームのとある場所。
数人の男女が、TV中継を見ていた。
その中には五野井に接触した謎の男、終日もいる。
終日「手配はしてみましたがやはり無理でしたか……」
???「新期生の質は彼女以外悪いと言わざるを得ないのが現状ですから」
???「我々古期生の為にせいぜい道化を演じてもらうしか価値がないとしか言いようがありませんね」
???「問題は十三期生、あの勅使河原という男……」
???「彼なら我等の理想に賛同してくれるでしょう……くっくっくっ」
???(目的を果たすまで、私は退かない。)
???(この力が、私の正義。)
???「(誰にも邪魔はさせない)はっはっはっは……」
文章くん『因みに口調が同じなのは一人に対して敬語を使っている為であり仕様である』
警備員「あ…お電話ですよ」
南方「わ、私ですか?」
警備員「春夏秋冬さんからです」
選手待機場所から彼女が私たちに電話をかけてきたのだろう。
言われるままに私は電話を受け取った。
春夏秋冬「…聞こえるか?」
南方「ヒトトセさん!聞こえますよ!」
春夏秋冬「……ひよっこ相手に少し熱くなりすぎたかもしれんな」
勅使河原「お見事でした」
春夏秋冬「君達の参考にはなったかな?」
勅使河原「はい」
南方「はい!」
堂々と自信を持っていればよい、と彼女は私たちにそう教えたかったのだろう。
自分は彼女のようになれるのだろうか…いや、彼女のようになりたい。
何事も肯定的に考えなければ結果はついてこないのだから。
つづく
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