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  • 100捨子花 16/16改 - 11/07/13 23:59:10 - ID:tbHtL18XGg

     少女は瞬きもせず、エルザの名前をじっと眺めていた。「私はジョゼさんに対して、そこまで思い切ることができませんから。ジョゼさんのためになら何でもできますけど、それでジョゼさんを幸せにできる自信があるかって聞かれたら、そうじゃありません。エルザは、ずっと2人でいられればいつか2人とも幸せになれるって信じてたから、一緒に死んだんだと思うんです。ジョゼさんは、もし、私と一緒に死んでも…… 幸せだと感じてくださるでしょうか」
     フェルミはエレノラから花束を受け取り、彼岸花の隣に置いた。花瓶はないが水は含ませてある。パステルカラーのバラやユリをまとめたこちらの花は、炎の形をした毒草に比べれば束になっても大人しいものだが、すぐに燃え尽きる宿命を背負った隣人よりは、もう少し長持ちするだろう。
    「さあな、死んだ奴の考えることは生きてる奴には分からんよ。他の誰かを幸せにしたいなら、生きてるうちにしといた方がいいぞ。天国だって地獄だって広いんだ、同じ所に行けるとは限らないんだからな」
     ヘンリエッタが、そうですよね、と微笑みながら呟くのを見て、改めてフェルミは、本当に義体はもうこりごりだ、と胸に刻み込んだ。
     エルザ・デ・シーカが最愛の担当官から与えられたものは、名前と、写真と、もう一つ。感情――機械仕掛けのコラムニストが、狂気じみた愛の言葉しか綴れなくなるほどの。それこそが彼女の心を温め、優秀な兵士に育て上げたことは事実だろう。しかし、同時に何よりも大事な人間と彼女自身を焼き尽くして灰にした。元々貧乏な人間が宝くじに当たって億万長者になると一瞬で破産するのと一緒だ――金を持ったことがないから、使い方が分からないのと。こんな感覚の中で当たり前に生きてる義体なんかと一緒にいたら、俺なんかじゃ一日も神経がもたねえよ。やっぱり一課をクビになったって、二課だけは絶対にお断りだ、と胸中で独りごち、フェルミは隣のエレノラに笑いかけた。
    「しかし、寂しい墓だな。課長に内緒で一課の経費使って、こいつらの碑面に何か彫ってやろうぜ。ラウーロには“死ぬほど愛された男”、エルザには…… 何がいい? エレノラ、おまえが考えろ」



    -la fine-

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