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127.【花びら】 - 12/04/03 23:28:03 - ID:Q1EDdJq51A
満開の花の下、男はあの頃の妹と同じ年頃の少女を伴い佇んでいた。
「ヘンリエッタ、知ってるかい? 花びらが地面に落ちる前につかまえることができると、
願い事がかなうんだよ」
「そうなんですか?」
すてきです。ジョゼさんは、何でもご存知なんですね。尊敬と幼い恋慕の視線が男を見上げた。
そうとも。と応え、男はやわらかな春の風に手をかざす。
男に倣って花を見上げていた少女は、やがてあの時の妹と同じように手のひらを空に伸ばし、
花びらを追いかけ始めた。
今の自分の願いは妹を奪った者達への復讐。
この少女の存在もその願いを成就するための手段の一つだ。
だがそんな血なまぐさい願いはこのはかなげな花に託すには似つかわしくない。
今も昔も、自分には花に願うような望みはない。
それならせめて、この少女の望みがかなうようにと願ってやるべきだろうか。
漠然とそんな思惟を巡らせつつ、男は目の前に舞い降りてきた花びらを捉える。
「――ジョゼさん、つかまえられました!」
駆け寄ってきた少女はすぼめた両の手のひらにちいさな花びらを大事そうに捧げ持ち、
嬉しそうに報告する。
「そう、よかったねヘンリエッタ。どんなお願い事をしたんだい?」
問いかけた男に、少女ははにかみながら答える。
「あの…ジョゼさんとずっと一緒にいられますように…って……」
一瞬眉を上げた男は微笑を浮かべた。
「――大丈夫、願い事はかなうよ」
幼い望みを口にする彼女は、長くは生きられない運命を背負っている。
しかしだからこそ、彼女の短い一生の間、共に過ごしてやることくらいは自分にもできるだろう。
男の言葉に少女は幸せそうにほほを染めた。
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