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140.【コート】 - 12/12/19 15:18:31 - ID:o7LXxaCN3Q
【コート】
軍施設での訓練の帰り。広い駐車場を少女は担当官と並んで歩いていた。
すっかり暗くなった冬の舗装路に靴音を響かせながら、男は傍らの少女に話しかける。
「今夜は流星群の極大期だそうだな」
「そうなんですか」
「ああ。夜中にかけて西の空を中心に見られるらしい」
言いながら足を止め、男は夜空を振り仰ぐ。少女も担当官に倣って視線を上げる。
駐車場の周囲には照明が灯っているが、それでも見上げた空にはぽつぽつと星明かりが見て取れた。
「 やはり公社の演習場の方が良く見えたな」
「そうですね」
少し前、少女は彼に引率を頼んで仲間と共に流星雨の観測をしたことがあった。
担当官は彼女が天文に興味を持ったとみたのだろう。これまで彼がそんなことを言い出したことはなかったのだから。
実際のところ、観測会を提案したのは彼女の仲間であり、彼女自身が特に強く星に興味を持っているわけではない。
だから以前の彼女ならば、物事の表面を見ただけの儀礼的で浅はかな御機嫌取りだと
担当官のそんな言動には苛立ちを覚えたものだった。
「トリエラ」
「はい?」
名を呼ばれ振り返った少女の肩がぬくもりを伴った布地で覆われた。
かすかな煙草の匂いと共にそれが担当官の着ていたコートであることに気付き、少女はまばたきする。
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