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  • 27【ピュア・バニラ】 - 10/08/08 22:14:32 - ID:tivX4/xNCg

     ベルナルドは助手席で無心にジェラートを舐めている少女に話しかける。
    「おいビーチェ、『王様のアイスクリーム』って話知ってるか」
    「いいえ」
    「昔々、まだジェラートがなかった頃に、冷やした生クリームがお気に入りの王様がいてな。
    ところがある夏の盛り、井戸水がぬるまっちまって生クリームが冷やせねえ。
    王様お楽しみのドルチェが間に合わなかったら大事だ。そこでコックの娘が
    氷の上で牛乳缶を転がして冷やしたら、これが偶然固まった。
    そいつがアイスクリームの始まりって訳だ」
     もちろん砂糖や卵も入れるだろうが、要は攪拌しながら冷やすってのが肝だな。
    無口な少女が返答するのはいつも大抵質問か命令に対してのみで、今も担当官の
    おしゃべりには相槌も打たないが、男は身振り手振りをつけながらぺらぺらと話し続ける。
    「今度寮で作ってみろよ。―――そしたら、余計な匂いのしねぇ美味いジェラートが食えるぜ」
     そう話を締めくくった担当官に、少女ははい、と答えた。
     返事をしたって事は今のは命令だと受け取ったのかね。半眼を閉じた少女が
    まるで科学の実験か何かのように軽量カップで生クリームの量を確認する姿を想像して、
    ベルナルドは陽気な笑い声を上げた。少女は担当官が笑っている理由が分からず、
    ジェラートを舐めながら不思議そうにその様子を見ている。
     ベアトリーチェには好悪の感情はない。それでも手にしたジェラートはすでに3分の2が
    姿を消している。
    ―――これで嫌いってこともないだろうよ。
    「無事に戻れりゃ、帰る途中で料理の本とバニラビーンズでも買ってやるよ」
     陽気な男の言葉にベアトリーチェはありがとうございますと答える。
    少女の白い歯がまた甘い香りのするジェラートにかぶりつき、男の耳にコーンが砕ける
    パリッという音が小気味よく響いた。


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