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76.捨子花 4/16 - 11/07/12 00:10:07 - ID:McgbsuJHmA
「じゃあ、ラウーロはトリエラの担当官に義肢慣らしの面倒を見させてた?」
「面倒を見させてたって程じゃないが、ヒルシャーの方はエルザが書いてきたジャーナルの添削を毎回まめにしてやってたみたいだな。よく彼からラウーロの愚痴を聞かされたよ。せっかくコピーを取ってファイルにまとめてやってるのにちっとも目を通そうとしないとか」
「彼のところに行けばエルザが書いた文書がある?」
「捨ててはいないだろう。頼めば見せてくれるかもしれない」
「ラウーロさん」
エルザは前を歩く担当官に声をかけたが、彼は振り返りもしなければペースを落としもしなかった。
彼の耳に声が届いたか定かでなかったので、もう一度呼びかけた。「ラウーロさん」
舌打ちが返ってきた。「聞こえてるよ。何度も呼ぶな、鬱陶しい」
聞こえていたならそれでいい。「フランス語の作文、上達しつつあるとヒルシャーさんに褒められました。ラウーロさんに見ていただくように言われたので、持ってきたのですが」
「先生がよくできましたって言うんならそうなんだろ。俺が見る必要なんかねえよ」
「でも、見ていただくように言われました。必ずそうしろと念を押されたんです」
ラウーロは面倒臭そうに振り返り、エルザが両手で差し出しているファイルフォルダを一瞥した。
そして、それを手に取ることなく再び前を向いて歩き出した。「ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ」
「……はい」 返事が一瞬遅れたのは、初めて体験する奇妙な感覚に襲われたからだ。
ちゃんとやってんのは分かったよ。次はもっと頑張れ。成果事態は見てもらえなかったが、成果が上がったことは認めてくれた。あのラウーロが――ちゃんとやってんのは分かったよ。
添削した教官は、「動詞活用で間違えなくなったのは進歩だ、君はよくやってる」と言った。彼も認めてはくれたのだろう、しかしその言葉には何も感じなかった。ラウーロの一言は違う。まるで心臓に突き刺さるようだった。人工の血が沸騰したように熱くなった――ちゃんとやってんのは分かったよ。
「はい、ラウーロさん」 エルザは、彼女を置き去りにするペースで歩き出した担当官の背中に向かい、彼にもらった言葉を胸中で反芻した。「私、次はもっとがんばります」
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