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78.捨子花 6/16 - 11/07/12 00:14:02 - ID:McgbsuJHmA
義体たちが席を立ち、他愛もないお喋りをしながらぞろぞろと退室し始めた――相変わらず宿題が難しいだのお願いクラエス手伝ってだの何だの。もうフェルミとエレノラに注意を払う少女は誰もいない。トリエラが黒板消しでボードの掃除を始めたので、消される前にフェルミは、ヒルシャーが書いた文字を読み取った――ローマ喜劇:プロータス、テレンティウス。ギリシャ悲劇:ソフォクレス、アイスキュロス、エウリピデス。
「あんまり子供向けのラインナップじゃないな。特にギリシャの最後のやつ、“愛はビョーキ”がテーマの、怖い女がトチ狂って肉親殺しになる話を義体に読ませるのはさすがにどうかと思うぞ」
ヒルシャーが階段を上ってきた。「彼の著作は『メデイア』だけじゃありませんよ。それに、義体だって創作は創作と割り切ることくらいできます。エルザ事件は五共和国派の仕業ということでクローズしたはずですが、捜査班の方が僕に何の用ですか?」
エレノラが立ち上がったので、フェルミも一応立ち上がって手を差し出した。「作戦一課のピエトロ・フェルミとエレノラ・ガブリエリだ。まだ少し気になることが残っててな、エルザをよく知ってるだろうあんたに話を聞ければと思ったんだが」
ヒルシャーは2人の手を無視した。「二課が事件を第三者のせいにしたのが納得できない、違いますか?」
エレノラが気まずそうに手を引っ込め、フェルミはその手で胸ポケットの煙草を掴んだ。
「話が早そうだが、事情は複雑そうだな。あんたは事件の真相を知らされて尚且つ、それを隠蔽するようにロレンツォ課長やらおっかないジャンやらに釘を刺されてるのか?」
「僕が知らされた真相は、義体と担当官をまとめて殺害できるほどの凄腕が五共和国派にいるということだけです。だから用心しろと。あなた方がどんな答えを導き出したいにしろ、憶測できる材料はもうこれ以外に残っていないでしょう」
ヒルシャーは本やノートを重ねた荷物の中から一冊のファイルを取り出し、フェルミの前に置いた。煙草を引っ込めて表紙をめくってみると、一番上はたどたどしい筆跡のイタリア語で書かれたレポートだった。『イタリア以外の半島国家における南北格差について』 エルザ・デ・シーカ。
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