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82.捨子花 10/16 - 11/07/12 00:21:45 - ID:McgbsuJHmA
ファイルは分厚い。一つのジャーナルは長くてもレポート用紙2枚程度だが、ラウーロが休みの日もエルザは毎日書いていたのか、日付に穴がまったくない――彼女の死の前日まで。
最初はたどたどしいながらも学術的な記述が大半を占める。イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語、スペイン語。国内の社会問題、欧州の政策、中東情勢、アフリカの内情、世界経済。読み進めるうちに筆跡が流麗になり、赤インクで正された綴りや文法ミスが減っていく。上達が驚くほど早く、これだけでエルザがどれほど呑み込みの早い生徒だったかが分かる。
「教室ではいつも一人で座っていました。基礎学力にバラつきがあるので、授業中はトリエラにTAの役目を任せているのですが、エルザが彼女に助けを借りているところは見たことがありませんでしたね」
エレノラがメモを取りながら尋ねた。「その時点で、エルザが複数での任務に向かないことが明確だったんですね。そのことについてラウーロにアドバイスしましたか?」
ヒルシャーは溜息をついて頷いた。その様子が、トリエラが「馬鹿言わないで」と言っていた時の仕草に似ていて、なんとなく彼女の方が彼を真似ているのだという印象をフェルミは受けた。
「何度も指摘しました。一度も取り合ってもらえませんでしたが。彼はエルザのことについて話すのを嫌がっていました。他のことは何でも陽気に話す男でしたし、いつもの礼と称して何度も飲みに誘ってくるほどざっくばらんな性格でしたが、義体はただの武器であればいいという考えは生涯揺るがなかったようです」
フェルミは、先を急いで読み進めた。まだまだ枚数がある。読んでいくうちに、最初はレプブリカ紙の社説みたいだったがちがちに堅い小論文が、だんだん夢見る乙女の妄想日記みたいなエッセイを含んで緩やかになり始めた。序盤を脱したと思ったのは、英語で書かれた読書感想文を見つけた時だ――『“オセロ”はなぜ悲劇と呼ばれるか』
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