アクセス規制を受けた方のための本スレ転載用スレッド

  • 85捨子花 13/16 - 11/07/12 00:27:21 - ID:McgbsuJHmA




     エルザは筆を置いた。最後のジャーナルは満足のいく出来だ。今回は提出するつもりはない。最後の最後なのに、口うるさい教官に無粋なけちをつけられたくない。
     誤字・脱字・表現ミスがないかどうか確かめるために、もう一度彼女は文章に目を走らせた。フランス語で書いたのは、最初にラウーロに認めてもらった思い出の言語だからだ。
    『ラウーロさんに担当官になっていただいたことは、私の人生で最良の出来事でした。あの日以来私の働きをお認めいただくこともできなかったし、トスカーナでは失望させてしまったけれど、それでもラウーロさんへの愛情は揺らぎません。むしろ、ますます強くなりました。私をここまで絶望に追い込むことも、たった一言で幸せの絶頂に押し上げることも、ラウーロさんにしかできないことだと分かったからです』
     涙が溢れて文字が霞んだ。エルザは目元を乱暴に拭い、読み進めた。時間がない。
    『最初にラウーロさんと出会った時は、自分がこんなに人間的な感情を持つことができるとは思いませんでした。義体はただの人形で、ただ戦っていればいいだけだと目覚めた時から思い込んでいたからです。でも、私は愛することを知りました。喜ぶことも、怒ることも、悲しむことも、何もかも。すべてラウーロさんのおかげです。ラウーロさんと一緒にいる限り、私はただのサイボーグではなく、ラウーロさんと同じ人間でいられるのです。永遠に一緒にいればきっと、ラウーロさんもいつか私のことを理解してくださって、もう一度「ちゃんとやってんのは分かったよ、次はもっと頑張れ」とお声をかけてくださるかもしれません。永劫の時を一緒に過ごせば、必ずその時が訪れると私は信じます』
     涙は止まった。冷静になってみると、満足のいく出来とはどうしても思えなくなった。どうしてこんなに不幸な筆致になってしまったのだろう? 自分はこれから幸せになりに行くのに。それを思うだけで、誰よりも幸せなはずなのに。
     やはりこのジャーナルは途中で捨てていこう。そう考え、エルザはレポート用紙をくしゃくしゃに丸めてポケットに突っ込んだ。
     もう行かなくちゃ。銃弾は2発。愛するラウーロとの待ち合わせまで、あと5分。

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