□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第1話」−− //クラエス、トリエラ、ヒルシャー
        // 壱拾参−3◆NqC6EL9aoU// Suspense,OC//「Capitano」 //2009/10/17




□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
        −−「Capitano−第1話」−−



             「うーん!全然決まらないよ!」

トリエラが長い髪を引っ張って言う。
「ちょっとクラエス!手伝って!」

寝台で読書中のクラエスが目線を横にする。
「なぁに・・・今日は左右の根本縛りじゃないの?」
そんなクラエスの少し気だるい返事に櫛とブラシを両手にしたトリエラが返す。
「そうなのよ。イメージチェ〜ンジ!なんだ。」
「はいはい・・・ちょっと待ってね」

     クラエスがパタンと本を閉じると同時に一体の動物が
     片目をピクンと開け、眉を顰めるように周りの様子を
     伺うとムクリと起き上がった。

クラエスの定位置である二段ベッド上段の高さに合わせ本棚の上板を広げて、
その分の支脚と柵を付ける改造をされた場所、通称"塒(ねぐら)"にいた動物は、
梯子を降りるクラエスと歩を合わせるように、その塒から部屋の家具等を組み
合わせ、上手に回されたスロープを、テケテケと大きく短い足で降りてくる。
クラエスの低い本棚の上にあるトリエラ御自慢のティディベア・コレクションの
前を通り抜けて・・・。

「もうバシッとスタイリング剤で決めちゃえば?」
「イザって時はうっかり手に付くと気になるのよ。」
そんなクラエスとトリエラの髪繕いの様を件の動物は尻尾を振りながら見上げる。

「どぉ?『カピタン』今日は何時もより可愛いでしょ!?」
自慢げなトリエラに向かって動物は鼻先を伸ばしてフガフガと匂いを嗅ぐ。

「ほんと、随分と可愛らしい香水まで決めてるのね。」
半ば呆れるようにクラエスが髪を繕いながら言う。
「プリシッラさんの見立て。"デートみたいなもの"よ。更に一番肉薄するのが
私達だから持物はこのポシェットの偽装ホルスターの中身だけだって。」
一転して著しく乗らない気をはくと、トリエラはそう言って肩を落とした。

「お気に召さない?デートの御相手が。」
「あの『ジャガイモ』相手で、時と場合じゃ命がけよ。全く割に合わない・・・。」

嘘おっしゃい・・・クラエスは心の中で笑う。
そのヒルシャーさんに貰った色のリップグロス、余程、似合わないとき以外は
何時も最後に決めて、減っては定番で買換えているじゃない。

ふっと件の動物がドアの方に視線を向けた。

「あら、早くもお出迎えのようね。」
「もう!せっかちなんだから!今日は慣れない格好なのは判るけどさっ!何度
言ったら止めてくれるのかな!」
クラエスのひやかしにトリエラがイライラと答える。

動物はテケテケとドアに掛け寄り鼻を向ける。
鼻を寄せドアの向こうの様子を伺う。ふがふが・・・。

「トリエラ、そろそろ・・・」
野暮な男の声がして少しドアが開くや否や櫛が一つ動物の上を飛びドアの
隙間に当たった。
驚いた目をして動物はトリエラと、ドアから気持ち半分顔を覗かせた男の
両方の顔を何度も見比べる。

「ヒルシャーさん!レディの部屋に入るときの・・・」
目を閉じ呆れ顔でトリエラは別の櫛を手に取った。
「も、申し訳ない・・・」
件の"ジャガイモ顔"が困惑に頭を掻く。
「いい加減、子供扱いはやめてください!まだ時間がありますから宿舎の
玄関で待っててください!」

そう言われて出ていった男を残念そうに動物は見ていた。
「行っておいでカピタン。遊びたいんでしょ?」
クラエスがそう言うと、ドアの通気穴を改造したその動物専用の通用口から
彼はテケテケと出ていった。

「ほんっと!未だに子供扱いをやめてくれないのよ。ヒルシャーさんは。」
そう言ってトリエラはため息を付く。
「でもそう言いながら季節のプレゼントの『熊さん達』が増えるのは嬉しい。
違うかしら?」
そういってクラエスは微笑む。
「さあね〜。こうも増えるとね。」
「あら。私には嬉しそうにしか見えないけれど。」

                    ***

似合わない。白い麻のジャケットなんて落ち着かない。
ヒルシャーの眉間には皺すら寄っていた。

「ダメですよヒルシャーさん!そんな服で今回の変装のトリエラと歩いたら
『淫行』ですよ!

                  『  淫  行  』 !

ウチの首相の「ベル公」がだらしなくて、ティーンの娘をエエ歳したオッサンが
連れ回すなんてのは世間の目が厳しいんですから!」

何時ものダークスーツで行こうとした時のプリシッラの一言だった。

僕は難しい年頃の娘を扱っている・・・ジャンやジョゼと比べて決して楽ではないぞ。
そう思いながら何時も湿り気味の安煙草をポケットから出したときだった。

    一匹のバセットハウンドがトコトコとやってきて、
        ヒルシャーの顔をじ〜っと見上げるのだった。

「やあカピタン。君も厄介払いか。」
そう言われたバセットはパタパタと数回尻尾を降った。
「なかなか大変だよ、あの年頃は・・・全く」
そういって頭を掻くヒルシャーは足下に寄りかかる重みを感じた・・・ハッハッと
口を開けてバセットはヒルシャーに掴まり立ちをしていた。

「ああ、いつものあれをして欲しいか。」
ヒルシャーはバセットの両手を握って、ゆっくりと犬の体をひっくり返した。
「はいよ〜『ごろーん、ごろーん』・・・」
地面を一回転してしばらくバセットは尻尾を振り、またせがむようにハッハッと
口を開けヒルシャーに掴まり立ちをしてきた。
「もう一度か、はい『ごろーん』・・・」

こうやって無心に犬と遊んだ子供の頃は幸せだった。
・・・社会福祉公社に身を寄せる今は、親にすら"素性"について嘘を付き続ける日々だ。

バセットと遊びながら思う・・・もし・・・もし仮にも・・・。
トリエラともこんな風にもっと無心に遊べる自分があったら人生は楽に過ごせるのか・・・。

あんな物語の果てにある今でも、ビーチでジントニックの軽い酔いの中、手を
振り駆け寄ってくる水着のトリエラを迎える自分が仮に居たら・・・正にこんな
衣装に似合う風景を気持ちだけでも現実に出来るなら、「お出かけ日和」の
今日は衣装だけで少しは気楽に一歩を踏み出せるのか。

まあ、犬と並べたらトリエラは怒るだろう。
でもあの世のラシェルは・・・こうして僕の悩み苦しむ日々を微笑みながらも
見つめていてくれるのだろうか。

                    ***

「随分と楽しそうですねヒルシャーさん。」
フッと見上げた先にトリエラがいた。

サイクルパンツかとも思うほどのボディフィットした膝上ショーツに色々な
スポンサー柄の入った派手なジャージ状のスポーツシャツ、そして何時もと
違う纏め髪の前髪をカチューシャ代わりのサングラスで押さえキャップを
後ろに被っていた。
まるでジロディタリアを見に行くような派手さ・・・。
スタイリストをしたであろうプリシッラ・・・お前、何を考えてるんだ。

「どうだカピタン!決まってるだろ〜っ!」
トリエラは片目を瞑り開けた目に横Vサインを当てスラリと片足を伸ばして
ポーズを決めた。
これなら実戦用のタクティカルブーツは単に小生意気な娘の決めアイテムに
化ける・・・なるほど、プリシッラもやるな。

「妙に似合ってましたよ。何かいつものヒルシャーさんとは別人みたい。」
「カピタンにせがまれてね。お陰で、これから先に戦場が待っているとは
思えない気分だ。」
「大丈夫でしょ。また公然組織と非公然組織の接触を押さえて公然組織を
ガサ入れするネタ収集ですから。」
「ところが相手はやろうと思えば手榴弾から分隊支援級機銃辺りまで選び放題の
使い放題だ。僕らは・・・」
そう言ってヒルシャーは脇のホルスターを触った。
言われたトリエラはポシェットをじっと見つめた。

そして二人は共にバセットを見た・・・。
最悪の事態への予備戦力・・・だが自分達が付く様な状況である以上、暢気な彼を
再び見られる「保証」は無い・・・。

「・・・行きましょうか。じゃカピタン、行ってきまぁす!」
トリエラに言われたバセットハウンドはゆっくりと尻尾を降って見送った。
何回か振り返っても何時までもそうしている。

「・・・何時もの話ですけど私にはどうしても・・・」
歩き始めてしばらくした時、そうトリエラが切り出した。
「まあ何時もの話だが・・・」
ヒルシャーがため息を一つ付いて辛そうな顔をした。
「やはり『あの方』の・・・」
そう言うトリエラを遮ってヒルシャーが話す。
「僕もそう思う事がある。だが怪談にも酷すぎる。」
ヒルシャーの答えにトリエラはゆっくりと肯いた。

「そして今や義体で『彼のこと』を覚えてるのは恐らく君だけだし、僕も
技術・研究班にそれをトボケている。」
「『だから条件付けはもう沢山だ』ですか・・・。」

ヒルシャーはサングラスを慣れない手つきで取り出すと無言でゆっくりと
両手を使い掛けた。
彼にしては妙にキザだが、今日の麻の白いジャケットが見事にその無言の答えを
決めてくれているのだった。

その角を曲がるとバセットは振り向いても見えなくなる。
重苦しい空気が2つ、角を曲がった瞬間だった。

「ね、ヒルシャーさん!あの場所なら例のホテルのテラスが近くですよね!」
「ん・・・ジャンさんの指示は『その場所を見下ろせる所』だから、確かに
ベストな場所だが・・・。」
「あそこの『美味しいけどお高めなアイスとケーキのデコレートプレート』!
食べたいなー!」

そう言う言葉と共に、若々しい活気に満ちた腕が、気力を失い掛けていた
男の腕に抱きついた。

「経費で落ちるんでしょ!食べたい食べたい〜!」
「ジャンさんの目が0,3ミリ吊り上がるぞ〜。」
そう言いながらヒルシャーは少し笑った。

      ラシェル・・・見えてるかい。
              僕は何とか頑張っているよ。


                【第1話−END>2話へ続く】 →「Capitano−第2話」

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