GENOウィルス蔓延中! うつらないうつさない  このWikiは2ちゃんねるBBSPINKの「金の力で困ってる女の子を助けてあげたい」スレのまとめサイトです

じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ…
 卑猥な水音が響いていた。
 地下室では、革ベッドに腰掛けた三田の股間に清香が顔を埋めていた。
「そうだ… もっと奥まで飲み込め… 喉でしごくようにしろ…」
「んぐぅ… ふぁい… おごぉ…… ん〜〜!!」
 清香は喉奥までペニスを飲み込んでから、股間からの刺激に思わず動きを止めた。
 背後では、文が清香の股間に取り付いていて、アナルバイブを盛んに動かしていた。
 文と比べると、清香はまだまだ体が開いていない。今はお口とアナルの開発中だった。
 地下室は床暖房やらエアコンやらで暖かかったが、外はすでに半袖のメイド服では寒くなっていた。
 季節は冬。姉妹が屋敷に来てから、3ヶ月が過ぎていた…

「よし… 出すぞ…」
 低く響く声で宣言して、三田は精液を放出した。喉奥に当たるそれをむせないように何とか飲み干してから、三田のペニスを、ちゅう…、と吸って、尿道に残っていた精液も残らず飲み込んだ。
「…清香のお口にザーメンをいただき、ありがとうございました」
 頭を床に擦り付けてお礼を言うと、清香はそのままくるりと体を反転させた。
「旦那さま、清香のいやらしいケ、ケツ穴がこんなに広がりました。どうぞ… どうぞ、よくご覧になってください…」
 そう言って、高く上げた腰に両手を回して、良く見えるように己の尻たぶを左右に、くぱぁ、と開いた。
 このセリフとポーズは何度やっても恥ずかしかった。
「ン…」
 三田は刺さったままのアナルバイブを無造作に引き抜いて、人差し指と中指を添えて清香のアナルに差し込んだ。
「んっ!! ィタ…」
 堪えようとしたが、どうしても声が出てしまった。それを聞くと、三田はさっさと指を引き抜いた。
「まだ無理か…」
 抜いた指を文の口に突っ込んで清めさせて、三田は呟いた。
「妹と違って、体が固いな… その分名器なのは良いことだが…」
 三田にそう言われて、清香はしぶしぶ体を元に戻し「すみません…」と謝った。
「まあいい、今日もおまんこはお預けだ。とっととオモリを付けろ」
「……はい。…くすん」
 悲しそうに返事をして、清香はキャビネットに置いてあったオモリを手に取った。その数は2個。一見少ないように見えるが、実は最初のモノとは材質が異なり、重量も増加していた。
 オモリが10個を超えてからはこのオモリに代わっていた。以来、ミスをしても増えることは無いが、その重さは油断しているとクリトリスに激痛が走るほどだった。
「う、ん… あぁ…」
 ゆっくりと取り付けて、清香はため息を吐いた。もう気のせいではなく、清香のクリトリスは明らかに大きくなっていた。
(どうなっちゃうのかしら…)
 ベッドでは、フェラチオをして三田のペニスを勃起させた文が、ゆっくりと腰を落としているところだった。
「はぁぁぁ… 入りました、旦那さま…」
 三田のペニスは文のアナルに収まっていた。
「動きます…」
 そのまま腰を上下に動かして、文はアナルで三田のペニスをごしごし擦った。動きとともに、さらに大きくなった文のおっきいおっぱいがゆさゆさ揺れた。
 文のバストカップがFに達したところで、三田は薬を取り上げた。流石にこれ以上は異様だと感じたからだ。
 それでも身長140cmのFカップは圧巻だった。正直羨ましい、と清香は思った。
「あふぅ、あふぅ…」
「もっと締めて、浅く、速く動かしてみろ」
「はぃぃ…」
 言われたとおりに文は腰を小刻みに動かした。アナルの入り口をペニスのカリでごすごすと擦られるのは、目の前で星が飛ぶほど気持ちよかった。
「ああ!! これ凄いです!! イク… イキそうです!!」
「イって良いぞ、私も出す…」
 許可が下りて、文は思う存分腰を揺らした。
「あっ! イク、イク〜〜!!」
 文がおとがいを反らして絶頂に達すると、三田も低く呻いて精液を放出した。
 精液をこぼさないように、アナルを、きゅう、と締めて、文は慎重にペニス抜いた。
 そのまま跪くと、自分の腸液で汚れた三田のペニスをきれいに舐めあげた。
「文のおしりににザーメンをいただき、ありがとうございました」
 深々と頭を下げると、文はいつも入れているアナルプラグをアナルに差し込んだ。
 最近は特に言われない限り、精液はアナルに入れたままだった。おなかはごろごろ鳴るが、むしろそれが嬉しかった。
「さて、私はシャワーを浴びて寝る。片付けは任せたぞ」
 そう言うと、三田は地下室を出て行った。姉妹は頭を下げて見送ると、後片付けを始めた。
「…今日もナシかぁ…」
 片付けの最中に清香が、ぽつり、と呟いた。
「う、う〜ん…」
 文が困ったように首を傾げた。
 オモリに代わる清香の罰はオナニー禁止だった。アナルが拡がるまではヴァギナでのセックスも禁止されていたので、実を言うとここ10日ぐらい清香はイっていなかった。
「お尻って、気持ち良いの?」
「わりと、あそこより気持ち良いかも…」
 文の答えに、清香は「うーむ…」と考え込んだ。イかせてもらうためにはアナルに慣れないといけないが、正直自分は気持ち悪いだけだった。
「…文ちゃんは順応性高いわよね」
「あ、それ旦那さまにも言われた」
「ここじゃ一番必要な才能よね…」
 清香はしみじみと呟いた。


 冬になったことで、三田は姉妹の衣替えを行った。
 普段着はハローグッドで購入していたが、常着であるメイド服はそうはいかなかった。
 どうも姉妹にとって、メイド服はすでにユニホーム以上の意味を持っているらしく、ぱっとしない作業着を提示した三田に向かって、かなり控えめだがはっきりと姉妹は「メイド服がいいです」と主張した。
 これまで人形のように従順だった姉妹がやけにはっきり主張してきたのが面白くて、三田は自分が選ぶのを条件にメイド服を許可した。
 そうして選んだメイド服は、これまでの作業服専門店からではなく、わざわざ海外の専門店に発注したヴィクトリアンスタイルのロングドレスだった。
 その一分の隙も無いメイドスタイルに清香などは感動すら覚えたのだが、その値段を聞かされた時は卒倒しかけた。清香が管理している屋敷の食費の1年分はあったからだ。
「こ、こんな高級品を着てお掃除できません…!」
「どうせ他のことで汚れる。心配するな、専門のクリーニング業者も見つけてある。いくら汚そうがかまわん」
(忘れていた… 旦那さまはこういう人だったんだ…)
 世間とズレた金銭感覚を久々に思い知りながらも、清香は頬が緩むのを抑え切れなかった。清香だって年頃の女の子だ。可愛い服をわざわざ選んでプレゼントされれば、嬉しいに決まっている。
 届いたその日、姉妹は早速新しいメイド服に着替えた。厳密にサイズをオーダーしたそれは、清香の長身にも文のおっきいおっぱいにもぴったりとフィットし、姉妹は改めて三田に感謝した。
「ど、どうかな!?」
 はしゃいだ声で文が言い、まるで犬が自分の尻尾を追いかけるように、くるくる、と回った。
 その姿は、愛らしい、という表現がピッタリだった。丸顔の文にはふわりとしたロングスカートが良く似合うし、腰から胸に付いているアウタービスチェがおっきいおっぱいをより強調し、思わず揉みしだきたくなる。
「かわいー… 文ちゃん、かわいー…」
 うっとりと文を見つめる清香だったが、文からしてみれば、姉こそが一番このメイド服を着こなしているように見えた。
 元々華奢で長身の清香には、楚々としたメイド服が良く似合った。さらに長年染み付いている物憂げな表情は、黒を基調としたメイド服に非常に映えた。それは、立っているだけで、まるで映画の中から抜け出して来たかのような印象を与えた。
「ねぇねぇ、旦那さまに見せに行こっか!?」
 文が、わくわく、とした顔で言った。
「お仕事の邪魔しちゃいけないわ」
「う… でも、旦那さまだって見たいと思うし… そうだ、お礼を言わなきゃ!」
 それについては清香ももっともだと思い、姉妹は2人して三田の部屋のドアをノックした。
「…失礼します、旦那さま。新しいお洋服、ありがとうございます…」
 部屋に入って、姉妹はそろって頭を下げた。
 しばらく三田はいつものように眉根を寄せた表情でパソコンを睨んでいたが、一言「ふむ…」と呟くと、パソコンを操作してすべてのディスプレイの灯を落として姉妹に向き直った。
「ん…? 早速着たか。どうだ着心地は?」
「最高です!!」
 文が元気良く返事をした。三田は姉妹をためすつがめつ眺めると、微かに苦笑した。
「清香は良く似合っているな。文は… アンバランスだな」
「ひ、ひどーい!」
(やっぱり、旦那さまはお姉ちゃんの方がお気に入りなのかな…)
 心の片隅での暗い思いをおくびにも出さず、文は明るく言った。
「別に似合ってないわけじゃない」
 三田は文に近づくと、両手でおっきいおっぱいを鷲掴みにした。
「あん…」
「流石に手触りが違うな。生地もしっかりしているし、これならサポーターを付けなくても垂れることはないか」
「た、垂れる?」
「胸筋をしっかり鍛えておかないと、こんなにでかい胸だとすぐに垂れるぞ。薬も終わったことだし、今日からしっかり訓練を始めろ」
 三田の言に、文は神妙に頷いた。せっかく旦那さまが気に入っているおっぱいを、フイにしたくはなかった。
「さて… 冬服は揃えたが、次に必要なものはあるか?」
「はあ、必要なもの、ですか?」
「そうだ、私もこの屋敷で越冬するのは久しぶりだからな。気付いた点があれば言え」
 そう言われて、姉妹は考え込んだ。今はあまり不便に感じたことは無いが…
(そう言えば、地下室は暖房完備してるのね… 後から手を入れたって旦那さまが言ってたし…)
 そこまで考えて、清香はぴんと来るものがあった。

「あ、あの。リビングなんですが…」
「うむ」
「暖房器具が無いので、これから少し厳しいかもしれません」
 姉の言葉に、文は「あー…」と納得して、こくこく、と頷いた。
「そうか… テーブルだと足元も寒いか… しかし、床暖房を入れている暇は無いぞ」
「そ、そこまでしなくても…」
(生活レベルが合わないなあ…)
 清香は心の中で、そっとため息を吐いた。
「おこた… なんてどうでしょう?」
「こたつ?」
「はい…」
「リビングに置くのか?」
「はい…」
「そこで飯を食うのか?」
「…はい」
 そこまで会話して、三田は胡乱な目付きで清香を見た。清香は早速自分の言った事を後悔し始めた。
「メリットが見えん」
「は?」
 三田がぼそりと言って、清香は思わず聞き返していた。
「私はこれまでこたつという物を使ったことが無い。そのため、こたつを使うメリットがわからん」
「ええと…」
 そう言われると、清香にもよくわからなくなる。(こたつのメリット… 何だったかしら…?)と頭をひねった。
「みかんがおいしくなりますよ」
 文がなんでもないように言った。
「みかん?」
「はい、みかんです。あと、アイスも美味しくなります」
「なぜ、こたつで食べ物が美味しくなる?」
「さあ…」
 文があっさり首を傾げるのを見て、あからさまに三田の表情が不機嫌になった。
「え、ええと、そう! 電気代が安くつくんです! ストーブみたいに灯油がいらいないし、エアコンよりも経済的なんです!」
 清香が無理やり理由を捻り出すと、意外なことに三田は「なるほど」と素直に納得した。
「経済的か… それは確かに大きなメリットだ」
「は、はあ…」
 実のところ清香には、維持費など三田にとって一番どうでも良いことに思えたのだが、そうでも無いらしかった。
「よし、なら買いに行くか。ちょうど私も一仕事終わったところだ。2人とも支度をしろ」
 そう言って三田は顎で、くい、とクローゼットを指した。すぐに姉妹は動き出し、清香が三田の服を脱がし始め、文がクローゼットから三田の外出着を取り出した。
「その格好なら、外へ出ても変では無いだろう。ところで、どこか行きたい所はあるか?」
 着替えつつ、三田は珍しく自分から姉妹に提案した。
 ここにきて、ようやく清香は三田の機嫌が良いことに気付いたが、それは表には出さずに考えた。
「いえ、私は特に…」
「う〜ん、文も別に行きたいところは無いです」
「そうか、なら近場で済ませるか。ハローグッドにこたつは置いてあったか?」
「あ、ありました。ちょうどフェアをやっているみたいです」
「ふむ、ちょうど良いな」
 着替えを済ませた三田は、「行くぞ」と言うと車のキーを取って歩き出した。
 後に続いた清香は、(そういえば、旦那さまとハローグッド行くのは初めてじゃない?)とぼんやりと思った。


「はあ…」
 ハローグッド店長(32)は、事務所で伝票処理をしながらため息を吐いた。隣でギフト関連の書類を片付けていたサービスマネージャー(27)が嫌そうな顔をした。
「ちょっと… 辛気臭いため息吐かないでよ。それでなくとも年の瀬考えて憂鬱なんだから」
 12月に入ると、小売店一番の稼ぎ時である年末年始がやってくる。一番実入りの良い時期では有るが、従業員にとっては寒くて疲れる一番嫌な季節だった。
「やー、最近清香ちゃんミニスカメイドじゃねーしさぁ… 文ちゃんもおっぱい隠れるような服着てるし… なんか、やる気起きないよねー…」
「店長… それ十二分にセクハラなんだけど? 私にとっても、お客にとっても」
 いーじゃんよー… と店長は足をばたばたさせた。普段は企画力も実行力もある有能なリーダーなのに、なぜかあの姉妹が絡むとダメダメになるのがサービスマネージャーの悩みの種だった。
(寒くなって、メイド服やめてくれたのは良いけど、こうもやる気に影響するのは考え物ね…)
 そう思って、いまだバタバタをやめない店長に拳骨の一つでもくれてやろうかと考えていると、事務所に息を切らしたデリカ担当(24)が駆け込んできた。
「て、店長! ご注進!!」
「何事だ、騒々しい…」
「メイド再臨!!」
「案内せい!!」
 デリカ担当を従えて疾風の如く店内に消えていった店長を見て、サービスマネージャーは、深い深い、ため息を吐いた。


 久しぶりにハローグッドを来店してみて、三田は妙な違和感を感じた。
 何だ、と首を回してみると、その正体はすぐにわかった。なにやら店員(だいたいは男だが、女もいた)が自分たちを、ちらっ、と見て、慌てたように引っ込むことを繰り返していたからだ。
(注目されている? ふん、そんなにメイドが珍しいのか?)
 まさか、姉妹が日常的にメイド服で来店していたことなど知らない三田は、単純にそう思った。
 三田は目があった店員をじろりと睨んで退散させると、姉妹にカートと店案内を任せて後について歩き出した。

「…あいつ誰だ?」
「さ、さあ…」
「もしや、居ないと信じて疑わなかった『真のご主人さま』か?」
「そう、かもしれません…」
「なんということだ… 神は死んだ…」
 三田に睨まれて棚裏に逃げ込んだ店長は、デリカ担当とヤンキー座りをして語り合った。
 あのメイド姉妹は俺たちのアイドル。ゆえに皆が等しくご主人さまであり、『真のご主人さま』なんて存在しないんだよ、ばかやろー!
 というのが男性スタッフの共通認識だったため、三田の登場は多くの男性スタッフを失意のどん底に叩き落した。
「ほー、結構良い男じゃん」
 同じように、三田をちらりと覗いてサービスマネージャーが会話に加わった。
「残念だったね」
「っせー、黙れよ…」
 冷やかすサービスマネージャーに店長は弱々しく応えた。
「んなこと言っていいの? あたし、結構重要な事に気付いたんだけど」
「…なんだよ?」
 流石に興味を持って聞くと、サービスマネージャーは真剣な顔になって囁いた。
「あのメイド服、凄い高級品」
「………で?」
「たぶん、オーダーメイドの特注品。見てよ、文ちゃんのおっきいおっぱいを余す所なく魅せるあのデザイン…! あ、やっぱり見るな」
 どれどれ、と覗き込もうとする店長を制止して、サービスマネージャーは続けた。
「………それで?」
「相当な金持ちじゃないと、あんな服買えない」
「………だから?」
「で、あの姉妹はいつもは歩いて来店してる」
「わけわかんねえって」
 いい加減じれた店長が、ギブアップ、とでも言うように両手を上げた。
「つまり、何なんだよ?」
「鈍いよ、店長。あんたとあたし、開店の時に地域資料を一緒に読んだでしょう? はい、我らがハローグッドはどこ系列のスーパーですか?」
「はあ、そりゃハロー系列のスーパーにきまってんじゃん」
 ハロー系列とは、この辺りに地場を持つ、流通・企画・小売などの事業を展開する株式会社ハローの系列ということだ。
「じゃあ、資料にあったよね。ウチの店の近くにはハローの一般大株主が住んでるって」
「ああ、あったあった。遺産が孫かなんかに相続されて、その孫がやり手のトレーダーだから注意しろ、ってエリア統括から散々言われたな。でも、それからは何の話も聞かんのよね」
「ここまで言って気付かない? 近くには大金持ちが住んでいる。その人はウチの親会社の大株主。で、あのメイド姉妹は大金持ちにしか買えないような高級メイド服を着ている。はい、答え」
「……あのおっさんが三田敦だとでも言うのかよ?」
「…こんな所でだべってないで、接客、してこんかぁ!!」

「いらっしゃいませ、お客様」
 朗らかな営業スマイルと、鍛え抜かれた視線を外さないお辞儀をして、店長は三田の前に立った。
 家電売り場で展示してあるこたつを物色していた三田は、「ん?」と声を出して店長に向き直った。
「何でしょう?」
「失礼ですが、三田様でいらっしゃいますか?」
「そうですが」
 怪訝な顔で三田が首肯すると、店長は電光石火の早業で名刺を三田の前に差し出した。
「ご挨拶が遅れて申し訳有りません。わたくし店長でございます」
 名刺を受け取って中身を確認した三田は、思い出したように「そうか…」と頷いた。
「じいさんはここの株主だったな」
「ええ、おじい様には大変良くして頂きました。三田様にも、株主を続けて頂いて大変嬉しく思っております」
 この店長の言葉に対して、三田の反応は一瞬遅れた。
「…株主?」
「ええ、おじい様の持ち株は今は三田様に相続されていると聞いておりますが…」
 店長がそう言うと、三田は悔しそうに横を向いて「ジジイめ… 俺に黙ってやがったな…」と呟いた。
「いや失礼、なんでもありません。 …株主としては、あなた方の企業努力に期待していますし、今上期のハロー・グループの経常利益が、前年度下期プラスになったことも嬉しい限りです。ですが…」
 そこで三田はいったん言葉を区切った。
「ですが、今日は買い物客としてやって来ています。特に気にする必要はありませんよ」
「いえ、それでは申し訳ありません。せめて、お買い物のお手伝いをさせてください」
 三田は一瞬困った顔をしたが、(まあ、いいか。選ぶ手間が省ける)と思い直すと、鷹揚に頷いた。
「わかりました、そうまで仰るならお願いします。清香! 文! こっちへ来い」
 三田が呼ぶと、こたつ布団の柄でなにやら議論していた姉妹が、会話を打ち切ってすぐにやってきた。
「なんでしょう、だ… おじさま…」
 おじさま、とは外で三田を呼ぶときのルールだ。嫌な勘繰りをされるのが嫌だったからだ。
「店長さんがこたつを選んでくれるそうだ。すみませんが、この娘たちに説明してやってくれませんか?」
 そう言うと、三田は清香と文の肩に、ぽん、と手を置いた。
 滅多に聞けない三田の敬語と、滅多にされない温かみのある仕草に、姉妹は妙にどぎまぎした。
 説明を任せられた店長は、慣れた調子で機能やサイズの説明を始めた。しかし清香は、肩から伝わってくる三田の体温に気を取られ、なかなか店長の話に集中することができなかった。


「よし、それならばこれにしよう」
 最終的に三田が決断を下して購入するこたつが決まった。別に高級品というわけではなかったが、それは3人で座るにはかなり大きなサイズだった。
「ありがとうございます! それでは、商品は車まで運ばせていただきますので、これを持ってレジでお支払いの方をよろしくお願いします」
 バーコードが印刷された用紙を三田に渡すと、店長はスタッフを呼びに去った。
「あとは任せるぞ、私は電話を掛けてくる」
 そう言うと、三田は踵を返して去ろうとした。清香は慌てて声を掛けた。
「あ、あの! 今日はお鍋にしようと思うんですが。調理器を買っても良いですか?」
「必要と思うのならば購入しろ。…そうだ、今回の支払いは私がするから、レジに行く前に声を掛けろよ」
 そう言うと、三田は足早に去っていった。どうにも急いで電話する用事ができたらしく、歩きながらも携帯を耳に当てていた。
「…なんだろうね?」
 文が不思議そうに首を傾げた。三田が慌てるところなど、この3ヶ月でも(もしかしたら一度も)滅多に見ることはなかったように思う。
「さあね。今はお買い物しましょ。鍋は久しぶりだから、気合入れないと! 土鍋は有ったから、ガスコンロかIH調理器が必要ね… IH調理器にしましょ。どうせ、維持費が安いほうがおじさまも喜ぶだろうし」
 清香は一人、うんうん、と頷くとこたつ売り場のすぐ側に陳列してあったIH調理器をカートに乗せた。(これは選ぼうにも1種類しかなかった)
「あとは、具材。おじさまはイマイチ好みが分からないのよね…」
「おじさまって、肉も魚も野菜もたくさん食べるし…」
 なんやかんやと言いながら、姉妹はそれぞれに鍋の具材をカートに入れていった。
 好みはともかくとして、あまり安いものを買うと三田が嫌な顔をするので、そこそこ値の張る具材をカートに入れる。
「お、お姉ちゃん、高級牡蠣だって! おじさま好きかなあ…?」
「おじさま、食中りしたことは無い、て言ってたから、大丈夫でしょ」
 鮮魚、食肉、野菜と食品コーナーを回っていく。
「おじさまが大好きな高級牛サーロイン!」
「薄切り肉にしなさい。お鍋にサーロインぶち込んだら、流石におじさまは怒るわよ」
 とりあえず、姉妹共に意識はしていたのだが、誰も突っ込む人間が居ないので最後までおじさまだった。
「…いい加減、おじさま、止めない?」
「なんだか止まらないね、おじさま…」
 姉妹は、なんだかよくわけのわからない強制力で、おじさまを連呼し続けた。


「…だから、なぜ必要でもない資産を? …遺言? それなら衆目の元、あなたも立ち会って開いたでしょう。そんな文言一つもなかった! は? 口答? ふざけないでください! 
ともかく、こんな勝手はもう無しにしてください。…ええ、私のことは心配してもらわなくて結構です。一人立ちして何年だと思っているんですか… 
結婚!? 真面目に話す気がないのならもう切りますよ! それでは…!」
 声を掛けにきた清香の目の前で、三田は荒々しく電話を切った。ビクッ、と震えた清香に気付くと、焦ったように「す、すまん」と言った。
「あ、いや… 買い物は終わったのか?」
「は、はい…」
「そうか…」
 そう言って三田は歩き出した。清香は、そっ、と横から三田の顔を盗み見た。三田は怒っている様な悩んでいる様なよくわからない表情をしていた。
(誰と話していたんだろう…)
 三田があんなに感情をむき出しにして話す相手は想像できなかった。
(今日は旦那さまの色々な面が見れて、楽しかったかも…)

 三田が(清香の使っているものとは、色や輝きがまるで違う)カードで支払いを済ませると、3人は車に向かった。
 三田が運転席に座り、姉妹が後部座席に座ろうとしたが、こたつが後部座席の大部分を占領していて、1人しか座れなった。
「文、前に来い」
 それを見るなり三田はそう命じた。文はかなりドキドキしながら「し、失礼します…」と言って助手席に座った。
「少し、ドライブするか…」
 車を発進させると、三田はそう言って大きく道を外した。
「あ、あのぉ…」
「別に怒っていない」
 不安そうに声を掛けた文に、三田は即座に答えた。
「ただ… 嫌なことを思い出しただけだ。いや、嫌なことではないな。そう、昔を思い出したんだ。じいさんとの頃をな…」
「おじいさん、ですか…?」
「…そうだ」
 言葉少なに三田は答えた。ストレス発散にドライブをしたのかと思ったが、三田はそれほどスピードを出さずに走った。
 三田の運転は滑らかだった。何度も走り、慣れている道だと清香は感じた。
「…どんな、おじいさんだったんですか?」
 だいぶ迷ったのだろうか、意を決した風に文が尋ねた。
 姉妹が三田に関することを訊いたのはこれが初めてだった。これまでは、訊ける雰囲気も無かったし、余裕も無かった。
「どうでも良いことだ。 …訊いてどうする?」
「いえ… ただ、旦那さまのことを知りたくて…」
 怒られたわけではないが、文はしゅんとなって答えた。
 しばらく、無言のドライブが続いた。
 車が山道に入ると、三田は町を眺望できる高台の、小さな駐車場に車を止めた。
「…今は暗くて見えないが、ここからはじいさんの屋敷が良く見える」
「え、えと、はい…」
 突然話を始めた三田に、文は慌てて相槌をうった。
「あの屋敷に来たときに、初めてここに連れて来られた。なんて田舎だと思った。まだ何も無く、じいさんの屋敷以外はほとんど田んぼばかりだった」
「………」
 姉妹は、黙って三田の話を聞いた。三田の過去など、想像もできなかった。

「お前たち、両親は生きているのか?」
「ええと…」
「…わかりません」
 不意に発した三田の問いに、文は戸惑ったが、清香がはっきりと答えた。
「私たちが施設に入ったのは、4歳と2歳の時です。…誰かに手を引かれて連れて来られたのは覚えています。でも、それが親だったのかは覚えていません。施設長さんも、何も教えてくれませんでした。…ごめんね、文ちゃん。覚えてなくて…」
 後半、清香はすまなそうに文に謝った。多分、これまで幾度と無く繰り返したやり取りなのだろう、文は笑って首を振った。
「ううん、もう気にしないでよ、お姉ちゃん」
 文が言うと、清香は力弱く微笑んで、「うん…」と頷いた。
「そうか… 私の両親は、私が6歳の時に死んだ。死因なんかはどうでもいい。重要なのは、私がじいさんに引き取られた事だ」
 三田はハンドルに腕を預けてぼんやりと前を見た。フロントガラスの先は暗闇に覆われていたが、三田には何かの風景が見えているかのようだった。
「親が死んで、私の肉親はじいさんだけになった。そのじいさんに引き取られると分かって、当時の私はそれなりに落ち込んだ。田舎の名士でお金持ちだと聞いてはいたが、子供の私にとっては印象の薄い、陰湿で、無口な老人に見えたからだ」
 そう言って、三田は何かを思い出したように薄く笑った。
「そうだ… 思い出した。とある人物が言うには、私とじいさんの若い頃は、見た目も性格も瓜二つだそうだ。ふん、その通りだろうよ」
 三田は自嘲するように口の端を歪めた。
 姉妹は何も言えなかった。とりわけ、三田が小さいときに両親を亡くしていることが、妙にショックだった。
「じいさんは厳しかった。元々旧い時代の人間だったから、清貧であれ、がいつも合言葉だった。金は有るくせに一切の贅沢をしなかったから、当時はずいぶんと反発した。
 それでも、ウマが合う所はあった。それは、お互いに無口な所だった。不必要な会話はしない。それが心地よかった。特に…」
 三田は不意に視線を下に落とすと、姉妹から顔を隠して呟いた。
「特にここで、2人で黙って町を眺めるのは好きだった…」
 清香と文は、急に今の三田の顔を見たくなった。見れば、もっと三田の事が好きになれるような気がしたのだ。
「それだけだ… それだけ、思い出した」
 抑揚の無い声で言うと、三田は顔を上げた。その表情は、いつもの眉根を寄せた、気難しいそうな表情だった。
「あの、おじいさんは…?」
「今年の春に死んだ。都内で独立していた私は、じいさんの遺産を相続してあの屋敷に戻った」
 そう言って、三田は車を発進させようとシフトレバーに左手を当てた。すると、文が小さな手をそっと三田の左手に乗せた。
「…何だ?」
「あっ! いえ…」
 文にも、どうしてそんなことをしたのか分からなかった。ただ、三田に触れていたかった。
「欲しいのか?」
「そ、それは…」
 口ごもる文をしばらく見つめると、三田は文のシートベルトを外し、髪の毛を掴むと、ぐいっ、と文の体を自分の方に引き倒した。
 きゃっ! と悲鳴を上げて文が倒れ込むと、ちょうど目の前に三田の股間が見えた。
「するなら勝手にしろ、帰るぞ」
 そう言って、キーを捻ってエンジンを始動させると、車を発進させた。
 文は、膝を立て、三田の腰に腕を回して体を固定させると、運転の邪魔にならないように、ゆっくりと三田のペニスを取り出した。
(何でだろ… いじめられてもいないのに、すごくご奉仕したい…)
 それは、被虐への渇望や三田の強制ではなく、ただ単純に、三田に尽くしたいという文の想いだった。
 そっ、と三田のペニスを口に咥えると、ゆっくりと優しく舌を動かし始めた。
 屋敷に着くまでの短い時間。そうやって文は、舌での愛撫を続けた。


 屋敷に戻ると、三田は夕食の用意を姉妹に任せて、自分はリビングにこたつを設置していた。
 こういうことは自分でやらないと気が済まないらしく、手伝おうとする文を邪険に追い払って、テキパキとこたつを組み立てていった。その様子からは、車内での重い雰囲気は感じられなかった。
 そうして出来上がったこたつは、3人で座るにはかなり広かった。
 文がIH調理器を置いて、清香がその上に土鍋を置くと、3人はそれぞれ1辺に1人ずつ座った。しかし…
「…遠いな」
 鍋はこたつの中央に置いたのだが、やけに広いテーブルのせいで、箸を伸ばすには微妙に遠かった。
 三田が憮然として席を立とうとすると、清香があわてて言った。
「あ、あの! こうすれば良いと思います!」
 そう言って、三田の右隣に強引に体を割り込んだ。文も気付くと、「あ、文も!」とこちらは三田の左隣に割り込んだ。
 すばやく姉妹でアイコンタクトをすると、清香がぐつぐつ煮える鍋をゆっくりと持ち上げて、文がIH調理器を三田の手元まで引き寄せた。
「こ、こうすれば届きます…」
 鍋を降ろしながら清香が言った。
 三田はしばらく胡乱な目で清香を見たが、一回ため息を吐くと「まあいい」と言って座りなおした。そして、伏せられたお碗と箸に手を伸ばそうとすると、それよりも早く清香が箸を、文がお碗を手に取った。
「「まかせてください!!」」
 ハモって姉妹が言うと、まるであらかじめ打ち合わせしてたかのようにお碗に鍋の具をよそおい始めた。
 あっけに取られる三田の前で、姉妹は「お姉ちゃん、牡蠣牡蠣」「野菜、しめじ、お肉…」とあっという間に具沢山によそおうと、「「はい、どうぞ」」と三田の目の前に差し出した。
 三田はかなり胡散臭げな眼をしたが、姉妹の迫力に圧されてお碗と箸を受け取ると、ぎこちなく食べ始めた。
「お、おいしいですか?」
 固唾を飲んで見守る清香の問いに、「ああ…」と答えると、清香が「ほっ」と胸を手で押さえて、文がぐっ、と親指を立てた。
 三田がお碗の中身を食べ終わりまたも姉妹が手を伸ばそうとすると、三田が2人のお尻を、ぎゅっ、と抓った。
「「きゃん!」」
「いい加減にしろ…!」
 怒気を含ませて言うと、姉妹はしゅんとなって手を引っ込めた。
「普通に食わせろ、妙な気を使うな。あと、お前たちもとっとと食え。 …せっかくの鍋だ」
 三田がそう言うと、姉妹は行儀良く「「いただきます」」と言って鍋をつつき始めた。
(…寄り過ぎなんじゃないか?)
 鍋の具を取るためなのだろうが、妙に2人とも三田に体を密着させていた。
(知るか…)
 気にするのが面倒になった三田は、姉妹を極力無視して食事に没頭しようとした。それとなく雰囲気を察したのか、それから姉妹は何も言わずに食事を続けたが、体の位置はそのままだった。
 たまに三田が顔を横に向けると、そこにはニコニコと満面の笑みを浮かべる姉妹の顔があった。


 正直、清香と文は舞い上がっていた。
 三田が、僅かとはいえ自分の過去を話してくれたこと。そして、自分たちと同じく親を無くしていた事が、過剰な親近感と恋慕心を引き出していたのだ。
 文にいたっては、これまで漠然としか感じていなかった三田への恋心が爆発していた。
 何でもしてあげたい! 今すぐ抱きつきたい! そんな気持ちを抑えるのに必死だった。
「旦那さま、お背中流しましょうか?」
 だから少しでも側にいたくて、姉に洗い物を任せると三田にそう話しかけていた。これまで、何度か呼ばれたことはあったが、自分から言うのは初めてだった。
「…ああ?」
 なにやら、どっと疲れた様子の三田が、ソファに身を投げ出して投げやりに答えた。
「あ、疲れてるようでしたら、マッサージします!」
 そう言ってまとわり付こうとする文を、三田はうるさそうに振り払った。
「…やかましいぞ」
「ご、ごめんなさい…」
 そう謝って、それでも何かしら命令が欲しそうに自分の前で、ちょこん、と座る文を見て、三田は困惑して尋ねた。
「何なんだ。何か欲しいものでもあるのか?」
「い、いえ欲しいものは無いです…」
「じゃあ、おねだりか?」
「そ、そうじゃなくて…」
 文は口ごもると、上目使いに三田を見た。
「尽くしたいんです、旦那さまに」
「はぁ?」
 三田が、わけがわからん、とでも言いたげに首を傾げた。
「何でも言ってください。もう一度犬になれというなら、犬になります。次は散歩も嫌がりません、写真もたくさん撮ってください。文が出来ることなら、何でもします。させてください…」
 文は、顔を真っ赤にして言い切った。キッチンからは、清香がはらはらした思いで2人のやりとりを見守っていた。
「どうしてそこまで言える? そんなにいじめられて気持ちよくなりたいのか?」
「ち、違います!」
「じゃあ、何だ!?」
 荒げた三田の声に、ぎゅっ、と眼を閉じると、文は全身全霊の勇気を振り絞って叫んだ。
「だ、旦那さまが好きだからです! 大好きなんです! 本当に好きなんです。旦那さまに抱かれると、胸がどきどきするんです… もっと触れていたいんです。ずっと旦那さまの側に居たいんです…!」
 言い終わって、文は、ぎゅっ、と両手を握って三田の返事を待った。
 しかし、三田の返事はなかなか返ってこなかった。
 とうとう痺れを切らして文が眼を開けると、そこには、冷たい眼をした三田が、そのままの姿勢で座っていた。

「好き?」
「はい!」
 ポツリと呟いた三田に、文は勢い良く返事をしたが、三田の表情は変わらなかった。
「それで、なんだ?」
「…え?」
 抑揚も無く、感動も無く、ただ無機質な声で三田は尋ねた。
「お前が私を好いていたとして、私に何かして欲しいのか?」
「それは…」
 文は悩んだ。して欲しいことなど、一つしかない。しかし、それを言うのが不安だった。チラリとキッチンの姉を見ると、清香も不安そうに三田を見ていた。
(お姉ちゃんには… お姉ちゃんには、負けたくないよ…!)
 文は決心して、顔を上げた。
「旦那さま、私を愛してください!」
 三田の眼を真っ直ぐに見て言った。視線を逸らすもんかと思った。
 しかし、三田の返答は残酷だった。
「無理だ」
「…!」
 静かに、きっぱりと三田は言い切った。
「人を愛する気になれない。愛し方を知らない。そもそも、愛など無い。どんな理由でも結構だが、ともかく、私はそういう気持ちに応える気は無い」
「そ、そんな… じゃあ、どうして私たちに優しくしてくれるんですか?」
「決まっているだろう、長く使うためだ」
 三田の返答に、ガツン、と頭を殴られたような衝撃を受けて、文はふらふらと尻餅をついた。
「長く、使う…?」
「そうだ、途中で壊れたら、せっかくの高い金がフイになる。お前は何だ? 私の奴隷だろう。ならば主人にはそれを管理する義務がある。ただ、それだけだ」
「そんな… そんな…」
 文は体をガタガタを震わせ、涙を流し始めた。
「こんなに…」
 搾り出すように、文は声を出した。
「こんなに好きなのに… 大好きなのに…」
「恋心が邪魔か? ならば、そんなものは捨ててしまえ。私なんか好きにならなければ良い。第一、許可をした覚えは無い」
「誰か、を好きに、なることなんて… 自由です…」
 しゃっくりを上げながら文が言うと、三田は「いいや違う」ときっぱりと否定した。
「初日に話したな。お前の自由は誰のものだ? お前のものか、清香のものか?」
 三田の問いに、文は、ビクッ、と背筋を伸ばした。
「そうだ、私のものだ。お前に許された自由は、私が認めた自由だけだ。改めて言おう、恋心なんか捨てろ」
 それがトドメの一言だった。
「ひどいよ… あんまりだよぉ…」
 文はぼろぼろに泣いた顔を両手で押さえると、駆け出してリビングを出て行った。

「あ、文ちゃん!!」
 急いで清香が追いかけようとしたが、駆け出す前に三田が大声で「清香っ!!」と叫んだ。
「は、はい… あの…」
「こっちへ来て、壁に手を付け」
「…え!?」
「早くしろ!」
 清香は戸惑いながらリビングに入ると、ふるふると首を振った。
「だ、旦那さま、今は許してください」
「駄目だ」
 三田は取りつく島も無く清香に近づくと、強引に壁に向かせて突き飛ばした。
「きゃっ!」
 清香が慌てて手を壁に付くと、三田は背後から清香の腰を、がしっ、と掴んだ。
「旦那さまぁ!! お願いです!! 今は堪忍してください!! 文が、文がぁ!!」
 必死に抵抗するが、三田の力には適わなかった。
「…お前まで俺を苛立たせるつもりか?」
 低い、あまりにも低い声で三田が言った。その声に気圧されて清香が一瞬動きを止めると、カットバンを剥がし捨て、三田は有無を言わさずに清香を後ろから貫いた。
「あうぅぅ!!」
 前戯も無しの挿入に、清香の身体が跳ねた。しかし、三田はそんなものはお構い無しに激しく腰を動かした。
「どうだ! 久しぶりのチンポは嬉しいだろう! ええ!!」
 清香は長い髪を激しく揺らして、いやいや、と頭を振った。
(嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だぁ!!)
 心の中で何度も叫ぶ。ほんの数十分前までは、欲しくてたまらなかったものなのに、今この瞬間は、処女を奪われたとき以上の嫌悪感しか無かった。
 それなのに、
「ふん、もう濡れてきたか。身体は正直に嬉しいと言っているぞ!」
 清香のヴァギナからは、三田の言う通り愛液がだらだらと流れ始めていた。
(嘘ぉ… なんでぇ… 嫌なのに… 悔しいのに、感じちゃう…)
 清香は、生まれて初めて自分の身体を呪った。知らずに涙が出てきた。
「ふん、淫乱が…」
 三田が吐き捨てるように言った。淫乱、と言う単語は、清香の中に暴力となって襲い掛かった。
(いん、らん… いやなのに、感じちゃう、いんらんおんな…)
 清香は抵抗を止めて大人しくなった。これまで、三田に受けた仕打ちの数々が頭をよぎる。そして、その仕打ちのいずれでも、自分は嬉しそうに腰を振っていた。
(いんらんおんな…)
 清香の瞳が光を失った。
 しばらく無言で腰を振っていた三田は、反応をしなくなった清香を見ると、「ちっ!」と舌打ちをして清香の膣内に射精を始めた。
 射精が終わると、三田はペニスをずるりと抜き、清香の腰から手を離した。清香は、ゆっくりと床に崩れ落ちた。
「おい、後始末をしろ…」
 三田がそう言っても、清香は低く「うぅ…」と呻くだけだった。業を煮やした三田は、清香の長い髪の毛を掴むと力任せに上に引っ張った。
「きれいにしろ…!」
 清香の顔が股間にくるまで引っ張り上げて言うと、観念した清香が三田のペニスを、ぺろぺろ、と舐め始めた。
 なんとかきれいに舐め終わると、三田は清香の髪を、ぱっ、と離した。再び、清香が床に崩れ落ちると、一言「寝る」と言ってリビングを後にした。
 残された清香は、最後の力を振り絞って立ち上がると、文が居るであろう自分たちの部屋へと、よろよろと歩き出した。

 清香が自分たちの部屋に帰ると、ベッドの上にこんもりと布団が丸くなっていた。
 清香はホッと胸を撫で下ろした。正直、屋敷を出ていたらどうしようと思っていたのだ。
 ベッドに腰掛けて、そっと布団の塊に耳を寄せると、中から文のぐずる声が聞こえてきた。
「文ちゃん…」
 優しく声を掛けると、布団と布団の合わせ目が少し開いて、文が顔を覗かせた。
 なんと言って良いか分からず、とりあえずにっこり微笑んでやると、文は「おねえちゃああん…」と清香に抱きつこうとした。
 が、しかし、途中で何かに気付いたように動きを止めると、突然、ばっ!と清香から飛び退いた。
「ど、どうしたの?」
 文の変な動きに驚いて尋ねると、文が信じられないものを見たような眼で清香を見た。
「お姉ちゃんから… 旦那さまの匂いがする…」
 その言葉に、はっとなって清香は股間を押さえた。
「えっち、したの?」
 呆然と文が言う。清香は、なんと弁明して良いのか分からず、助けを求めるように文に手を伸ばした。
「触らないで!」
 それを見た文が叫んだ。
「触らないで…」
 もう一度言うと、文は悲しそうに清香を見た。
「あ、文、これはね…!」
「わかってるよ…」
 必死に説明しようとする清香を遮って、文は話し始めた。
「わかってるよ。お姉ちゃんがねだったわけじゃないってことぐらい… 抵抗したけど、旦那さまに無理やりヤられちゃったことぐらい… すぐにわかるよ… でもね、でもね…」
 そう言うと、また文はぽろぽろと涙を流し始めた。
「そうだとわかっていても悲しいの! 悔しいの! 妬ましいの! お姉ちゃんはいつもおまんこに注いでもらってるのに、私はお尻やお口ばっかり… それでも、愛してもらってると思ってたから、充分だった。けど、そうじゃなかった…」
 清香は、何も言えなかった。言えるはずもなかった。
「今は一人にして… 出てって…」
 そう言って、文は再び布団に包まって丸くなった。清香は呆然と立ち上がると、足取り重く部屋を出た。
 再びリビングに戻ると、今日買ったばかりのこたつに足を突っ込んで、がくり、とテーブルに突っ伏した。
「わかっていたことじゃない…」
 誰に聞かせるでもなく、清香はポツリと呟いた。
「私たちに、人並みの幸せなんて無いなんて、わかっていたことじゃない…」
 広いリビングの中で1人、清香はさめざめと泣き続けた。

 翌朝。一睡も出来なかった清香は、朝日がリビングに射すとのろのろと身体を起こした。
 気分も体調も最悪だった。一晩中泣いた眼は真っ赤になっていたし、同じ姿勢で過ごした身体は節々が痛かった。
 それでも、1日は始まったしまった。自分は奴隷なのだ。これ以上三田の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「私が、がんばらないと…」
 誰に言うでもなく自分に呟くと、清香は足取り重く自分の部屋へと向かった。
 戸口からそっと覗くと、燦々と朝日が射す部屋のベッドの上は、昨日と変わらず丸まった布団が微かに動いていた。
「………」
 清香は散々躊躇った挙句、声を掛けることなくリビングに引き返した。
 文と正面向いて何を話して良いか分からなかったし、まだ三田と合わせたくないと思った。
(今日一日は好きにさせてあげよう…)
 もちろん自分が決めることではないが、とにかくそうしよう、と清香は考えた。
 朝食の用意を済ませると、勇気を奮って三田の部屋をノックした。
 失礼します… と声を掛けて入ると、カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、三田がぼんやりとパソコンを眺めていた。
「…なんだ?」
「え? あ… 朝食です、旦那さま」
「…そうか、もう、朝か」
 眼を細めてカーテンから漏れる微かな朝日を見ると、三田は清香を手招きした。
「しゃぶれ」
 無機質な声で命令すると、清香は「はい、ご奉仕いたします…」と応じて三田の股間に跪いて、取り出したペニスを舐め始めた。
 とたんに、むっとした、今まで嗅ぎ慣れたことの無い匂いが清香の鼻を直撃した。
(あ、これ… お酒の匂い…)
 チラリと視線を走らせると、机の上にこの屋敷で滅多に見る事が無いウィスキーのボトルと、半分ほどに琥珀色の液体が注がれたグラスが眼に入った。
(旦那さま、お酒飲んでたんだ…)
 清香が記憶している限り、三田がアルコールと摂っていたことはない。少し、意外な気がした。
 しばらく、ぴちゃぴちゃ、という水音が部屋に響いた。しかし、清香がどんなに頑張って奉仕しても、三田は勃たなかった。
「…もういい」
 緩慢な動作で清香を押しのけると、三田はよろよろと立ち上がり「シャワーを浴びて飯を食う。着替えを出しておけ」と命じて部屋を出て行った。
 1人残された清香は、好奇心から三田の飲み残したグラスに鼻を近づけ、そのつんとくる刺激に思わず顔を反らした。

 三田はリビングに現れると、ちらりとこたつを見て、テーブルのイスにどっかりと腰を降ろした。
「……はどうした?」
「はい?」
 清香がよく聞こえなくて聞き返すと、三田は「いや、いい…」と呟いて、おもむろに朝食をつめこみ始めた。
「旦那さま…」
「……ああ」
「文ちゃんは、今日は、その… 調子が悪いみたいなので、寝かせていてもいいですか…?」
 清香が言うと、三田は食事の手を止めてチラリと清香を見た後、「勝手にしろ…」と呟いた。
 無言のままに朝食が終わると、何も言わずに三田はリビングを出て行った。
 清香も何も言わず、無言で朝食の後片付けを行った。
 そこから、孤独で、無機質な時間が始まった。
 1人で掃除をし、洗濯し、昼食を作った。三田は昼食に現れなかった。姉妹の部屋にご飯を持っていったが、文も返事をしなかった。
 久しぶりな、本当に久しぶりな1人の食事だった。1人で食べる食事は、出来立てなのにやけに冷たかった。漬物を齧る音が、やたらとリビングに響いた。
「…寂しい」
 ポツリと言葉がこぼれた。そして、ふと考えた。数十年前の、三田が子供の頃のこの屋敷は、こんな風だったのだろうか? 厳格な祖父と2人きりで、会話の無い毎日を過ごしていたのだろうか?
「私には無理だわ…」
 恐ろしくなって、清香はぶるっと震えた。無性に誰かと話したくなった。このまま1人で居るのは苦痛だった。
 しばらく考えたあと、少し早いが買い物に出かけようと思った。人で賑わう場所に行けば、少しは気が紛れると思った。
 昼食の片付けもそこそこに済ませると、清香は三田へドア越しに「買い物に行ってきます」と声を掛けると、逃げるように屋敷を出た。冬の木枯らしが冷たかった。
 清香は昨日から着替えていないメイド服の襟を立てて、足早にハローグッドに向かった。


 ドアの外から清香の声がした。三田はチラリとドアを見やったが、清香が入ってこないことを知ると、そのままグラスに視線を戻した。
 机の上のパソコンは、為替、株式、先物などの様々なデータを表示している。いつもだったら、そのデータを真剣に眺め、データが教えてくれる情報・意味を必死で解読していた。
 しかし、今日はそうしようとしても、ちっとも身が入らなかった。取引をしようという気にもならなかった。
(ふん、当たり前か。酒を飲んで取引するトレーダーなど、聞いたことが無い)
 三田は、昨日久々に飲み、今も自分の手の中にあるウィスキーを眺めた。
 酒は好きではなかった。アルコールは判断力を鈍らせ、脳を老化させると思っていた。しかし、ウィスキーは別だった。収集と愛飲が祖父の趣味だったのだ。(地下室も、元々は祖父がウィスキー保管のために作ったものだ)
 子供の頃、祖父が晩酌するウィスキーを、背伸びして一緒に飲んだ。ウィスキーを飲んだ時だけは、ほんの少し会話が弾んだ。
 だから、大人になってもウィスキーだけは飲み続けた。トレーダーになり、日常的に重大な決断が求められるようになってからは、だいぶ飲む機会が減った。そのため、地下室から運んだ祖父の遺産のウィスキーは、まだまだ量を残している。
「何にイラついている、敦…」
 三田は自問した。
 昨日、奴隷の1人の恋心を壊し、もう1人の希望を壊した。それだけだ。行くあてのないあの姉妹は、これからも自分を玩具として楽しませてくれるはずだ。
 そう結論付けたのに、不愉快な思いは消えなかった。ウィスキーに逃げても、暗鬱な思考が加速するだけだった。
「恋だと…? ふざけるな…」
 三田が恋し、愛した女性はすべて三田の元から去っていった。三田の嗜虐趣味に耐えられなかったからだ。口々に「変態!」と罵る女性の顔を、三田は代わる代わる思い出した。
 そんな自分に恋をする? ふざけた話としか思えなかった。どうせ途中で音を上げ、嫌になって逃げ出す。そうとしか思えなかった。
 文は自分の被虐心を受け止めたつもりでいるのだろう。しかし、自分の欲望はあんなものではない。もっと凄惨な、もっと激しい仕打ちをして、ああやって慕っていられるとは到底思えなかった。
「優しくは無い、逃げ出さないよう、壊れないよう、大事に使っているだけだ…」
 三田はぶつぶつと呟いた。昨日の夜から同じことばかりを言っていた。それが結論のはずだった。結論が出たからには、不愉快な思いなどしないで済むはずだった。
 なのに、自分はイラつき、滅多に飲まないウィスキーを手にしている。何かが異常だった、しかし、何が異常なのかが全く分からなかった。
「何にイラついている、敦…」
 もう何度目かわからない自問を、三田は繰り返した。


 ハローグッドは、相変わらずの賑わいを見せていた。
 カートも籠も持たずに店内を彷徨い歩いた清香は、歩き疲れて店内にあるベンチに腰を降ろした。喉が渇いていたが、クレジットカードしか持っていない清香は自販機で物を買えず、改めて店内の商品をレジに通すのも億劫だった。
「疲れたぁ…」
 ほっ、とため息を吐き、そして店内を眺めた。誰もが忙しそうに動いていた。清香は、1人ぽつんと取り残されたようで、屋敷とは違った孤独感を味わった。
「何よ… どこへ行っても一緒じゃない…」
 頬を膨らませて1人ごちる清香の目の前に、にゅ、とアルミ缶のお茶が差し出された。
「え!?」
 びっくりして振り返ると、サービスマネージャーが同じものを片手に持って立っていた。
「ほい、あげる」
「あ、ありがとうございます…」
 びっくりして受け取ると、サービスマネージャーは「よっこいしょ」と清香の隣に腰掛けた。
「飲んでみて、それ、試供品の健康茶なんだけど、評判わるくてモニターが足りないのよ」
 そう言われて、清香は恐る恐るプルトップを空けると、ちょび、と飲んだ。
「う… 渋いですね…」
 飲んだ途端に渋味が口の中を拡がった。とてもおいしい物じゃなかったが、今は水分がありがたかった。
「ありがとうございます」
 もう一度お礼を言って、清香は缶の半分ほどのんでから、「ふう…」とため息をついた。
「ユーザーに健康意識を喚起させる渋い味、らしいよ。普通においしく作りゃいいのにね、ウチの商品開発部は…」
 そう言って、サービスマネージャーはチラリと視線を清香にやった。
「…どうかしたの? 妹さんと喧嘩でもした?」
「…………」
 押し黙った清香を肯定と取ったのか、そのままサービスマネージャーは続けた。
「まあ、年が離れていると扱いが難しいかもね。私も1周り離れた弟が居るけど、クソ生意気で言うことなんざ聞きゃしないんだから」
「え? 私と文ちゃんは2歳しか変わらないですよ?」
 そう言われて、サービスマネージャーはまじまじと清香を見た。
「えっと… 清香ちゃんは年いくつなの?」
「16ですよ」
 その返答にサービスマネージャーは低く唸った。少なくとも10代後半、ひょっとしたら20歳を超えていると思っていたからだ。さらに言えば、文はもっと下、下手したら小学生かも知れないと考えていたからだ。
「色々とアンバランスなのね… あ、ごめん、そういうこと言いたいんじゃなくて、なんだか辛そうだったから」
 そう言われて、清香は視線を落とした。もちろん、全てを話すことなど出来ない。しかし、少しは吐き出したかった。
「妹に好きな人が出来て… でも、その人にとって妹の好意は迷惑で… 私も応援することが出来なくて…」
 清香は、ぽつりぽつり、と呟いた。
「その人は優しいけれど、その優しさは必要だから与えた物だって… それが、妹にはショックで…」
 そこまで聞いて、サービスマネージャーは「ううむ…」と唸った。まさか、ヘビーな色恋話が出るとは思わなかった。
 それでも、ここまでへこんでいる清香を放っておけなかった。
「じゃあ、その人は多分嘘つきなんだね…」

「嘘つき… ですか?」
 清香が驚いたように顔を上げた。
「まあね。優しい人ってさ、優しいから優しい人なんだよ。打算とか、計算とか、そういったものひっくるめても、人に優しくできない人はいるよ? だから、その人は嘘をついてるんだよ。変なプライドとか、思い込みとか、そういうものがあるんじゃないの?」
 そう言って、サービスマネージャーは自分も健康茶を飲んで、その渋さに顔をしかめた。
「適当なこと言ってるわけじゃないよ? 身近に似たようなやつが居るからね…」
「そうなんですか?」
「うん。ウチの店長。あの人、ホントは臆病でさ、良い結果が出ても信じないの。有能な自分に嘘ついて、『俺は駄目だ、俺は駄目だ』って自己暗示かけてんの。
 ま、それがアイツなりの自己鍛錬なのかもしれないけどね。でも、周りとしては思うわけよ。もう少し素直になってくれれば良いのに、って。そうすれば、もっと楽に信じて上げられるのに」
「信じる…?」
「そう」
 サービスマネージャーは大きく頷いた。
「嘘つきをみんなで信じてあげるの。信頼を通じて、自信を持たせてあげるの。私たちハローグッドのスタッフは、店長の能力を信じてる。
 だから、店長がいくら『俺は駄目だ』と嘘をついても、周りがゴーゴーとアクセル踏んであげるの。そうすれば、万事OK!」
 元気良く言って、サービスマネージャーは席を立った。
「さて、私は仕事に戻るよ。清香ちゃんも、あんまり思いつめないでね」
 そう言うと、サービスマネージャーは去っていった。残された清香は、ゆっくりと立ち上がった。
「信じる…」
 屋敷に来てからの事を、順々に思い出していった。
 ステーキ屋に連れて行ってもらった。携帯を買ってもらった。洋服を買ってもらった。部屋を与えてくれた。そして何よりも、姉妹一緒に居させてくれた。
 恥ずかしいことをたくさんされた。処女も奪われた。けれども、その思い出は嫌な思い出ではなかった。温かみがあった。
「信じるわ…」
 こたつで、3人寄り添って鍋を食べたことを思い出した。あのときの三田の体温は、いまでもしっかり覚えていた。
 清香は、きっ、と顔を上げると、大股で歩き出した。瞳には、決意の光が宿っていた。

 屋敷に戻ると、清香は三田の部屋をノックして「ただいま戻りました」と声を掛けた。
 ややあって、「入れ…」というくぐもった声が聞こえてきて、清香は三田の部屋に入った。その途端、むっとするアルコールの匂いが清香の鼻についた。
 三田は、朝と変わらぬ姿勢で居た。変わったことは、机の上のウィスキーのボトルの数が増えていることだった。
「…遅かったな、逃げ出したのかと思ったぞ」
 抑揚の無い声で三田は言った。清香は黙って三田の机に近づいて、ウィスキーの空瓶を集め、三田の手からグラスを取った。
「旦那さま、お酒の飲みすぎは身体に良くないです。今日は、もうお止めください」
「…女房面するな」
 そう言うと、三田は強引に清香からグラスを奪い取り、中身を一気に煽った。
「…んく、ぷはっ! 口答えして、お前何様のつもりだ、ええ!?」
 危険な目つきで三田は言った。アルコールのせいか、普段より乱暴な口調になっている。
「私は旦那さまの奴隷です」
 清香ははっきりと言った。三田はその言葉の強さを怪訝に思い、清香の顔をまじまじと見つめた。
「…なんだ、その眼は? 人を憐れむような眼で見やがって…」
「違います!」
「いいや違わない。子供を奴隷にしてセックス人形に仕立て上げる、イカれた男だと思ってるんだろう? ふん、その通りだ。不幸だったな、こんな男に捕まって…」
 三田は自嘲するように「くくくっ」と笑った。
「違います… 旦那さまの身体が心配なんです。それに、私たちは不幸じゃありません」
「不幸じゃない?」
 そう言うと、三田は大口を開けて「ハハハハハッ!!」と大笑した。
「嘘を言うのも大概にしろ! お前のマタには何が付いてる? お前の歳でクリトリスにオモリが付いてるヤツなんて、日本中探したって居ないぞ。
 妹も同じだ。無理やりあんなデカイおっぱいに育てられて、ケツ穴はチンポを飲み込むほどに拡張されて、これで不幸じゃないとでも言うのか!? 嘘つきがっ!!」
「…嘘つきは旦那さまです」
 体中の勇気を総動員して、清香は言った。
「…なんだと?」
「嘘つきは旦那さまです! そう言ったんです!」
 清香は三田をしっかり見て叫んだ。見る見るうちに三田の形相が怒りへと変貌した。
「…良い度胸だな。俺を嘘つき呼ばわりか… 覚悟はできてるんだろうな?」
 三田の言葉に、清香は震えながらも頷いた。
「よし、お仕置きだ。今日は手加減しないぞ…」
 三田がゆっくりと立ち上がって歩き出した。地下室に行くつもりなのだ。
 三田の後ろに付いて行きながら、清香は、ぎゅ、と両手を握った。
(文、お姉ちゃんも頑張る。昨日の文の勇気をちょうだい…)
 悲痛な覚悟を身に宿し、清香は地下室への階段を降りて行った。


 ぎりぎりぎりぎり…
 清香が身をよじるたびに、体中に掛けられた縄化粧がぎりぎりと音を立てた。
「…うぅ」
 激痛が絶え間なく股間から響く。清香は自分がまたがっているモノを、信じられないように見つめた。
 三角木馬。プレイ用ではない、明らかに拷問用の木製のソレは、鋭角に尖った先端を清香の股間に深々と埋め込み、ありえないほどの苦痛を清香に与えていた。
「うぅ… 痛い…」
 ソレを三田が地下室の倉庫から持ち出してきたとき、清香は、サーッ、と全身の血の気が引くのを感じた。
 それでも、上半身を縛られると、勇気を出して自分から進んでまたがった。そして、すぐに後悔した。
(痛い… こんな痛みが世界にあるの…?)
 気を抜けば、一瞬で失神してしまいそうだった。それくらい三角木馬の与える苦痛はすさまじいものだった。
「どうだ、撤回する気になったか? 誰が嘘つきだ?」
 傍らに立った三田が口早に言った。三田の手には、きらきら光るテグスが握られており、それは三田の手から伸びて清香のクリトリスリングに結んであった。
「うぅ… 旦那さまが、嘘つきです…」
 歯を食いしばって清香が答えた。三田は「まだ言うか…」と憎憎しげに呟き、三角木馬を、ごんっ、と叩いた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
 振動によって倍加した痛みを、清香は歯を食いしばって耐えた。
 何とか痛みが引くのを待ってから、清香は切実に三田を見つめた。
「旦那さま… 旦那さまは優しい方です… 旦那さまに拾ってもらって、私たちは幸せです…」
「心にも無いこと言うな。お前たちは行くあてが無い。俺に気に入られようと嘘をついてるだけだ」
「嘘なんかついていません…!」
 清香は意地になって叫んだ。こうなったら、我慢比べだと思った。
「私たちは幸せなんです… 嘘じゃありません… 旦那さまの優しさに救ってもらったんです…」
 なおも言い募る清香を見て、三田はますます不愉快になった。
「口の減らないヤツだ…! いい加減認めないと、妹と一緒に屋敷から追い出すぞ!」
 吐き捨てた三田の言葉に、清香の中で、カチン、と音を立ててスイッチが入った。
「…出来もしないくせに」
「何?」
「出来もしないことを、言わないでよ!!」
 清香は、あらん限りの力をこめて叫んだ。

 初めて聞いた清香の強気な言葉に、三田は度胆を抜かれた。
「な、何だとっ!」
「追い出すなら追い出してごらんなさいよ! でも、どうせ出来ないわ! 優しいあなたには無理な話よ!」
「俺は優しくなんかない!」
「そう思い込もうとしているだけよ! どうして素直にならないんですかっ? 素直に…」
 そう言って、清香は痛みに耐えるように「くぅぅ…」と息を吐いた。
「素直に文の気持ちに応えてあげれば良いのに!」
「うるさい!」
 三田は激昂して、手に握ったテグスを力任せに引っ張った。
 清香のクリトリスに激痛が走った。清香は思わず腰を浮かせてしまい、引っ張られるままに腰が前に動いた。そして…
 ざりっ
「ぎゃあ!」
 股間から生暖かいものが垂れて、足首まで伝った。怖くて、恐ろしくて、清香は下を向いてソレを確認することが出来なかった。
「これで優しい? お前は脳にまでザーメンが回ってるんじゃないのか? このまま放っておいても良いんだぞ?」
 清香は「はーっ、はーっ」と肩で息をしながらも、きっ、と三田を見つめて首を振った。
「…いいえ、旦那さまはそんなことをしません。きっとあなたは、大急ぎで私に薬を塗って、暖かいベッドに寝かし、つきっきりで看病するわ。賭けたって良い…!」
「…何を賭けるつもりだ?」
「私の命を賭けて、信じています…」
 三田は激しく狼狽した。この、自分の半分も生きていない少女に圧倒されていた。
「どうして… どうしてそこまで信じられる? 俺はただのサディストで、お前は哀れな奴隷だぞ・・・?」
「愛しているから!」
 それは、清香の心からの叫びだった。
「あなたを愛しているから! サディストだって良い、奴隷だって良い… それでも私は旦那さまを愛しています。文だって同じです。愛しているから好きなんです! 愛しているから尽くしたいんです…!」
 叫んで、清香はまたも「はーっ、はーっ」と肩で息をした。股間の痛みが強すぎて、下半身の感覚が無くなり始めていた。
「愛だと… 愛だと…!」
 三田は混乱して叫んだ。
「そんなものがどこにある!? 俺はそんなものは知らない。お前たちだって知らないはずだ! 親の顔も覚えていない似た物同士だ! いったい誰がそんなものを持っている!?」
「けど、あなたが私たちにくれたのは、まぎれも無く愛よ!」
 叫んだ。意識が朦朧としてきた。酸欠と痛みが、確実に清香の意識を侵食していた。
「まぎれも無く愛なのよ… 旦那さま、信じてください… 私たちの愛は、あなたがくれたものなんです。あなたには愛があるんです。私たちは、それに応えているだけなんです…」
 その時、清香の身体がグラッと揺れた。
(だ、駄目だ! 気絶しちゃ駄目だ! 気絶したら、私の愛が嘘になっちゃう…)
 清香は鬼気迫る表情で三田を見た。
「お願いします… 私たちの愛を信じて… 自分の愛を信じて… 愛しています… 旦那さま…」
 それきり、清香は口を閉じた。しかし、その瞳だけは炯々とした光を宿らせ、三田を凝視していた。
(なんて… なんて女だ…)
 圧倒され、気圧されて、三田は心の中でそう呟いた。
(信じていいのか? 俺は、信じてもいいのか?)
頭の中を、自分を裏切った女たちの顔が浮かんでは消えた。そして最後に、とある老人の顔が思い浮かんだ。
(じいさん、俺は…)
 祖父は厳格で、優しさや愛など感じたことが無かった。しかし、生活の端々で心地よい瞬間は確かにあった。それが、祖父の愛だったとしたら…
 三田はそっと眼を閉じた。開いていたら、涙がこぼれそうだった。
「清香…」
 呟くように問いかけた。
「…はい、旦那さま」
「私は根っからのサディストで、女性をいたぶることでしか悦びを見出せない男だ」
「優しさの裏返しです。優しくしたいから、いたぶるんです」
「私は無口で陰気な男だ」
「旦那さまの言葉には温かみがあります。頼れる何かがあります」
「私は変態だ」
「私たちだって変態です」
 三田の問いに即答する清香に、三田は「ハハッ…」と軽く笑った。
「…負けだよ、私の負けだ。認める、私は寂しかったんだ。じいさんが死んで、愛情に飢えていたんだ」
 三田は、清香の身体を、ぐっ、と抱き上げて三角木馬から開放すると、そのまましっかりと抱き止めてお姫様だっこにした。
「信じるよ… お前たちの愛を…」
 そう言って、優しく清香にキスをした。
 清香は安心したように眼を閉じて一筋の涙を流した後、限界だったのだろう、そのまま眠るように気を失った。


「文… 文… 起きてくれ…」
 まどろみから覚めると、文の耳に一番聞きたくない声が聞こえた。
 それでも無視することが出来ず、文は布団の隙間からそっと顔を出した。
 ベッドの脇では、旦那さまが姉をだっこしていた。姉は、死んだように動かなかった。
「お、お姉ちゃん!?」
「清香を寝かせる。すまんが、どいてくれ」
 慌ててベッドを空けると、三田がゆっくりと清香をベッドに寝かせた。すでに縄は解かれて、清香は全裸になっていた。
 文は恐る恐る姉を覗き込んだが、ある一点を見ると、小さく「ひぃ!」と悲鳴を上げた。
「お、お、おねえ、お姉ちゃんのおまたが…」
「ああ、少し裂けている。すまん、私のせいだ。責任を持って治す」
 三田は消毒用アルコールと脱脂綿を取り出すと、清香のこびり付いた血を落とし、傷口をしっかり消毒した。
 軟膏も取り出し、丹念に傷口に塗りこむと、毎度おなじみのカットバンで傷口を覆った。
「とりあえずはこれで良い。起きたら抗生物質を飲ませるから、破傷風にはならんはずだ」
「ご、ごめんなさい!」
 文は突然土下座したかと思うと、額を擦り付けて三田に謝った。
「わ、私が変なこと言うから… 旦那さま、怒らないでください… 罰は私が受けますから、お姉ちゃんをいじめないでください…」
 三田はあっけに取られてそれを見ていたが、慌てて膝を付くと文の身体を抱え起こした。
「違う、文、そうじゃない。謝るのは私のほうだ。お前の好意を踏みにじるような真似をしてすまない」
 突然の三田の謝罪に、文は眼をぱちくりさせて、「え? え?」と混乱した。
「清香の怪我は私のせいだ。お前のせいじゃない。それと、私もお前のことが大好きだ。忘れないでいてくれ」
 文は、突然の三田の告白に戸惑っていたが、次第にその言葉の意味を理解すると、ぼろぼろと泣き始めた。
「うっ、うっ、うえぇぇぇぇん!!」
 感極まって号泣すると、三田の胸に飛び込んできた。三田はしっかりと受け止めると、優しく文の頭を撫ぜた。
「ばかぁ、ばかぁ… 旦那さまのばかぁ…」
「ああ、私が馬鹿だった。大馬鹿者だ…」
 泣きじゃくる文は暖かかった。自分は、どうしてこの暖かさを無視していたのだろうと、三田は激しく後悔した。

 しばらく、文は三田の胸で泣き続けていたが、次第に泣き止むと上目使いに三田を見上げた。
「旦那さま、私を愛してくれるんですか?」
「ああ、そうだ。昨日のは…嘘だ」
 三田がそう言うと、文はベッドで眠る清香をチラリと見て、「じゃあ…」と言った。
「じゃあ、私を抱いてください。おまんこに旦那さまの精液が欲しいです」
「文… もう無理してそんなことを言わなくていいんだぞ」
「違います! 欲しいんです! 私は、いつもお姉ちゃんが羨ましかったんです。恥ずかしいけど、お尻もお口も、好きです… けど、おまんこにも欲しいんです。お願いします、旦那さま」
 そう言って、文は両手を祈るように顔の前で組んで、うるうるした瞳で三田を見つめた。その愛らしさに、三田はくらくらした。
「わかった… 清香を起こさないように、静かにな…」
 三田は文を優しく床に押し倒すと、そっと口付けした。文が幸せそうに眼を閉じると、手早く文の服を脱がして全裸にした。
「ドキドキしてます… すごく…」
「私もだよ…」
 三田は文のおっきいおっぱいを口に含むと、乳首をころころと転がすように舐め始めた。一方の胸は、指が沈みこむまで握り、まさぐるように指を動かした。
「あぁん! おっぱいそんなに弄ったら駄目ですぅ…」
「気持ち良いか?」
 三田の言葉に、文は恥ずかしそうにこっくりと頷いた。
「おっきいおっぱいは好きですかぁ?」
「ああ、好きだよ」
「えへへ、よかったぁ」
 文は嬉しそうに笑うと、身体を下げて三田のズボンを降ろした。
「わ、大きい…」
 外気にさらした三田のペニスは、今までの中でもかなり大きかった。
「お口でご奉仕しますね」
「無理しなくていいんだぞ」
「ふぁいふょうふ…(大丈夫…)」
 文は大きく口を開けて、あっさりと三田のペニスを飲み込んだ。強烈なオスの匂いが、文の鼻腔に流れ込む。その匂いは、文の思考を蕩けさせた。
「ぢゅば、ぢゅば、ぢゅば… ぢゅぅぅぅぅぅ…」
「…気持ち良いぞ、文」
 褒めるように、三田は文の頭を撫ぜた。咥えさせたまま体位を入れ替えると、手を伸ばして胸とクリトリスを弄り始めた。
「んぉ〜〜〜…」
 気持ちよさそうに文が呻いた。文の股間は、すでにぐっちょりと濡れていた。
「んぐぅ… ぷはっ! ふぅ、旦那さま、もう、私…」
 文が、我慢できないと言った風に訴えた。三田は頷くと、文の身体に割って入るように押し倒した。
「ゆっくり入れるぞ、痛いなら痛いと言えよ」
 そう宣言して、正常位の体勢でゆっくり文のヴァギナに挿入した。
「うぅん… ああ…」
 普段なら途中で「痛い!」と悲鳴を上げる文だったが、今日はそんなそぶりも見せず、とうとう根元まで三田のペニスを咥え込んだ。

「入ったぞ、文。痛くないか?」
「はい… 痛くないです…」
 答えてから、文は愛おしそうに自分の下腹部を撫ぜた。ここに旦那さまのおちんちんが… そう思うだけで、イキそうになった。
「旦那さまは、気持ち良いですか?」
「ああ、最高だ。文の膣内は狭くて暖かくて、とにかく気持ち良いぞ…」
 それは本心からの言葉だった。今日の文からは、何か今までとは違う『暖かさ』を感じられた。
「動くぞ…」
 優しく言って、三田はゆっくりと腰を使い出した。
 時間をかけてカリ首まで引き、また時間をかけて根元まで押し込む。いつもだったらしない腰使いだったが、今日はやけにそれが気持ちよかった。
「はぁ… 旦那さま、おかしい… 文、おかしいの…」
「ど、どうした?」
 三田が慌てて動きを止めると、文は「ここ、ここ」と下腹部をさすりながら言った。
「ここがすごくじんじんしてるの… おまんこの奥が、すごく切ないの… 旦那さまの精液が、欲しくて欲しくてたまらないの…」
 その言葉に、三田は思わずぐっときて、文の奥を力強く突いた。
「あぁん!」
「奥で出すぞ… しっかりと感じろ…!」
 そう言って、三田は我慢していた精を解き放った。熱い奔流が子宮に当たるのを感じて、文は絶頂に達した。
「ふぁぁぁ! 奥にぃ、奥に出てる… あはぁ、暖かい…」
 文は幸せそうに呟くと、腕を伸ばしてキスをせがんだ。三田はそれに応えてキスをしてやると、ペニスを抜こうとした。
「…ん?」
「やぁん、もっとぉ… もっとちょうだい…」
 一回では満足しなかったのか、文が三田の腰に足を回して、逃がすまいと捕らえた。三田は苦笑すると、萎える気配のないペニスを浅く動かした。
「わかった。何度でも注いでやる。文が満足するまでな…」
「きて、くださいぃ…」
 三田は覚悟を決めると、小刻みに腰を動かし始めた。文は嬌声を上げてそれを迎えた。
 …結局、4回文の中に出すと、文はとうとう失神した。完全にばてた三田がペニスを抜き取ると、文のヴァギナからぼこぼこと精液が大量に逆流した。
(こんなに出したのか…) 
 しばらく呆然としていたが、ふと我に返ると、タオルを持ってきて文の身体をきれいに拭いてやり、散らばった服を着せると、客間から布団を持ってきてベッドの隣に敷いた。
 布団に文をそっと寝かせると、三田は腰を上げて部屋を出ようとした。そのとき、
「旦那さま…」
 ベッドから声が掛かった。振り返ってみると、清香が眼を開けてこちらを見ていた。
「起きていたか…」
「そりゃ、隣であれだけあんあん言っていれば、嫌でも起きますよ」
 清香は苦笑しながら答えた。三田も「そりゃそうか…」と笑った。
「文を抱いてくれて、ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちのほうだよ。初めてかもしれない、愛を感じたセックスは…」
 そう言うと、三田はすまなそうな顔をした。
「すまん、一番きつい思いをしたのはお前なのにな… しばらく歩けなくて不便だと思うが、我慢してくれ」
「大丈夫ですよ」
 清香はくすりと笑った。
「旦那さまが看病してくれるんでしょう?」
 三田は、あっけに取られたような顔をして、それから呆れたように笑った。
「そういえば、そうだったな。ああ、任せておけ。食事からトイレの世話まで、全部面倒を見てやる」
 そう言うと、三田は清香に近づいて優しくキスをした。
「だから、今は休め。流石に私もくたくただ。まずは寝てから、それからだ」
 三田の言葉に、清香は「はい」と答えて眼を閉じた。
 三田が部屋を出ようとすると、またも「旦那さま」と清香が声をかけた。
「どうした?」
「あの…」
 清香は恥ずかしそうに顔を半分布団に埋めて言った。
「これからも、私たちを可愛がって、いじめてくださいね」
 その言葉に、三田は泣き笑うような表情になると、ついで照れくさそうに笑って言った。
「まかせておけ…」

 それから、少し月日が経った。
 世間はいよいよ年の瀬の装いを強めていき、今日は聖誕祭、クリスマスだった。
 清香の身体も順調に回復し、まだセックスは無理そうだったが、日常生活には支障がない程度には回復していた。
 姉妹の調理した七面鳥を、こたつでおいしそうに食べると、頃合を見て三田は姉妹にプレゼントを渡した。
「ほ、ほんとに貰って良いんですか?」
「わぁ、わぁ、プレゼントだー!」
 はしゃぐ姉妹が包みを開けると、清香の箱にはシックな腕時計が、文の箱にはカラフルなカチューシャが入っていた。
「ありがとうございます、大事にします!」
「旦那さまありがとう!」
 はしゃぐ姉妹を微笑ましく見ながら、三田は数枚の書類をテーブルに置いた。
「あと、これもだ。ただ、これはプレゼントじゃない。お前たちが自分で決めることだ」
 その書類の題字『未成年後見人 受諾書』を読んで、文は首を傾げた。
「みせいねん… うしろみる…」
「未成年後見人よ、文ちゃん。あの、旦那さま、これは…?」
 清香が怪訝な顔をして尋ねた。字面からある程度のことは予想できたが、まさかそうだとは思わなかった。
「この書類にサインすれば、私はお前たちの後見人、つまりは保護者になる。そうすれば、法的にお前たちを守ってやることが出来る。あと、色々と特殊な手配もしたから、監督官が来たり、お前たちの素性が調べられることもない。
 お前たちがもし良かったらだが、私にお前たちの保護… っておい!」
 三田が思わず言葉の途中で突っ込んだ。見ると、清香がさっさとペンを用意して記入欄に自分の名前を書き込み、文にも「文ちゃん、ここに名前を書くの… そうそう、それでOK」と書かせてあっさり書類を完成させると、「はい、旦那さま」と書類を三田に返した。
「お前… もう少し考えたらどうなんだ?」
「考える余地、あるんですか?」
 そう言うと、清香はごそごそと三田の隣に移動して、やおら三田に抱きついた。
「あ、文もー!」
 文も叫んで立ち上がると、三田に背後から抱きついた。
「お、おい…」
「嬉しいに決まってるじゃないですか!」
 清香は、涙を流して叫んだ。
「お金とか、色々大変だったんでしょう…?」
「まあ、そうだな。クリスマスに間に合わせたかったから、色々と無茶もした」
 清香は、三田をぎゅーっと抱きしめた。文も、よくわからなかったが、ぎゅーっと抱きしめた。
「旦那さま、大好き、愛してます…」
「私も、私も大好きですっ!」
 2人がかりでぎゅーっと抱きしめられて、三田は自分の頭がのぼせ上がるのを感じた。
(たまらんな、これは…)
 甘い匂いと温かみは、幸せな空気となって3人を包んだ。










                                                        ―第三話 完―

    <第一部完結>

   幸福姉妹物語<第4話>




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