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 この国の空気は淀んでいる、とハーレイトは常々思っていた。

 例えば、領主やその家臣が贅を尽くした生活を送る一方で、民衆、特に農民は税を納めるので精一杯という貧しい生活を送っていたり。
 例えば、名家と呼ばれる家の出の者は、家や己のプライドに固執するばかりで薄っぺらい華麗さを追い求めていたり。
 例えば、主に使える付き人は、上っ面は忠義を誓いつつも、隙あらば寝首を掻いてやろうと目を光らせていたり。

 例えば、

「…領主様。ハーレイト、参りました」
「おお、来たか! 此度の働きも見事であったぞ。そなたの治療の甲斐あって倅も大分よくなったようだ。礼を言う」
「光栄の至りでございます」
「そなたにはこれまでも助けられてきた。そこで、特別に褒美を用意したのだ。ほれ、持って来い」
「はっ!」

 ――奴隷商から買ったのであろう女性を、平然と"褒美"としたり。

「……領主様、この方は」
「うむ。珍しい女であろう? 黒髪に緑眼はこの地方では見られぬ」
「…左様でございますね」

 そんなことは聞いていない、とウンザリする内心を隠し、ハーレイトは頭を下げた。

「それなりに見られるので倅にと思っていたのだがな。あいつめ、二十歳を過ぎたものには食指が動かんと言うのだ。
 見た通り黙りこくったままで何を考えているか分からぬが…そなた、女扱いには長けているだろう?
 働き手としてでも自らを宥める道具としてでも、そなたであれば上手く扱えると思ったのだ」
「私のようなものにそのようなご配慮を…ありがとう存じます」
「なに、これまでの働きを思えば当然のこと。…女、行け」

 領主の言葉を受け、女性はよろけながらも歩み寄ってきた。両足首に付けられた鎖がじゃらじゃらと鈍い音をたてる。
 膝をついたまま頭を垂れていたハーレイトは、斜め後ろに膝をついた女性が革袋を抱えていることに気がついた。
 疑問に思って視線を上げると、領主は物言いたげにこちらを見つめている。

 ……金貨の代わりに使えない奴隷を押し付けてやれ、ということか。

 怒りのあまり牙をむきそうになる自身を必死で押し止め、女性から革袋を受け取り領主へと差し出す。

「…領主様。貴方様の持ち物を頂戴できるだけでも、私にとっては身に余る誉でございます。どうか…」
「なにを申すか」
「折角のお心遣いを申し訳ありませんが…これ以上のご配慮を頂戴しては、末代までの恥でございます。
 この者だけでご容赦いただきますよう、料簡してくださいませ」

 言って頭を下げると瞬く間に革袋が取り上げられた。上機嫌な声がかけられる。

「ほっほ…まったく、そなたは無欲だな。亜人が皆そなたのように弁えている者ばかりなら良いのだが」
「光栄で御座います」
「うむ。此度はよくやった。今後もよろしく頼むぞ」
「ははっ!」

 もう一度だけ深く頭を下げ、視線は合わさぬよう立ちあがった。女性に目で合図して静かに部屋を出る。

 門番に挨拶をして城の外に出ると、太陽が空の頂点まで動いていた。
 眩しい太陽の光に、ずっと緊張しっぱなしだった体の力が抜け、次いで耳と尻尾もぶるぶると震える。


「…っあー、疲れた!」

 大きな声を上げると、隣の女性がびくりと震える。不安と恐怖がないまぜになった瞳がこちらを見つめた。
 そんなに怖いだろうか狐のお医者さんと小さい子からも人気なんだけど、
 と僅かばかりショックを受けるハーレイトだが、死んだような虚ろな目よりは大分マシかと思い直す。

「えーと、あなたもお疲れ様です。私の名はハーレイト。見ての通り亜人で、医者として働いています」
「わ、私は、イリスと申します。…ハーレイト、様」
「長いからレイでいいですよ。様もいりません」
「で、ですが…」

 尚も言い募ろうとするイリスを手で制し、もう片方の手で手を掴む。
 説明しなければならないことも聞きたいことも沢山あるが、ひとまずはこの人の生活用品を買わねばなるまい。

「とりあえずお昼ごはんを食べて、あなたの小物を買って、それから家に行きましょう。
 腹立たしいのを我慢していたらお腹空きました」
「えっ…?」
「あれ、お腹空いてませんか?」
「……空いています」

 弱々しい肯定に自然と頬が綻ぶ。

 十数回も怪我や病気を治したことの褒美が女性一人、という発想には色々な意味で呆れてしまったが、人の尊厳を守れたと考えれば納得できないこともない。
 …いや、人の尊厳とは本来金で買えるようなものでもないのだけれども。

 とにかく今はイリスさんの治療が最優先、と心の中で頷いて、尚も困ったような彼女の手を引いた。


「レイ、ご飯できましたよ」
「…ありがとう…すぐ…行きます…。……ん、これって」
「…文献を読むのは結構ですが、程々にしてくださいね。ご飯が冷めてしまいます」
「……うん」
「…はぁ。今日のお昼は、あなたの好きな、ジャガイモとベーコンのチーズ焼きですよ?」
「すぐ行きます!」

 尻尾をぶんぶん振って立ちあがったハーレイトに、イリスは思いきり苦笑した。にこにこと朗らかに笑うハーレイトと共に食卓につく。

「うわぁ、おいしそうだ! いただきます!」
「はい、どうぞ」

 挨拶もそこそこにフォークを掴む子どものような姿に、自然と頬が緩む。相変わらず可愛らしい人だ。


 イリスがハーレイトと出会ってから、一年の月日が流れていた。
 最初のうちこそ、どのような扱いをされるのか分からない不安や恐怖で警戒していたイリスだが、

『ここがイリスさんの部屋です。ここにある以外にも必要な物があれば、遠慮なく言ってください。
 貴女には、そうだな…家のことをやってもらえますか? あまり多くは無理ですが、お給金も払いますので。
 ……どうしたんです? 鳩が豆鉄砲食らったような顔して』

『お大事にどうぞー。…ああ、イリスさん。どうしました? ……え、仕事終わった? ほ、本当ですか?
  困ったな…えーと…じゃあ、今日はもう休んじゃってください。折角ですから遊びに行ってはどうですか?
 ……っと、はいはい、すぐ行きますよ! …すみません、患者さんです。行ってきますね』

『…うん、おいしい。とてもおいしいです。貴女が来てから、ご飯もおいしいし、家もきれいで…本当にありがとうございます。
 イリスさんは良いお嫁さんになるでしょうね。…どうしました? 顔が赤いですよ?』

『…こんな夜分にどうしました? 眠れませんか? ……はい、夜の仕事ですか? 夜は、急患がない限り仕事はありませんよ。今日もお疲れさまでした。
 ……え、そうじゃない? 夜伽? あ、なるほど。分かりました。では、こちらにいらしてください。そうですね、ベッドに入ってもらって。
 ……さあ、どの本が読みたいですか?』

『ああ、いらっしゃい。また別の本を読みましょうか。…え、夜伽の意味がちがう? ……ああ、そちらの意味でしたか。気付かずにすみませんでした。
 …ええとですね…イリスさんは魅力的な女性だと思いますが、そちらの務めは必要ありません。権力を使って人を手篭めにしたくありませんし…
 こういうことは、好きな人とだけしたほうがいい…と、私は思いますので』

『…あ、目が覚めましたか。気分はいかがです? って、まだ起きちゃダメですよ。倒れたんですから。
 ……いえ、変な病気ではありません。ただの疲労です。ゆっくり寝て、休んでください。
 …あはは、そんな不安そうな顔しないで。大丈夫、患者さんが来た時以外は、傍にいるから』

 ゆっくりじっくりのんびりとほだされてしまった。
 なんだこの尻軽女、と思う人もいるかもしれないが、少しだけ考えてみてほしい。

 仕えていた主の借金を返すために我が身を売られ、途中まで一緒だった知り合いとも離れ離れにされて、
 まったく知らない土地の領主に売られたと思ったら使えない奴隷だとお払い箱。
 そんな自分に、住む場所と仕事を与え、対等な立場で関わり、こちらの意思や感情もきちんと尊重してくれるのである。
 これでほだされるな、もとい惚れるなと言うならば、一体どんな人物に惚れろというのか。


「……イリス? 私の顔、なにかついてますか?」

 美味い美味いと食べていたハーレイトは、彼を微笑んだまま見つめているイリスを不審に思ったのか、きょとんとして首を傾げた。
 口元についているポテトが可愛らしい。

「…口元、付いてますよ。ちょっとじっとしててください」
「うわ、ごめん」
「……よし。取れました」
「あはは…ありがとうございます」

 照れ笑いするハーレイトに笑顔を返し、自分のものに手をつける。うん、上出来。

「そういえば、今日は、村の寄り合いに呼ばれているんですよね?」
「そうなんですよ。…今までこんなことなかったんですけど…」
「心当たりはないんですか?」
「全く何も。…まぁ、お天道様に後ろ暗いことはしてないし、とりあえず行ってみます」
「…気をつけてくださいね。最近は、なにかと物騒ですから」
「分かってます」

 食事を終え、寄り合いに出かけたハーレイトを見送ったイリスは途端に暇になった。
 家事云々は午前中に終えてしまったし、彼が不在だということは近隣の人々も知っているので患者が来る可能性も低い。
 出かけると言う選択肢も無くはない。だが、家を無人にするわけにはいかないし、ここのところ領主に対する不満の暴動等で物騒だ。

 大人しく本でも読もうかな、とハーレイトの部屋に向かったイリスは、ふと思いついて彼のベッドに横になってみた。
 ふかふかした枕に顔を埋めると、なんともくすぐったい気分になってくる。

 イリスがこうしてハーレイトのベッドに包まるのは珍しいことではない。
 一番最初は、何か力になれることはと思い悩んで突撃した結果、幼子のように絵本を読み聞かせられた時であるが、
 それ以降も機会があればこうして彼の匂いに包まれることはよくあった。なんというか、安心するのだ。
 イリスよりも嗅覚が鋭いハーレイトのことだ。この行為に気付いていないはずはないが、今まで注意を受けたことも無い。
 イリスに甘い彼のことである。きっと、甘えたいんだろうなぁとでも思って黙認しているのだろう。
 自分よりも年下の家主の優しさに、イリスは、いつも甘えてばかりいる。

 奴隷として売られた自分がこんなに幸せでいいのか。

 そう思ってしまうくらい、この穏やかで優しい生活に、イリスは幸せを感じていた。
 同時に、共に売られた妹分二人のことが脳裏によぎる。亜人の需要がより高いからと言う理由で、海を渡る時に引き離された二人のことを。

 ――海を渡った先で、私は幸せになることができた。二人も、どうか…優しくしてくれる人と、巡り合えますように。

 とんでもなく叶え難い祈りだと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。


 イリスは玄関の鍵が開けられる音で目を覚ました。ついうとうとしていたらしい。
 しまった、と慌てて起き上がるのと、ハーレイトが彼らしくない乱雑な動きで部屋に入ってくるのは同時だった。

「レイ、お帰りなさい! すみません、その、本でも読もうかと思って…っ!?」

 慌てて言い訳をするも、言い終わる前に力強い腕に抱きすくめられる。初めての行為に心臓が飛び跳ねた。

「れ、レイっ?! あのっ、ど、どうしたんですか!?」
「…………っ!」

 イリスの問いかけにも答えない。本当にどうしたのかと困り果てた彼女は、ふと、ハーレイトの体が小刻みに震えていることに気がついた。

「……レイ? 寄り合いで、なにかあったんですか?」

 なるべく落ち着いた声で尋ねると、ハーレイトは小さくうめき声を上げた。金色の髪を梳くように頭を撫でたら甘えるようにすり寄ってくる。

「…………革命が」
「…革命…?」
「……革命が、起こります。明後日の、建国記念日に合わせて」

 呻くように吐き出された言葉にイリスは目を見張った。

「…レイ、それは…。……血が流れる、ということですか」

 掠れたで尋ねると腕の力が一層強くなる。無言の肯定に背筋が震えた。

「……あなたも、参加するの……?」

 思わず零れた言葉に慌てて口を押さえた。患者思いのこの人が、ケガ人を放っておくわけがない。
 しかし、以外にも、ハーレイトは首を振る。

「……いや。私は、革命には、参加しません」
「じゃ、じゃあ…どうするんですか…?」
「……逃げます。この国の外に。別の国に」

 泣きそうな表情で言いきった彼を見て、イリスはおおよその事態が呑み込めた。


 ハーレイトとその両親は、この地域の人々にとって恩人だった。
 重税に苦しむ貧しい人々は、怪我や病気をしたとしても治療費が払えない。
 そのせいで病院の世話になることができず、取り返しのつかない事態になってしまった人も多くいる。
 そんな中、たまたまこの国に移住してきた彼の家族は、自分たちの莫大な貯蓄を切り崩し、ほとんど無償同然で人々への治療を行った。
 曰く「お金は困ってる人のために使うのが一番!」というのが家訓だとのこと。

 寝る間を惜しんで働いた彼の両親が流行り病に倒れた後も、ハーレイトは一人でこの地域の人々を診ていたらしい。
 おかげでこの地域での死亡者の人数は格段に減ったのだ、とこの話をした老女は俯いて言った。

「…"俺たちは親御さんの命を、お前の心を貰って生き延びた。これ以上、命も、心も、貰うわけにはいかない"と言われました」
「…レイ…」
「……情けないことに、何も言えませんでした。私も共に戦うと、言えなかった」

 まるで懺悔のように言葉を続ける。少しでも体温を伝えたくて腕に力を込めると、それ以上の力で抱きしめられた。

「イリス、私は…死にたくない。貴女のことを、失いたくない。…ずっと、一緒に、生きていたい…!」

 血を吐くように言葉を絞り出したハーレイトを抱きしめる。息を大きく吸って、少しだけ体を引き離した。
 様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っている瞳を見つめ、できるだけ優しく微笑む。

「大丈夫ですよ、レイ。私が一緒にいます。絶対離れたりしません。あなた一人を置いて行きはしませんから…
 だから、全部、分けてください。喜びも、悲しみも、痛みも。私にも分けて、一緒に背負わせてください」
「…イリス…」
「どんなものでも、ちゃんと受け止めますから。レイの全部を私にください」

 泣き出しそうな顔になった愛しい人に口付けると、挑みかかるように押し倒された。


「ふぁっ…ぁ、っ…レイぃ…」

 互いの唇を貪るような口付けを交わす。キスの合間に名前を呼んだら思った以上に甘ったるい声で恥ずかしくなった。
 だが、それを意識するよりも早く口付けられ、冷静な思考はハーレイトの熱に押し流される。
 舌唇を食まれたと思ったら上あごをくすぐられ、反射的に縮こまった舌を解すように吸われる。
 たまらず背中を掻き抱くと満足げに唇が離れた。二人の間を銀の糸がつたう。

「…イリス」

 興奮を隠そうともしない低い声で名を呼ばれ、思わず体中が熱を持つ。腹の奥深くがきゅうと疼いて恥ずかしくなった。

「ぁ…レイ、あの、ひぁっ…」

 口をもごもごさせていると首筋を舐められた。熱くぬめりのある感触に肌が粟立つ。
 舌でぺろぺろと舐めながらも、彼の右手はシャツの胸元に侵入してきて胸元を柔らかく撫でた。優しい触れかたに背中がぞくりと震える。

「っ、あ…ふぁ…」

 もう片方の手は服の上から確認するように乳房をなぞる。間接的な感覚がじれったくて、イリスは無意識のうちに肩を震わせた。
 ハーレイトが楽しそうに口元を緩ませる。

「気持ちいいですか、イリス?」
「なっ…き、聞かないで、っ…ください…そんなこと…ひゃんっ!」

 指先で胸の頂を擦られ反応してしまう。
 いつの間にやらブラウスの前は肌蹴させられていて、さほど大きくも無い己の胸が灯りの下に晒されていた。
 恥ずかしくて目を閉じると不満げに口付けられる。

「イリス、ちゃんと目を開けてください」
「だ、だって…恥ずかしい、ですよ…」
「何故? こんなにきれいなのに」
「れ、レイ…」

 真顔で言ってくるから性質が悪い。
 背に腹は代えられないと恐る恐る目を開くと、優しい笑顔が飛び込んできた。柔らかい表情に腹の奥が切なく疼く。
 真っ赤になったイリスの額に口付けて、ハーレイトは乳首を口に含む。指とは違った刺激に背筋が弓なりになった。

「んぁっ! あ、や…レイっ…なめちゃ、やぁ…」
「む…きもひくにゃい、でひゅか?」
「ふぁんっ! しゃ、しゃべっちゃダメです…!」

 たまらないと頭を抱えると、耳に触れた指が気持ち良かったのかより甘えるようにしゃぶってくる。
 舌で乳首をこねまわし、乳房を甘がみするハーレイトは一見赤子のようだが、それにしては快楽を与えようとする動きが強すぎる。
 反対側の胸も優しく愛撫され、腰辺りから湧きあがってくる未知の感覚にイリスは切羽詰まった悲鳴を上げた。

「やぁあっ! レイ、待って…待ってくださいっ! わた、やっ、わたし、おかしくなっ、ぁんっ!」
「いいですね、もっとおかしくなってください」
「ひあぁっ!?」

 優しい笑みと共に股の間に膝を押し込まれる。電気のような鋭い快感が背筋を走り抜け、視界に火花が散ったような錯覚を覚えた。
 数秒息を詰め、次いでくたりと力を抜いたイリスを見て、ハーレイトは尻尾を揺らす。


「軽くいっちゃいましたか。よかった」
「ん…レイ…」
「ここにいますよ。…服、全部脱いじゃいましょうね」

 反論する暇も無く衣服を取り払われる。反射的に手で隠そうとするも、優しい笑顔のまま両手をベッドに縫いつけられた。

「隠さないでください。全部見たいので」
「や…恥ずかしい…」
「その表情もすてきです。…もっと見せて」

 耳元で囁かれて嫌が応にも力が抜ける。右手で触れられたそこは、ハーレイトを待ちわびるかのように熱く潤っていた。瞳の奥の光が一層鋭くなる。

「すごい。ここ、こんなに熱くなってますよ」
「はぅっ…や…言わな、で…」
「身体も顔も、真っ赤ですね。…でも、嫌なわけではなさそうだ」
「やっ、ひゃあんっ! や、レイっ…ぅあ…ぁ…」
「こんなにぐちゃぐちゃにしちゃって。私の指が溶けそうですよ」
「…ぁっ…やぁ…」

 するりと差し込まれた中指を歓迎するかのように膣壁が絡みつく。
 異物感はあるものの、それが目の前で微笑む相手の指だと思うだけで愛おしさが込み上げてくる。
 膣壁がきゅうきゅうとしまるので、指の形をはっきりと捉えられてイリスは泣きそうな心地になった。
 恥ずかしいのに、訳が分からないくらい胸が熱い。

「入れる前に、解しておかないといけませんからね。動かしますよ」
「えっ…あっ!? ふゎ、あっ…や…レイっ…!」
「…辛くない、ですか…?」
「はっ…だいじょ、ぶ…ぁんっ!」
「それはよかった」
「あぁぁああっ!?」

 言葉と共に二本目も突き入れられ、イリスは再び身体を強張らせる。
 彼女が息を整えるのを待っていたハーレイトは、ある程度落ち着いたと見るや、二本の指先で腹側のざらざらした壁を擦りあげる。

「んぁあっ!? レイ、まっ…ちょっとまっ、やぁん!」
「ここ、気持ちいいんですね。…こんなのはどうです?」
「ひぁああっ!?」

 愛液をたっぷりつけた指で最も敏感な箇所を撫でられて、思わず腰が持ちあがる。愛液を擦りつけるような愛撫に彼女の目の奥で火花が散った。
 内と外の弱点を同時に責められて、呆気なく再三の絶頂を迎える。

 肩で息をする彼女を労るように数回口付けて、ハーレイトも身に着けていたものを脱ぎ捨てる。
 しっかりと引き締まった体躯や、雄々しく猛る彼自身を目にしたイリスは興奮と緊張で身を震わせるが、
 嬉しそうにぱたぱたと振られている尻尾が目に入って思わず吹き出してしまった。本当に、なんて、可愛らしい。

 不思議そうな表情になったハーレイトに口付けて、腕や足を使って精一杯ねだってみる。
 獰猛な光を目に宿しつつも優しく微笑んで、ゆっくりとイリスの中に入ってきた。
 指以上の質量に息が詰まるも、散々なぶられた甲斐あってか痛みはほとんどない。
 イリスを気遣うハーレイトに微笑んでやると、嬉しそうに頬を緩ませて柔らかく腰をゆする。
 硬く張り詰めた剛直が肉壁を抉り、蕩けるような悲鳴を上げぎゅうと眉を寄せてしがみつくと、膣内が暖かい精液で満たされた。


 言い様のない幸福感に頬を緩めていたイリスだが、ここで、彼女が予想していなかった事態が起こる。
 膣内の一物は衰えるどころか更に硬さを増し、同時に、根元辺りが膨らんでいくのだ。
 一瞬何が起こったか掴みかねるものの、ぱたぱたと嬉しそうに揺られっぱなしの尻尾や、
 快感に耐えようと伏せられているふさふさの耳が視界に入り、あることを思いつく。

「んっ…ふ…あの…レイ…?」
「……ん?」
「もしか、して…ぁっ…その…まだ、達してません、か…?」

 イヌ科の動物の交尾は長い。
 一度目の射精は人で言う先走り液と同義で、二度目の射精に精子が含まれており、三度目の断続的な射精で精子に活力を与える。

 いつだったか読んだ文献の内容が脳裏に走り、若干表情を引きつらせたイリスに、

「ああ、うん。…もう動いて平気ですか?」

 あっさりとした肯定が返ってきた。
 と言うか、発言から鑑みると、彼はイリスを気遣っていただけらしい。
 平静を装っているものの、明るい茶色の瞳はギラギラと輝いており、ああレイもケダモノなんだなぁと意識が飛びそうになる。

「あの…動く前に、教えて欲しい、んぅっ…ですけど…」
「できれば、手短に」
「……一度いく、までに…どれくらい…っ…かかります、か?」
「純粋な犬たちよりは短いですよ。精々15分くらいです」

 私死んじゃう。

 ほとんど本能的にそう覚るも、先ほどからずーっと辛抱強く待てをしているハーレイトを見ると、拒否するのも気が引ける。
 ええいもうなるようになれ女は度胸! と心中で覚悟を決め深呼吸をひとつ。むせかえりそうな程濃い互いの匂いに頭がくらくらする。

「……やさしく、してください」
「ごめん。もう無理」

 子宮口に食い込んだのではと錯覚するほど深く突き上げられて、イリスは果てのない快楽の波に呑み込まれた。


 翌日の昼。

 主にハーレイトによってまとめられた、最低限の持ち物と路銀を持った二人は、
 少し小高い山の山頂から既に大分小さくなった城壁を見つめていた。

 あと一度日が落ちて登れば、場内は混乱と喧騒と血で満たされるだろう。
 せめて物資だけは、とできる限りの食料衣服医療品とその説明書きを押し付けてきたが、そんなものがどれくらい役に立つかは分からない。

 外部の協力者達が未成年の子らを引き受けてくれていたのがせめてもの救いだろうか。
 最後に来た報告書によると、皆、衣食住は保障され、きちんとした教育を受ける機会も得られているらしい。
 それがこの先も続くことを祈り、二人は城壁に背を向ける。

 遠くを見ようと目を細めると、山続きの地平線の向こうに深い青が連なっていた。地図で確認したとおり、海は近いらしい。

「…まずは、海を越える所からですね」
「うん。…海の向こうに、流れものでも永住できる国があるらしいですから、そこを目指そう」
「私も噂で聞いたことがあります。確か…ヨトキって都市から、更に北上した所…だとか」
「ずいぶんと具体的ですね? まぁ、目的地がはっきりしてるのに越したことはないか」
「そうですよ」

 穏やかな笑顔を交わし、降ろしていた荷物を背負う。
 振り返らずに並んで歩きだした二人の背を爽やかな追い風が優しく撫でていった。




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