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 商業都市ヨトキ。世界中に数多く存在する大都市の一つだ。
 数多の都市の中間地点に位置するという地の利を活かし、多くの行商人や旅人で賑わう商業の中心地である。
 そんな大都市のとある路地裏で、

「…ねぇアキラ。ここはどこだい?」
「……俺に聞かないでくれ……」

 二十歳前後の青年二人が迷子になっていた。

 アキラと呼ばれた青年は、黒に近い青色の短い髪に緑がかった青い瞳を持つのに対し、呼びかけた方の青年は、深紅の髪を一つに結いあげ朱色の瞳を持つ。
 対照的な容姿だが、二人とも、綿で作られた衣服を身につけ、その上から革製の上着を着こみ、更にその上から旅人が好む丈の長いマントを羽織っている。おまけに帯剣。
この都市の人間ではないようだ。

「建物ばっかで分かりづらいとは思ってたけど…"この道の突き当たりを右"程度の説明で迷うことになるとは思ってなかったよ」
「まったくだ。…ていうか突き当たりってどこだ…?」
「…僕ら、方向音痴では無い筈だよね?」
「少なくとも森の中で迷ったことはないな」
「……都会って怖い」
「……ああ」

 げんなりした顔で、それでも歩を止めずに進んでいると、いよいよもって訳の分からない道になってきた。
 いい抜け道があると教わり、路地に足を踏み入れた時は明るかった空も、徐々に暗身を帯びてきている。これはまずい。

「…最悪、跳ぶか?」
「この立地なら出来なくはないけど…相当注目を浴びるからね。それは最終手段だよ。もう少し進んでみよう」
「了解」

 そんなやり取りを交わしながら更に進むと、不意に物陰から大きな音が響いてきた。反射的に柄を握るも、空気はびんと張り詰めたまま、それ以上の音は聞こえてこない。
 目で会話を交わし、柄に手をかけたままのアキラが音も無く忍び寄る。後一歩、というところで物陰に躍り出たアキラは、

「……へっ?」

 素っ頓狂な声を上げた。

「ご、ごめん! 驚かせるつもりはなかった!」
「……アキラ? どうしたんだい?」

 突然慌てて両手を挙げたアキラを不審に思い、もう一人の青年も覗き込む。と、怯えと恐怖と警戒と敵意を滲ませながらこちらを見上げる少女が二人。

「あっと…ごめんごめん、驚かせちゃったね」

 年の頃はアキラ達の少し下程だろうか。二人とも方向性は違えど相当に整った顔立ちをしている。
 しかし、頬はこけ目も落ちくぼんでおり、身に着けている服の意味を成していない布切れで隠されていない部分は汚れ、手足は強く握れば折れてしまいそうなほど痩せていた。
 また、二人の首にはその身には不釣り合いな、金属で作られた首輪が嵌められていた。それは、彼女らが奴隷だということを示している。

 初めて見たなぁやっぱり都会って怖い、と妙にとんちんかんな感想を抱く一方で、自分たちが渡した――というかアキラに半ば剥ぎ取られた――マントを唖然と眺める少女
たちの姿に、青年は、彼女たちが奴隷とされた訳を理解した。
 容姿が整っていること以外にも、少女二人には共通点があった。獣の耳と尾が生えているのだ。彼女たちは亜人だった。

 亜人とは、少女たちのように獣の耳と尾を持った人間のことである。百年ほど前、とある科学者が「ケモ耳ケモ尻尾っていいよねっ!」という欲求に従い生み出した。
 寿命、生活習慣、言語、その他身体能力などは人間とほとんど差異はなく――敢えて言うなら発情期くらいか――昔から色々諸々てんやわんやあった甲斐あって、
 現在は世界中どこに行っても人間と共存している。――少数の例外を除いて。

 その外観故、特に女性の亜人を伴侶や愛人として欲する輩はそれなりにいた。加えて、亜人が誕生する以前から奴隷という存在は無くならなかった。
 需要と供給を満たすため、奴隷商人は、それはもう懸命に働いた。
 年々取締りが厳しくなっていっても、その網の目をかいくぐってこの少女たちのような存在を作る程度には。

「…能力のある馬鹿は厄介だよねぇ…」
「イツキ?」
「ああごめん。なんでもないよ」

 ひらひらと手を振ってから、イツキと呼ばれた青年は、さてどうしたものかと腕を組んだ。

 基本的に、奴隷商人が奴隷から目を離すことは無い。彼女たちのような"きれいどころ"ならより厳重に見張られているだろう。
 どこぞの輩の"持ち物"である可能性も否めないが、そうであるならば、こんないかにもな格好は――相当マニアックな趣味で無い限り――させないはずだ。
 なによりも、彼女たちは、非常に怯えている。耳の動きから察するに、イツキたちに対してだけではなく、他の音、例えば追手の足音に。

「君たち、僕の言葉は分かるかな?」

 一つの結論に落ち着いたイツキは、アキラと同じように少女たちの前に膝をついた。
 二人揃ってびくりと震えるも、片方の少女が小さく頷く。

「じゃ、幾つか質問させてくれるかい? 頷くか首を振るだけでいいから」

 肯定。

「君たち、誰かから逃げてるの?」

 少し迷って肯定。

「それは、君たちの主人?」

 否定。

「売り手?」

 肯定。

「逃げた君たちを匿ってくれる当てはあるかい?」

 力の無い否定。

「なるほど。ちなみに、今のままだとすぐに見つかると思うけど、大人しくつかまる気はある?」

 返事無し。

「質問を変えようか。大人しくつかまって、奴隷として生きたい?」
「いやっ!」「ぜったい、いやだっ!」

 同時に叫ばれたしゃがれた声に、イツキの口元は自然と綻んだ。
 それを見て、同じように頬を綻ばせたアキラだったが、遠くの方から怒鳴り声が近付いてくるのを耳で捉える。

「おーい、イツキ。とか何とか言ってる間にお出ましだぞ」
「え、もうかい? 仕事熱心だなぁ」
「まぁまぁ。ついでに大通りまで案内してもらおうよ」
「大人しくしてくれるといいけどね」
「そこはほら、あの手この手で」

 のんびりと言葉を交わすアキラとイツキの傍らで、少女たちは目に見えて青ざめた。反射的に立ち上がろうとする彼女らをイツキが手で制す。

「ちょっと待ってて。僕たちがどうにかするから」
「でも、」
「だいじょーぶさ。悪いようにはしないよ」

 優しく言い聞かせられた言葉に、少女たちは顔を見合わせる。
そうこうしている間に、体格の良い大男三人を引き連れた美しい女性が現れた。

「頭ぁ! いやがりましたぜ!」
「手間かけさせやがって…!」
「観念するんだな! ……って、何だこいつら」

 お約束なセリフを喚いていた男たちは、少女たちとの間に位置するよう立ったイツキたちを見て怪訝そうな顔をする。

「こんにちは、お兄さんたち。少しご相談があるんですけど…お頭さんってどの人ですか?」
「あ゛? なんだてめぇは?」
「名乗る程のものではないです」
「いいからそこどけってんだよ!」
「すみません、そういうわけにもいかなくてですね」
「…邪魔しようってかァ?」

 にたにたと笑みを浮かべる男たちに、アキラは深く息を吐いて一歩下がり、イツキは感情の見えない笑顔を浮かべる。

「邪魔というか、この子たちを買わせてほしいんです」
「……あ゛あ゛!?」

 ドスの効いた威嚇に少女たちは身を震わせた。それを意識の端で捉えつつ、

「この子たちを、買わせてほしいんです。お頭さんはどなたですか?」

 もう一度、はっきりと言い切る。
 全く動じない姿が気に障ったのか、男の中の一人が奇声を挙げて両手を振り上げるが、

「やめなっ!」

 鋭い声に動きを止めた。

 頭ァ、と振り返る男を一睨みで黙らせ、女性はイツキと対峙する。

「あんた、そいつらを買いたいんだって?」
「はい。この子たち、格好からするに奴隷ですよね。お金ならあるので、買わせてもらえませんか?」
「…見たところ、ここの人間じゃないみたいだね。言っとくが、アタシらはこの都市の上流貴族ってヤツを相手にしてんだ。
 一介の旅人風情が貴族よりも金を出せるって?」
「金額を聞いてみないとなんとも言えません。幾らで売り出すつもりなんです?」
「そうさね……5万ユル」 (※この世界の貨幣。1ユル=100円)
「…それはそれは…」
「一人、ね。二人合わせたら10万ユルだ。どうだい、アンタに出せんのかい?」
「うーんと…」

 小馬鹿にしたような笑顔を浮かべていた一同だったが、イツキが懐から取り出したものを見ると顔色を変えた。
 赤、青、黄、緑。袋から取り出したのは、色とりどりの宝石だ。
 どれも、加工こそされていないものの大粒で、全てを換金すれば女性が口にした金額を払ってもお釣りが返ってくる。

「生憎、手持ちは無いんです。これで了承してもらえませんか?」
「…あんた…コレ…いったいどこで…!?」
「えーと…ここから北東にずっと進むと、鉱石がよく取れる都市がありまして」
「…へぇ…」

 冷静な姿を装っているものの、女性をはじめ、相手の意識はイツキの手にする袋に釘付けだ。
 これで了承してくれればいいなー、と暫く待っていると、女性がにんまりとした笑みを浮かべる。

「…失礼な口をきいちまったね。こんだけありゃあ十分だ」
「そうですか。それはよかった」
「ただ、今すぐどうぞって訳にはいかない。そいつら、これから"教育"をするところでね。
 お客さんに怪我があっちゃあ大変だ。今一晩だけ待っとくれよ」

 その言葉を聞いて、少女たちは表情を強張らせ、後ろに控えている男たちは下卑た笑顔になる。
 うわぁ趣味悪ぃ前借りってヤツか、と眉根を寄せたアキラの一方で、イツキは先ほどから変わらぬ笑顔のままだ。

「それには及びません。自分好みに仕上げたいので」
「ああ、アンタはそっちの人かい。分かった分かった、好きにするがいいよ。それより…」
「もちろんです。でもその前に首輪の鍵を下さい」
「…悪いが今は持ってないんだな。どうだろう、やっぱり一度そいつらを引き渡してくれないかい?」
「あはは、お頭さんがカギを持っていないわけないでしょう? 万一のことがあったらどうするんです」

 にこやかに言い放たれたイツキの言葉に、女性は一瞬黙り込むと、初めて探るような目でイツキを見た。

「アンタ、ただの旅人じゃないね?」
「まさかぁ。ただ運良く小金を持っていた旅人ですよ。そんなことよりも、鍵を頂けませんか?」
「……断るって言ったら?」
「それは困りましたね。どうしましょう。うーん…」

 腕を組んで悩み始めたイツキを見て、アキラは内心で溜め息をつくと剣の柄に手をかけつつ口を開いた。

「ならば、剣で斬ってしまうのはいかがでしょう」
「お、いい考えだね。でも平気かい? こんなに暗くては、手元が狂って別のものまで斬ってしまうかもしれないよ?」
「あなたの指示があれば、必要な物は斬らずに済むかと」
「ふむ。それなら平気かな」

 そうして二人同時に相手方を見ると、訳の分かっていない男たちの一方で、女性はさっと青ざめる。

「わ、分かった! 分かったから待っとくれ! …ほら、これだ!」
「ありがとうございます。ではこちらも」
「ちょっ、投げるなよ…っと。…確かに受け取った。それじゃ、アタシらはこれで失礼するよ。…ほら、行くぞ!」
「えっ…ですがお頭ァ!」
「いいから!」

 騒々しく去っていった一団を見送って、完全に音が聞こえなくなると、アキラは大きな息をついた。

「ったく…あまり戦いたくないってのに…」
「結果戦わなかったんだからいいじゃないか。…さて」

 ニヤリと笑みを浮かべたイツキは、急展開に半ば混乱しているらしい少女たちの前に膝をつく。

「君たちは僕が買わせてもらいました。とはいっても、奴隷として扱う気はないから安心して」
「え…でも…」
「…お金…とか…」
「うん、ちゃんと相談しよう。でもそれは、お腹いっぱい食べて、体を洗って、暖かい寝床で寝て、ゆっくり休んだ後にすればいいことさ」

 優しく言い聞かせられると同時に頑丈な首輪も外された。
 地面に落ちて音をたてたそれと、久しぶりに何もついていないお互いの首元を見て、少女たちは言葉に詰まる。

「……っ……!」

 たまらず泣き出した二人を見て、アキラとイツキは頬を緩ませると、何も言わずに腰を下ろした。


 ちなみに。

「落ち着いたか?」
「…はい。…すみませんでした…」
「気にすることは無いよ。さ、行こう」
「…って待てイツキ」
「どうかしたかい?」
「いや…俺たちって迷ってたんじゃ…」
「……忘れてた。ここ、どこだろう」
「……分からん……」

 折角の道案内を追い返した上に見知らぬ道で夜を迎えるという窮地に陥った二人だったが、

「あ、あの…」
「ん?」
「…私たち、分かります、けど…」
「「神様仏様女神さまぁっ!!」」

 無事、宿泊している宿にたどり着くことが出来たそうな。めでたしめでたし。


「いやまだ終わらないぞ!?」
「むしろ始まったばっかりだよ!?」

 終わり




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