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作者:ゲーパロ専用◆0q9CaywhJ6氏


<やまいぬ>・2

ほんのわずかな時間でも貴方と離れていることは辛いことなのです 。
私と暮らす前にどうかそのことを覚えておいてください。(犬の十戒より)

「……飯は左手前、汁は右手前。汁は、けんちん。
左の奥は、バイ貝の肝と大根の煮物。
右の奥は膾(なます)の代わりに鰤の刺身と水菜。
中央は香の物。
焼き物膳は、牛の赤身を塩胡椒で焼いたものでございます。
箸は一番手前にございます」
……盲いた神様に膳を供えるときは、膳の位置と料理を申し上げる。
もとは、稲の葉で目を突いて目が見えなくなった豊穣の神様への儀式だが、
目が見えないことが多い「病犬(やまいぬ)の神」へ食事を献じるときの儀式として、
何百年か前のご先祖様がこれを取り入れた。
──多分、それは宮司の考え付いたことではない。
僕と同じく、「病犬神」を飼う宮司なら、
そんなものが必要でないことを、最初から知っているだろう。
目を閉じた佐奈は、僕のことばのたびに膳の上のその料理に正確に顔を向ける。
そして、そわそわと僕の顔を「見る」。
「……召し上がれ」
儀式は、この後、長々と祝詞をのべることになっていたが、
僕はいつもそれを省略している。
佐奈が我慢している顔を見るのは、好きでないから。
きっと、儀式を考え出したのは、「犬」を飼ったことのない人間だろう。
相馬さんや、岩城さんのような立場の人にとっては、
神社を運営するために必要なこと──権威とかそういうもの──を細かく考える必要がある。
でも、多分、「犬」と直接触れ合っている宮司は、
代々それをこっそり無視しているにちがいない。
僕と同じように。

「いただきます!」
許可のことばを耳にするやいなや、佐奈は箸を取って食べ始めた。
昼を抜いたせいか、いつもより「喰い」の勢いが良い。
焼き物も、煮物も、サラダも、刺身も、素晴らしい速さで消えて行く。
箸使いは、僕が教え込んだ。
僕が母上に教え込まれたときよりは厳しくはないだろうけど、
それでもかなり徹底して教えた。
目が見えなくても、皿の位置が分かるのは──佐奈は鼻が利くからだ。
犬の嗅覚は、人の一万倍。
でも、佐奈は──それどころでは、ない。
「犬神」は、この世ならぬものの「匂い」も嗅ぎ分ける。
そして、「病犬神」の「嗅覚」は、普通の「犬神」の比ではない。
だから、佐奈は、閉じ込められた。
この「神社」の奥底に。
接するのは、彼女に仕える宮司の、「飼い主」の、僕一人。
そうしないと、佐奈は──。
「喰(く)らい終えたわ」
つぶやいて、佐奈が箸を置いた。
いつの間にか、膳の上は、何も残っていない。
苦手なサラダも、鰤の味がよかったのか、統べて平らげている。
残す残さないで叱らないですむ。
「おそまつさまでした」
「……ごちそうさまでした」
膳を片付けはじめると、佐奈はあわてて手を合わせて言った。
女神になった今では、僕に対して言わなくてもいいことばだが、
佐奈は、どんなに機嫌が悪くても、これだけはやめない。
それは、出された料理が、僕の作ったものだから。
そして、佐奈は、他のものを食べることが出来ない。
僕以外の人間が、佐奈の世話をすることが出来ないのと同じように。

佐奈の嗅覚は、鋭い。
外法によって強化された「病犬神」は、
文字通り「法(のり)」の外の嗅覚を有しているのだ。
それは──普通の世界に出たら、たちまちのうちに狂って
周りにあるもの全てを殺しまくり、自分も狂死するくらいの。
もともと狂った、そして強力な犬神を、さらに強化して「作られた」女神は、
ごく普通の空気の中にある匂いから、あらゆる事象を読み取る。
──そして、その「匂い」に耐え切れない。
だから、佐奈は、「神社」の奥の院に閉じ込められる。
幾重にも結界を張り、匂いを抑える術を重ねた、特殊な空間の中でしか
この女神は生きられないのだ。
だが、それを世話する人間が要(い)る。
生きている以上、様々な匂いを身にまとう、生きた人間が。
女神に、その匂いを耐えさせるために、
「神社」の外法使いたちが考え出した方法は、「飼い主」だった。
「病犬神」が生れ落ちた瞬間、最初に匂いを嗅がせ、
以降、衣食住、全てにわたり世話をする、飼い主。
髪を、肌を、肉を、血を、汗を、涙を、排泄物を、精液を──。
全てを刷り込むように嗅覚になすりつけ、「慣れ」させる。
それは、女神の一生に一人だけ。
赤子の持つ、順応力にのみ許される業(わざ)。
生れ落ちた瞬間からはじめる、ただ一度の機会を逃せば、
「病犬神」の嗅覚にそれを慣らすことは不可能だ。
そして、その飼い主は、長じて「宮司」となる。
生れ落ちた、犬とも人ともつかない無力な赤子が、
人の数倍の速さで成長し、自分の背丈を追い越すころ、女神の力に目覚めるとき。
凶神の「飼い主」は、彼女に仕える神官になるのだ。
──佐奈の飼い主は、僕だ。
佐奈は、僕の匂いにだけは「慣れ」ている。
だから、僕が作ったものだけは食べることが出来るし、僕の手だけが彼女を世話することが出来る。

「――嫌な匂いがするぞえ……」
食事を終えた佐奈が、ぽつりと言った。
僕は、はっとして振り返った。
「きょ、今日は何もないはず、だよ……?」
僕が高校に通うようになってだいぶ経つ。
佐奈も慣れたはずだ。
四月の頃はひどかった。
僕の身体に移った、クラスメイトの女の子たちの匂いに反応した佐奈は、
荒れ狂って奥の院を破壊するところだった。
六月にラブレターを貰った日には、
「神社」の職員の三分の一を衰弱死寸前にするくらいの瘴気を放った。
七月と八月には──いや、やめておこう。
とにかく、半年近くをかけて、僕は佐奈に、
僕が高校で「普通」の学生生活を送ってくることを慣れさせた。
佐奈の嗅覚は、尋常のものではない。
それは、文字通りの意味だ。
食べ物の匂い、汗や排泄物の匂い、服に着いた空気の匂い……。
普通の犬なら、匂いで主人の体調を嗅ぎ取るくらいはできる。
普通の犬神なら、さらに進んで、主人が何をしてきたか、過去を「嗅ぐ」ことができるだろう。
だが、「病犬神」は──。
嗅ぎ取れないはずのものを嗅ぎ当てる。
10メートルも離れて座ったクラスメイトから僕の学生服に移った匂いから佐奈が嗅ぎ当てたのは、
──彼女の素性と、僕に対して好意を持ったという、僕さえ知らない相手の心の中。
本殿に置いてきたカバンの中のラブレターから嗅ぎ取ったのは、
──ラブレターの一字一句ちがわない文面。
「病犬神」の嗅覚は、この世のあらゆる事象を嗅ぎ取る。
当たり前の話だ。
「病犬神」は、この世ならざるものの「匂い」を嗅ぎ、悟る女神。
そのために目から光を奪われ、「神社」の外で生きる術を奪われ、
ただ飼い主だけを与えられて力を強化された凶神。

「……違う。今日の友哉は、良い匂いじゃ」
佐奈がそう言ったので、僕はちょっとほっとした。
機嫌の悪い日の佐奈には、気を使う。
……待てよ、機嫌が悪い?
はっとして、本殿のほうを振り返る。
もちろん渡り廊下に続く扉は閉まっている。
でも、佐奈にはわかる。
呪法を重ねた分厚い木の扉を通して、
百間の渡り廊下を隔てて、
本殿のいくつもの部屋を越えて。
「双奈木の来客か」
「……嫌なものを持ち込んできたぞえ」
先ほど岩城さんから聞いた、<支族>の人は、
何か厄介ごとを頼みに来たのだろう。
──きっと、「病犬神」が必要なくらいに厄介な、「あちら側」の問題を。
「……」
「……」
僕と佐奈は黙り込んだ。
佐奈は、何を「嗅ぎ取った」のか。
それが、「良くないもの」なのは、僕にも分かる。
凶神といえど、「こちら側ではない世界」のことに関わるのは、危険なのだ。
でも、僕は、この「神社」を預かる僕は──。
「良い。聞かせてたも」
佐奈は、軽く頭を振りながら言った。
「……ごめん」
「わらわの仕事じゃ。のう、主どの?」
僕は答えられなかった。
犬養の宮司は、そのために、女神を飼う。
病犬に、この世ならぬものを嗅がせ、識(し)るために。
「神社」は、その外法を欲する者たちの莫大な援助によって成り立っているのだ。

「そのような顔をいたすでない。わらわは、そういうことをする犬神じゃ」
佐奈は笑った。
釣りあがった唇から、白い犬歯が見える。
黒髪の間から、犬の耳が見える。
硬く閉じた目蓋から、暗い光が見える。
くすくすと笑う、美しい女。
僕の喉が、ごくりと鳴る。
それは、恐怖だ。
僕は、佐奈の飼い主。
この凶神を、生まれたときから飼ってきた、飼い主。
だから、佐奈は僕だけは傷つけない。
僕の言うことだけは聞く。
だけど──。
「どうしたかえ、主どの?」
時が経ち、身体も力も僕よりも「早く」成長していく佐奈に、
僕は時々恐怖を覚える。
この娘は──昨日と同じ、僕の飼い犬なのだろうか。
ひょっとしたら、幼い頃から縛り続けていた見えない鎖は、
今日は、もうこの娘を縛るだけの力を有していないのではないか。
──歴代の宮司には、女神を縛り続けることが出来ずに、食い殺された者もいる。
僕が、そうならない保証はどこにもない。
「……なんでもない。双奈木さんの話を聞いてくる」
僕は、ちょっとだけ歯を食いしばって、その恐怖に耐え、佐奈に返事をした。
「……ふふふ」
佐奈が、また笑う。
「どうした?」
「駄目じゃ。――その前にわらわに湯浴みさせてたもれ」
佐奈は立ち上がって、するすると神衣を解き始めた。

「――腕、上げて」
「こうかえ?」
僕の言葉の通りに佐奈は腕を上げた。
白い腕。
生まれてから、一度も陽の光を浴びたことのない肌は、
妖しいまでに白くなまめかしい。
腋の下は、もっと白いように思える。
僕は、そっと唾を飲み込んで、そこを布でぬぐった。
ゆっくりとこすり、流す。
お湯は、霊峰から湧き出る清水を沸かしたものだ。
水と空気は、術法を加えれば、なんとか「病犬神」が耐えられる匂い。
──そのために、「神社」はこの地に作られた。
「ふふふ、どうしたかえ?」
湯気の中で、佐奈が笑う。
「なんでもないよ」
僕は目をそらしながら言った。
「もそっと強く洗ってたもれ。胸乳を、の」
佐奈が胸をつき出した。
まだ背の伸び盛りを迎えていない晩生の僕より、今の佐奈は背が高い。
日を追うごとに成長の差は開き、佐奈の身体はどんどん成熟していく。
おっぱいは──ものすごく大きくなった。
「仔犬」のころの、まるで人形のように小さく薄い身体を見ている僕には、
その成長は、目の前にしていても信じられない。
だけど、これは現実だった。
「どうしたかや? 早う……」
促されるまま、布越しに触れる、弾力と重みも。
「ふふふ」
佐奈の含み笑いが、湯殿に小さく反響する。
「くそっ……!」
僕は小さく毒づいた。

最近、いつもこうだ。
佐奈は、どんどん大人になっていく。
そして、こうして戯れる。
弄うように。
いつからだろうか。
彼女が女神として目覚め、僕との力関係が逆転してからか。
僕はため息をついて、今度はお腹をこすり始めた。
女体。
嗅ぐ能力を別にすれば、犬神とて、普通の人間と変わらない。
人間に神を「下ろ」して作られた神様だから当たり前だけど。
耳と、牙と、爪を除けば、佐奈は、まるっきり人間の女だ。
それもとびっきりの。
その身体を洗うのは、高校生には刺激が強すぎる。
──三年前までは、考えもしなかったことだけど。
それまでは、佐奈は、まさに僕の愛玩動物だった。
小さく、弱い、盲目の生き物。
人間とか、犬神とか、そういうものを別にして、
とにかく、僕が世話をしなければ今にも死んでしまう、小動物。
それが、成長するにしたがって、妹のような存在になり、
同世代の女の子のような存在になり、
今では、完全に僕を追い越した大人になっている。
そんな女神の身体を洗うことには、どういう意味があるのだろう。
「ふふふ」
また、佐奈が笑った。
僕の「匂い」から、僕の思考を読み取るくらい、この娘ならなんということはない。
だから──。
「怖いかえ? わらわが?」
佐奈が、そう言ったとき、僕の心臓は、どきんと音を立てた。

「……な、何を……」
一呼吸、いや二呼吸遅れて、答えた。
「……」
佐奈は、沈黙していた。
白い湯気が全てを隠す湯殿。
聞こえるのは、お湯の沸く音と互いの息遣いの音だけ。
僕の目の前にいるのは、「病犬神」。
僕の飼い犬だろうか。
もう僕の手に負えない病んだ女神だろうか。
「――さ……」
「――小水じゃ。見てたもれ」
思わず名を呼ぼうとした瞬間、いつもの甘えた声が聞こえた。
「え……?」
「小水をしたい」
佐奈は、照れたように笑った。
「あ、うん」
用便の世話は、仔犬のころから僕の仕事だ。
医者さえも近寄ることができない犬神の主治医は、宮司が務める。
そうした管理は、犬を飼うときの基本中の基本だ。
だけど、こんなにまで成長した女神のそれは──。
「いくぞえ。見てたも」
佐奈は、立ったまま大きく足を広げた。
腰に手を当てて、突き出すように。
飼い主に全てを見せる、無防備に、あまりに無防備に見せる姿勢。
透明な液体をしたたらせはじめても、佐奈のその無防備さは変わらなかった。
「――」
僕は、気がついた。
佐奈は、笑っている。
先ほどの、弄うような笑みではなく、心底うれしそうな笑みで。
もっと小さな頃、まだ女神になっていないときに、いつも浮かべていた微笑で。

「……洗ってたも」
我に返ると、佐奈の放尿は終わっていた。
慌ててお湯で足と床とを流す。
「布は嫌じゃ。指で洗ってたも」
佐奈は、腰をつき出したままの姿勢でささやくように言った。
甘えるような声に、昔と違う響き。
それは女の媚びか──それとも……。
操られるように僕は腕を伸ばした。
白い阜(おか)の上に、僕の手が這う。
薄桃色の秘裂は、今まで何度も触れて世話してきた飼い犬の排泄器官。
いやらしい意味なんか、ない。
だけど、それは、僕がはじめて触れた女性器でもある。
それは、いやらしい意味そのものが形をとったものだ。
「ああ……」
かすれた声は、明らかに嬌声。
溝に沿って撫でる男の指に反応する女の声。
その秘めやかな響きは、僕が知り、理解しているどの佐奈の声とも違う。
「ふふふ、主どの──友哉の指は、良いのう」
佐奈が、ささやく。
僕は生唾を飲み込んだ。
わからない。
理解できない。
まだ──この佐奈が「何」であるのか、僕は識(し)らないのだ。
「ふふふ、どうしたかえ? 男根(へのこ)から、精の匂いがしてきたぞえ?」
佐奈が、笑う。
完全に、僕が心のうちを読めない笑み。
「抱きたいかえ、わらわを。犯したいかえ、わらわを」
笑い声は深くなった。
「抱くが良い、犯すが良い、いつもの通りに。のう、主どの?」
佐奈は、唇を釣りあげて笑った。
白い白い犬歯を見せて。
僕は、その笑顔の意味がわからない。
数ヶ月前、誘われるままに佐奈を抱いてから、僕は彼女のことがわからなくなってしまった。
だから、僕は、恐怖する。
佐奈に──僕の飼い犬、僕の女神に。


あなたがどんな風に私に接したか、私はそれを全て覚えていることを知っておいてください。(犬の十戒より)



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