PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏

――母がいなくなり、父が他界、自分が壊れ、次に姉が壊れた時。昔と比べて精神面は強くなったと思ってた。

家族が絆を取り戻せばみんなが幸せになる…。
しかし自分が考えている以上に現状は深刻で、母と俺が和解すればすむことだと勝手に思いこんでいた。

一度出来た心の隙間は数年では埋められない…。

「体も心も弱いんだな俺は…」
自分の弱さに苛立ちを覚えるが、どこに持っていけばいいか分からない。

この前まで姉ちゃんと2人で楽しく暮らしていたのに…。
未来に不安が無いのかって言われれば、不安だらけだった。

でも本当に楽しかった…。

「この病気のことは絶対に姉ちゃんには言えないな…」

姉は絶対に自分のせいにするだろう…
これ以上姉を追い込めない。
俺からしたら一番の被害者は姉なのだ。

「一応お母さんにもお姉ちゃんには言うなって言ったけど……」

もう謝られるのは母だけでいい。
医者が出ていった後30分近く泣きながら謝られた。

父は絶対に家族を泣かせたことは無かった。
泣かせたと言えば父が亡くなった日ぐらいだろう。

「本当……強くなったと思ったんだけどなぁ…」


実際は空回りするだけで父のように強くなれなかった。


――「勇、起きてる?中に入るわよ?」


少し窓の外を見て呆けていると。ドアをノックする音と母の声が聞こえた。
部屋に何もないからか、やけに音が響く。

「体の調子は?疲れてない?」

「え?あぁ…うん、全然大丈夫。」

母が部屋に入って来たが、扉を閉める気配が無い。

「お母さん?寒いんだけど…」

今は真冬だ…さすがに開けっ放しにされると肌にこたえる。

「えぇ…なにしてるの?早く入ってきなさい。扉閉めなきゃ。」
母が扉から上半身を部屋の外に出し、誰かに話しかけている。

「なに?誰かいるの?」
話し相手の小さな声は聞こえるが姿がまったく見えない。

「えぇ?……泣いたせいで目が変って…目なんか気にしないわよ……なに?……鏡なんか持ってないわよ…はぁ、今化粧したばかりでしょ……ホラッ」

途切れ途切れしか聞こえない声を聞こうとするがやはり誰か分からない。
母に腕を引っ張られ腕だけ部屋の中に入っているが、確実に拒否反応がでている。
「お母さん誰なの?…すんげー嫌がってない?その人…」

「嫌がってんじゃなくて、恥ずかしがってんの……よッ!!」



「キャッ!?」


母が強引に相手の腕を引っ張ると。女性らしい声と共に母と言い争っていた人物が姿を現した。



「あれ?……お姉ちゃん?」

姿を現したのは下を向いて目を伏せている姉だった。

逆に予想外だ…姉ならスッと部屋に入ってくると思っていたし。
なにより母とあんなに話してる姉なんて見たことが無かったからだ。

「…」

「お姉ちゃんさっきからなんで下向いてんの?」
部屋に入ってきてからずっと下を向きっぱなしだ。

「いや、ちょっと…寝過ぎで…目が腫れてて…」

「いや、俺は別に気にしないけど…。」

「ほらね、勇が気にするわけ無いでしょ?目もそんなに腫れてないわよ?てゆうか、なんのために化粧したか分からないわよ麻奈ちゃん…」
母が姉にフォローを入れるが姉は一切顔を上げない。

「まぁ別にお姉ちゃんが見せたくなかったら別にいいけど…」
無理矢理に見せろなんて言う必要もないし、本人が嫌がってんなら仕方がない。
「うん…ありがとう…」

なんだろう…変に空気が重い。
母も姉もどことなく元気が無いみたいだ。

「えっと…あっそうだ、お姉ちゃん風邪は大丈夫なの?体だるくない?」


なにか話をしないと気まずい空気に押しつぶされてしまいそうだ。


「うん…点滴で熱も下がったし体も楽だよ。」

「そっか、よかったね…。」
なんでこんなに話しづらいんだろ…。
母も立ってるだけでなにも話さない。

「……勇、入院するの?」

姉の言葉を聞いた瞬間母を睨みつけた。

「これは言わなきゃ、どうせ後々分かることよ。」

母の言うことが正しいのですぐ目をそらす。
「……うん、ちょっとだけね…まぁすぐ帰るよ。」
当たり障り無い答えを返す。

「勇…なんの病気なの?」

「え?…なんの病気って……それは……その……」


――ヤバい…考えるの忘れてた…どうしよう…。
母に助けを求める目を向けるが、溜め息を吐いて「あなたが言いなさい。」って顔してる。

しょうがない自分のことだからなんとかするしかない。
「え〜と……盲腸?…だったよ。」

――姉は俺に対して、もの凄く高度な技を使う時がある――

「嘘でしょ。」

即答で返された。

「勇…嘘つく時の苦笑いの癖治したほうがいいわよ?」

そんな癖があったのかと慌てて両手で頬を触った。

「ほら…嘘だ…」

「え?……あっ!?」
すぐに手を下ろすがもう遅い。
母も呆れた顔をしてため息を吐いている…。


「勇…やっぱり麻奈ちゃんにも本当のこと言ったほうがいいわよ?」

姉の肩を優しく掴み、小さく呟く。

「……」

――やっぱり無理か…
こうなったらもう姉に嘘は通用しないだろう。

「そうだね……わかった…お姉ちゃん、嘘ついてごめん。」
姉に向かって頭を下げる。

「べつにいいよ…私を思っての事なんでしょ?」

いつの間にか姉も顔を上げている。
姉が言ってたように目が少し充血し、瞼が腫れていたが酷いと言ったほどではなかった。

――その充血が気にならないくらい姉の目は真剣なのだ。


「俺ね……」


「うん……」




「胃潰瘍だってさ。」


――「胃潰瘍…?」

「そう、胃に穴開いてるんだってさ。」
笑いながら話すが姉は顔を崩さない。
多分姉は父と同じ病気を考えていたのだろう、俺だって考えてた。

「でもね麻奈美、もうちょっとで危なかったのよ?。」

「え?」

「先生にもうちょっと早く連れてきてくださいって言われたわ。」
そんなこと言われてたんだな…知らなかった。

「お母さんのせいじゃないよ…自分の体をちゃんと管理してなかった俺が悪かったんだよ。」
母は申し訳なさそうに話すが、母は知らなくて当然だ、一緒に暮らしていないのだから。

「…胃潰瘍って食生活とかストレスでなるんだよね…」

――やっぱりきた…

「…そうみたいだね…あんまり知らないけど…」
話をごまかそうと頭で考えるが、なんてごまかせばいいか分からない…。

「……やっぱり私は勇のことなにも分かって無かったのね…姉なのに。」
こうなることが嫌で姉に言わないでおいたのに…

「そんなんじゃ無いよ、こればっかりは自分のことだから…」
治すどころか胃が余計に痛くなる…。

「勇の為とか都合の言いように自分に言い聞かせて…私今まで何してたんだろ…お父さんとも約束したのに……やっぱり私いなきゃ…」




「お姉ちゃん!!!」
「真奈美!!!」
母とほぼ同時に姉に向かって怒鳴る。
声のでかさに姉が肩を強ばらせて目を瞑る。
さすがに聞き逃せない言葉が出かけたので止めた。

「お姉ちゃん…それとお母さんもだけど、こればっかりは自分の体の管理を怠ったことが原因だから。怒られることがあっても、謝られる筋合いはないよ。」

ちゃんと言い聞かせないとこのままお互いにずっと引きずっていくだろう。
この事態でまた家族が離ればなれになるのは絶対に嫌だ。

「わかった?お姉ちゃん…」
姉にもう一度言い聞かせる。
「うん…わかった…」
小さくだがはっきりと頭を縦に振ってくれた。

「…勇……ありがとう、私ね…これからは絶対に勇が自慢できるお姉ちゃんになるか…ら…だから……だから…強くなるから……お願い…」

最後の声は聞こえなかった…。だけど言いたかったことは分かる。
涙声は聞こえないが震える体と姉の手の甲に落ちる水滴が、どれほどの思いで伝えているか十二分に心へ伝わってくる。

姉が言った最後の言葉の返事は決まってる…


「あたりまえでしょ?、俺の家族はお姉ちゃんとお母さんだけなんだから。」



「ッ!?勇ッ!!!」

姉が勢い良く抱きついてくるのを受け止める。
ベッドに座ったままなので、後ろに倒れそうになってしまった。


「これからも一緒に頑張っていこうね?」

「うん!!絶対に頑張るから!!ゆう!勇!!」
感極まってるのはわかるが、姉が頬ずりをしてくるので姉の涙やらなんやらでお互い顔がえらいことになっている。

少し苦笑いになってしまうが、幸せな苦笑いもあるんだなって本当に痛感した。
母のことが気になり母に目を向けると姉の少し後ろで座り込んで泣いている。

母も辛かったんだろう……罪悪感に苛まれ誰に許してもらえばいいかさえわからなかったはずだ。

「ははっ…まだまだお父さんみたいな人間にはなれそうに無いな。」

姉を抱きしめたまま窓の外をみる――

空には一面綺麗な星空。
父も空からちゃんと見てくれてるはずだ。
夢の中で父に言われた言葉を思い出す。
「疲れたら甘えろ…か…」
いつの間にかハグに母も加わり凄まじいことになっている。

「勇!!真奈美!!ごめんね!!私もこれからは母としてあなた達を絶対に守るから!!」

――お互いに少し道に迷っただけ…

「うわぁぁぁ〜〜ん!!お母さん!お母さん!ごめんなさいぃ!」



――家族が道に迷えば探すのが当たり前。

「本当にごめんなさい!!許してもらうまでいつまでも償い続けるから!」

――見つけたら手を繋ぎ、後は出口を探すだけ。

「私の方こそ意地になってて!!」

――その出口が今やっと見つかった気がした。


母も姉もなにを言っても泣きやまなかった。
しかしふと考えるとここは病院だ。
さすがにこんだけ声を出せば、誰かが注意しにくるはずだ。

「二人とももう泣きやんでね…ここ病院だから…」

母も姉も思い出したように口に手を当てる。

「それとこれは二人に相談なんだけども…話を聞いてもらっていい?」

俺の入院をきっかけに、母と姉にしてもらいたい重大なことがあった。

「え?なに?」

目を擦りながら聞き返してくる。
涙で化粧が取れてるのが気にならないくらい、無我夢中だったみたいだ。


「それはね……」


――今日の出来事が、家族の心の隙間を埋める第一歩になってくれるに違いない。

「えぇ……私は大丈夫だけど…」

「…私も大丈夫よ…勇と約束したからね…」

母と姉が顔を見合わせて笑う。


――はじめから心の隙間なんて無かったんじゃないかって思わせるぐらい二人は自然に笑っていた。




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