最終更新: izon_matome 2009年05月11日(月) 19:51:29履歴
作者:◆ou.3Y1vhqc氏
「はぁ〜お腹減ったなぁ…」
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
入院生活が始まって一週間が経ち、病院の空気にも慣れてきた今日この頃。
7日間丸々点滴で過ごした人生なんて、これ一回で十分だと身に染みて感じた。
体重も一週間で七キロも痩せた…。
さすがに何か食べたいと思っていたら、今日から病院食がでるとのこと。
胃が弱っているためお粥らしいが、米が食べれると思うと嬉しくてしょうがない。
「はぁ〜夜まで待てない…」
時計を見るとまだ昼の3時だ。
母は仕事、姉は大学。
二人とも俺が退院するまで休むと言ったが、さすがにそれは無理がある。
俺は知らなかったが姉に関しては最近大学をサボりまくってまで俺との時間を作っていたらしく。
大学生活がかなり危うい状態のようだ。
姉には大学生活もエンジョイしてもらわないと困る。
「夕方にはお姉ちゃんが見舞いにくるって言ってたな…」
嬉しいのだが二人とも忙しい中、朝と夕方の一日二回も見舞いにくるから気を使ってしまう。
一応無理しないでとは言っているが見舞いにくると姉も母も面会時間ギリギリまで話していく。
「まぁ誰も来ないよりはいいよな…」
――コンっコンっ。
「あの〜スイマセ〜ン…こちら中村 勇さんの病室……あ!!勇だっ!!」
ノックが聞こえたかと思うと。こちらから返事を返す前に扉が開き2人の男女が入ってきた。
「あれ?なんでここがわかったの?」
入ってきたのは同級生の高橋と大樹だった。
「担任が勇が怪我して入院してるって聞いてさ。おまえの家に電話しろっ電話しろって高橋がうるさくてよ〜。」
「な!?今言わなくてもいいでしょ!?だいたいあんたが勇が入院するなんて何かあったんだ!って騒ぐから心配になったんでしょ!!」
2人とも病院がどういう場所がいまいちわかってないらしい。
「見舞いに来てくれたのは嬉しいけど…ちょっとだけ静にな?」
二人を落ち着かせるために俺も静に喋る。
高橋はわかってくれたみたいだが、大樹がくせ者だった…。
「勇!!お姉さまから聞いたよ!!胃潰瘍だってな…悪かったなぁ…しつこくマックに誘って…まさかここまで思い詰めてたなんて知らなかったんだ!!許してくれ!!」
そう言うと大樹が高橋の頭を掴んで二人で頭を深々と下げてきた。
「ちょっと!!なんで私まで巻き込むのよ!!?」
「楽しいからずっと見ていたいんだけど…ここ病院だから…ね?」
夫婦漫才を見てるみたいで楽しいが。さすがにこのまま騒げば2人とも追い出されるだろう。
「あっごめん…勇、病気なのに…」
高橋が下を向いてうなだれる。
「まぁ勇よ…高橋も謝ってることだし許してやれよ…」
自分のことを棚に上げてよく言う。
高橋は大樹のほうを睨みつけ今にも飛びかかりそうだ…。
「高橋も大樹のこと本気で相手してたら胃潰瘍になるよ?」
高橋の肩をポンポンと叩きながら落ち着かせる。
「ふぅ…そうね…」
高橋も夫婦漫才に疲れたのかパイプいすに腰を下ろす。
大樹もこれ以上騒げばどうなるかわかったようだ、部屋から廊下に頭だけだして看護婦がどうたら呟いている。
「勇…大丈夫なの?…まだ辛いんじゃない?」
高橋が心配そうに聞いてくる。
「もう大丈夫だよ、1ヶ月入院しなきゃダメみたいだけど、体もだいぶ楽になったしね。…心配かけてごめんね?」
「ううん…早くよくなるといいね、みんな心配してたよ?いつかわからないけど、部活の先輩とかクラスのみんなで勇のお見舞いにくるってさ。」
「…そっか…本当にみんなに迷惑かけるなぁ。」
――「べつにいいんじゃね?一人で生きてる訳じゃあるまいし。」
「え…?」
扉から顔を引っ込めて、大樹がこちらに近づいてくる。
「中学の時からずっと一緒につるんでるけどさ、親父さんが死んだ後おまえは一切弱い心を人に見せなかったよな。」
大樹がいつになく真剣な表情で話しかけてくる。
「俺が知ってる人の中で一番尊敬する人は間違いなくおまえだ。」
「やめろよ恥ずかしいな…」
恥ずかしいことをよく真剣に話せるなと思うが自分自身大樹の声に真剣に耳を傾けている。
「だけどな…中学の時から…今でもだけど、いつも思ってたことがあるんだ。」
高橋も大樹のこんな真剣な顔を見たことが無かったのだろう…大樹の顔を不思議そうに眺めている。
「……おまえなんで周りにいる人間に頼らねぇの…?」
――大樹の言葉に心が揺れる。
「いつも思ってた…みんなといる時は笑ってるくせに。一人になると寂しいのか悲しいのか、訳分かんねえ表情してたもんな。」
「……」
「おまえが親父さんを目指してるのは知ってるよ……俺も親父さんによくしてもらってたしな……でも親父さんだって疲れた時ぐらい誰かしらに甘えてたんじゃねぇの?」
――疲れたら甘えればいい――
「あ……」
夢で言ってた父の言葉を思い出す。
「おまえの親父さんだって超人じゃないんだから…疲れたら休憩するだろ。目的地も分からず、休憩もしないで走り回るから体壊すんだよ、バカ勇。」
「そっか…そうだな…本当にバカだな俺は…」
父の言ってる言葉の意味がやっと分かった気がする。
「まぁ、俺の言いたいことが伝わってたら言いよ……」
大樹も照れてるのか俺の方をまったく見ない。
「ビックリした…まさか大樹があんなまともなこと言うなんて……」
高橋も大樹に驚きの目を向けている。
「アホか!俺はいつだってまともだ!」
平手で高橋の頭をパチンと叩く。
「痛ッ!叩くな!高校生の癖にウルトラマンごっこしてた人間が言う台詞じゃないわね。」
「ばっ!?おまっ!秘密って言ったじゃねーか!!」
高橋は大樹にウルトラマンごっこを無理やりさせられて別れを決めたらしい。
つきあって三日でウルトラマンごっこは大樹の中でセーフだったのだろう…アホまるだしだ。
「ははっ大樹だからな、そこは我慢しなきゃつきあえないよ」
「勇もあぁ言ってるじゃねーか!おまえが悪い!」
「なんですってぇ!?あんたがッ!」
――本当にこの二人の友達になれてよかったと思う。
「ほら、静にね。」
「そうだぞ?勇の見舞いじゃなく騒ぎにきたのかおまえは?」
「ぐっ……大樹…後で覚えておきなさいよ…」
高橋の言いたいことは分かるが大樹に口で勝てる人を見たことがない。
…まぁ大樹が高橋に喧嘩で勝ってるとこも見たことないけど。
「まぁ、元気そうでなによりだわ…早く病気治して学校に来なさいよ?」
「わかってるよ、こんなとこまでわざわざ悪かったな、退院したらお礼するよ」
イスから立とうとする高橋が中腰でピタリと止まる。
「あのさ…それじゃ一つだけ聞いてほしいんだけど…」
「なんだ?あんまり高いもの買えないぞ?」
神妙な顔つきで話そうとする高橋は少し怖かった。
「あっあのさ…」
「うん…」
大樹も意味が分からず高橋の顔を見ている。
「も、もしよかったら…」
「う、うん」
「…わっわたしの…こっ…ことも、下のなっなまえでy――「ガラガラガラ」
「「「勇ぅ〜!!」」」
「よ…ん……で…」
「は!?なっなんだ!!?」
高橋の話を真剣に聞いていたので、いきなり扉が開いたことにビックリした。
「なっなんだおまえら!!なんで今日くるんだよ!?」
大樹も驚いている。
高橋に至っては、驚きを通り越して放心している。
「ばか!!おまえら授業サボって見舞いに行きやがって!俺らも授業終わったから心配で見舞いに来たんだよ!!」
「みんな…てゆうか何人いるの!?」
部屋の中でも15人はいる。
「いや、わかんね。なんか部活の先輩もきてるみたいだけど…」
後ろのほうで俺の名前を叫んでいる。
嬉しいが何度も言うようにここは病院なんだけど…。
「少しくらい休憩しても、ここに来たみんなはおまえから離れていかねーぞ?」
大樹が嬉しそうに話す。
「うん…ありがとう…」
父のようになりたい…父のようになって家族を守れる人間になりたい。
それだけ考えて生きてきた…
――目標にはできるけど、本人にはなれない…
父から教わったものを同じようにしても父にはなれない。
なぜなら俺に無い物を父は持っているからだ…。
逆に父に無い物を俺は持っている。
これからは自分自身を貫いていこう。
こんなに自分を支えてくれる人がいるんだから。
この後一時間近く入れ替わり立ち替わり人が入ってきて騒ぎ倒して看護士に怒られ帰っていった。
最後に残った高橋と大樹も疲れた顔をしている。
「んじゃ…俺らも帰るわ…またくるからな?ちゃんと病気治せよ?」
大樹が俺の頭をポンッと叩いて扉を出ていった。
「それじゃ…またくるね…ちゃんと休んでね…」
どことなしか落ち込んでるみたいだ。
「わかった、それじゃーな、早苗。」
高橋がビクッとなり、こちらに振り返る。
「なんだよ?おまえが言えっていったんだろ?」
「え!?あっ!!うん……ありがとう…ちゃんと体治しなさいよ!?まってるからね!!?」
そう言うと、ゆるみきった顔で大樹の後を追いかけた。
「ふぅ…帰ったか…」
少し寂しいがこれでやっと落ち着ける。
時計を見るともう6時30分だ。
もうすぐ待ちに待った夕食がくるはず。
「さすがにお腹へったな…」
お腹をさすりながら呟く。
目を閉じ、ボーッとしていると。
遠くからカラカラと何かを押す音が聞こえる。
「…やっときた…」
音を聞いてすぐにわかった。
夕食を乗せた小さな台がこちらに向かっている…。
看護士の声も近づいてくる。
こっちも座って食事がくるのを待つ。
――コンっコンっ
「勇くん、夕食ですよ〜?入りますねぇ〜」
きた!!
待ちに待った食事がやっと運ばれてきた…。
「はい、しつれいしま〜す。」
看護士がベッドについてる台に夕食を置く。
「はい、それじゃ残さず食べてくださいね?」
「えぇ……(マジでお粥だけだ)…」
なにかおかずがついてくると思っていたのでガッカリする。
「あぁ、それとお母さんきたわよ。」
「え?そうなの?」
仕事が終わるのは早すぎる。
「うん、なんかお友達も一緒みたいだったわよ?。」
そういうと看護士のお姉さんは病室を出ていってしまった。
「お母さんの友達…?」
なぜ母の友達が見舞いにくるのだろう…意味が分からないが見舞いに来てくれるのであれば、対応しなければならない。
早く夕食にありつきたいが仕方がない…お客さんを迎えなければ。
――「あら勇?夕食?ごめんね〜少し早くきちゃった。」
母入ってきてその後から女性が入ってきた。
「お久しぶりね…勇くんでいいかしら?」
「え、えぇ……(誰だこの人…まったく覚えていない)」
入ってきた女性は身長が高くモデル体型の美人だが。すっかり記憶から消え去っている。
「ふふっまぁ覚えてるわけないわね…ほら入っておいで。」
その女性が横に声をかけると一人の少女が姿を現した。
――「え!?凪ちゃん!!?」
その女性の横にいたのは凪だった。
「え?っと…あれ?どういう…」
理由が分からず頭で考えるが、まったく浮かび上がってこない。
「前に言ったわよね?恭子がうちの会社の社長だって。」
そんなことを言ってた気がする…てことは…。
「凪ちゃんのお母さん…?」
「ピンポーン、大正解!」
凪母が両手でピースをする。
「でもなんでわかったの?俺はお母さんに言ってないよ?」
そう…凪のことを母にはまったく言っていないのだ。
「…それがね、凪の携帯の待受が勇くんの写メールなのよ。」
「は?俺の?」
凪が慌てて凪母を止めに入ろうとするが逆に凪の携帯を取り上げてしまった。
しかし俺には凪と写メを撮った記憶が全くない…。
「多分気づいてないわよ勇くん…だって…ほら。」
凪の携帯の画面を見せられる。
画面には情けない顔で爆睡してる自分の寝顔が写っていた。
「お兄ちゃん!!見ちゃ駄目!!」
凪母から携帯を取り返そうと必死になってピョンピョン飛び跳ねている。
「ははっまぁ許してやってね?凪も悪気があってやってるわけじゃないからね?」
凪母から携帯をとるとカバンの中に携帯を隠してしまった。
チラチラと泣きそうな顔でこちらを見ているがべつにこれぐらいでは怒りはしない。
「でもそれだけじゃ分からないはずじゃ…」
凪の携帯をみただけで父と離婚して名字が変わってるのに俺が母の息子だなんて気づくはずがない。
「少し前にね?あなたのお母さんが私にやたら息子の自慢をしだしたのよ…」
母に目をやるが「なにか?」と言った感じの目で返された。
「優しいわ、男前だわ、可愛いわベタぼめするから、顔を見せなさいって言ったらあなたの写メールを撮ってきたのよ。」
「また写メ!?」
今度は母の携帯を見せられる。
画面いっぱいにご飯を食べてる自分の顔が写っている。
「この写メールをみた時にどこかで見たことがあるなぁ〜と思ったのよ、そしたら凪の携帯に入っている、男の子と同じ顔だったわけよ、わかった?」
「はぁ…なんとなく」
少し強引な感じはするがここまで来てるのだから本当なんだろう。
「んで一週間前にあなたのお母さんから勇くんが入院してるって泣きながら話し聞かされたのよ……それを凪に話したら、病院の場所も知らないくせに泣きながら、また家出しようとしてねぇ〜。悪いと思ったんだけど来させてもらったわ。」
「そうですか…迷惑かけて申し訳ありませんでした。」
やっと少し状況が把握できてきた。
凪は凪母の後ろに隠れてモゾモゾしている。
「……それじゃ、ちょっとお母さん達は出かけてくるから。凪…迷惑かけちゃダメだからね。」
「え!?」
――意味がわからない。
病院に子供を普通置いていかないだろ。
「それじゃ、勇も優しくしてあげなきゃダメだからね?また後でくるわ、んじゃ」
そういうと二人ともそそくさ部屋を出ていってしまった。
残された俺と凪はポカ〜ンとしてるだけだった。
「凪ちゃん……元気だった?」
声をかけると凪の頭だけコクっと頷く。
「そっか…風邪とか大丈夫?最近風邪が流行ってるみたいだから…」
また頭だけコクっと頷く。
自分の服の胸元を握りしめて下を向いているため表情はわからない。
「お兄ちゃん……病気なの?…大丈夫…?」
聞き取りづらいか細い声で凪が聞き返してきた。
「え?大丈夫だよ、もうすぐしたら家に帰れるよ?」
「よかった……お兄ちゃん…?」
「ん?なに?」
「お兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
なぜ許可を求めるのかよくわからない、緊張してるのかもしれない。
「うんいいよ、おいで。」
凪にむかって手招きをする。
「やった!…それじゃ…よいしょっと…」
「…あぁ…だから許可を求めたのね……」
パイプいすに座るんじゃなくてベッドの中に入ってくるって意味か。
「お兄ちゃん…暖かい…」
真冬の中スカートで来てるのだから寒いに決まってる。
よく見るとほんの少し化粧してる…。
「お化粧してるの?…可愛いね」
「あ……ぁりが…と…ぅ」
顔が真っ赤っかでえらいことになっている。
ふとお粥に目を向ける。
まだ湯気がたっている…
美味そうだなと考えていると凪が気まずいことを言い出した。
「お兄ちゃん……私がご飯食べさせてあげるね!」
言うや否やスプーンとお粥が入ったお皿を掴んで俺の前まで持ってくる。
「はい、あ〜ん!」
「ははっそれぐらい自分で食べれ…」
「…お口…あ〜ん…して…」
「ないかもね…」
一生懸命口元にお粥の入ったスプーンを持ってこられたら自分で食べるなんて言えない。
「あ〜ん……パクッ……うん、美味しい。」
久しぶり食べる米は本当に美味しかった。
「ふふ〜ん、美味しいでしょ?」
さも自分が作ったかの如く誇らしげに話す。
多分凪が食べさせてるから美味しいと言わせたいのだろう。
「うん、美味しいね。ありがとう、凪ちゃん。」
「うん!!もっと食べさせあげる!はい、あ〜ん…」
このお粥が無くなるまで食べさせてくれるらしい。
「あ〜ん…」
――前と比べて少し積極的になった気がする。
初めて会った日は物凄く大人しい子だと思ってた。
なにをするにも顔色ばかり伺ってた。
まぁ他人に接する時は顔色も伺うか…ましてや知らない男の高校生となると、なおさらだ。
――「はい、終わり〜!美味しかった?」
皿とスプーンを台に戻して、もう一度ベッドに入り直す。
「うん、ごちそうさま。美味しかったよ、凪ちゃんも腕疲れたでしょ?」
「ううん、大丈夫!」
変な緊張がとけて安心したのか、凪の位置が俺の隣から膝の上になっている。
「あ!?そうだ!!…ふふ〜ん…お兄ちゃんビックリするよ?」
俺の指で遊びながら思い出したように声をあげる。
よく分からないが物凄く嬉しそうだ。
「お兄ちゃんの家の前にでっかい真っ白な家がいっぱいあるでしょ?」
「うん、あるね。その家がどうかしたの?」
最近、家前の道を挟んだところに住宅街が建てられた。
どの家もかなり立派で古家としてはあまり好ましくなかった。
「私とお母さんね〜そこに引っ越すことになったの!」
――「え?…は!?なっなんで?」
急な展開に頭が追いついていかない。
凪は満面の笑みで話すが、多分俺は苦笑いだったと思う。
「えっとね、もうすぐ私中学生でしょ?」
たしかに会ったとき、小学6年生だって言ってた。
「だから私、中学は〇〇中学校に行くの!」
「え!?マジで!?」
これには驚いた。
○○中学校は俺が通ってた中学校だ。
「マジで〜!だから退院したら引っ越し手伝ってね!?」
「う、うん、でもなんで?凪ちゃん中学校は決まってるはずじゃ…」
凪が通うお嬢様、お坊っちゃん小学校は隣にも同じようなお嬢様、お坊っちゃん中学校がある。
その小学校に通うと97%でその中学校に入ることになるらしい。
「こっちのほうが楽しいし、お母さんも自然が多い方がいいってさ。」
凪母…恐るべし。
金持ちの考えることはよくわからない。
てゆうか積極的すぎるだろ。
「それとね…その家の近くにね…私の好きな人が…いるから。」
後ろから見ても分かるくらい耳が真っ赤だ。
「へぇ〜一途だねぇ、んじゃ頑張らなきゃね。」
隣町まで追いかけてくるぐらい、好きなんだな。
少し感心する。
「うん…がんばる…お兄ちゃん…。」
凪も中学生だ。
行動と見た目が幼すぎて小さい子供のように接してしまうが立派な女性。
好きな人の一人や二人いて当たり前な歳だ。
――コンっコンっ
凪にもう一度ど頑張れといいかけたところに誰かが扉をノックする。
「ん?お母さん達帰ってきたかな?」
時計を見るともう七時半だ。
「お母さん達どこにいってたんだろーね?」
「なにか美味しい物でも食べにいってたんじゃない?」
「え〜ずるい!」
凪が俺の顔を見て不機嫌そうに言う。
――ガラガラッ
――「入るね〜勇〜大好きなお姉ちゃんが来ましッ!?…た…よ…。」
――扉から入ってきたの母達ではなく大学帰りの姉だった。
←前話に戻る
次話に進む→
「はぁ〜お腹減ったなぁ…」
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
入院生活が始まって一週間が経ち、病院の空気にも慣れてきた今日この頃。
7日間丸々点滴で過ごした人生なんて、これ一回で十分だと身に染みて感じた。
体重も一週間で七キロも痩せた…。
さすがに何か食べたいと思っていたら、今日から病院食がでるとのこと。
胃が弱っているためお粥らしいが、米が食べれると思うと嬉しくてしょうがない。
「はぁ〜夜まで待てない…」
時計を見るとまだ昼の3時だ。
母は仕事、姉は大学。
二人とも俺が退院するまで休むと言ったが、さすがにそれは無理がある。
俺は知らなかったが姉に関しては最近大学をサボりまくってまで俺との時間を作っていたらしく。
大学生活がかなり危うい状態のようだ。
姉には大学生活もエンジョイしてもらわないと困る。
「夕方にはお姉ちゃんが見舞いにくるって言ってたな…」
嬉しいのだが二人とも忙しい中、朝と夕方の一日二回も見舞いにくるから気を使ってしまう。
一応無理しないでとは言っているが見舞いにくると姉も母も面会時間ギリギリまで話していく。
「まぁ誰も来ないよりはいいよな…」
――コンっコンっ。
「あの〜スイマセ〜ン…こちら中村 勇さんの病室……あ!!勇だっ!!」
ノックが聞こえたかと思うと。こちらから返事を返す前に扉が開き2人の男女が入ってきた。
「あれ?なんでここがわかったの?」
入ってきたのは同級生の高橋と大樹だった。
「担任が勇が怪我して入院してるって聞いてさ。おまえの家に電話しろっ電話しろって高橋がうるさくてよ〜。」
「な!?今言わなくてもいいでしょ!?だいたいあんたが勇が入院するなんて何かあったんだ!って騒ぐから心配になったんでしょ!!」
2人とも病院がどういう場所がいまいちわかってないらしい。
「見舞いに来てくれたのは嬉しいけど…ちょっとだけ静にな?」
二人を落ち着かせるために俺も静に喋る。
高橋はわかってくれたみたいだが、大樹がくせ者だった…。
「勇!!お姉さまから聞いたよ!!胃潰瘍だってな…悪かったなぁ…しつこくマックに誘って…まさかここまで思い詰めてたなんて知らなかったんだ!!許してくれ!!」
そう言うと大樹が高橋の頭を掴んで二人で頭を深々と下げてきた。
「ちょっと!!なんで私まで巻き込むのよ!!?」
「楽しいからずっと見ていたいんだけど…ここ病院だから…ね?」
夫婦漫才を見てるみたいで楽しいが。さすがにこのまま騒げば2人とも追い出されるだろう。
「あっごめん…勇、病気なのに…」
高橋が下を向いてうなだれる。
「まぁ勇よ…高橋も謝ってることだし許してやれよ…」
自分のことを棚に上げてよく言う。
高橋は大樹のほうを睨みつけ今にも飛びかかりそうだ…。
「高橋も大樹のこと本気で相手してたら胃潰瘍になるよ?」
高橋の肩をポンポンと叩きながら落ち着かせる。
「ふぅ…そうね…」
高橋も夫婦漫才に疲れたのかパイプいすに腰を下ろす。
大樹もこれ以上騒げばどうなるかわかったようだ、部屋から廊下に頭だけだして看護婦がどうたら呟いている。
「勇…大丈夫なの?…まだ辛いんじゃない?」
高橋が心配そうに聞いてくる。
「もう大丈夫だよ、1ヶ月入院しなきゃダメみたいだけど、体もだいぶ楽になったしね。…心配かけてごめんね?」
「ううん…早くよくなるといいね、みんな心配してたよ?いつかわからないけど、部活の先輩とかクラスのみんなで勇のお見舞いにくるってさ。」
「…そっか…本当にみんなに迷惑かけるなぁ。」
――「べつにいいんじゃね?一人で生きてる訳じゃあるまいし。」
「え…?」
扉から顔を引っ込めて、大樹がこちらに近づいてくる。
「中学の時からずっと一緒につるんでるけどさ、親父さんが死んだ後おまえは一切弱い心を人に見せなかったよな。」
大樹がいつになく真剣な表情で話しかけてくる。
「俺が知ってる人の中で一番尊敬する人は間違いなくおまえだ。」
「やめろよ恥ずかしいな…」
恥ずかしいことをよく真剣に話せるなと思うが自分自身大樹の声に真剣に耳を傾けている。
「だけどな…中学の時から…今でもだけど、いつも思ってたことがあるんだ。」
高橋も大樹のこんな真剣な顔を見たことが無かったのだろう…大樹の顔を不思議そうに眺めている。
「……おまえなんで周りにいる人間に頼らねぇの…?」
――大樹の言葉に心が揺れる。
「いつも思ってた…みんなといる時は笑ってるくせに。一人になると寂しいのか悲しいのか、訳分かんねえ表情してたもんな。」
「……」
「おまえが親父さんを目指してるのは知ってるよ……俺も親父さんによくしてもらってたしな……でも親父さんだって疲れた時ぐらい誰かしらに甘えてたんじゃねぇの?」
――疲れたら甘えればいい――
「あ……」
夢で言ってた父の言葉を思い出す。
「おまえの親父さんだって超人じゃないんだから…疲れたら休憩するだろ。目的地も分からず、休憩もしないで走り回るから体壊すんだよ、バカ勇。」
「そっか…そうだな…本当にバカだな俺は…」
父の言ってる言葉の意味がやっと分かった気がする。
「まぁ、俺の言いたいことが伝わってたら言いよ……」
大樹も照れてるのか俺の方をまったく見ない。
「ビックリした…まさか大樹があんなまともなこと言うなんて……」
高橋も大樹に驚きの目を向けている。
「アホか!俺はいつだってまともだ!」
平手で高橋の頭をパチンと叩く。
「痛ッ!叩くな!高校生の癖にウルトラマンごっこしてた人間が言う台詞じゃないわね。」
「ばっ!?おまっ!秘密って言ったじゃねーか!!」
高橋は大樹にウルトラマンごっこを無理やりさせられて別れを決めたらしい。
つきあって三日でウルトラマンごっこは大樹の中でセーフだったのだろう…アホまるだしだ。
「ははっ大樹だからな、そこは我慢しなきゃつきあえないよ」
「勇もあぁ言ってるじゃねーか!おまえが悪い!」
「なんですってぇ!?あんたがッ!」
――本当にこの二人の友達になれてよかったと思う。
「ほら、静にね。」
「そうだぞ?勇の見舞いじゃなく騒ぎにきたのかおまえは?」
「ぐっ……大樹…後で覚えておきなさいよ…」
高橋の言いたいことは分かるが大樹に口で勝てる人を見たことがない。
…まぁ大樹が高橋に喧嘩で勝ってるとこも見たことないけど。
「まぁ、元気そうでなによりだわ…早く病気治して学校に来なさいよ?」
「わかってるよ、こんなとこまでわざわざ悪かったな、退院したらお礼するよ」
イスから立とうとする高橋が中腰でピタリと止まる。
「あのさ…それじゃ一つだけ聞いてほしいんだけど…」
「なんだ?あんまり高いもの買えないぞ?」
神妙な顔つきで話そうとする高橋は少し怖かった。
「あっあのさ…」
「うん…」
大樹も意味が分からず高橋の顔を見ている。
「も、もしよかったら…」
「う、うん」
「…わっわたしの…こっ…ことも、下のなっなまえでy――「ガラガラガラ」
「「「勇ぅ〜!!」」」
「よ…ん……で…」
「は!?なっなんだ!!?」
高橋の話を真剣に聞いていたので、いきなり扉が開いたことにビックリした。
「なっなんだおまえら!!なんで今日くるんだよ!?」
大樹も驚いている。
高橋に至っては、驚きを通り越して放心している。
「ばか!!おまえら授業サボって見舞いに行きやがって!俺らも授業終わったから心配で見舞いに来たんだよ!!」
「みんな…てゆうか何人いるの!?」
部屋の中でも15人はいる。
「いや、わかんね。なんか部活の先輩もきてるみたいだけど…」
後ろのほうで俺の名前を叫んでいる。
嬉しいが何度も言うようにここは病院なんだけど…。
「少しくらい休憩しても、ここに来たみんなはおまえから離れていかねーぞ?」
大樹が嬉しそうに話す。
「うん…ありがとう…」
父のようになりたい…父のようになって家族を守れる人間になりたい。
それだけ考えて生きてきた…
――目標にはできるけど、本人にはなれない…
父から教わったものを同じようにしても父にはなれない。
なぜなら俺に無い物を父は持っているからだ…。
逆に父に無い物を俺は持っている。
これからは自分自身を貫いていこう。
こんなに自分を支えてくれる人がいるんだから。
この後一時間近く入れ替わり立ち替わり人が入ってきて騒ぎ倒して看護士に怒られ帰っていった。
最後に残った高橋と大樹も疲れた顔をしている。
「んじゃ…俺らも帰るわ…またくるからな?ちゃんと病気治せよ?」
大樹が俺の頭をポンッと叩いて扉を出ていった。
「それじゃ…またくるね…ちゃんと休んでね…」
どことなしか落ち込んでるみたいだ。
「わかった、それじゃーな、早苗。」
高橋がビクッとなり、こちらに振り返る。
「なんだよ?おまえが言えっていったんだろ?」
「え!?あっ!!うん……ありがとう…ちゃんと体治しなさいよ!?まってるからね!!?」
そう言うと、ゆるみきった顔で大樹の後を追いかけた。
「ふぅ…帰ったか…」
少し寂しいがこれでやっと落ち着ける。
時計を見るともう6時30分だ。
もうすぐ待ちに待った夕食がくるはず。
「さすがにお腹へったな…」
お腹をさすりながら呟く。
目を閉じ、ボーッとしていると。
遠くからカラカラと何かを押す音が聞こえる。
「…やっときた…」
音を聞いてすぐにわかった。
夕食を乗せた小さな台がこちらに向かっている…。
看護士の声も近づいてくる。
こっちも座って食事がくるのを待つ。
――コンっコンっ
「勇くん、夕食ですよ〜?入りますねぇ〜」
きた!!
待ちに待った食事がやっと運ばれてきた…。
「はい、しつれいしま〜す。」
看護士がベッドについてる台に夕食を置く。
「はい、それじゃ残さず食べてくださいね?」
「えぇ……(マジでお粥だけだ)…」
なにかおかずがついてくると思っていたのでガッカリする。
「あぁ、それとお母さんきたわよ。」
「え?そうなの?」
仕事が終わるのは早すぎる。
「うん、なんかお友達も一緒みたいだったわよ?。」
そういうと看護士のお姉さんは病室を出ていってしまった。
「お母さんの友達…?」
なぜ母の友達が見舞いにくるのだろう…意味が分からないが見舞いに来てくれるのであれば、対応しなければならない。
早く夕食にありつきたいが仕方がない…お客さんを迎えなければ。
――「あら勇?夕食?ごめんね〜少し早くきちゃった。」
母入ってきてその後から女性が入ってきた。
「お久しぶりね…勇くんでいいかしら?」
「え、えぇ……(誰だこの人…まったく覚えていない)」
入ってきた女性は身長が高くモデル体型の美人だが。すっかり記憶から消え去っている。
「ふふっまぁ覚えてるわけないわね…ほら入っておいで。」
その女性が横に声をかけると一人の少女が姿を現した。
――「え!?凪ちゃん!!?」
その女性の横にいたのは凪だった。
「え?っと…あれ?どういう…」
理由が分からず頭で考えるが、まったく浮かび上がってこない。
「前に言ったわよね?恭子がうちの会社の社長だって。」
そんなことを言ってた気がする…てことは…。
「凪ちゃんのお母さん…?」
「ピンポーン、大正解!」
凪母が両手でピースをする。
「でもなんでわかったの?俺はお母さんに言ってないよ?」
そう…凪のことを母にはまったく言っていないのだ。
「…それがね、凪の携帯の待受が勇くんの写メールなのよ。」
「は?俺の?」
凪が慌てて凪母を止めに入ろうとするが逆に凪の携帯を取り上げてしまった。
しかし俺には凪と写メを撮った記憶が全くない…。
「多分気づいてないわよ勇くん…だって…ほら。」
凪の携帯の画面を見せられる。
画面には情けない顔で爆睡してる自分の寝顔が写っていた。
「お兄ちゃん!!見ちゃ駄目!!」
凪母から携帯を取り返そうと必死になってピョンピョン飛び跳ねている。
「ははっまぁ許してやってね?凪も悪気があってやってるわけじゃないからね?」
凪母から携帯をとるとカバンの中に携帯を隠してしまった。
チラチラと泣きそうな顔でこちらを見ているがべつにこれぐらいでは怒りはしない。
「でもそれだけじゃ分からないはずじゃ…」
凪の携帯をみただけで父と離婚して名字が変わってるのに俺が母の息子だなんて気づくはずがない。
「少し前にね?あなたのお母さんが私にやたら息子の自慢をしだしたのよ…」
母に目をやるが「なにか?」と言った感じの目で返された。
「優しいわ、男前だわ、可愛いわベタぼめするから、顔を見せなさいって言ったらあなたの写メールを撮ってきたのよ。」
「また写メ!?」
今度は母の携帯を見せられる。
画面いっぱいにご飯を食べてる自分の顔が写っている。
「この写メールをみた時にどこかで見たことがあるなぁ〜と思ったのよ、そしたら凪の携帯に入っている、男の子と同じ顔だったわけよ、わかった?」
「はぁ…なんとなく」
少し強引な感じはするがここまで来てるのだから本当なんだろう。
「んで一週間前にあなたのお母さんから勇くんが入院してるって泣きながら話し聞かされたのよ……それを凪に話したら、病院の場所も知らないくせに泣きながら、また家出しようとしてねぇ〜。悪いと思ったんだけど来させてもらったわ。」
「そうですか…迷惑かけて申し訳ありませんでした。」
やっと少し状況が把握できてきた。
凪は凪母の後ろに隠れてモゾモゾしている。
「……それじゃ、ちょっとお母さん達は出かけてくるから。凪…迷惑かけちゃダメだからね。」
「え!?」
――意味がわからない。
病院に子供を普通置いていかないだろ。
「それじゃ、勇も優しくしてあげなきゃダメだからね?また後でくるわ、んじゃ」
そういうと二人ともそそくさ部屋を出ていってしまった。
残された俺と凪はポカ〜ンとしてるだけだった。
「凪ちゃん……元気だった?」
声をかけると凪の頭だけコクっと頷く。
「そっか…風邪とか大丈夫?最近風邪が流行ってるみたいだから…」
また頭だけコクっと頷く。
自分の服の胸元を握りしめて下を向いているため表情はわからない。
「お兄ちゃん……病気なの?…大丈夫…?」
聞き取りづらいか細い声で凪が聞き返してきた。
「え?大丈夫だよ、もうすぐしたら家に帰れるよ?」
「よかった……お兄ちゃん…?」
「ん?なに?」
「お兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
なぜ許可を求めるのかよくわからない、緊張してるのかもしれない。
「うんいいよ、おいで。」
凪にむかって手招きをする。
「やった!…それじゃ…よいしょっと…」
「…あぁ…だから許可を求めたのね……」
パイプいすに座るんじゃなくてベッドの中に入ってくるって意味か。
「お兄ちゃん…暖かい…」
真冬の中スカートで来てるのだから寒いに決まってる。
よく見るとほんの少し化粧してる…。
「お化粧してるの?…可愛いね」
「あ……ぁりが…と…ぅ」
顔が真っ赤っかでえらいことになっている。
ふとお粥に目を向ける。
まだ湯気がたっている…
美味そうだなと考えていると凪が気まずいことを言い出した。
「お兄ちゃん……私がご飯食べさせてあげるね!」
言うや否やスプーンとお粥が入ったお皿を掴んで俺の前まで持ってくる。
「はい、あ〜ん!」
「ははっそれぐらい自分で食べれ…」
「…お口…あ〜ん…して…」
「ないかもね…」
一生懸命口元にお粥の入ったスプーンを持ってこられたら自分で食べるなんて言えない。
「あ〜ん……パクッ……うん、美味しい。」
久しぶり食べる米は本当に美味しかった。
「ふふ〜ん、美味しいでしょ?」
さも自分が作ったかの如く誇らしげに話す。
多分凪が食べさせてるから美味しいと言わせたいのだろう。
「うん、美味しいね。ありがとう、凪ちゃん。」
「うん!!もっと食べさせあげる!はい、あ〜ん…」
このお粥が無くなるまで食べさせてくれるらしい。
「あ〜ん…」
――前と比べて少し積極的になった気がする。
初めて会った日は物凄く大人しい子だと思ってた。
なにをするにも顔色ばかり伺ってた。
まぁ他人に接する時は顔色も伺うか…ましてや知らない男の高校生となると、なおさらだ。
――「はい、終わり〜!美味しかった?」
皿とスプーンを台に戻して、もう一度ベッドに入り直す。
「うん、ごちそうさま。美味しかったよ、凪ちゃんも腕疲れたでしょ?」
「ううん、大丈夫!」
変な緊張がとけて安心したのか、凪の位置が俺の隣から膝の上になっている。
「あ!?そうだ!!…ふふ〜ん…お兄ちゃんビックリするよ?」
俺の指で遊びながら思い出したように声をあげる。
よく分からないが物凄く嬉しそうだ。
「お兄ちゃんの家の前にでっかい真っ白な家がいっぱいあるでしょ?」
「うん、あるね。その家がどうかしたの?」
最近、家前の道を挟んだところに住宅街が建てられた。
どの家もかなり立派で古家としてはあまり好ましくなかった。
「私とお母さんね〜そこに引っ越すことになったの!」
――「え?…は!?なっなんで?」
急な展開に頭が追いついていかない。
凪は満面の笑みで話すが、多分俺は苦笑いだったと思う。
「えっとね、もうすぐ私中学生でしょ?」
たしかに会ったとき、小学6年生だって言ってた。
「だから私、中学は〇〇中学校に行くの!」
「え!?マジで!?」
これには驚いた。
○○中学校は俺が通ってた中学校だ。
「マジで〜!だから退院したら引っ越し手伝ってね!?」
「う、うん、でもなんで?凪ちゃん中学校は決まってるはずじゃ…」
凪が通うお嬢様、お坊っちゃん小学校は隣にも同じようなお嬢様、お坊っちゃん中学校がある。
その小学校に通うと97%でその中学校に入ることになるらしい。
「こっちのほうが楽しいし、お母さんも自然が多い方がいいってさ。」
凪母…恐るべし。
金持ちの考えることはよくわからない。
てゆうか積極的すぎるだろ。
「それとね…その家の近くにね…私の好きな人が…いるから。」
後ろから見ても分かるくらい耳が真っ赤だ。
「へぇ〜一途だねぇ、んじゃ頑張らなきゃね。」
隣町まで追いかけてくるぐらい、好きなんだな。
少し感心する。
「うん…がんばる…お兄ちゃん…。」
凪も中学生だ。
行動と見た目が幼すぎて小さい子供のように接してしまうが立派な女性。
好きな人の一人や二人いて当たり前な歳だ。
――コンっコンっ
凪にもう一度ど頑張れといいかけたところに誰かが扉をノックする。
「ん?お母さん達帰ってきたかな?」
時計を見るともう七時半だ。
「お母さん達どこにいってたんだろーね?」
「なにか美味しい物でも食べにいってたんじゃない?」
「え〜ずるい!」
凪が俺の顔を見て不機嫌そうに言う。
――ガラガラッ
――「入るね〜勇〜大好きなお姉ちゃんが来ましッ!?…た…よ…。」
――扉から入ってきたの母達ではなく大学帰りの姉だった。
←前話に戻る
次話に進む→
コメントをかく