PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆6ksAL5VXnU氏


道路は生き物だ。というのは、自動車教習所で世話になった教官の言葉である。勿論、場所と言うのは動くことはない。この生きていると言うのは、変わると言うことである。朝と夜、晴れの日と雨の日、交通量に事故。
まったく同じ場所でも、俺たちドライバーに見せる顔はいつも違う。
この街は特にそうだ。深夜だろうが明け方だろうが、道路から人が絶える事は絶対にない。そういうのを見てきて、俺は人海の中にいるのだなと思うことがある。
「さっさと帰ろう」
信号が青であるのを確認して、アクセルをやや強く踏み込む。乱暴だと言われるかもしれないが、3時間もサービス残業させられたのに免じて許して欲しい。
「ちっ……はぁ」
舌打ち、そして大きなため息。
眼前には赤い列が途方もなく続いている。工事中らしかった。
「……はぁ」
またため息。いまさら進路変更など出来るはずもなく、俺はただ前の車の赤いランプを見つめることしか出来ない。
苛立ちがあった。だがそれ以上に疲れていた。
大学に通う為、田舎から来た俺にとって、この街は全くの異世界だった。まず驚くのはその人の多さである。主要な地区に出ると所狭しと往来する人、人、人。その中でも特に衝撃的だったのは、電車である。
俺は大学へ車で通うわけにもいかず、通学には電車を利用していたが、人が多くて身動きが取れないというのは初めてだった。
やがてそんな生活に慣れていくうちに、俺の中に怠慢もみえ始めていた。親元を離れ自由気ままに出来るようになったからか、よく朝方まで遊ぶといった事が多くなった。
それで結局、大学では教員免許を取ったくらいで特に何もなかった。
そして、免許が役にたったかは分からないが中堅クラスの企業に就職。今に至る。そこに小さい頃からの、俺の憧れだった東京はなかった。俺は東京と言う街に夢を見すぎていたのだ。

グゥーン、グゥーン、グゥーン
 ポケットに入れていた携帯が震える。メールだ。
「誰からだ?」
 俺は携帯をポケットから出して片手で開く。チェーンメールだった。なんともやるせない気分になってしまおうとしたときにふと、貼り付けてあるプリクラが目に入る。映っているのは高校時代の俺と、そして三月だ。
「懐かしいな」
 もう何年も前の物で、ぼんやりと白くなってしまっているが、その時の事は思い出せる。お互いゲームセンターなどには行かない人間だったが、デートの時に行った水族館で見つけ、せっかくだからと撮った物である。
「今何してんだろ」
 三月とは殆ど疎遠のようになっていた。田舎と東京という距離と仕事で時間が取れず、会えるのは数ヶ月に1度。こんな生活だから電話もゆっくりと出来ず、何時の間にか壁が出来ていた。
 緑の案内板が目に入る。高速道路の入り口だ。俺はそれをぼうと見つめて考える。いますぐに高速に入り、休憩無しで走り続けたら何時間くらいで三月の家に着くだろうかと。
 そんな考えが浮かんでは消えていく。
「情けねえ、いまどき女だってこれくらい耐えるのに」
 どうにも疲れている。情け有ろうが無かろうが、実際俺は疲れている。このまま事故でも起こしたら洒落にならないと思い、俺はコンビニへ寄った。田舎だと、原付にまたがったヤンキーがカップメンでもすすってそうなものだが、流石にいなかった。
 眠気覚ましのコーヒーと、ついでに次の日の朝食となるパンをひとつ。必要なものだけ買って外へ出る。商品を見て回るような事は何時の間にかしなくなった。
「……はぁ」
 何度目だよ。
 自分に突っ込みながら、俺は買ったコーヒーを開けて一気に飲む。喉も渇いていたようで丁度良かったかもしれない。1分も掛けずに飲み干し、車へ向かう。
 彼女に声をかけられたのはその時だった。
「もしかして……先生?」
 そして、俺は彼女を知っている。
「……川崎さん?」



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