当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

お笑い論・トップ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ(1)基礎
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ(3)下ネタ

ズレの作り方

 前頁で、色々なズレのパターンを見てきました。ここで簡単におさらいをしつつ、もう少し詳細にズレの作り方を見ておきます。
 ズレには、一段階目のズレと、二段階目のメタなズレがあります。三段階目以降のズレも理論上は観念できますが、理解が困難になるので実務の場面で用いられることはほとんどないというのは前述したところです。というわけで、以下の説明は一次的なズレと二次的なズレに絞って行います。
メタなズレ
 一段階目のズレはいわば普通のボケですが、この「普通にボケるはずである」というのを基準状態した場合のボケが二段階目のズレです。これには色々なパターンがあります。ズレの程度が大きすぎるあるいは小さすぎる(=普通ではない)ボケをする、おもしろくないボケをする(すべり芸)、ボケずに普通の解答をする、答えずに無視するなどが考えられます。これは、先に説明した通りです。
 「メタなズレ」というと笑いの中でも特殊な分野であると思う人もいるかもしれませんが、それは大いなる勘違いです。注意して見れば、実例はそこら中に転がっています。メタなズレが笑いとして許容されるには「普通の適切なボケが提供される」状態が、ズレではなく基準状態になる必要がありますが、これはそれほど異常な現象ではありません。舞台であれテレビであれ映画であれ、笑いに特化したコンテンツ(コント舞台・お笑い番組・喜劇映画など)を提供する場合、受け手も通常「笑いに特化したコンテンツである」ということを予測しているため、「普通の適切なボケが提供される」ことを基準状態として予期するからです。
 実例としても、有名どころを挙げることができます。以下では例としてビートたけしさん・とんねるずの2つを紹介しておきます。
 たけしさんととんねるずは、他の芸人がやればズレ過ぎだろうと考えられるような大きなズレを敢えてやっていくことを芸風としています。ここでは、「適切な程度のズレをする」というのが基準状態であり、「適切でない大きなズレをする」という意味でメタなズレが提供されています。たけしさんは、「適切な程度のズレ」という一線を一歩も二歩も踏み越えて、他の芸人がやれば受け手がひいてしまうようなこと(人の車やセットそのものの破壊など)を平気でやってきます。とんねるずも、テレビの企画で何らかのゲームをやるという場合に、他の芸人がルールの枠内で転んだり失敗したりといったズレを提供している中で、ゲームのルールそのものを壊したり、無視したり、とんねるずに有利なように理不尽に改変したりといったズレをよく作出します。また、たけしさんもとんねるずも、通常話題にすることがタブーとされるようなネタやゴシップにも臆面なく触れてきます(これらの傾向は特に石橋さんに顕著です)。
 たけしさんととんねるずに共通するのは、このような大きなズレの作出を繰り返すうちにそれが芸風と化し、視聴者がそのような大きなズレをもシャレとして許容するようになっているという点です。別の言い方をすれば、たけしさんやとんねるずがテレビで何かをやる場合、このような大きなズレを日常的に提供されるため、それが普通になり、結果として基準状態が通常の場合よりも引き上げられ、より大きなズレが「適切」として許容されるようになっているということです。ただこれはたけしさんやとんねるずの芸風に日常的に触れている人でなければ許容しにくいズレであるため、いきなりこれらの大きなズレに触れた視聴者は、「なんだこいつらは」と思ってしまう危険性があるということでもあります。ここは、フリやツッコミによって、「どこを基準状態とすれば適切な程度のズレになるか」についての視聴者の理解を支援する必要があります。

お笑い論・トップ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ(1)基礎
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ(3)下ネタ

管理人/副管理人のみ編集できます