お笑い論・トップ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ（２）メタなズレ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（４）程度の極端さ
前頁で見たのは二段階目のズレです。では、一段階目のズレの実例にはどのようなものがあるでしょうか。この点は未だ十分に説明していないので、以下で少しばかり解説を加えます。実はこの一段階目のズレの作り方が笑いの技術の中核を為しているのですが、その作り方は無限にあるといっても過言ではないので、言語化して説明するにしても、統一的な体系に収まりきるものではないです。なので、ここからはよく用いられるパターンをいくつか挙げていくという形で筆を進めていきたいと思います。
下ネタ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ（２）メタなズレ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（４）程度の極端さ
前頁で見たのは二段階目のズレです。では、一段階目のズレの実例にはどのようなものがあるでしょうか。この点は未だ十分に説明していないので、以下で少しばかり解説を加えます。実はこの一段階目のズレの作り方が笑いの技術の中核を為しているのですが、その作り方は無限にあるといっても過言ではないので、言語化して説明するにしても、統一的な体系に収まりきるものではないです。なので、ここからはよく用いられるパターンをいくつか挙げていくという形で筆を進めていきたいと思います。
下ネタ 
初っ端に敢えて下ネタを持ってきたのは、分かりやすいからです。
下ネタは、生殖ネタと、排泄ネタに大別することができます。両者の共通点は、いずれも生物としてのヒトに不可欠な営みでありながら、隠蔽されていることです。「隠蔽されている」というのは多分にレトリカルな言い方ですが、要は、生殖行為と排泄行為は人前で行うことが基本的に禁止されており、更に直接的な行為のみならず、これを話題にすることさえ憚られているということです。そして、単に禁止されているのみならず、これらを人前で行うことや話題にすることは、大なり小なり人に不快感をもたらします。例は挙げるまでもないですが、例えば電車の中で生殖や排泄に及ぶことができる人はなかなかいないでしょうし、ウンコやセックスについて電車の中で大声で話題にできる人もなかなかいないのでしょうか。ここを読んだだけで不快感やエンバラスメントを覚えた方もいるでしょうが、それは前述の通り生殖や排泄を話題にすることが人に不快感をもたらすからです。
なぜか。これは個人的に興味のある問題なので、以下筆者の考えたところを述べます。ただあまり関係がない話なので、読み飛ばしていただいて結構です。
生殖行為や排泄行為はある程度の時間を必要とするため、これを行っている最中は大きな隙を作ります。そのため同種の別個体や異種の個体に、邪魔されたり、生命を脅かされたりする危険が生じます。これを防止するためには、隠れて行うことが合理的であります。ゆえに、これらの活動は、隠蔽することがよしとされたのだと考えられます。
そうであれば生殖行為や排泄行為自体を大っぴらに行うことさえ禁止すれば足り、これを話題にすることさえ禁じる必要はないと思われます。にもかかわらず後者まで禁じられたのは、道徳の作成段階での単純化が生じたからだと考えられます。
生殖行為や排泄行為を大っぴらに行うのを禁止するにはどうすればいいでしょうか。それには「生殖行為や排泄行為を人目につくところで行うのは良くないことである」という道徳・価値観を作り出して、まだ子どものうちにこれが内面化されるレベルにまで教育を行うのが手っ取り早いです。「内面化」というのは、そのような道徳や価値観に反することを言ったり、聞いたり、考えたりするだけで、不快感・不効用を生じるような状態のことです。こうすると、「人目につくところで生殖や排泄を行う」ことを考えるだけである程度の不快感・不効用を人は感じるようになるため、禁止のための特別の仕組みを作らなくとも、人は自発的に隠れて生殖や排泄を行うようになります。生殖や排泄を邪魔されずにスムーズに行うための仕組みが、安価に設計・維持できるのです。
ただこのような道徳はまだ理解力の至らぬ子どもに教え込む必要があるため、過度に単純化される傾向にあります。複雑だと教育がしにくいうえに、定着や内面化もしにくくなるからです。これが道徳の単純化と言われる現象です。
そのため、生殖や排泄を隠蔽する本来の趣旨からすれば� 崟舷�や排泄は邪魔されぬような状況で行うべし」で足りるにもかかわらず、�◆崟舷�や排泄、またそれにまつわる言動は第三者のいるような場で大っぴらに行うべからず」という単純化されたものになってしまうのです。これによって、�，任狼�されるかもしれない「生殖や排泄を決して邪魔しないような仲間の前での生殖」も単純化・拡張された�△瞭仔舛砲茲辰洞愡澆気譴討靴泙Δ箸いΩ従櫃�生じます。それは、前述した通り、このような例外を設けてルールの内容を複雑化すること自体が道徳教育の奏功を妨げるものだからです。
さてこのように、生殖及び排泄にまつわる言説は話題にすること自体が大なり小なり禁止されているため、これを人前で話題にした時点で、「禁止されていることを話題にしている」というズレを作り出します。これが、下ネタのズレです。このズレは、「禁止されているボケを敢えて話題にしている」という意味ではメタなズレであるともいえます。話題にした時点でズレを生ぜしめることができるのだから、これほど簡単なことはないです。この簡単さが下ネタの利点でもあります。
ただ当然デメリットもあるわけで、以下のようなものが指摘できます。これは単純さというメリットと表裏一体です。
�ヾ蔽韻任△襪�ゆえに誰にでも作ることができ、陳腐なものになりやすい。他者によって既に行われている危険性も高い。
�◆峩愡澆気譴討い襪海箸鯱誕蠅砲靴討い襦廚箸いΕ坤譴肋錣剖δ未垢襪�ゆえに、ワンパターンになりやすい。
�８気�禁止されているだけに受け手がひいてしまうような過度なズレにも陥りやすく、客層を考える必要がある
�´△砲弔い討蓮�他の角度からのズレ（後述する「たとえ」などがよく見られます）を盛り込み、差別化を図っていくことで解消が可能です。ただ「ワンパターンなものをやらない」というのを基準状態だと考えると、ワンパターンな陳腐なものを敢えてやってしまうというメタなズレを観念することもできます。「うんこ」が一周しておもしろいというのは、このようなメタなズレを認識した結果ではないでしょうか。
��は、受け手が多いテレビなどでは特に考えるべき問題です。受け手が多いと、下ネタが嫌いな人、下ネタのストライクゾーンが狭い人（その人にとっての「適切な程度のズレ」を提供する下ネタが少ない人）がいる危険性が高くなるからです。とはいえそのような人が一人でもいるから下ネタを諦めるべきであるということにはなりません。受け手の多数派が好きならば、下ネタをやっていくという選択肢も十分に考えられます。全ての人に受容される笑いというものを作り出すのは当然ながら大変に困難であり、下ネタ以外のネタをやったところで嫌いな人や笑えない人は出てくるため、下ネタが嫌いな人がいるからといって、それだけで下ネタを諦めるべきだという強い根拠にはなりません。要は、お客さんに適した笑いを考えていけばよいのです。
なお一点付言をば。下ネタは、一般的にそうでないネタよりも低く見られる風潮・傾向がありますが、それはなぜでしょうか。確かに�´↓�といった難点はありますが、これはいずれも下ネタのみに言えることではありません。�，隆蔽韻任△襪箸いε世蓮�後述する「程度の極端」や「マニアック」にも通じるものです。詳しくはこれらの項を読んでいただきたいですが、そもそも本書のようなマニュアル化が可能である以上、下ネタと同程度にひとつの容易なパターンとして確立されているものです。�△離錺鵐僖拭璽鵑任△襪箸いε世癲△笋呂蠕莉劼靴拭屬垢戮蠏檗廚筺�後述する「シュール」にも言えることです。例えば「すべり芸」におけるズレは、「おもしろいことを言うべき場ですべっている」というワンパターンなものです。��にしても、下ネタ以外にも嫌いなネタや合わないネタを持っている人はいます。下ネタが嫌いな人が他のネタが嫌いな人よりも有意に多いというのならば、下ネタは他のネタより劣っているといえるかもしれませんが、簡単にそのように断ずることはできないのではないでしょうか。
結局、下ネタが他のネタより低く見られているのは、こういったことを話題にすることを押し並べて禁止・敵視する過度に単純な道徳によるところが大きいのではないでしょうか。
下ネタがもっと日の目を見るべきとだと考えている人は、そのように過度に単純化された道徳は直ちに相対化されるべきであり、下ネタが迫害されている現状も是正されるべきだと考えるかもしれません。しかし、そもそも下ネタがボケとして成り立っているのは、この道徳があって、下ネタを大っぴらに話すことが「ズレ」を生ぜしめているからで、下ネタを話すことが全面的に許容された瞬間に、下ネタを話すことは別にズレでもなんでもなくなり、ボケとして成立しなくなるというパラドクシカルな構造がここにあります。
ゆえに、下ネタが好きな人は、この状況を受け止めるしかないのではないでしょうか。下ネタが低く見られているという現状は、「低く見られているネタを敢えてやっている」というメタなズレをも附随的に生み出すものであって、敢えて問題視すべきことだとも言えません。
お笑い論・トップ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ（２）メタなズレ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（４）程度の極端さ
下ネタは、生殖ネタと、排泄ネタに大別することができます。両者の共通点は、いずれも生物としてのヒトに不可欠な営みでありながら、隠蔽されていることです。「隠蔽されている」というのは多分にレトリカルな言い方ですが、要は、生殖行為と排泄行為は人前で行うことが基本的に禁止されており、更に直接的な行為のみならず、これを話題にすることさえ憚られているということです。そして、単に禁止されているのみならず、これらを人前で行うことや話題にすることは、大なり小なり人に不快感をもたらします。例は挙げるまでもないですが、例えば電車の中で生殖や排泄に及ぶことができる人はなかなかいないでしょうし、ウンコやセックスについて電車の中で大声で話題にできる人もなかなかいないのでしょうか。ここを読んだだけで不快感やエンバラスメントを覚えた方もいるでしょうが、それは前述の通り生殖や排泄を話題にすることが人に不快感をもたらすからです。
なぜか。これは個人的に興味のある問題なので、以下筆者の考えたところを述べます。ただあまり関係がない話なので、読み飛ばしていただいて結構です。
生殖行為や排泄行為はある程度の時間を必要とするため、これを行っている最中は大きな隙を作ります。そのため同種の別個体や異種の個体に、邪魔されたり、生命を脅かされたりする危険が生じます。これを防止するためには、隠れて行うことが合理的であります。ゆえに、これらの活動は、隠蔽することがよしとされたのだと考えられます。
そうであれば生殖行為や排泄行為自体を大っぴらに行うことさえ禁止すれば足り、これを話題にすることさえ禁じる必要はないと思われます。にもかかわらず後者まで禁じられたのは、道徳の作成段階での単純化が生じたからだと考えられます。
生殖行為や排泄行為を大っぴらに行うのを禁止するにはどうすればいいでしょうか。それには「生殖行為や排泄行為を人目につくところで行うのは良くないことである」という道徳・価値観を作り出して、まだ子どものうちにこれが内面化されるレベルにまで教育を行うのが手っ取り早いです。「内面化」というのは、そのような道徳や価値観に反することを言ったり、聞いたり、考えたりするだけで、不快感・不効用を生じるような状態のことです。こうすると、「人目につくところで生殖や排泄を行う」ことを考えるだけである程度の不快感・不効用を人は感じるようになるため、禁止のための特別の仕組みを作らなくとも、人は自発的に隠れて生殖や排泄を行うようになります。生殖や排泄を邪魔されずにスムーズに行うための仕組みが、安価に設計・維持できるのです。
ただこのような道徳はまだ理解力の至らぬ子どもに教え込む必要があるため、過度に単純化される傾向にあります。複雑だと教育がしにくいうえに、定着や内面化もしにくくなるからです。これが道徳の単純化と言われる現象です。
そのため、生殖や排泄を隠蔽する本来の趣旨からすれば� 崟舷�や排泄は邪魔されぬような状況で行うべし」で足りるにもかかわらず、�◆崟舷�や排泄、またそれにまつわる言動は第三者のいるような場で大っぴらに行うべからず」という単純化されたものになってしまうのです。これによって、�，任狼�されるかもしれない「生殖や排泄を決して邪魔しないような仲間の前での生殖」も単純化・拡張された�△瞭仔舛砲茲辰洞愡澆気譴討靴泙Δ箸いΩ従櫃�生じます。それは、前述した通り、このような例外を設けてルールの内容を複雑化すること自体が道徳教育の奏功を妨げるものだからです。
さてこのように、生殖及び排泄にまつわる言説は話題にすること自体が大なり小なり禁止されているため、これを人前で話題にした時点で、「禁止されていることを話題にしている」というズレを作り出します。これが、下ネタのズレです。このズレは、「禁止されているボケを敢えて話題にしている」という意味ではメタなズレであるともいえます。話題にした時点でズレを生ぜしめることができるのだから、これほど簡単なことはないです。この簡単さが下ネタの利点でもあります。
ただ当然デメリットもあるわけで、以下のようなものが指摘できます。これは単純さというメリットと表裏一体です。
�ヾ蔽韻任△襪�ゆえに誰にでも作ることができ、陳腐なものになりやすい。他者によって既に行われている危険性も高い。
�◆峩愡澆気譴討い襪海箸鯱誕蠅砲靴討い襦廚箸いΕ坤譴肋錣剖δ未垢襪�ゆえに、ワンパターンになりやすい。
�８気�禁止されているだけに受け手がひいてしまうような過度なズレにも陥りやすく、客層を考える必要がある
�´△砲弔い討蓮�他の角度からのズレ（後述する「たとえ」などがよく見られます）を盛り込み、差別化を図っていくことで解消が可能です。ただ「ワンパターンなものをやらない」というのを基準状態だと考えると、ワンパターンな陳腐なものを敢えてやってしまうというメタなズレを観念することもできます。「うんこ」が一周しておもしろいというのは、このようなメタなズレを認識した結果ではないでしょうか。
��は、受け手が多いテレビなどでは特に考えるべき問題です。受け手が多いと、下ネタが嫌いな人、下ネタのストライクゾーンが狭い人（その人にとっての「適切な程度のズレ」を提供する下ネタが少ない人）がいる危険性が高くなるからです。とはいえそのような人が一人でもいるから下ネタを諦めるべきであるということにはなりません。受け手の多数派が好きならば、下ネタをやっていくという選択肢も十分に考えられます。全ての人に受容される笑いというものを作り出すのは当然ながら大変に困難であり、下ネタ以外のネタをやったところで嫌いな人や笑えない人は出てくるため、下ネタが嫌いな人がいるからといって、それだけで下ネタを諦めるべきだという強い根拠にはなりません。要は、お客さんに適した笑いを考えていけばよいのです。
なお一点付言をば。下ネタは、一般的にそうでないネタよりも低く見られる風潮・傾向がありますが、それはなぜでしょうか。確かに�´↓�といった難点はありますが、これはいずれも下ネタのみに言えることではありません。�，隆蔽韻任△襪箸いε世蓮�後述する「程度の極端」や「マニアック」にも通じるものです。詳しくはこれらの項を読んでいただきたいですが、そもそも本書のようなマニュアル化が可能である以上、下ネタと同程度にひとつの容易なパターンとして確立されているものです。�△離錺鵐僖拭璽鵑任△襪箸いε世癲△笋呂蠕莉劼靴拭屬垢戮蠏檗廚筺�後述する「シュール」にも言えることです。例えば「すべり芸」におけるズレは、「おもしろいことを言うべき場ですべっている」というワンパターンなものです。��にしても、下ネタ以外にも嫌いなネタや合わないネタを持っている人はいます。下ネタが嫌いな人が他のネタが嫌いな人よりも有意に多いというのならば、下ネタは他のネタより劣っているといえるかもしれませんが、簡単にそのように断ずることはできないのではないでしょうか。
結局、下ネタが他のネタより低く見られているのは、こういったことを話題にすることを押し並べて禁止・敵視する過度に単純な道徳によるところが大きいのではないでしょうか。
下ネタがもっと日の目を見るべきとだと考えている人は、そのように過度に単純化された道徳は直ちに相対化されるべきであり、下ネタが迫害されている現状も是正されるべきだと考えるかもしれません。しかし、そもそも下ネタがボケとして成り立っているのは、この道徳があって、下ネタを大っぴらに話すことが「ズレ」を生ぜしめているからで、下ネタを話すことが全面的に許容された瞬間に、下ネタを話すことは別にズレでもなんでもなくなり、ボケとして成立しなくなるというパラドクシカルな構造がここにあります。
ゆえに、下ネタが好きな人は、この状況を受け止めるしかないのではないでしょうか。下ネタが低く見られているという現状は、「低く見られているネタを敢えてやっている」というメタなズレをも附随的に生み出すものであって、敢えて問題視すべきことだとも言えません。
お笑い論・トップ
前→お笑い論 2.ボケとツッコミ（２）メタなズレ
次→お笑い論 2.ボケとツッコミ（４）程度の極端さ
最新コメント