当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

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食べ物の好き嫌い

A.美味しんぼと弟の好き嫌い

 うちには、今のところ美味しんぼが全巻あります。
 美味しんぼという漫画は、究極のメニューなるものを作る過程を描いた漫画なのですが、多分、世の中で一番美味しい物を作ろうとしているのです。

 話は変わりますが、うちの弟は、一言で言うと偏食で、例えば果物は、リンゴと、パイナップルと、デラウェアという小さいブドウは食べますが、他は一切食べません。イチゴもメロンもスイカもモモもバナナもキウイもマンゴーもナシもカキも嫌いで、好んでは食べません。デラウェアは食べるくせに、巨峰もマスカットも食べないのです。筆者からすれば、弟が食べる果物と、食べない果物の違いがよく分かりません。
 ここで気が付いたのですが、食べ物の味と匂いを決めるのは、人の脳なのです。脳が味覚と嗅覚を司っている以上、他人がある物を食べたときにどのような味と匂いを感じているかは究極的には分かりようがないし、人によって千差万別なのです。美味しんぼが、この世の中で一番美味しい物を見つけたとしても、それを美味しく感じられない脳を持っている人はいるかもしれないのです。
 だから、美味しんぼがやっていることはとても無為なことだと思えるようになってしまい、美味しんぼをあまり情熱的に読むことができなくなりました。それでも美味しそうな物が出てきて、それを美味しそうだなと感じることができるという観点からは高いレベルでまとまっている漫画だと思うので、読み続けています。
 ただ100巻を超えたぐらいから「絵に生気がなくなった」というのは弟と意見が一致しています。何が違うのかははっきり言語化できませんが、表情の描き込みやパターンが乏しくなったのかな。


 ちなみに、食べ物の好き嫌いはどのようなメカニズムで生じるのかということにも筆者は興味があります。父方の祖母も偏食で、炭水化物(ご飯・パン・麺類)がほぼすべて嫌いで、代わりに豆腐を食べていました。また、歳の割には牛肉と辛い物が大好きでした。生魚も好きではなさそうでしたが、嫌いな物の上に嫌いな物が乗っている寿司は好きでした。弟よりも統一性がありません。
 修習先の刑事部にも偏食気味の人がわりといました。2係の書記官さんは、嫌いな物が色々と多そうでしたが、牛・豚・鶏以外の肉(ラムや馬肉など)とシーフードは全て嫌いそうでした。立会の事務官さんは、野菜が全て嫌いでした。部長は、一番普通ですが、納豆やチーズみたいな臭いの強いものが苦手だったようです。
 この好き嫌いの問題に興味を持ってから意識してサンプルは集めている(例えば、同期の修習生にはマヨネーズが嫌いな人がいます。また、別の修習生の彼女はイカが嫌いです。指導係の検事はキウイが嫌いでした)のですが、仮説さえ全く立っていない段階です。結局、脳がブラックボックスなので、まあ、ブラックボックスなのでしょう。
 かくいう筆者は、色々と好き嫌いは減ってきましたが、未だに嫌いなものは、カニと二枚貝です。保育園でも、給食にカキフライが出たときは、わざと床に落としていました。食べたくないから。あまり怒られた記憶はありません。保育園では他にもおやつにビーフンや干し芋が出たのですが、これを「おやつ」と認めることができず、好きにはなれませんでした。ビーフンと干し芋は今では好きな部類に入ります。
 他に、筆者には「嫌いではないがテンションが上がらない食べ物」と言うものがあります。おでん・お好み焼き(広島も大阪も)・刺身・とろろです。食べられますが、格別美味しいとも思えないのです。お好み焼き屋に入ったときは、焼きそばや焼きうどんを好んで食べていました。

B.「一番好きな食べ物は何ですか」

 この質問をしてくる人に問いたい。あなたは自分が一番好きな食べ物を本当に突き詰めて考えたことがありますか?
 普通、好きな食べ物というのは複数あるはずである。筆者にも複数ある。カツ丼・大福・海苔・炭水化物全般・アスパラ・鶏皮・メロン・美味しい物…。はっきり言えば、この中での序列をつけたことはない。今考えてみたが、この中で序列をつけることはできなかった。どれが一番かを決めることなどできない。明日死ぬとしたらどれを食べるかと聞かれたら、多分全部食べるだろう。そもそもジャンルが異なる。「炭水化物」や「美味しい物」みたいな抽象的な概念も入っている。「鶏皮」や「アスパラ」は素材として好きなので、安い物でも調理法がどうであろうともおそらく好きなのだが、そうでない素材でも、質が高くてうまく料理されていれば好きである。ここでは片方の天秤に乗っかっているのが素材で、もう片方に乗っかっているのが調理法や品質である。単位が違えば、比べようがない。
 結局「一番好きな食べ物は何ですか」という質問が抽象的すぎるのである。「食べ物」が何を指すのかが全く不明である。素材のことを聞いているのか、料理法のことを聞いているのか、何なのか。もう少ししぼってくれないと答えようがない。
 好きな食べ物は多々あって、その中で統一的な序列をつけること自体がそもそも不適切なのである。
 別に食べ物に限らず、「一番好きな小説」でも「一番好きな映画」でもいいのだが、普通好きな物は複数あるはずで、それにトップからビリまでの明確な序列がつけられる場合の方が少ない気がするのである。

C.筆者の味覚

 グラフを以下に引く。



 通常人は連続的でなだらかな直線を書くが、筆者の場合上記のようなぶつ切りの線分になる。一番原点に近い位置にあるのが、「まずい」エリアである。「まずい」中にも序列があるので、客観的な美味しさが増せば徐々に筆者の主観的な感覚としての美味しさ(まずくなさ)も増加していく。ただし増加のしかた(傾き)は一般人よりも緩やかである。
 客観的な美味しさが一定の閾値に達すると、ポーンと筆者の中でのポイントは跳ね上がる。これが、真ん中の線分であって、「美味しい」のエリアである。客観的な美味しさがここから更に増していって別の閾値に達すると、再びポーンと筆者の中でのポイントが跳ね上がる。これが筆者の中での「すごく美味しい」エリアである。ただ、「まずい」と「すごく美味しい」はいずれも滅多に出ない。感覚的には95%が「美味しい」であり、一番広いエリアをカバーしている。牛角も「美味しい」に入る一方、叙々苑も「美味しい」エリアに入ってきてしまうのが私の舌である。
 要は、筆者にとっての食べ物の味は「まずい」「美味しい」「すごく美味しい」の三種類しかなく、「普通」がないということを高尚な形で言いたかっただけである。
 そもそも「客観的な美味しさ」なぞどうやって求めるのかという問題があるが、多分何人かの「主観的な美味しさ」の平均値をとるのだろう。

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