当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 今般放映されたTBSドラマ『重版出来!』の1話(2016年4月12日放映)と2話(同月19日放映)を見たので、現段階での感想を記す。

 まあ、結論から言えば普通によくできたエンターテインメントである。

 『重版出来!』は、同名の漫画作品が原作であり、一人の新人出版社員の奮闘を描いた成長譚である。
 エンターテインメントというものは、客(=視聴者)をいい気持ちにさせないといけない。いい気持ちになれるからこそ、客はエンターテインメントに(時にはお金を払ってまで)接するのである。
 そしてこの手の成長譚では、客が感情移入している主人公が、(成長の結果)客が現実世界ではできないようなことを成し遂げるからこそ、彼らの溜飲を下げることができるのである。そのために、主人公は現実世界の一般人が持ってないような能力や特技を持たせないといけない。本作の主人公・黒沢心の場合、それは並外れた「コミュ力」のようなものになるのだろう。先輩編集者や大作家相手にもズケズケと物を言う。自分が素晴らしいと思った作品は書店員やその他の業界関係者に本心から猛プッシュできる。そこに、「営業」がともすれば陥りがちな嘘偽りはない。松岡修造のように、色々なものを本気で「すごい」と思えて、それを本気で他人に伝えることができるのである。

 さて、このような主人公も、能力が高すぎると嫌味になってしまう場合があるので、客が感情移入できるように適度に親近感を持たせる必要がある。手っ取り早いのは、分かり易い欠点や挫折のストーリーを入れ込むことである。黒沢の場合は、大学時代に打ち込んでいた柔道をケガのために断念せざるを得なくなったという挫折の過去を持っている。女性なのに柔道に打ち込んでいたというある種の女っ気のなさは一つの「欠点」にもなっている。
 その意味では、親近感と高い能力を併せ持った非常に申し分のない主人公なのである。

 1話は、黒沢が入社面接の際に社長を投げ飛ばしてしまうというシーンから始まる。このシーンによって、黒沢の上記のような「欠点」が客には強烈に植え付けられ、ここで生じた親近感から感情移入が起きる。自分が感情移入した黒沢がぶつかる様々な壁に、客は心を掻き乱され、それが最終的に黒沢本人の創意工夫によって解決されることで、安堵し、快感を得る。1話も2話も基本的にはこのストーリーラインに綺麗に乗っかっており、まさにお手本のようにお行儀のいいエンターテインメントなのである。

 とはいえ基本的には原作の漫画版を忠実に再現したドラマであるため、漫画からして既に出来のいいエンターテインメントだったということである。ドラマの作り手には、これを忠実に映像化できたという以外の手柄は特にない。あくまでお行儀のいい一エンターテインメントなので、そっぽを向かれることもないだろうが、大化けもしないだろう。

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