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ギアノス・フェイク7

スレ番号タイトルカップリング作者名備考レス
ギアノス・フェイク7 2-332擬人化(ギアノス)・否エロ193〜197

ギアノス・フェイク7


もう数年も前のことだ。
お兄ちゃんもまだ居たし、丁寧な話し方をする、あの博学な友達だってこの村に居なかった頃。
勿論いつもヒトの姿をしている、あの青年だって村に来ていない頃。
私は毎日、長髪の女の子と遊んでいた。
その頃に初めて、私は竜を見たのだ。
あの竜はある日突然私たちに襲い掛かってきた。オレンジ色の鱗を全身に纏い、緑色の瞳を持った四つん這いの竜だ。
私達は先代――いや、お兄ちゃんの前だから先々代か、そのリーダーに率いられ逃げた。
そして――追い詰められたのだ。

「グワァァアアア!!」

巨大な声に身が竦んだのを覚えている。
まるで神々しいばかりの巨体。
見上げることしか出来ぬような有様の私たちにとっては“戦う”等という意思を放棄させるには十分すぎるほどだった。
天空から降ってきたものと勘違いさせられるような前脚の一撃で、前衛だった、その時のリーダーや男たちの半数近くがやられた。
あたり一面に飛び散った血を生々しく今も覚えている。

「ギャァアッ」

威嚇の声を上げたものは「うるさい」と言わんばかりに叩き伏せられる。
私達は家族が、或いは知り合いが、恋人が、彼女の娘に喰われる様をただ見ていることしか出来なかったのである。
幸いにも長髪の友達は家族を失うことは無かったが、私は父を失った。目の前で喰われたのだ。
理不尽だ。あの時、確かに私は理不尽さを感じていた。
彼らは力を有している。ただその種に生まれたと言うだけで、他を絶する超然たる力を持っているのだ。
彼らの眼はいとも容易く私たちの脚を駄目にする。彼らの腕はいとも容易く私たちを死に差し向ける。

彼らの歯はいとも容易く、私たちの肉を餌に変えるのだ。

「グワァァアアア!!」

先程と同じ調子で、竜が嘶いた。肌がびりびりと震えるほどの揺れ。
緑色の眼が――私を――見た。吸い込まれるような浮遊感。恐怖が強すぎて吐き気がした。
竜が脚を持ち上げる。その動作が異常にゆっくりに見えた。
鋭く尖った私の頭ほどもある爪が、真っ直ぐ私の元へ――

「ギャァァアアァア!!」


皆が悲鳴をもらした瞬間、私はもう死んだのだと思った。
潰され、私の血が雪に混ざり、喰われ、私の肉が竜に混ざるのだと。
そんな絶望は鋭い金属音によって阻まれた。

「…何グロイことしてんだよ、全く」

その人間は竜の爪を細い棒のようなもので薙ぎ払っていた。
右爪が完膚なきまでに破壊され、血が噴き出している。

「グワァアァアア!!」

竜の悲鳴、なのだろう。
また、私たちはその時皆人の姿をしていなかった為、男が何を言ったのかは解らなかった。

「『戦場では、力あるものが生き残る』。まあ言ってもそのなりじゃあ分からんだろうが、お前と同じ、竜の言葉だ」

次の一太刀。後に知る事になるが、彼があの時使っていた武器は太刀と呼ばれるものだったのだろう。
このときの男の戦い方はその後とても役に立った。
敵の攻撃をかわし、すれ違いざまに斬る。敵の勢いすらも利用する型だ。
…村に来たあの彼も、同じことをしていた気がする。

「グワァアァ!!グワァアア!!」

あれだけ大きかった存在が、ただ一人の男によって傷を受けている。
そのことにただ唖然とした。
数分も過ぎれば、あたりは血だらけ、竜は傷だらけになっていた。

「じゃあ、そろそろサヨナラかな」

男が何か口にして、竜の額に刃を突き立てようとした時、突然竜の様子が変わった。
前脚が紅く染まり、今までに無いほどに大きな声で鳴いたのだ。

「グワァァアアアアアアアアアアア!!」

竜の目の前の雪が抉れた。竜を中心とする同心円が雪原に描かれる。
それでも男はおびえることも無く、

「うるせえんだよ!」

何かを叫んだ後、竜を“見た”。


ただそれだけのことで、竜は動けなくなった。
眼を驚愕に引きつらせて、自分に突き刺さる刃をただ見ている以外のことが、出来なくなったのである。
額から夥しい量の血を流し、一つ二つ、大きな痙攣をして竜は死んだ。
絶大なる力を持ったものは唐突に消え去った。張り詰めていた竜の存在が、場から消え去ったのだ。
生臭い匂いが更に強く立ち込めた。
竜を殺す。ただそれだけのことを、そして恐ろしいことをして、その男は消えてしまった。

「助かった…の?」

長髪の少女に話しかけられた。私は失念した何かを思い出そうとしていた。
竜の死。その大きすぎる事柄に隠れてしまった何か。
それは――

「お父さん!!」

言うなり私は駆け出した。次いで、同じように放心していた彼ら――兄や、その他ヒトを失った人たちが動き出した。
死体に駆け寄る。父はもう、頭しか残っていなかった。全身に冷や汗が出た。
そっと手を伸ばしたけれど、どうしても触れることが出来ない。
凄惨すぎたのだ。その者の死を認め、悲しみ、そして乗り越えるには。
その屍体は余りにも酷かった。
怒りの矛先は、当然竜と、そして竜の娘に向かった。異常な行動だった。止めるべきだった。
超然たる力を持つと、そう定められた竜なのだから。
竜の娘は痛めつけられ逃げ出した。私たちへの恨みだけを持って――。





ベッドに横たわった少女はその思い出だけを語り、後はもう何も食べずに寝込んでしまった。
村ではギアノスたちがヒトの姿でヒトの姿の女を切り分け、焼き、喰らおうとしていた。
軽く吐き気がする。とても食べられたものではない。
彼らにとっては「獲物」でも、俺の中ではまだ整理が付いていないのだ。
そうだ。まだ決着のついていない問題だってある。何故彼女はヒトの姿を有していたのか。
俺はこの群れだけが特別だとずっと考えてきていたのだが、ヒト型の竜を見ても驚くことなく対応していたようだ。
ヒト型になれる動物はまだいるのだろうか?俺はヒトの姿をした動物なんて見たこと無かったがな。
いや、竜忌はどうだ?彼女は人ながらに竜の力を有していると言うふれこみだったが――。
もやもやした考えを必死にまとめようとしていると、かたん、と真後ろで足音がした。

「…誰?」

振り向いた先に、敬語で話すあの娘が居た。

「…君は」

「こんにちは。私もその娘の見舞いに来たんです。よろしいですか?」

「…あ、ああ…」

少女は良かった、とにっこり笑うと、ベッドの近くにあつらえられた椅子の片方に座った。

「あなたも、お見舞いですか?」

「え…ええ、まあ」

「…そうですか」

何か含みがあるような彼女の言葉。…不味いことでも言ったか?

「あなたは、行かないんですか?」

少女は村の真ん中の広場、女が調理されている方を指した。

「ああ」

「あなたが功労賞でしょう。行ったらきっと大歓迎ですよ?」


俺は顔を曇らせてしまった。こういう場合、無表情を繕わないとばれてしまうのではないかと思うのだが。
少女は気にも留めぬ様子で言葉を紡ぐ。

「そうですか。…あれが食べられないと言うのなら」

なんだろう。軽い調子で言っているが、ばれたか?

「…夕食は私の家に食べに来ませんか?」

「は?」

「ですから、今夜は私の家に来てくださいと言っています」

何を言い出しているのだこの娘は。
というか何で?

「…駄目ですか?」

「いや、駄目ってことは無いけど…どうして?」

「ふふ…レディーにそんなこと聞くのは失礼ではないのですか?」

軽やかに笑った少女は「レディー」なんて言葉が似合うほど妖艶ではないけれど、あの女よりはずっと綺麗だった。
倦み疲れた俺の精神にそれがとても眩しく映ったのも、そのせいなのだろうか。
2010年07月19日(月) 10:59:55 Modified by sayuri2219




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