繁殖期〜黒狼烏〜前編
スレ番号 | タイトル | カップリング | 作者名 | 備考 | レス |
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1 | 繁殖期〜黒狼烏〜前編 | ◆A7TnuJ5Ch6 | 擬人化(黒狼烏)・否エロ | 426〜429 |
繁殖期〜黒狼烏〜前編
くそっ!クックに毛が生えた程度だと思ったのに、意外とやるじゃないか…!
そんな事を考える隙もなく『そいつ』は丁度ゲリョスが閃光を放つ瞬間のような格好で、音爆弾をいくつも炸裂させたような声を発した。
彼は思わず耳を塞いでしまう。そこへ、『そいつ』はリオレイアのように口から火球を放った。避けることも叶わず、彼の自慢のレウスSシリーズの表面がが焼かれる。
火球の衝撃を逃がすため、彼は自ら地に転がり、しかしそこへ『そいつ』は決して大きくはない体をぶつけてきた。
「かっ…ハ…」
ごぎり、と嫌な音を彼は耳ではないどこかで聞く。
息をするのも漸くだが、彼は『そいつ』が威嚇する合間に立ち上がることが出来た。最後の“秘薬”を口に含み、愛用の片手剣“オデッセイブレイド”を構える。盾はとうに砕かれた。
『そいつ』…“黒狼烏”イャンガルルガは、今までに彼が、“ロードオブハンター”の称号を与えられたハンターであるフィル・ブランドが、数多く葬って来たいかなる飛竜とも…いや古龍とすら一線を画していた。
罠肉を見分ける賢さ、“落とし穴”を回避する瞬発力、同じ鳥竜種のイャンクックやゲリョスとは比べ物にならない硬質の甲殻。
そして何より、まるで“モンスターハンターハンター”とでも言うべき、ハンターに向ける自己防衛とは異質の害意…明らかな敵意。
フィルは一瞬だけクエストリタイアを考えたものの、依頼者である異国の少女の顔を思い出し、頭を横に振ってオデッセイブレイドを握り直した。
「行くぞ、バケモノっ!」
フィルの勇敢な雄叫びに、イャンガルルガの火球が被った。
気が付いたフィルを初めに襲ったのは、割れるような頭痛だった。
「…ぅ…ぐ…」
うめき声を絞りだしてから、ようやくゆっくりと覚醒を始める。
(あァ…そうか。やっぱり僕は勝てなかったのか…)
ハンターの性か、先ずそれを思い出し、自分はベースキャンプに運ばれたのだろうと判断する。
枯れ葉と苔を重ねて作られた寝台から身を起こし、周囲を見渡し……間の抜けた声をあげる。
「…どこだよ、ここ。」
「目は覚めたか?」
不意に声をかけられ、フィルは思わず身を固くした。腰の剥ぎ取り小刀に手を伸ばし、それが無い事に気付く。小刀だけではない、鎧も脱がされたようで下着姿なのにやっと気付いた。
「治療の邪魔なので、脱がせたのだ。安心しろ、売りとばせはしない」
「そう…か。貴方が俺を助けてくれたのか。」
「………。兎に角、今は眠れ。名も分からぬ狩人。」
そう言って『彼女』は細くしなやかな指をフィルの瞼に軽く乗せ、そのまま寝台に横にさせる。
その心地好くヒンヤリと冷たい手の感触を楽しむ間も無く、フィルはまた眠りの淵へと堕ちていった。
どれくらい眠ったろうか。フィルはかぎなれた芳ばしい薫りに目を覚ました。
舐めされたケルピの皮の毛布の中から上半身をおこすと、ひやりと夜気が肌を撫でる。日が暮れて大分過ぎたらしい。
仄かな灯りに気付き振り向くと、夜の色を纏った妙齢の女性が湯気を湛えたミルクパンと光蟲灯を持って部屋に入って来るところだった。
「む、目が覚めたのか。狩人よ。」
「ああ。貴方の治療のお陰か、傷の痛みも大分消えたよ。」
実のところ、まだ折れた肋骨の痛みが息をするのを阻害していたが、フィルはそう答えた。
女性は苦笑混じりの笑みを片目の潰れた端正な顔に浮かべ、スプーンと一緒にミルクパンをフィルに手渡す。ミルクパンから立ち上る湯気は、温かいスープが入っているからだった。
「食うが良い。我が一族に伝わる、アプケロスの薬草煮だ。少しは傷の癒えが早まるだろう。」
「…あ、ありがとう。」
フィルは女性の銀の髪と紫水晶の隻眼に別の何かの影を重ねながら、スープを口へ運ぶ。筋張ったアプケロスの肉から出たエキスと、薬草の甘苦さが体に染み入るようだ。
「…。狩人よ、私はもう床につかせて貰うが、何かあったら呼ぶが良い。」
「…ありがとう。」
礼を言われる程の事はしていない、と女性は頭を横に振って、光蟲灯を置いて部屋を出ていこうとした。
「…おい」
「何だ、狩人よ。」
「いや、その。何だ、貴方の名前を…」
フィルの言葉に女性は少しの間だけ周巡したものの
「…ルルだ。」
とややぶっきらぼうに名乗った。そして足早に部屋を出ていった。
後編につづく
2010年07月18日(日) 21:08:45 Modified by sayuri2219